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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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304.王族との会食 再び

 私は朝食を食べている。丸い机にはシスティアとバージニアもいる。

「「「はぁ…」」」

 3人同時にため息を吐く。

「全く、だから嫌だったんだ…」

「私もそれには全力で同意するぞ」

「私もだ。そもそも説明なんて出来るか?」

「…無理だな」

「…無理だろ」

「「「はぁ…」」」


 なんで朝からガン首揃えて盛大なため息を吐いているのか、それは昨日の閣下が原因の一端だ。

「鋼鉄」と呼ばれるほど、鉄壁の心を持つと言われる閣下が。笑い声をあげて部屋の外の護衛が伝令に走り、咽び泣く声を聞いて別の護衛が騒ぎ、叫び声を聞いて最初の護衛が伝令にまた走った。

 全ては王へ報告され、あのイリリウム閣下の感情をそこまで揺さぶった理由を聞きたいと、イリリウム閣下の奥様…現国王の叔母様が言われ。

 そしてまたもや王族と会食の運びとなった。


 現国王のお父上には年の離れた妹君がいて、そのお方がイリリウム閣下の奥様だ。お名前をヒラリー様と言う。

 ヒラリー様が王族から下がる時に下賜された公爵位。イリリウム閣下もバナザララール侯爵家の長男だったので奥様は侯爵家の奥様となった。

 もっともイリリウム閣下自体が侯爵を継ぐ前に叙爵されていて、子爵位をお持ちで、奥様が保有していた一代限りの公爵位(結婚と同時に王へ返した)を継げないご次男は、閣下の爵位を継いですでに子爵として活躍している。ちなみにご長男はすでに後を継いでいるので、閣下は元侯爵家当主だ。


 そのヒラリー様が、我々との会食を希望されたのだ。

 元王族で、現王と同じ年の叔母で、閣下の奥様で侯爵の母。

 色々と詰んでいる。どう説明しろと言うのか。

 穏やかな方と聞き及んではいるし、悪い噂は聞かない。イリリウム閣下を良く支えた賢い妻と名高いお方なのだ。しかし、閣下には魔法契約を結んだ後の話だ。

 それに、アイルの事はこれ以上広めたくない。情報統制して、国とは切り離さなければ…この国が危ういのだ。


 だから頭を抱えている。

 全く…彼は色々とやらかし過ぎだ。しかし、私もシスティアも、もちろんバージニアも。それが嫌だとは全く思っていない。

 面倒だとは思うものの、それだけだ。

 しかも、悩んでいるのは彼を危険に晒したくないから。大の大人が1人の少年を守るために頭を悩ますなんてな…本当に。

 なぜ彼のことを考えると、こんなにも心が温かくなるのだろう。


 さて、気を引き締めて。

 と言っても何も妙案は浮かばず、ため息を吐いただけだったが。

 がんばるかな、彼のあの恥ずかしそうな笑顔を守るために。

 そう決心を新たにしたダナンだった。




 私たち3人は王宮の中でも賓客をもてなす為に解放されている、一般の客や執務を行う者が入れる空間と、王族の住処となる空間の間、そこにある庭園に設けられた机に座っている。

 丸い机で、我々3人が座った後に残る椅子は4つ。

 それを見て私たちは目を剥いた。

 聞いてないぞ!

 閣下の奥様であるヒラリー様はもちろん、招待者だから分かる。後3つも椅子がある。

 胃が痛くなってきた。


 しかし、ここで顔にその思いを出す事は出来ない。ここは魔術師団の第二師団が出張ってるだろう。壁に耳あり、木々に目ありだ。

 顔色一つ変えずに

「今日は盛況のようだな(聞いてないが人が多いぞ)」

「そのようだな。やはり興味は尽きぬか(物見遊山など迷惑だ)」

「致し方ないな。あれほどまでとは(マジかよ。閣下がなぁ)」

「良き日和だ(昼間だと長丁場だな)」

「そうだな(これは下手すると夕食まで引っ張られるぞ)」

「楽しみだ(マジで勘弁してくれ)」


 そんな平穏な(不穏な)会話をしていると、やがてざわざわと声が聞こえる。

 そして心底げんなりした。

「これはこれは(最悪だぞ)」

「ほうほう(最悪だな)」

「そうそう(帰りてー)」

 特大のハズレを引いたようだ。先頭でにこやかに微笑むヒラリー様。してやられた、な。

 心の中で盛大なため息を吐いたのだった。




 その頃、ゼクスで…


「イズ、お帰り!」

 フェルが早足に迎えてくれる。

「ただいま、フェル。どうした?慌てて」

 頬を染めて

「アイルだ!ずっとモヤモヤしてて、思い出せそうです思い出せなくて。アイルだよ。良かった。こんなに不自然に忘れるなんて、何かあったんだろうな。彼のことだから」

 興奮して話をするフェル。頬が色付いている。あぁ、フェルが可愛い。そのおでこにキスをして

「そうだな、良かったよ。思い出せて」

「忘れるなんておかしいよ!絶対」

 口を尖らせて上目遣いで俺を見る。だから可愛いだけだぞ?


「可愛いだけだぞ?フェル。ご飯は食べたか?」

 頬を染めて嬉しそうに

「まだだよ、一緒に食べようと思って」

「遅くなってごめんな。着替えてくるから先に食堂へ」

 頷いてフェルが食堂へ向かう。


 バージニアが王都へ向かったことで、サブマスターが代わりに書類仕事に追われている。玉突きで普段と違う仕事が増えて、残業していたのだ。

 ダナは何やら予想通りに、足止めされているとか。

 バージニアは元貴族。義理の叔母様が元王族で、自分も伯爵家の生まれだ。

 魔術師団総長閣下は叔父で、王都は知り合いも多い。今回はアイルという爆弾を抱えている。さながら少数精鋭の爆弾処理班だ。


 きっとその任務は過酷なのだろう。ダナも疲れて帰って来るだろうから。戻ったらたくさん甘やかそう。

 それに、昨日の異変。ダナも何か感じたと思う。きっと王都でアイルに思いを馳せただろう。

 色々と話しがしたい。ダナのことを思うと暖かな気持ちになる。


 そんなことを考えながら着替えて食堂に向かう。

 広い食堂で、フェルは静かに俺を待っていた。向かい合って座ると嬉しそうに笑う。

 ポツポツとフェルは仕事の話を、俺もギルドでの話をする。


 こうしてフェルと2人で過ごすのは久しぶりだからな。

 昨日も2人だったが、疲れと諸々の心配ごとでお互いにそれどころではなく。早々に各自の部屋に入ったのだ。


 食事が終わるとフェルが執事のブラウンにフェルの部屋に2人分の紅茶とブランデーを指示した。

 俺たちは連れ立ってフェルの部屋に入る。若い男性の部屋にしては、あまりにもサッパリとしている。

 でも俺はそのフェルの部屋が好きだ。機能美とでもいうのか、全てが心地よく配置されている。


 ソファに並んでる腰掛けると、扉が叩かれる。従者がワゴンを押して来ると紅茶を淹れる。

 ブランデーはそのまま机に置いて控える。

 フェルは

「下がっていい」

 従者は頭を下げて部屋を出て行った。

「イズ、ブランデーいるよね?」

「そうだな、頼む」

「ふふっ、2人だけだよ?」

「あぁ…」

 フェルはブランデーを入れた紅茶を俺に渡し、自分も口を付ける。


 疲れた体に温かい紅茶とブランデーが沁みる。

「美味いな…」

「うん、美味しい」

 俺は紅茶のカップを置くとフェルを抱き寄せた。アルコールで少し潤んだ目が訴える。

 そっと目を閉じるフェルにキスをする。まつ毛が揺れて目を開けたフェル。その目は一層潤んでいて…

「しばらくは僕だけのイズだよ…」


 アイルの名を思い出し、ホッとした気持ちと屋敷にダナがいないこと、溜まった仕事に疲れた体。

 癒しを求めた2人の夜は優しく、そして激しく過ぎて行った。




 目を覚ますとフェルが俺に抱きついてスヤスヤと眠っていた。その髪を撫でる。

 ほんの少し寝癖が付いてるそれに微笑むと、軽くキスをする。

 無防備な寝顔は幼げで、小さな頃から変わらず可愛いらしい。そう言うと嫌がるけどな。可愛いものは可愛いんだ。生粋の貴族であるフェル。仕草はとてもきれいだし、フェル自体が優秀だ。

 剣も使えるし魔法も全属性(全ての魔法が上級以上)だし、貴族学院での成績は常に上位3位以内に入っていたらしい。


 ロルフ様には負けるが、それでも相当に優秀だ。侯爵家唯一の跡取り息子。

 顔よし家柄よし性格よし、剣は強くて魔法も使える。これでモテない筈がないのに。

 社交にはまったく興味を持たなかった。社交というか人に、だろうか。それは本人からそう聞いたのだ。


 長期の休みの度に、領地に戻って来て俺と訓練したり散策したり。せっかくの休みだし、友達と遊びに行けばと言っても

「イズがいないとつまらない」

 友達の領地に遊びに行けば?と言えば

「イズと過ごせないから嫌だ」

 ならば友達を呼べば?と言えば

「紹介したらみんながイズを好きになるからダメ」

 とこんな感じで、同性の変な目で自分を見ない人か、婚約者のいる人としか交流しなかった。


 ダナも呆れていたけど、気持ちは分かる、と理解を示し。結局はそれで6年を過ごした。

 フェル曰く

「絡まれたくないからひたすら部屋で勉強してた。気を抜くとどこかから誰かがやって来て、女子はお茶会だとか言って付き纏うし、男子は体を気安く触ったりして色目を使って気持ち悪いし、時にはいかがわしいお店に行こうと誘ってきたり。イズがいない学校に価値なんてない!」


 それは言い過ぎだと思うが、そこで勉強に走るのが真面目なフェルらしい。

 浮ついたこともなく、だ。年頃の男子だから可愛い女の子や素敵な男子に目を惹かれてもおかしく無いのに。

 全くブレずに俺だけを見ていたフェル。

 いつもは澄ました顔をしているのに、俺の前では無邪気に笑う。それはもう可愛いくて可愛いくて。

 ダナの大人の魅力とは違う可愛いさだ。だから、俺も弟のように思っていた。


 フェルは俺を人として見てくれてたけどな。知ってはいたけど、世界が広がれば自然と離れていくと思っていた。

 全くブレなかったが。

 有り難い事だ。そのお陰で、俺も変に貴族に絡まれることもなく、ギルドの仕事が出来ている。あのフェリクス様のお気に入り。それだけで、だ。


 う…ん。フェルが寝返りを打つ。寝言か…?可愛いな。

 俺もフェルを抱きしめて、また目を瞑った。

 家族として迎える新年は後少し…。





イリリウム閣下 58

奥様 48 王様のお父上の18才下の妹

王様 48

王様のお父上 66


閣下の侯爵家名

当初 バナジウム  イリリウム・バナジウム

なんか変、と思い

イリリウム・バナジラールにする予定が誤変換で

バナザララールになり…まいっか、となりました


時系列が分かりにくいので…


10月10日 審判の日

アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る

イグニスが神界でケガをする


10月15日頃

シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)

アルテノが祈りを捧げる

イザークがペンダントにざわめきを感じる


10月18日頃

ダナンたちが王都を訪れ、会食

アーシャが神聖の森に伝言をする

若木が根付く?

アイルが透け始める



※読んでくださる皆さんにお願い※


フェリクスが可愛い!と思ったあなた…

バナザララールに誤変換って意味不明と思った方…

そして…面白い、続きが読みたいと思った方…

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