316.ライラと少女3
始めはライラ視点…
我は主のそばに寄り添い、物思いに耽っていた。
アイルたちはまた外に向かったようだ。シンと静まる。
主を見る。目を瞑っているその姿は、歳の頃15才くらいの女の子。
そう、女の子のふくをきている。
背中まで伸びた髪は青銀で、神聖とされる銀を内包した髪色だ。家族の中では唯一の青銀。
我は主の誕生を思い出す。
16年前、我はこの国の別の山に住んでいた。先祖は幻獣のユニコーンと聖獣の白馬が交わったとされる我らの種族は飛翔馬。空間と時を司るユニコーンの力を代々受け継ぐ種族だ。
その中でも我は特に聖なる力が強かった。だからこそ過信していたのだ。
長老からは麓に近づくなと散々言われていたのに、好奇心から近付いた。そして捕えられたのだ。
我はそのまま魔力を封じられて運ばれ、何やか大きな建物に連れて行かれた。
そこで出会ったのが主だ。消えそうなほど小さくて、なのに強い魔力を内包した存在。我を呼ぶその声に応えて、縛を解き馳せ参じた。
そこにいたのは生まれたばかりの人の赤子だ。
後で知ったのは、その赤子が周りから疎まれていること。人の世のことは分からないが、我はその赤子に寄り添った。
幻獣が懐いた、そのことが赤子にとって良かったのかは分からないが、悪くはなかったようだ。
我は常に主に寄り添った。ある時、気がつく。主は呪われている、と。その体は徐々に弱り、心配した周囲のものたちが主を匿うようにする。
しかし、成人となる16才を迎えると刺客が幾度となく現れた。周りのものと協力して退けるも、捨て身の呪いを主は受けてしまう。
我らは決心した。その呪いを解くために、御神木のある霊峰ミュシュランテスを目指すことを。
御神木は呪いを解き、本来の姿を取り戻すことが出来ると言われている。主の本来の姿を取り戻したい。
長く匿わなくてはならなかった弊害もあり、主の体力が心配だが。
主を慕う少数の者たちとそこを抜け出した。走って走って走って…途中で倒れる者たちを置き去りにミュシュランテスを目指した。
御神木があると言う瘴気毒に囲まれた結界。ここを通ればもう、後戻りは出来ない。
「お気を付けて!我らはここにで待ちます」
『死ぬなよ』
そんな会話をして結界を超えた。我は幻獣だ。その誇りを胸に進む。しかし、その誇りは意図も容易く打ち砕かれる。またやってしまった。自分の力を過信して…せめて主だけでも。
その切なる願いが通じたのか…あの無自覚なアイルに、なんてことないよって顔で助けられた。なんなら本人は助けたと言う自覚すら無いだろう。
聖なるものたちが好むのも納得だ。
それにしても、かなり時間は経ったが主が目を覚さない。段々と不安が募る。そこにアイルが帰って来た。我はアイルに主が目を覚さないと訴える。
『まだ目が覚めない…』
(あれから半日以上は経ったな。どうしたもんか…女の子だし、あまり関わりたくないけど)
色々と感情がダダ漏れなんだが?
『大丈夫だよ!助けてあげて』
(ん?ビクトル…助けるって、もう助けたよ)
『解毒剤を投与してあげて!』
妖精たちが援護してくれる。
『頼む』
我は首を下げる。
(でも投与ってどうするの?)
妖精を手に乗せて聞いている。ならば、と
シュンッ
人型になった。驚いているな。
(幻獣って凄いんだな。ライラは銀色の髪に金色の目、体は透けるほど白い美少年だった。あれ、女子じゃ無いのか?
ライラって名前から勝手に女子認定してたよ…。
切れ長の二重の目、スッキリとした鼻、薄い唇。整いすぎてて人形みたいだ)
美少年で悪かったな!美少女を想像していたのか。思わず変な顔をしてしまった。
「人型、なのか…」
「そうだ。力を使うからな…呪い明けではあまりもたん。とにかくその解毒剤をくれ!」
首を捻りながら、ポーチから解毒剤を出すと渡してくれた。
『アイルの解毒剤は呪いにも効くからね!』
妖精の言葉に固まった後、ため息をついた。
我はテントに入って行った。眠る主の体を起こし、解毒剤(何故か爽やかな味)を口移しで飲ませる。その喉が動いて確かに飲んだ。
口に残ったそれを我も飲む。うん、爽やかで美味しい。いや、待て…解毒剤が美味しいってなんだそれは?そもそもが解毒剤。呪いに効くのか?
やがて主の全身が柔らかな水色の光に照らされ、長いまつ毛が揺れて目を開けた。
「ライラ、か?」
「そうだ!」
「人型に、なれたのだな」
我は契約者である主の魔力が必要だ。その主が徐々に弱ったために、力が足りずに人型になれなかったのだ。それがアイルのそばでアイルの魔力を感じ、アイルの食事を食べて、アイルの魔力を取り込めた。それだけで本来持つとされる巨大な魔力がさらに増幅した。
彼の魔力は労わりと慈しみがこれでもか、と内包されている。
それに感化され、幻獣の先祖返りと思われるほどの魔力が体に宿ったのだ。
「主よ、呪いは解けた」
目を見開いた主は自分の体を見る。そして触ってから涙を流した。
これで帰れる。堂々と、胸を張って。
「ライラ、何があった?」
聡い主は御神木に辿り着けてないと分かっている。いや、実際には偶然辿り着けた。しかし、呪いが解けたのも、弱った体が治ったのも全てアイルのお陰だ。
もちろん、この場、聖なる場所も関係しただろう。しかし、直接的な理由はただ一つ。アイルと出会ったから。
我はなるべく正確に、しかし端的に話をした。主は聞き終わると
「本当に聖域を作ったお方なのだな」
きっと作り話だと思っていたのだろう。我が主のために語る御伽話だと。
「行かねばならぬな」
主の目に光が宿る。諦めたような目では無い、確かな光が。
「アイルには会わない方がいい」
分かっていると頷く主。
「少し話をしてくる」
テントから出るとアイルは聖獣とわちゃわちゃしながら戯れていた。どこに聖獣をペットのように撫でる奴がいるんだよ、あ、ここにいたか…!
「助かったぞ!ありがとな」
それを聞くと安心したように家に入って行った。
我は元の姿に戻るとビクトルと呼ばれていた妖精に声を掛ける。
『主が助かった。我らは戻らねばならない』
『うん、そうだろうと思ったよ。王族だもんね!』
『分かっておったか』
『呪いも毒も、ね。アイルは無自覚だけど…治癒能力は抜群だから。それに誰かを助けたいって気持ちが強い。どうしたって見つけるならば、助ける方が主のためになる。見つけた時には死んでた、だとね。優しい主が傷付く』
『ふふっ主のためになんだな?それも良き』
この妖精も不器用だな。見捨てられなかったのは同じであろうに。やはり心優しき者のそばには同様なものが集うのであるな。
『しかし、ビクトルは物知りだな?』
『僕はアイルのスキルなんだ!精神体になったらたまたま精神が抜けてしまった妖精がいて、実体化したんだよ』
『お主はスキルなのか!またそれは…どうりで、だな。知識系スキルとみた』
『その通り、さすが幻獣だね!』
『アイルは幻獣とか聖獣とか聞いても驚かんな?』
『ふふっ詳しくは言えないけど、周りにたくさんいたからねー』
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