317.ライラと少女4
幻獣は数が少なく、聖獣はそもそも人の前に現れない。それをたくさんだと?
『ふっはっはっ、なんと愉快な!ふふっ』
『無自覚なんだけどね?好かれるんだよ』
『分かるな!』
『優しいし、能力もね?なのにほんと無自覚。オークゾンビも聖なる力で浄化したでしょ?浄化しなくても無意識に常時発動してる風魔法でチリも残さず消滅したと思うよ!』
『無意識に常時発動の意味が分からんな。そこまで大きな魔力は持ってないだろう?』
『それは、ね。理りに触れる』
『そうか、何にせよ助かった。礼を伝えてくれ。ビクトルたちもありがとう。もう行くぞ』
ビクトルはもう一体の妖精を呼んだ。
『何?』
『アイルがくれたこれに入ってる食事を彼らに渡そう』
『あぁもう行くんだね!』
『アイルが付けた耳標は空間収納だから、そこに僕らが待たされてる食料を移すよ!』
『ビクトル、僕の中身ごと渡すよ』
『いいの?お兄ちゃん』
『アイルならまたくれるよ』
『確かに!じゃあ僕は食料だけ渡しておくよ』
そうして我の耳標(アイルが付けてくれた耳飾り)に食料と、バクセルからは薬なども貰った。仕える主が優しければこうなるものか。有り難い。
『助かる。アイルによろしく伝えてくれ。我らはもう行く』
『気を付けてねー』
『元気でねー』
なんとも緩く送り出してくれた。
テントに戻ると主を背に乗せ、テントを出る。するとそのテントは我の耳標に吸い込まれた。はっ?
(あー、多分…アイルはもうそのテントの所有権を渡したんだよ!だから持ってってねー)
そうビクトルから念話が聞こえた。ふはっなんとまぁ。我は笑いながら主を背にその岩窟、御神木のある聖なる場所を出て行った。
そのまま岩の割れ目を転移して抜ける。振り向くと岩に割れ目はなかった。やはりそう言うことか。
さすがは御神木か。安易に近寄ることは叶わない。たとえ生きるために願いを込めて登ったとしても、瘴気毒を恐れず進んだとしても…御神木は認めたものしかその懐に受け入れてはくれない。
我らが受け入れられたのは、単にアイルと共にあったから。それだけだ。
「ライラ、助かったんだね…」
『そうだな、あの少年…アイルに助けられて、な』
「体が軽い。気が付いた時には当たり前だった体の怠さがない。こんなにも自由なのだな」
『それが普通だ。主の普通は普通じゃなかった』
「ふふっそうなんだね。楽しいよ、ここは毒に侵された場所なのに…。彼だね?」
「そのようだな、そちらも無意識だろう」
そう、主にも我にも。アイルによる治癒の結界が張られている。結界の中にいると体が軽くなる。常に癒しの中に身を置いているのだ。
あまりにも呆気なく、山頂付近の毒に塗れた場所を抜けた。
そう、簡単に。行きはあれほど苦労したのに。アイルの無意識の結界のお陰で。
そして、結界を出た先には何故か見覚えのあるテント。そのそばに2人の騎士が姿勢良く立っていた。
ん?おかしいぞ。長い行軍で疲弊し、やつれていた彼らが何故か艶々のピカピカになっていた。
目の錯覚か?
「カイゼルにナイゼル!生きていたか!!」
我から飛び降りると主が2人に駆け寄る。彼らは敬礼すると
「「はっ、我らがミュジーク様。ここでお待ちしておりました…必ずやお戻りになると…ぐっ…良かった」」
息ぴったりに同じこと言葉を言う。双子とは不思議よな。
壮年の双子は主に抱きつかれて目を潤ませている。
それにしてもツヤツヤ過ぎないか?服なんて新品みたいだぞ?
『2人とも、何があった?そのテントはどうした?』
持って来たテントはもっとくすんだ色で、使い古されてボロボロだった筈。
2人は顔を見合わせると破顔した。そして我先に、と起きたことを語り出した。
…なるほどな、然もありなん、か。はぁやっぱり彼は彼なんだなぁ。
それを聞いて主の頬が僅かに色付いたのに我は気が付かなかった。
*******
さて、コムギを降ろすとソファから立ち上がった。何か食べようかなぁ。今日はたくさん歩いたし、お肉かな?
ポーチに触れると沢山のお肉料理がある。
うーん、あ…これだ!何か分からないけどきっと美味しい。いや、正確にはどれも美味しい。味は抜群に美味しい。だからその時の気分?で食べる。
お昼はキビサンドって言うのを食べた。美味しかったよ。
今日の夕食はハンバーグ。もうね、お皿に一人前が盛ってある。本当に前の僕は何を目指してたのかな?
まぁ今は有難いけどな!
お皿にはそのハンバーグと思える俵型の何かと芋を揚げたもの、キビと青菜の炒め物が載っている。それと柔らかそうなパン。あとはトマティスープってのを選んだ。
コムギとビクトルにバクセルも同じメニューだ。もっともビクトルとバクセルは僕のお皿からお裾分け。コムギはしっかり一人前を食べる。
ナイフでその固まりを切る。柔らかいな。一口食べてみる。うん、美味しい。口の中でふわっとして肉汁が旨味として口に広がる。かみごたえはあるのに固く無い。美味しいな、これ。
付け合わせの芋はほくほくで、キビも青菜も甘くて美味しい。
コムギを見れば顔からお皿に突っ込んでいた。ふふっ気に入ってくれたかな?
僕は夢中で食べ切った。ふう、美味しかった。ほんと元僕は料理が上手だ。それは素直に嬉しい。
さて、少し休んだらポーチの中身を確認しよう。
後は今の自分に出来ることの確認かな?せっかく時間もあるしな。
ん、あれ?魔力が…。
あの辺りはこの瘴気毒の結界の外か。僕がさっき行った辺り。なら彼らか。
僕は今日の散策について思い出す。
ビクトルに言われるまま進むと、何かを抜けた。抜けたのは分かるけどそれだけ。何だろ?まぁ体に異変もないしいいか?
その結界こそが瘴気毒を留めていることをアイルは知らない。そして、瘴気毒があるところで何事もなく普通にいられることが異常であることも、アイルは知らなかった。
ん、これは魔獣の気配?なんか弱そうだけど…
『人が襲われてる!』
…ビクトル、サラッととんでもない事言うね、何処なの?助けなきゃ!
『こっちだよー』
バクセルが教えてくれる。でもなんか、緩いな?2人とも。急いでコムギと進む。コムギは早いんだよね、僕より。そして僕よりだいぶ先に行ってしまった。
「コムギ、ダメだよ!危ないから!!」
ザンッ
えっ…コムギ!慌てて音がした方に駆け寄ると倒れている!
コムギ、ではなくて大きな猪だ。他にも数頭が周りを囲んでいる。倒れた一頭には殺傷の後。なんかコムギの爪の後に似てるような…。と考えていると
『魔獣化した猪だね!美味しいよ?』
ビクトル、食料なのか…?それからもう少し緊張感を持とうよ!
『アイルの常時発動のエゲツない風魔法なら切り刻めるし?』
切り刻んだらお肉が勿体無いよ…。いや、その前に人まで切り刻まれない?
『それは大丈夫ー』
穏便に倒す方法は?
『ないよー』
『ないねー、倒す時点で穏便じゃ無いし』
格言だな。
猪に囲まれているのはだいぶくたびれた服装の騎士2人。満身創痍な感じで、でも剣を持っている。額からは汗を流している。彼らの足元にはもう何頭もの猪が横たわっていた。
凄いな、あんな数を2人で?
とそんなことを考えていたら猪が一斉に彼らに飛び掛かる。ダメだ!彼らを傷つけるのはダメだ。それと猪の肉も欲しい。
その途端に猪たちがよろめいてドシンッと倒れた。
あれ、何が…?
『アイルが心臓に負荷をかけて猪を倒した』
どゆこと?
『肉を確保したかったから傷つけずに倒したかったのかと』
僕、どんだけ猪の肉を食べたかったの?思わず青ざめた。でもあの人たちは守れたし良かったなかな。
その様子を見ていた2人の騎士は膝をついた。そして辛そうに肩で息をしている。僕は慌てて駆け寄る。
これはやっぱり水かな?
『そうだね、まずはお水。その後は食べ物とお湯で体を清めるのと睡眠、かな』
だよね。ならばと水筒をポーチから取り出す。
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