321.ジークリフの気持ち
僕が考え込むと
「ロルフ、帝国の山…光った色が」
エリアスの言葉であっと思う。そうだ、光った色は水色。イルの癒しは水色だ。
「エリアス」
頷くと
「それがミュシュランテスでは?」
ならば、イルはそこに?でも御神木が葉を落とした、とは何だ?
「霊峰ミュシュランテス。その御神木がある山頂付近は瘴気毒が酷くてね、人は立ち入れない。御神木の葉が落ちる、とは地元の隠語でね。訪ねたものがある、という意味だ。御神木には聖なるものしか辿り着けない、そう言われている」
僕は驚く。過去の文献にもない。
侯爵は笑うと
「口伝だよ、北部の領地にしか伝わらない。霊峰の話自体があまり知られていないから」
それには納得だ。霊峰の話は御伽話として古い物語にだけ出てくる。
「霊峰やミュシュランテスをしってる時点でもう凄いんだけどな」
「あーロルフは学院の図書館を読破した最初で最後の学生だ」
「まだ最後かは。分からない…」
侯爵家の3人は顔を見合わせてから
「「「間違いなく最後だな」」」
仲良しだな。
ジェラルミン殿が
「黒い光と白い光は?」
それはもう間違いないな。
「黒曜犬と白銀狼…」
「間違いなかろう」
イグニス様も頷く。
「しかし、白はまだしも黒は…」
「翔けるから、ナビィは。空を翔ける子」
また3人が口を開けて固まる。
「黒曜犬は空を翔ける。黒い光はナビィじゃな」
「長い旅をしながらイルを探し出した。あの子はたくさんの仲間がイルの場所を教えてくれた、と。だからまたイルを探す旅に出た」
「し、しかし犬だけでは」
ジークに聞いた話からはそう思うかも。
「ナビィは僕より少し小さなだけ。とても大きい、よ。この町では体を小さくしてた」
「「「!」」」
「そう、僕とイーリスを乗せて空を翔けた…」
「ハク様、白銀狼には負けるけど…国一つくらいなら簡単に落とせる、と」
なぜだが手の中のリツが胸を張る。可愛い。眉間を撫でると
『ぴぃ』
侯爵家の3人がリツを見る。
「そ、そ、そ、その子は?」
「ハク様とイルの子で、リツ」
「!リツ様…」
「白銀狼の子?」
「人との?」
リツはヨタヨタとジオラルト侯爵に向かう。そして見上げると
『ぴぃ』
と鳴いた。侯爵は震える手で律を撫でる。撫でられて嬉しいのかコロンコロンした。侯爵はリツを膝に乗せると背中を撫でる。リツは頭をその手に擦り付ける。
なんというか、強かだな。1番力のある人に寄っていく。さすがハク様の子。
ジェラルミン殿には素直に撫でられ、ジークには噛み付いていた。うん、賢いな。
因みに他のベビーズはヒュランの背中ですやすや寝ていた。相変わらず大物だね?
「ならばノインスの魚は?」
「それは分からない。ブランか、或いは…」
或いはイルの加護か。
『それは私からの贈り物…』
声が聞こえた。侯爵家の3人はまたピキリと固まる。
『ふふっ声だけ。豊穣神のルートヴィー。アイルとロルフへの贈り物。あの子をよろしくね…じゃあ』
「「「…」」」
「はっは、ルーもアイルがお気に入りだからのぉ」
「シシラルが出てこないだけマシだろう」
神様たちが朗らかに話をする。その度に彼らの顔色が悪くなるのは気のせいか?
「う、おほん。では概ね、役に立てたで良いかな」
まとめに入ったね。これ以上はもうお腹いっぱいだよね。だから
「はい…ダナフォスター侯爵家の誠意はしかと受け取りました。ありがとう存じます」
胸に手を当てて軽く頭を下げる。
「それは我らの台詞だ。寒い冬を乗り切るアルミや食事。ミーソの活用と魔獣の肉を美味しく食べる方法。温室にアイスエリー。全て君たちがもたらしてくれた。しかも、温室は家にも採用した。火魔法の使い手を育成し、貧しき者たちの家に温室を設置した。これで多くの領民が冬を乗り切れる」
「たくさんの子どもが亡くなるんだ、毎年。今年は暖かく過ごせる。ロルフの薬もよく効くと評判だ。本当にありがとう」
ジオラルト侯爵にジークまで。全てがイルがいたからだ。イル、早く会いたいよ…。
その日は結局、宿ではなく侯爵家に泊まった。エリアスとイグニス様、グライオール様とブラッドは同室。僕は1人部屋だ。だからジークを呼んだ。
僕が従者を付けないことを知ってるし、もちろん女性など有り得ない。
だからジークだ。
「何だ?ロルフ」
僕は要件を言う。
「お風呂…入りたい」
普通の貴族は従者がその役割をする。僕の場合、色々とあって過去に唯一、1人だけ従者を持った。でも家を出る際に侯爵家に残した。それからはリベラだけがいた。
しかしリベラは執事だ。身の回りのことはお風呂と食事以外、自分で出来る。
「あ、あーそうか。そうだったな」
ジークはその辺りの事情を知っている。僕はどうやら男性に好かれるらしい。だから色々と差し障りがあった。
要するに、いやらしい事をされそうになった。しかも、何度も。僕を見ると豹変する人もいたから。
だから僕のお風呂に入りたいはジークに世話をしろ、と同義だ。従者はダメでもジークなら大丈夫だ。
過去にも何度か世話になっている。
ジークは魔獣が多く出現するフィーヤの男性として、野営なども小さな頃からしていた。
だから身の回りのことは一通り出来る。僕が困っていたら手伝いを申し出てくれた。
ジークは僕の顔を変な目で見ないから。
ジークはため息を吐く。
「なぁ、信用してくれるのは有り難いが。お前分かってないだろ?」
「何が?」
「あー、アイルといる時からだが。変わったぞ?なんて言うかな、妙に色っぽい。前のお前ならな、気にもしないが。だが俺だって年頃の男だぞ?お前のきれいな体を見たら我慢できない」
僕はジークを見る。目を逸らすことなく僕を見るジーク。しかしその頬が僅かに赤くなっていた。照れてる?
「ジークも、照れる?」
「当たり前だろ…本当に自分の顔の良さを自覚しろよ!」
「イルがきれいだと言って、キスしてくれた…」
目を伏せれば
「だー、だからそう言う顔だ!はぁ、庇護欲っていうかな…」
ジークは僕に近づくと胸に抱きしめた。逞しくて温かい。
「僕は今、弱ってる…よ。ズルい…」
「頼ってくれよ。お前の薬でどれだけの子供が助かったと思う?俺が生きてるのだって、お前の薬のお陰だ」
「…知らなかった」
「7歳の頃にな…高熱で」
「弟のための研究、たまたま、だよ」
「それでも、だ。俺が生きてるのはロルフがいたからだ。俺を利用しろ!お前にはその権利がある」
「不誠実なことは、したくない…利用するなんて」
ジークは僕を離すと頬に手を当て
「ならば、俺を見ろ。ずっとお前に支えられて来た。友情以上のものではなかったがな。今は…」
「抑えられない、よ。僕も、年頃…それに、弱ってる」
「構わないさ、柔な鍛え方はしていない。受け止めるさ!いくらでも」
ニヤリと笑ったジークは僕にキスをすると
「まずは風呂だな?」
と言ってお風呂に入れてくれた。体や髪を洗われている間、彼がイルならば…そう思った。
ジークは自分はさっさと洗うと一緒に湯に入る。
「相変わらず細くて白くて吸い付くような柔肌だな」
僕は肩をすくめる。自分では分からない。
「無自覚か…まったくよぉ」
笑いながら頬を撫でる。ジークはサッパリとした性格と男前な強さで人気者だった。
脳筋っぽいけど、実はかなり頭が切れる。さらに細やかな気遣いが出来る。だから僕の狭い交友範囲するっと入って来た。
ジークなら、安心かな。
その日はジークの腕に抱かれて夜を過ごした。ジークの体温は心地良く、イルがいなくなってから始めて…熟睡できた。
翌朝、ジークが僕を抱き寄せながらポツリと言う。
「アイルがな、ここを立つ前に俺に言ったんだ。私に何かあれば、ロリィをお願い、と。意味が分からなくてな…でもその切実な目が。だから任せろって言った。頼ってもらえるなら、全力で支えようって。アイルは俺がお前を慕っていると、知ってたのかな」
そう、イルが。もしかしたらそうなのかも。僕がイリィを受け止める。でも僕の気持ちは?そう考えたイルらしい。エリアスにはネーシアがいる。
本当にイルは…他の人のことばかり…。
ジークが涙を拭ってくれる。
「なぁ、これからどうするんだ?」
「探すよ、もちろん」
「そうか、そうだよな…」
「ジーク、ありがとう。でも僕は」
「言わなくていい。お前が俺の前で僕って言った。それだけで充分だ」
やっぱりジークは良く気がつく。そう、僕なんて成人した貴族は使わない。それは心を許した証。
僕からの気持ち、だよジーク。本当にありがとう。
「はは、俺は役得だからな?あの秀才が俺の腕の中にいるんだぞ?周りに言いふらせないのが残念だ」
「僕たちだけが、知っていれば、いい…」
「ならもう少し、堪能させてくれ…」
北部の人は情熱的だ。ジークも、もちろん。凍りかけた心を溶かしてくれたのはジーク。でもそうさせたのはイル。本当にどこまでも優しくて、残酷。
だから必ず見つけて、文句を言わないと。覚悟して、イル。
僕はジークの腕の中で、そう決心した。
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