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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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311.割れ目の中の家2

 ソファに座って緑茶を飲む。うん、美味しい。懐かしい味だなぁ。何処で飲んで何で懐かしいのかすら分からないけど。

 膝の上にはもふもふなコムギ。背中を僕の膝に擦り付けて何やらくねくねしてる。うん、可愛い。首元をもふると甘噛みして来る。

 まだ生まれたばかりなのに、力加減を分かっている。昨日、寝る前にドシンと乗っかられ、爪を出したまま甘えて来て大変なことになった。

 まあね、マシマシの防御が働いて無傷ではあったけど…血のスプラッシュになる所だった。…スプラッシュって何だ?


 はぁ、物思いに耽る度に分からない単語が口をついて出て来る。考えるのがな…疲れる。

 お茶を飲み干すと

「ビクトル、今日はどうしたらいいかな?」

『アイルはどうしたい?もう少しゆっくりするか、動いてみるか』

 悩むな。もう少し気持ちを整理したい気もするし、動きたい気持ちもある。

「もうしばらく様子見をしたいかな。ただ、外には出たい」

『ならば、まずは念話の練習を。もし、人がいたら…変な人だから』

 えっ何で?ビクトルに話しかけてるのはわかるよな?


『僕たちは誰にでも見える訳じゃないから』

 そうなの?それなら確かに、架空に向かって独り言を言う痛い人だ。

「どうやったら?」

『会話を心でする』

 えっと…

(ビクトル、聞こえる?)

『聞こえるよー!それでいい』

(で、外に出たい)

『うん、分かった。じゃあ案内する』

(頼むよ)


 こうして僕とコムギとビクトルとバクセルは一緒に家を出て、また岩の割れ目から外に出た。日差しが眩しい。コムギは嬉しそうに走ってまた戻ってしている。

 ビクトルとバクセルも舞っている。可愛いな。

 

 こうして僕とコムギとビクトルとバクセルは一緒に家を出て、また岩の割れ目から外に出た。日差しが眩しい。コムギは嬉しそうに走ってまた戻ってしている。

 ビクトルとバクセルも舞っている。可愛いな。

 ひとしきり走り回ったら飛び回ったら

『アイル、右手に進んで!』

(分かった。ビクトル、ここは山頂に近いから人がいないの?)

『違うよ!この辺りは人にとっては瘴気毒だからね、そもそも入ったら死んじゃう』

 待て待て待て、待てい!僕はどうなる?死んじゃうの?

『アイルは大丈夫だよ、色々な魔力を垂れ流してるから…防御は手厚いんだ』

 だから言い方、ビクトル言い方。


『でね、普通の人なら数日で力尽きる。でもアイルなら大丈夫。聖なる力が強いから。毒を寄せ付けない』

(コムギやビクトルたちは大丈夫?)

『コムギは聖獣だし、僕たち妖精は聖なるもの…瘴気毒は効かない』

 そもそも瘴気って澱みだよな?この辺りはその澱みから毒が発生するのか?硫化水素みたいに。

 いや、その前にコムギは聖獣なの?なんか凄い子とか。足元のコロンとしたコムギを見る。ま、いっか?ビクトルが大騒ぎしてないし。

 その時



 ギュオォォーーー!



 なんかすごい凶暴な声が聞こえた。何、これ何?思わずコムギを抱き上げる。この子は生まれたばかりだから僕が守らなきゃ。



 バキバキベキベキ



 音が近づいて来る。それに合わせて嫌な匂いと空気がどこからか流れて来た。



 ドスドスドタドタ



 ヤダヤダ、怖いよ!ビクトルとバクセルを自分のフードの中に隠して体を縮こませ、近くの木に隠れる。

 音はさらに近づいて来て



 ドタンッベキベキッ



 より近くで、音が聞こえた。その時、音のする方を見ていて気が付いた。馬が倒れてる?

 どうしよう、音はさらに近くなる。しかもその馬が倒れている方から。しばし逡巡し、木から飛び出す。

 何とか隠れられそうな木のそばまで運べば…いや馬を運ぶなんて無理じゃ?あ、ジョブだ。それなら運べるかも。

 木の後ろから出ると馬まで走る。真っ白なその馬はすでに呼吸が浅い。何となくその体に手を当てて、体を浮かせるように想像する。浮いた!

 そのまま近くの大きな木の後ろに運んで、そばに僕も屈む。


 いよいよ音は近づいて、その姿が見えた。臭い!その豚と猪を足して割って人を出したような…醜悪な姿。しかも()()()()

 どうか気付かれませんように…。

 あれ?なんか迷わず僕の方に来る。コムギを体の後ろに回す。守らなきゃ!

 もうすぐそこにいるソレは間違いなく僕に向かっていた。なんとかコムギとビクトルたちと、この馬は助けたい。だから必死に叫んだ。



 成仏してーーー!



 必殺神頼み…



 ピカンッ…



 …えっと?



 目の前には横倒しになった獣。水色に光った後、黒いモヤがその体から抜けて…やがて()()の獣の姿で横たわっていた。もちろん、それは亡き骸だ。

 何が…?


 と、とにかく助かった…はぁ、怖かった。

 今頃になって身体が震えて来た。手を見れば小刻みに震えている。

 コムギが僕の背中から出て来て、座り込んだ僕の膝に乗る。

『パパ、守ってくれてありがとう!カッコ良かった』

「コムギ、ありがとう。守れて良かったよ」

 その頭を撫でる。

 後ね、気になるんだけど…さっきから馬の体が水色に光ってるんだよね。淡く。これ何?天に召される前兆?


『違うわ!勝手に殺すでない』



 …どちら様?



『あ、気が付いた?間に合って良かったよ!』

 えっとビクトルは誰と話をしてるの?

『うん、後少し遅かったら危なかった。やっぱりアイルは凄い』

 バクセルも誰と話を。それと僕は馬をただ運んだだけだよ?

『だから、アイルは魔力を垂れ流してるんだ!癒しの魔力をね』

 何だって?そんな事してるのか!僕は。それとビクトル、言い方。

『無意識だけどね?』

『守りたいとか助けたいって思ったものに効果を発揮するみたいだよ』

 ビクトルに続いてバクセルも言う。 

 確かにこの馬を助けたいって思った。それでか。


『我の先祖はユニコーンでな、微量ながらも聖なる力がある。この白銀の鬣がその証拠。そうでなければ死んでいた。助けてくれてありがとう。人の子よ』

「うん、無意識らしいけど。立てる?まだ光ってるから治療中かな?」

『そうだな、もう少し待って欲しい。それと、水と何か食べ物があれば欲しい』

「お水なら沢山ある。食べ物もあるけど、何が食べられる?草とかキャロッテ?」

『まずは水をくれ』

 平たいお皿に聖水を並々と入れて、馬の口元に置く。頭を起こして大きな舌で水を夢中で飲んでいる。足りないかな?また並々と注ぐ。

 それも全部飲み干した。すると一際水色に強く光り


「ひひひーーーーん!」


 力強く嘶いた。うん、聖水の効果は抜群だね?

『肉や魚が食べたいぞ』

 馬って草食だよね?

『アイル、彼は幻獣だよ!だから何でも食べて魔力に変換する。肉や魚には魔力が豊富に含まれるから、回復が早まるんだ』

 なるほど?なら沢山ある肉と魚(下拵え済み、火は通してある)を出すと、大きな器にこんもりと盛って馬の前に置いた。馬は脚を折りたたんだまま皿に顔から突っ込んで行った。


 …小さな山になってたそれらは溶けた。そう溶けた。さらに鼻でお皿を僕に向かって押す。

 お代わりだな?

 また同じくらい、さりげなく野菜も乗せた。

 …食べようよ、野菜も。しっかりと野菜だけ残った皿を見てため息を吐く。横からコムギが食べてたけどね?

 好き嫌いはダメだよ!


『ふう、なんと美味い!助かった』

 首を軽く振ると立ち上がった。





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