312.また出会った
『ふう、なんと美味い!助かった』
首を軽く振ると立ち上がった。うわぁ大きい。これほどまでとは。僕の頭と同じくらいの位置に馬の背中がある。僕がだいたい160セル(cm)だからその大きさがよく分かる。立派な体格の真っ白な体、に鬣としっぽが白銀だ。すごくきれいな色。そしてまん丸な目は金色。なんかコムギに似てる色遣いだ。
その鼻を僕に付ける。
『我の名はライラ!人の子よ、頼みがある』
「ライラ、いい名だね。頼みって何?」
『まず名を教えてくれて』
「僕?アイルだよ」
『アイルか…そうか、そなたが…』
ん?そなたって何かな。
『ふふっ念話で話そう。助けて欲しい人がいる。多分、まだ今なら間に合う。我が最後に力を与えたから』
(人?人がいるの?瘴気毒は人には特に有害だって…)
『そうなのだ、だから我の力を渡した。そろそろ助けなければ…』
僕たちはライラの案内で進む。僕とコムギは早く歩けないから、焦れたライラがその背中に乗せてくれた。鞍とか付いてないのにすごく安定した走り。
いやそもそも山の中を走るって何?って感じだけど。
『走ってるんじゃなく駆けてるんだよ』
ビクトルがそう言った。違いが分からないよ?
『空を駆けてる!』
バクセルが補足するけど、やっぱり分からなかった。やがてライラが立ち止まる。
そこには木にもたれて目を瞑る人がいた。これは…急がないと。
ライラからコムギを抱えて飛び降りると、その人のそばに寄る。それだけで、その人は淡く水色に光る。
でもまだ足りない。何故か分かる。これではほんの少し延命しただけ。根本的には解決してない。
どうしたら…
『魔力を渡して…アイルの』
魔力を渡す?
(どうやって?)
『身体の接触』
接触って触れてたらいいの?
『なるべく密着して!その人の頭を抱きしめて、肌が直接触れるように』
えっと、マジで?
(他に方法は?)
『ええい、さっさとチュウせんか!』
もう、手だって肌のふれあいだよ?なんでチュウかな。
僕はその人の手を握り、頭を胸に抱いて頬に唇を寄せた。これなら頬同士も接触している。体はなるべくしっかりと抱きしめて密着だ。小柄で華奢に見えたけど、体付きは案外しっかりしてる。その手は柔らかさがなくて、でも長い指がきれいな手だった。
その人はドレスを着てた。もっとも乗馬服がひらひらしたような感じ。足元はジョッキーブーツだし、ドレスの裾からはピッタリとしたジョッキーパンツが見えたから。
で、何が言いたいかと言うと、女の子。僕よりは年上のね!だからやっぱり密着するのも遠慮があるから。
その子は青銀色の髪で、長いまつ毛も青銀色。頬は真っ白で血の気が無い。早く良くなりますように。
その冷たい頬に熱を移すように、抱きしめる。治れ!なんか色々と患ってそうだから…全部全部治れ!
どれくらいそうしていただろうか。周りの音も空気も、とても静かで。
やがてライラの嘶きでふと我にかえる。腕の中の子はまだ目を瞑っているが、その頬が少し色付いた。
(ビクトル、もう大丈夫?)
『うん!安定した』
『まだしばらく起きないから家に連れて帰ろう!』
バクセルがそう言う。えっとでも…女の子を連れて帰るのは。誘拐とか言われそう。
なんか高そうな服を着てるし。ライラだって見た感じはとっても高貴。しかも手入れだってきちんとされてる。
(それは…やっぱり良くないよ。女の子だし)
『…』
『…』
ビクトルもバクセルも考え込んでしまった。
『大丈夫だ!我が頼んだのだから。その家とやらに連れ帰ってくれないか?』
僕はライラを見る。入れないよね。
(ライラは入れないよ?入り口は狭いから)
『案ずるな!』
心配してる訳じゃなくて…えぇ。嫌とかじゃ無いけど女の子はちょっと無理。
(女の子は無理だよ。家には入れられない)
それはなんていうか、決まり事みたいな感じ。
『テントならいいんじゃない?』
(まぁあの割れ目の中のテントなら確かに)
『安全な場所、できればそなたの近くであれば』
『あの岩窟の中ならアイルの感知範囲内だから大丈夫だよ』
って事で、ビクトルとバクセル、ライラで色々と決めていた。僕の意見は?当事者なんだけど。
『アイルはね…』
『アイルだし?』
『アイルならな!』
どうやら決定権は無さそうだ。でもどうやって運ぶ?ジョブだとちょっと無理かな。想像できない。
『我の背中乗せる。アイルが支えてくれたら大丈夫』
いや、無理。女の子を持てる気がしない。
『パパ、僕が手伝うよ!』
コムギ、なんて優しい子。分かった!パパ頑張るよ。
…なんて思ってた時があったなぁ。思わず遠くを見てしまった。
いや、結局ね…屈んだライラの近くまでコムギが女の子を器用に自分の背中に乗せて運び、そこまで来たらライラが女の子を浮かせて自分の背中に乗せた。僕、要らないよね?
『念の為な!』
何だかなぁ。
で、岩の割れ目までやって来た。ここからどうやって運ぶの?ライラを見れば
シュンッ
すでに岩の割れ目に入っていた。何が…?ライラを見れば心なしかドヤ顔だ。
僕は色々と諦めて(もう何度目だよ!)ため息を吐いた。広かった空間に出るとライラが
『まさか…』
絶句した。どした?あぁ、目の前の大木な。岩の割れ目から突き抜けて空に伸びている。驚くよな?
背中に女の子を乗せたまま、跪き頭を垂れた。
ん、どうした?
『幻獣にとってここはいわば聖地』
なんですと?!家を埋め込んだりしてる場合じゃなかった。いや、場所じゃなかったか。
しばらく頭を垂れていたライラは体を起こすと
『家とはあれか?』
壁面の水晶に埋まるようにある家を指す。
(そうとも言う…)
『畏れ多くて入れぬな。ここで良い』
ならばとライラからコムギを抱いて飛び降りると、ポーチからテントを取り出す。袋から出したら跳ねて(何でだよ!)良さげな所に着地した。
ライラは入り口を鼻で開けると入って行った。
待って、土足厳禁…。馬に土足ってあったっけ?
『ふふふっ、相変わらずアイルは斜め上だ』
『うん、本当にね!ライラが、テントに入れたことは驚かないなんて』
ライラがテントに…あっ、何で入れる?見た感じでは僕の背丈より小さかった筈。ならば入れず壊れてないものおかしい。
テントの中を覗くと…広かった。いや、だから何でやねん!
『もちろん、空間魔法が組み込まれてるから』
『さらには快適な大きさになるよう自動調整機能付き』
ビクトル、バクセル…解説ありがとう。はぁ、前の私は一体何を目指してたんだろうな?
テントの中ではライラが女の子をそっと降ろしていた。
私は寝袋(分厚いマット付き)に枕と毛布を敷いて、そこにジョブでブーツとローブ、上着を脱がせた女の子を運ぶ。その体にそっと毛布を掛けるとおでこにキスをして、ガラスのポットに聖水をたっぷり注ぐ。
近くにコップと、お皿にも聖水を入れる。ポーチから果物をだしていくつかお皿に載せるとテントを出た。
女の子がいるテントに年下とはいえ男がいるのはダメだろうから。
元アイル…思いの外、やらかしてますね…
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