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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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303.神聖国の異変

 私はその日、やはり気になって…また森に入った。

 私が率いる飛翔師団。私が隊長で副隊長2名と8人の隊員で構成される。

 そもそも神聖騎士団に入団出来るのは、聖力を持つ物に限られる。いわゆる聖人だ。

 その中でも王族に近い血筋から生まれる聖女は、名前の通り女性だ。圧倒的な聖力を持つ高貴な女性のことだ。

 聖女は常に1人。例外なく1人だ。

 今代の聖女は私の叔母にあたる、現国王の姉だ。


 聖女はその聖力の高さから、世界樹の言葉を聞くと言われている。正確には世界樹に宿る精霊王の気持ちを感じる、という事だ。

 ユーグ様がお言葉を述べれば、私たちにも聞こえる。

 だから聖女が聞くのは、その想いだ。


 私の胸騒ぎと連動するように、聖女が寝込んだ。それは精霊王様の想いが強いことを指す。その想いに()()()()()聖女は寝込んでしまわれたのだ。

 だから私は巡回を申し出た。3人の王子の中で、私が1番聖力がある。だから、何かを感じられるのではないか…そう思ったのだ。


 アーシャ様から客人が来ると言われた日の午後の事だ。

 本来、定期的な巡回は朝だけだ。特に異常が無ければ朝のみ。しかし、あまりにも気になったのでまた午後、森に入った。

 やはり何やら騒めいている。

 私たちはそのまま進み、とうとう世界樹にまで辿り着いてしまった。



 そこで目にしたものは…



 とても言葉では表せないほど、胸を打つ光景だった。



 なんて美しい…

 私はこの光景を、生涯忘れないだろう。

 それ程までに圧倒的な美しさだったのだ。



 目の前の世界樹は、その幹が白く輝き…その葉はキラキラと光を振り撒き、数多の聖なるものが乱舞する。

 昼間なのに、これほどまでの光。

 どれだけ集まったのか。



 そしてその中央には白いローブを羽織った、銀色の長い髪の精霊王ユーグ様。気高く美しいその姿は一生に一度、見ることが叶えば暁光。それほどお目見えにならない尊いお方だ。 



 輝く髪は長くさらさらと、その白磁の頬は僅かに色付いて…その目は誰もを釘付けにするほど澄んでいた。

 慈愛に満ちたその目は、腕の中の1人に向けられている。なんと愛しさの籠った優しい眼差し。

 その者の存在を、全身で喜ばれている。


 本来なら跪く筈の場面で、その圧倒的な美しさ見たさに私はただ立ち尽くし…その光景を目に焼き付けた。



 ユーグ様はその腕に人を抱いていた。銀色の髪の細身の少年だ。目を瞑っているが、それでも分かる整った顔立ちの…線の細い少年。

 ユーグ様が望んでやまない存在。

 限りなく優しい眼差しで彼を見て、そっと口付けをする。2人は淡く水色に光ると、少年は白く七色に輝く繭に包まれた。

 その繭はまるで揺りかごのように少年を包む。

 ()()()()()()()()()…それはユーグ様の強い想い。



 精霊に纏わる話は色々とある。その中でも生命樹の精霊による繭は…死との境界。繭に取り込まれたら最後、魂は生命樹に融合し、体はやがて朽ちる。

 そう、伝えられている。


 しかし、目の前の繭は閉じていない。閉じない繭は精霊の願いと祈り。彼の者は、生きることを嘱望されている。



 なんと静謐なる願い…



 私は涙が溢れるのを止められなかった。

 美しいその景色をいつまでも見ていたくて、時が止まればいいのにと思った。

 どれくらい見ていただろうか…。

 次の瞬間…まるで爆発するような、圧倒的な力の奔流を感じた。

 これは…神の遣わす御力、なんと力強い聖力…。光の奔流は天より流れ落ちる。それは天から世界樹へ、そしてユーグ様と繭に包まれた少年を…圧倒的な光でくるんでいく。



 光が収まった後、そこには()()()()()()()

 まるで幻のように、ユーグ様も少年も消えていた。



 しかし…幻ではない。そこには繭のカケラが落ちていたから。キラキラと虹色に光る繭のカケラ。

 手を触れるとほろりと崩れ落ち、光を撒き散らして消えた。なんと儚く美しい。

 私はしばし時間を忘れて…そこに佇んでいた。





 フィレンツィアが精霊王を見た翌日、バナパルト王国の王宮にて…



 私は目を覚ました。ここは、あぁ王宮か。

 昨日はアイルのことを願いながら祈り、明け方に目を覚ますと床に倒れるように寝ていた。

 それから慌てて湯につかり(魔道具で快適な温度に保たれていた)眠った。

 寝不足のはずなのに、妙に頭がスッキリとしている。

 アイルのこともしっかりと覚えている。あれほど忘れてはなならないと思い、その名前を思い出そうと願い、叶わなかった事が。嘘のようにスッキリとハッキリと思い出せる。


 きっと何かあったのだろう。あんなにも不自然に、彼を忘れていくなんて。しかし、沢山の願いが彼を引き留めた。そういうことだと感じる。


 イズ…君も私と願ってくれたんだね…。これに応えるようにさわりと空気が揺れる。

 そして、ゼクスでもきっと…私のイズが祈ってくれただろう。

 早く会いたいよ、イズ。そしてフェル。無性に2人をこの腕に抱きしめたくなった。

 アイル、君もだ。早く帰っておいで…待ってるよ。

 やらかし放題の可愛い()()だ。ちゃんと面倒を見てやらないとな。



 アイル、早く帰って来て…その顔を私に見せておくれ。

 ダナンは早朝、1人静かに物思いに耽った。




 *******



 昨日の私は少し、自分らしくなかったと思う。人前で涙を流すなど、鋼鉄の2つ名が泣くわい。

 さらには大口を開けて笑うなどな…。

 そう思っても一部も後悔はしていない。それだけ愉快で、してやられた!と思ったのだから。まさに完敗だ。戦わずして圧倒的に負けた。それがなんとも心地良い。

 

 昨日のやり取りを思い出す。



「たくさんあるから、とかそんな理由でしょう」



 国王ですら私物では持つことが叶わない白蜘蛛の糸で折られた布。惜しげもなく使われたそれら。

 魔力の込められた引き寄せ合う水晶に虹蝶の羽、白蜘蛛の糸で編まれた刺繍。

 デザインは魔術師団の紋様と、どうやら絵のように見えたのは古語らしい。彼の者の故郷の文字。見たことのない文字は紋様と相まって、とてもしっくり来る。派手すぎず、しかし複雑で纏まっている。

 あの小さな片手に乗るくらいのエンブレムには、これでもか…と国宝級のものが散りばめられている。



「閣下のは水晶ですね。羨ましい…何故我々のはこんなに透明度の高い、鮮やかなサファイアなのか…」

 独り言のように呟かれた嘆きにハッとする。アフロシア侯爵の、上着の内側に付いているそれは、我々のものよりも数段高価なエンブレムだった。

 我々のエンブレムだって国宝を詰め込んだ逸品だ。しかし、彼らのはもうそんな領域を飛び越えて…遺物。

 そうとしか思えない。


 よく見れば、髪に隠れて見えなかった耳飾り。そちらからも濃厚で純粋な魔力を感じる。

 透かし模様の中に見えるのは色付きのダイヤモンドか?輝きが違う。

 右手の小指にもシンプルながら小洒落た指輪。何処ぞの国に攻め込むのか?というくらいの防御が増し増しに付けてあるのが見て取れる。


 口がぽかんと間抜けに開いたが、どうやっても口を閉じるのは無理そうだった。それくらいの衝撃。

 思わず

「そ、そ、それは…」

「過保護なんです…」

 困ったように言う。


「きっと迷惑かけるので、お詫びも兼ねて…とか思ってるんでしょうね…。骨折も治る普通の傷薬とか、呪いも解ける解毒剤とか…。あぁもちろん、他言無用ですよ?彼は本当に普通だと思っているので。全力で、普通ですってわざわざ…もうね、可愛くて。やり過ぎって言えないんですよ」

 困った顔をしているのに、どこか嬉しそうで。ヤンチャな息子を見るようなそんな優しい目で語るアフロシア侯爵。


 隣でカルヴァン侯爵とバージニアもうんうんと頷く。

「とにかく悪意が全くなくて…全ては善意なんですよ…。そもそも彼自身に聖獣2体と霊獣と幻獣に伝説の黒曜犬。聖獣様との間にはお子もいて…世界征服すら容易い。なのに全くの無自覚で。その強大な戦力を、知り合いとかの防御に全振りするんです。誰かを傷付けることなんて、出来ないんでしょうね。彼が何かする前に、聖獣様たちが排除するでしょうしね?彼の手を汚さない為に」

 やっぱり困った顔でバージニアも言う。


 バージニアは私の甥だ。2つ上の姉の、その息子。貴族でありながら、貴族らしくない彼は貴族は堅苦しいと探索者になった。

 探索者に貴族はなれない。成りたければ貴族院に届出を出して、貴族籍から抜けなければならない。それをやってのけた。

 ならば、と上級になった所でギルドマスターに推薦した。貴族案件もあるので、適任だと思ったのだ。

 その甥が、年の離れた伴侶とまだ幼い息子以外に…こんなに優しい目をするなんて。


 確かに両侯爵ほどではないが、彼にも耳飾りが付けてある。髪の毛が短いから耳が良く見える。そこにはシンプルな耳飾りが、シンプルではない様子で嵌っている。

 なんだか濃い魔力を感じるが?

 気が付いたバージニアは

「あぁ、もしも身一つで放り出されても生きていけるように、と()()()()装備とかが入ってます、って渡されたんです」

「最低限の意味を分かってるのかってくらいの中身で」

 カルヴァン侯爵も続ける。

 バージニアがそれを外して私に手渡す。

 持ってみれば…はっ?何だこれは?



 あまりの驚きに口を再び開けた私に、驚いたのはダウルグストとハウラルだ。

 近寄って私の手元を覗き込む。

「「!!」」

 そうなるよな?私の目はおかしくなってないよな?

「これは…なんて高度な隠蔽」

「鑑定してもここまでとは…分からなかった」

「ただの飾りに見えた。もっとも魔力は感じだがな」

「それは、我々も感じましたが…これほどとは」

「とんでもない、ですね…」

「しかも中身は…()()()だったな?彼の認識では」

「まぁ彼の場合の最低限は、生活に困らず快適な最低限…なんでしょうな」



「「「…それを最低限とは言わない!」」」



 3人の意見は一致した。それはそうだろう。

 しかも、カルヴァン侯爵のご子息であるラルフリート殿が、遭難して食料が尽きかけた。遭難して温かい食事を食べていた時点でやっぱり色々とおかしいが。

 いや、その前に遭難して何日も経って身綺麗でやつれてすらいなかったなんてあり得ない。


 そもそも料理が出来ない貴族のご子息は、食材があっても料理を作れないのだ。

 そのことに気がついた彼が中身を更新したと言う。すぐに食べられるものをたくさん…に。お湯で溶かすだけとか、温めるだけの()()()()携帯食(この時点でまた色々とおかしい)もそれなりに。

 手厚いどころか、このまま逃亡しても2ヶ月は生きていける。2人でも1ヶ月は余裕で生きられる。そんな中身になっていると。


 彼曰く、前回の反省を込めたそうだ。

 そこまでのものが詰め込まれている。たかが耳飾りに。

 持ち主登録付きで、防御率機能まで付いている。彼は何を目指しているのか?


 私たちにも似たような装備が入っているらしい。

 私はエンブレムに触れて確認する。良く見れば魔力で隠蔽がかかっている。なんと巧妙な!


(自動で組み上がるテント(置けば自動で水平になる)、ふわふわの毛布(白蜘蛛の糸と綿の混紡)4枚、よく眠れる枕、普通の傷薬、解毒剤、鎮痛剤、温かくて美味しい料理(20食)、お湯で溶かして飲むスープ(60杯)、美味しい携帯食(封を開けるとほかほかになる 30食)、きれい玉、簡易浴槽とトイレの箱、食器、机、椅子、着替え3揃い、予備の魔力、剣、盾、簡易コンロ、甘味、紅茶、本…)


 これはあれか、お貴族様の散策用か…?お試し野外快適宿泊装備か?

 えっ、違う。彼は全力でもしも、に備えた物を渡しているだけ。

 何?彼も空洞を踏み抜いて洞窟の中の川に落ちた事があると。その時に困ったから。

 なんだと!傷薬は体が冷えて熱が出て、命の危険がある時にも効く。いや待て、傷薬だろ?何で熱にも効くんだ!

 えっ…彼だから。そ、それはまぁ…そうかもな?

 いやいやいや、やっぱりおかしいだろ!ん?それこそが彼だと?

 ええい、常識は何処に敵前逃亡したんだ!


「閣下、そんなにカッカすると体に堪えます。閣下だけに…」

 くだらない冗談を言ったのはここまで静かだったハウラルだ。

「たわけ!これが興奮しないでいられるかー!」



 ある日の夜、イリリウム閣下の叫び声が王宮に響いたとか…。





イリリウム閣下 58才

ダナン、システィア 38才

バージニア 42才


時系列が分かりにくいので…


10月10日 審判の日

アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る

イグニスが神界でケガをする


10月15日頃

シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)

アルテノが祈りを捧げる

イザークがペンダントにざわめきを感じる


10月18日頃

ダナンたちが王都を訪れ、会食

アーシャが神聖の森に伝言をする

若木が根付く?

アイルが透け始める



※読んでくださる皆さんにお願い※


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