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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国
313/341

307.ピュリッツァー帝国

 そこはピュリッツァー帝国の北部にある山。冬の季節は雪に覆われるその山は何の変哲もない普通の山だ。

 ただ、地元民からは信仰の対象として崇められている。その名をミュシュランテス。

 霊山として有名なその地は、ある場所から先には人が入れない。物理的に入れないのではなく、独特の生態系により、人を拒む。


 毒を多く含んだ植物、凶暴な魔獣。エサとして食べる植物や動物も毒を体に蓄えているから、結果、毒も食べている魔獣は吐く息さえも毒に塗れている。

 毒によりさらに凶暴になった魔獣は、他の場所の魔獣よりも遥かに凶暴だ。

 だから人を拒む。


 そこ場所に、人を拒むその山の山頂近くに、麓からも見ることができる大きな木がある。地元の町では御神木として崇められている。


 毒に侵された魔獣は、なぜか山を降りない。まるで遮られているかのように…ある場所から下には居ないのだ。

 そして、その山は恵みの宝庫。片や、毒まみれの場所、片や恵み溢れる場所。その対比が不可思議ではあるが、町にとってはさほど問題ではない。

 山からの豊富な恵みがあるのだから。




 その、毒に塗れた場所を進む人がいた。手元には一頭の馬。しかし、ここは生き物を拒む場所。やがて馬は踞り、動けなくなる。それでも人は夢中で進む。

 やがて…人も進めなくなり、そして…山に飲み込まれた。



 山頂近くのとある場所、そこには大きな木があった。木は白い幹に白い透けるような葉の、美しい姿だ。周りと比べても明らかに異質で立派。

 その木の幹にもたれるように、人が眠っていた。白いローブに包まれたその人は座るような姿勢で、木に背中を預け…そこにいた。

 毒に塗れた山頂付近の、美しい木のそばに。



(来たよ)

(来たね)

(眠ってる)

(優しい魔力)

(起きて)

(喜んでる)

(山が喜んでる)



 木々が騒めく。吹き抜ける風は優しくその人の頬を撫でる。



 さわり…



 まるで起きて、と声を掛けるように。

 静かな中に、確かな期待を寄せて。

 その人の目覚めを待っている。



 そして、どれほどの時間が経ったか…ついにその目が開く。ゆっくりと何度か瞬きをして、やがて顔を上げ周りを見回す。

 その動作はゆっくりで、周りを見て自分の手を見て、また周りを見て、自分の体を見る。

 期待に満ちたような、そんな周りの様子には気が付かずに。


 ()はまだ幼さの残る顔で、何かを決心したように慎重に立ち上がる。

 そして、また周りを見回して…肩を落とした。




( …て)

( …ってた)

( …て)



 何処かで何か言ってるのが聞こえる。ん、何…?もう少し寝させて…


 あれ…


 寝る?…何処で?



 急速に意識が浮上した。ゆっくりと目を開ける。その目に飛び込んで来たのは緑。

 緑…?

 顔を上げて周りを見る。うん、緑だ。

 ここは森?か山…かな。すごく静かだ。ならば、さっきのあの声は何だったのか。周りに人はいないみたいだ。何となく気配が無い。

 なのに、()()()()()。怖くは無い。安心は出来ないけど、悪いものではないと感じるから。


 自分の手を見る。そして、また周りの圧倒的な緑を見る。うん、やっぱり森というか、多分山だね。背の高い木があるから、そんなに高い山ではない。少なくとも森林限界よりは低い、多分、山。

 空気はなんか、しっとり…いや、ジメッとか。肌にまとわりつくみたい。


 自分の体を見る。この場所に関わる何かが分かるかなって思って。

 服装は()()()白いローブ。

 あれ、普通?ローブ…。

 何だろう、()はこんな服を着てたっけ?しばし考える。分からない。考えても何が普通で何が普通じゃないか。なのに、さっきの僕は普通だと思った。

 忘れてるだけで、僕はこの場所を知ってる?


 とにかく、立ってみよう。少し歩いたら何か分かるかもしれないしね!



 …結果、何も分からなかった。分からないことが分からない。困ったなぁ。どうしよう。

 どうしたらいいのか…?


(まずは水を飲んだら?)


 えっと誰?周りを見ても誰もいない。


(ここだよ!)


 また周りを見回す。何処?


(ご主人のスキル 実態はない)


 …スキルってえっと、あの何だっけ…冒険者の話に出てくるその人の技能とか能力だっけか。


(そう、ご主人のスキル。知りたいことを教えられる能力)


 それって凄いな。でもまずはここは何処?僕は白いローブの下を見る。足元は暖かそうなブーツ、紺色のズボン、腰にはウエストポーチ。シザーポーチみたいな縦型の。そして腰の後ろ部分には横向きに短剣かな?

 上着は着てなくて、シャツの上にベスト。肌触りのいい服だ。

 そう、荷物は腰のポーチだけ。


(そのポーチに水が入ってるよ!)


 またスキルの声がした。えっとこの薄いポーチに?中を覗く。あれ?何も見えないよ。手を入れると何だか変な感覚。加湿器の吹き出し口に手を翳したみたいな。

 ん、加湿器…?


(それは空間を広げる魔法がかけてあって、中身を知りたいと考えると頭に保管品が浮かぶよ!)


 空間を広げる…?取り敢えず、言われた通りに中身は…と考える。

 すると、おわっ…何だこれ?

 めっちゃ入ってるやん。


(ふふっ、ご主人が()()で入れたんだよ)



 はい?だってこれ…一体何を目指したの?ってくらい色々入ってる。


 以下、中身のリスト(抜粋)



 ポッアップテント(大きさ自動調整付き)

 ふわふわの毛布 10枚(100%白蜘蛛の糸から作った)

 枕(聖獣の羽毛から作った)

 家(6LDK+大浴場、トイレ、トレーニングルーム付き)


 水筒(無限に湧き出る聖水入り)

 保温水筒(温かいスープ入り 減ると自動で補充)

 サバサンド、キビサンド、オークカツサンド 各20個

 オークステーキ、ワイバーンステーキ 各20食

 白身魚のフリッター 20食

 フライドポテト 50食 各種フレーバー付き

 温かいシチューにお鍋各種 たくさん

 お米 1000キロル(Kg)

 味噌、醤油、出汁、各種調味料 大量

 柔らかいパン 200個

 パウンドケーキ たくさん


 肉 各種 やたらたくさん

 魚 各種 たくさん

 魔鳥の卵 38個

 牛乳 大量

 チーズ 大量

 小麦粉 たくさん

 …


 癒し魔法が付与された魔剣など各種

 家宝の短剣など各種

 ダイヤモンドが埋め込まれた杖


 白蜘蛛の糸 たくさん

 白蜘蛛の布 たくさん

 虹蝶の羽 1501枚


 アルミニウム

 銀

 銅

 鉄

 ダイヤモンド各色

 アイルブルーストーン

 アイスエリー

 水晶

 サファイア

 以下略…


 治癒魔法の付与されたオリハルコン製の剣

 家宝のミスリル製短剣 

 サファイアが埋め込まれた生命樹の杖

 …以下略

  

 蘇生までできる薬

 解毒剤

 …以下略



 一旦、脇の避けておこう。考えちゃいけないやつだ。まずは水を飲みたい。

 でも、どうやって取り出すんだ?水筒を取りたいんだけど?


(欲しいものを頭に思い浮かべればいい)


 えっと、水筒が欲しい。



 ヒュン



 来たね?水筒だよ。良くある小さなやつだ。蓋を外してとにかく飲んでみる。コクコクコクン、美味しい。あ…全部飲んじゃった。お水は貴重なのに。どうしよう。と思って見たら満タンになってた。

 で、少し前からもよおしてた尿意。こんなにきれいな場所ではちょっと。でももう我慢の限界だ。どうしたら?できる場所あるかな。


(魔力に変換したらいいよ!)


 なんて?何を魔力に変換するって?


(排泄物を魔力に…出来るよ!)


 もう考えずに言われた通りに尿意をそのまま魔力に変換だ!思わず左手を上に掲げる。

 あれっ…?あんなに今すぐに出したかったくらいの尿意が、消えた。

 なんかもう、何も考えない方がいいかも。


(ご主人様 名前を付けて!)


 …スキルの名前?


(いえ、スキル名ではなく…人格、スキル格としての固有の名前を)


 いるの?


(テンションあげ上げで頑張れる!)


 ならば、うーん。秘書みたいな感じかな。有能な秘書といえばきれいなお姉さん。

 あれ、秘書って何だ?まいっか。で、きれいなお姉さん。ここ重要。だからやっぱりビクトリアさんだ!


(思考は男性です…)


 あっ…まさかの有能な秘書は男性の方か。ならば、勝利者ビクトリーと、ビクトリアの男性版でビクトル!どう?

 何処を見るともなしに見て、少しだけ胸を張る。


(私はビクトル!)


 ん、あれ…この光景に見覚えがあるような…。気のせい、かな。

 さっきから良く分からない単語が出てくる。考えても分からないのに頭に浮かぶそれらの言葉。

 首を捻りながらまぁ、いいかと思う。なんとなく、考えて分かるようなことではなさそうだし。


(ビクトル、ここは何処?)


 初めて明確に、ビクトルに意志を持って聞く。


(ピュリッツァー帝国 霊峰ミュシュランテスの山頂付近)


 一つも単語が分からないや。ピュリッツァー帝国、なんか聞いたことのある響き。

 確か、建築とかの有名な賞だった筈。

 あ、まただ。有名な賞って何?だよね。もう色々と考えるのはやめよう。


(僕は何でここに?)


 1番気になることだ。


(回答を拒否…)


(何で?)


 何となくそうなんだろうと思ったけどね。理由は知りたい。


(世界の摂理に抵触…)


 なるほどね、全く分からないけど多分、そういうことだろう。次元の違う話だ。

 だから別の質問をする。


(どうしたらいい?)


(…少し休めばいいかと)


 少し間を置いてそう答えるビクトル。いや、もっと具体的なことが知りたいんだけど。その前に1人は寂しいな。ビクトルはスキル格?だけど、実体を持たないのかな?


(ビクトルは実体を持てないの?)


(…待てなくは有りませんが、すぐには無理かと…)


 そうか。残念…


(どれくらいで実体化出来る?)


(…状況次第)


 うん、煮え切らない答え。これも摂理に抵触する案件なのかな。仕方ない。


(休んだら何処に向かえばいい?)


(少し歩いた所に…ご主人の望みが)


 僕の望み?1人は寂しいって奴かな。誰かいるのか!


(どっち?何をすれば…後は、そのご主人ってどうにかならない?)


(左へ進んで… ご主人の名前は?)


 左だね、よし。慎重に歩き始める。名前?僕の名前…何だろう。考えながら歩く。名前…

 イリィ、ふと名前が浮かぶ。でも自分の名前じゃないような気がする。なのに、凄く懐かしく感じる名前だ。気持ちがふわふわする。いや、今は名前だ。

 うーん、ハク…も違う。けど、こちらの名前も何だか胸が暖かくなる。

 ふと顔を上げると、さっき寄りかかっていた木に黄金色の実を見つけた。


 うわぁ、凄い!これ、食べられるのかな?美味しそう。


(ゴールデンピーチ 激美味)


 ビクトル、言い方。激美味ってなにさ?ポツポツと実が成ってるけど、食べていいの?


(ご主人の影響 2つくらいなら取っても大丈夫)


 僕?思い出せない元僕、かな。ま、いいや。美味しそうな実を見上げる。どうやって取ろう。だいぶ高い位置にあるな。


(風魔法で落とせばいい)


 なんて?風魔法?僕、使えるの…?うーん、試しにあの実を風で落とすように考える。


 ポトリ


 手の中に落ちて来た。いやいやいや、何で?魔法が発動したような感覚もなかったよ。


(ご主人のジョブ)


 …もう色々とお腹いっぱいだから、後で詳しく聞くよ。もう一つ取ってポーチにしまう。

 また歩き始める。何を考えてたっけ?そうだ、名前!

 うーん、ア…何だ?アイ…。うーん、分からない。でもずっとビクトルにご主人呼びは嫌だしな。ひとまずアイカでいいか。何となくだけど、当たらずとも遠からずって感じだと思うから。ただの勘だけど。


(ビクトル、アイカだよ!アイカって呼んで)

(アイカ!)


 ふふっなんか凄く嬉しい。するとさわりと風が揺れた。えっと、何だろう…これ。目には見えないけど、何かいる。いや、何かある?かな。

 見えないのに存在は感じられるこの感覚。オバケ?待って、それ系は苦手だから!


(ビクトルだよ!)


 ビクトル!?ってスキルだよね。実体は無い筈じゃ?


(精神体として顕現した!)


 どゆこと?


(実体になる前の…段階とでも言うか、実体に近付いた)


 よし、なんか良く分からないけど一歩前進だね!

 そのまま意気揚々と歩く。だってさわりと頬や髪を揺らすビクトルを、僕は感じられるから。

 嬉しいな。ふんふんふーんっと。


 少し歩いたら目の前が開けた。と言っても3メルくらいの範囲だ。

 そこには横たわった銀色の大きな熊と、その熊に寄り添う小さな熊。

『きゅーん、きゅーん…』

 何かを訴えるみたいな鳴き声だ。


 大きな熊が私を見る。ドキっとしたけど、その目は穏やかだ。怖く無い…その大きな熊はもう寿命だ。何故か分かる。そして、死ぬ間際に最後の子供を産んだ。

 まだ生まれて間もない子熊は必死に母熊にしがみ付く。その大きな熊は我が子を見て、私を見る。

 託した…そう聞こえた。

 私は近寄って、大きな熊の背中に手を触れる。温かい。小熊は私には目もくれず、母熊を見て鳴く。


 どれくらいそうしていたか…やがて母熊は天へと召された。それも何故か分かった。そして、その母熊が私に子供を託したことも。

 ビクトルに目線を送ったことも。頬のあたりに漂っていたビクトルの気配が消えた。そしてその母熊は水色に光って…




霊峰ミュシュランテス…下書中の別作品で使ってます

使い回し…



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