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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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314.ライラと少女

ライラ視点です

 我々は追われていた。逃げて逃げて、沢山いた護衛たちもどんどん脱落し、ミュシュランテスに辿り着けたのは僅か2人。

 その2人と共に守るべき主を伴って山に登った。

 そこからどんどんと進み、やがて山頂の結界まで辿り着いた。

「ここから先、我らはお供できません!どうかその方をお守り下さい」

「どうか御神木まで…この方を」

『努力する。この先は我にも未知故な…』

「この付近にてお待ちしておりましょう」

『死ぬなよ!』

「主の為に死ねるなら本望!行きなされ」


 我はその方を託された。しかし、予想以上に瘴気毒は強かった。まだ御神木は見えない。

 彼の方を励ましながら進むが、そろそろ限界か。ならば私の魔力で結界を展開して…どうか御神木まで主を導いて。

 我は力を使って主に結界を施す。そして力尽きて横たわった。そのまま毒に侵されて朽ちてゆく…そう思っていた。彼の方に結界を施す際に、少し呪いを受けてしまった。望まぬうちに体に染み付いたあの方ののろい。

 少しでも楽になれたなら、そう願いながら。

 徐々に弱って行く自分を感じていた。


 そんな時だった。遠くに魔獣の叫び声が響いた。それはこちらに向かってくる。間違いない…我の力に引き寄せられたのだろう。もう戦う力などとうに尽きた。

 ユニコーンの末裔として、誇り高き幻獣として、その最後は余りにも酷いか。致し方ないな。

 諦めてそのまま体を硬くする。するとどこからか、涼やかな気配が近付いてきた。これは…妖精か?


 常に澱んだような山の空気が、澄んだように感じる。まるで爽やかな草原のように。

 しかし、遠かった魔獣の足音は確実に近付いてくる。最後に爽やかな空気に触れられて良かった。



 と、思ったのに…



 なにが起きてる?


 我の体は浮き上がり、ゆっくりと移動している。しかも、すぐ近くにはなんとも清々しい空気。これか!

 そして、あれほど怠かった体が少しずつ…楽になっている。ぼんやりとした思考の中で、ゆっくりとまた地面に降ろされた。その我を庇うように誰かが蹲る。

 ダメだ、アイツは我を目指している。隠れても無駄だ!

 そんな気持ちは声にならず、絶望が我を襲う。

 この優しき者を巻き添えになどしたくなかったのに。


 その者は背後と首元に何やら聖なるものを庇うように隠した。その凛として張り詰めた空気を感じる。

 なんと強き心…なんと強き想い。

 我は全てをそのものに委ねる。

 もう怖さは消えて、ただひたすら心地よい空気に身を任せていた。



 ん?どうなったのだ…なにか光ったような?



 しばらく待つ。なんと!あの邪悪な気配がどんどん薄れて行く。我はそっと目を開いた。そこに見えたのは濃い緑の木々と、普通の魔獣。毒に侵された魔獣ではなく、だ。

 そしてここの空気のなんと澄みやかなこと…まるで聖域のようだ。

 我は首をもたげてそのものを見る。

 なんと、ただ人ではないか!見るからに幼さの残る少年。眩い銀色の髪と目の、物静かな印象の少年。

 自分が何をしたのか全く理解してなさそうな、困ったような顔。


 そのものの背中から聖獣のシルバーベアが出て来て、座り込んだ人の膝に乗る。

『パパ、守ってくれてありがとう!カッコ良かった』

「コムギ、ありがとう。守れて良かったよ」

 そしてその聖獣の頭を人が撫でる。


(気になるんだけど…さっきから馬の体が水色に光ってるんだよね。淡く。これ何?天に召される前兆?)


 心の声が聞こえて来た。生きてるわ!


『違うわ!勝手に殺すでない』



 …固まったな。



『あ、気が付いた?間に合って良かったよ!』

 人の首元から妖精が出て来て話しかけて来た。

『うん、後少し遅かったら危なかった。やっぱりアイルは凄い』

 もう一体、妖精が出て来て話をする。

(馬をただ運んだだけだよ…)

 我は馬ではない!

『だから、アイルは魔力を垂れ流してるんだ!癒しの魔力をね』

 何だって?そんな事してるのか!確かに彼が近くに来てから身体が楽になった。それと妖精よ、その言い方。正しいな。

『無意識だけどね?』

『守りたいとか助けたいって思ったものに効果を発揮するみたいだよ』

 一体の妖精に続いてもう一体も言う。 

(確かにこの馬を助けたいって思った。それでか)


 だから我は馬ではない!


『我の先祖はユニコーンでな、微量ながらも聖なる力がある。この白銀の鬣がその証拠。そうでなければとっくに瘴気毒に晒されて死んでいた。助けてくれてありがとう。人の子よ』

 と言えば、驚くこともなく

「うん、無意識らしいけど。立てる?まだ光ってるから治療中かな?」

 ん、もっと驚かんか普通。我は幻獣ぞ?

『そうだな、もう少し待って欲しい。それと、水と何か食べ物があれば欲しい』

 それよりも喉が渇いたな。腹も減ってる。

「お水なら沢山ある。食べ物もあるけど、何が食べられる?草とかキャロッテ?」

 我は馬では無いわ!草や野菜など食べない。

『まずは水をくれ』

 平たいお皿に水を並々と入れて、我の口元に置く。我は頭を起こして水を夢中で飲む。う、美味い!

(足りないかな?)

 また並々と注ぐ。

 それも全部飲み干した。すると一際水色に強く光り


「ひひひーーーーん!」


 力強く嘶いた。

(うん、聖水の効果は抜群だね?)

 なに!?まさかの聖水…どうりで美味いわけだ。

『肉や魚が食べたいぞ』

(馬って草食だよね?)

 ぬっ、普通の馬とは違うぞ!

『アイル、彼は幻獣だよ!だから何でも食べて魔力に変換する。肉や魚には魔力が豊富に含まれるから、回復が早まるんだ』

 よしよし、良くぞ言った。

 すると人は肉と魚を出すと、大きな器にこんもりと盛って我の前に置いた。

 我は座ったまま皿に顔から突っ込んで行った。


 …小さな山になってたそれらは溶けた。そう溶けた。美味すぎる!さらに鼻でお皿を人に向かって押す。

 お替わりを所望する!キリッ

 また同じくらい、さりげなく野菜も皿に乗せられた。

 ふん、野菜など我の食べ物では無いわ。しかし美味であった。腹も適度に膨れたし、何よりも甘美で美味しい魔力を補充できた。


『ふう、なんと美味い!助かった』

 我は首を軽く振ると立ち上がった。


 我は鼻を人に付ける。

『我の名はライラ!人の子よ、頼みがある』

「ライラ、いい名だね。頼みって何?」

『まず名を教えてくれて』

「僕?アイルだよ」

『アイルか…そうか、そなたが…』

 聖なるものたちが大移動した。たしか、この原因がそんな名前だった。巣箱を作り、木に囲まれた自然豊かな楽園を作ったとか。しかも2カ所も。

 余りの居心地の良さに今なお移住する精霊や妖精が多いとか。なるほどな、彼なら納得だ。

 しかしなぜ帝国に?彼はバナパルトにいたはずでは。

 いや、これは理りに触れそうだ。

 そこで思考を中断する。


『ふふっ念話で話そう。助けて欲しい人がいる。多分、まだ今なら間に合う。我が最後に力を与えたから』

(人?人がいるの?瘴気毒は人には特に有害だって…)

 すぐにでも走り出しそうに返す。この子は、あぁ納得だ。なんて優しいのだろうか。見ず知らずの人間を助けようと当たり前に考える。

『そうなのだ、だから我の力を渡した。そろそろ助けなければ…』

 我の結界がそろそろ切れる。まだ御神木には辿り着けていない筈。


 我の案内で進む。主に付けた我の魔力、それを追う。しかし、人とまだ小さな聖獣は早く歩けない。焦れた我が背中に乗せ、走り出す。




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