320.ダナフォスター侯爵
ソファに座っていた男性2人が立ち上がって迎えてくれる。
「ようこそ我が侯爵家へ、エバルデル伯爵。私が当主のジオラルト・ダナフォスターだ」
「エバルデル伯爵、次期領主のジェラルミン・ダナフォスターだ。お見知り置きを」
「歓待痛みいる。ロルフリート・エバルデル。南部ノインスに領地を持つ伯爵家の当主を継いだ。こちらこそよろしく」
本来は伯爵は侯爵より格下だ。しかし、この賓客をもてなすという対応は、対等だと示している。それが侯爵の意志ならば、応えるのが筋だろう。
「さぁ、ソファに。座って話そう」
僕は頷いてソファに座る。侯爵の向かいに、隣にはエリアスとその隣にはイグニス様。横の席にグライオール様とジークが座る。ブラッドはここには同席せず、客間にいる。彼は一介の探索者だから。
「まずは紹介を…」
僕が話を始めると、侯爵が手を挙げる。
「魔法契約を、守秘義務を我らは守る。我らの誠意だ」
僕は少し驚き、ジークを見る。頷くのを見て
「はい」
端的に答えた。どこまで知っているのか。エリアスは見るからにイズワットの民だ。そしてイグニス様にうり二つ。さらにはグライオール様。纏う色は聖なる色。
さらに私の肩の上には小さくなったティダにイグニス様の肩にいるヒュラン。
明らかに神聖な雰囲気の2人とヒュラン。これはもう無理だな。
胸元のリツがもぞもぞと動く。出たいのか?僕は胸元のポーチからリツを出した。
その間に侯爵家の3人は契約書に署名する。僕も渡されて、驚いた。これは、また思いきった内容だ。
ここでの話は話が出来ない。なぜなら、話をしようとしたら舌が切られるというもの。
かなり厳しい罰がある。流石にこれは…。
「これでは流石に…」
ジオラルト侯爵は
「それ程までに重要だと感じている。気にしなくていい。話をしなければいいだけだ」
「そうだぞ、ロルフ!俺たちの覚悟だ」
頷いて署名する。魔法契約書は光って消えた。
「さて、まずはご紹介に預かろう」
僕が紹介しようとしたら
「我の名はイグニス。創世神じゃな!訳あって今は下界におる。隣のこの子はエリアス。我が息子の、イグニシアの末裔じゃな。息子にそっくりじゃ。先祖返りかの。よろしくな」
初めから飛ばし過ぎでは。
この時点で侯爵家の3人はもう目が飛んでるよ。
最初に我に返ったジオラルト侯爵がハッとしてソファから降りると左胸に手を当てて頭を垂れた。ジェラルミン殿とジークも続く。
イグニス様は厳かに立ち上がるとそっと3人の頭に触れた。その途端、3人の体が震える。歓喜だ。
側によればその圧倒的な神力を感じる。もちろん、普段は隠しているが。それが直に触れて感じられたのだろう。
「良き心根じゃ。その信仰心はしかと受けた。頭を上げよ」
「「「ハッ!」」」
3人は頭を上げ、そしてイグニス様を見つめる。確かな信頼をその目に。彼らはアリステラに毒されていない。
「アリステラを信じていなかったのだな?」
「はい、どこか胡散臭く、また我が領地への恩恵もなく」
「そうであったか。これからは繁栄を。アイルの技術はこの領土を、貧しきものを救う。精進するのだぞ」
「「「ハッ心得ました!」」」
「ふむ、アイルが関わるものたちはなんと気持ちの良い人らであるかのぉ」
「イルの力…歩く空気清浄機」
「ふっはっはっ、言い得て妙じゃな」
「エリアス殿も、お初にお目にかかる。祖国は残念なことで」
「侯爵様、今はただの流浪の民。どうか呼び捨てで」
「そうか、エリアス。立派だな。イグ・ブランカはイグニシアの?」
「はい、アイルが名付けた。彼の故郷の言葉でイグニシアの白、という名です」
「イグニシアの白…残したのであるな、歴史を」
「はい。この度、王宮からもたくさんの資料を、王族の成人した直系男子のみが閲覧可能なものを…持ち出しました」
「なんと!それはこの世界の始祖たる国の。なんと重要な!!信頼できる場所に保管するまでの間、我が軍より護衛を付けましょう」
エリアスは僕を見て
「大丈夫。僕のバッグは所有者登録がしてある。僕が例え脅されても、バッグは開かない」
侯爵家の3人は口を開ける。はっ?えっ?とか言ってる。アイルのやる事を聞いたら大抵がこんな反応だ。
「全てアイルが…」
「僕のために。それをにこにこと笑いながら単に「便利だし」って理由でするんです」
「「「…」」」
正しい反応は新鮮だ。
「た、確かに便利だな?」
無理やり頷く侯爵。もうそれ自体がね。魔塔の魔術師が知ったら狂喜乱舞するよね、きっと。
「ふぅ、あの魔法契約はやはり慧眼だったな」
侯爵、まだまだあるよ?
その後はグライオール様が大地神だと知って、また跪き、ヒュランとティダの事を聞いて青くなった。
「おい、ロルフ。やり過ぎだろ?」
ジークは甘いな。
「イルがいたらもっと凄い。白い犬は聖獣の白銀狼で、黒い犬は黒曜犬。白い鷹は聖獣の大鷹、ヒュランの背にいるこの子たちはイルと白銀狼の子…」
「神聖の森の管理者であるアーシャが祝福を与え、行動を共にしておる」
とイグニス様が言えば
「生命樹ユーグの愛し子で、僕の子、ノームの唯一の契約者」
とグライオール様が続ける。
「ユニコーンからも契約させられておったな」
とティダ。
「白魔猫と霊獣も契約してて、戦神と豊穣神からも加護を」
「「我らの加護もある」」
目の前の3人はもう座ってるのがやっとだった。ほらね、イルは凄い子なんだよ?
「いや、その…ゼクスの救世主とはそれ程までなのだな」
そこでジオラルト侯爵は顔を引き締めた。
「今ここにその彼がいない。ロルフリート殿はそれについて、何かしらの情報を欲しているのではないか?」
「はい、侯爵。イルは…」
僕は俯いてしまう。言葉にしたら泣いてしまいそうだ。
エリアスの手が僕の背を撫でる。
「我の失態じゃ…。アイルはこの世界の何処かに飛ばされたと思う」
「僕の力も及ばす…ノームも彼の魔力を追えないと」
神様たちが沈痛な面持ちで言う。
「我々の集めた情報に、関連することがあるのか分からないが…聞いてくれて」
そう前置きして侯爵は語り出した。
神聖国の世界樹に異変があったこと、その国の聖女が寝込み、第三王子がユーグ様の顕現を見たこと。
ピュリッツァー帝国の北部にある山が水色に光ったこと。
旧イグニシアの領土を黒い光が飛んだこと、神聖国の近くに白い光が駆け抜けたこと。
帝国の隠された姫が王宮から逃げたこと。
森人の巫女が祈りを捧げたらしいこと。
帝国の霊峰ミュシュランテスの御神木が葉を落としたこと。
ノインスの町で魚が大漁であったこと。
イズワットの民がイグ・ブランカに集まっていることなどだ。
その話を頭で整理する。
全てが繋がっている気がする。まず、森人の巫女の話はそのまま、シシラル様からも聞いた。間違いなくイル関連だ。
神聖国の異変、ユーグ様の顕現…これも多分、イル関連だ。
ピュリッツァー帝国の山が光ったこと、霊峰ミュシュランテスの御神木が葉を落としたこと。これは分からない。
帝国の姫は…無関係だな。
イズワットの民についてはイル関連だけど、失踪とは無関係だ。
僕が考え込むと
「ロルフ、帝国の山…光った色が」
エリアスの言葉であっと思う。そうだ、光った色は水色。イルの癒しは水色だ。
「エリアス」
頷くと
「それがミュシュランテスでは?」
ならば、イルはそこに?でも御神木が葉を落とした、とは何だ?
ジークはロルフを友達としか見ていません
が、年頃男性なので…体は別?
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