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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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301.森の巫女

 胸騒ぎがする。これは…()()()()()()

 寝床より起き出して、ローブを羽織る。目は生まれつき光を映さないが、巫女としての感覚は視覚を補って余りある。むしろ、視覚に頼らない分、夜目も効く。

 我の起き出した気配に気がついたテトがするりと部屋に入ってくる。

「何かございましたか?」

「森が…騒めいておる。行くぞ!」

「はっ」


 テトの手に導かれて部屋を出る。屋敷を出てからは我がテトを導いて行く。

 森の中を進み、やがて結界を通り抜けた。

 そこには夜にこそ輝く生命樹の白い幹があった。やはり、騒めいて…。

「巫女アルテノ、まかり越しましたぞ」

 頭を垂れて申し上げる。


 静かな沈黙の後、ふわりと風を感じた。


『良く来たね、巫女よ。我が愛し子が迷っている。どうか彼を導いておくれ…』


「どのように…迷っておられるのですかの?」


『全て、だよ…アルテノ。彼は私の大切な子。必ず()()()()()()


「はっ、必ずや…」



 またさわりと風が揺れて、森は騒めいたまま。沈黙が落ちた。

 アルテノは考える。また難しいことを。全てに迷うとはいかほどか。

 しかし、頼まれた以上は全力で当らねば。


 後ろに控えたテトを振り返り、厳かに告げた。

「儀式を執り行う」

 テトは一瞬の間の後、恭しく頭を下げて

「はっ、ただ今!」

 告げるや否や、魔法で灯りを出して駆け出した。



 森人の巫女が執り行う儀式。それはとても神聖なものだ。本来なら3日前から沐浴をし、身を清めてから万端に整えて行うものだ。

 この大陸が起こったその祝賀の為に捧げる建国の祈り。

 5月1日の建国の日だ。

 その日にこの大陸に国が創られた。代々の森人にはそう伝わっている。


 それ以外の儀式は行わない。それだけ神聖な祈りだからだ。

 ユーグ様の頼む、は巫女にだけ引き継がれる祈りの力、それを期待してのことだとアルテノは判断した。

 故に儀式を執り行うと決めたのだ。


 ゼクスの町の者に託した()()が、意味をなしてしまったか。

 アルテノはふうと息を吐く。サイは投げられた。後はその愛し子様を呼び戻して…。

 アルテノは深く思考をすることを諦め、歩き出す。

 結界の外で行う儀式の為に。

 心してかからねば。彼の者を導く為に…。

 まだ明けない空は暗く、見えない目を空に向けアルテノはまた息を吐いた。


 準備のために先に戻ったテトが戻って来た。儀式の準備を任せたのであろう。テトに手を引かれ、屋敷に戻る。

 そこにはすでに儀式の衣装がメイナの手で整えられていた。

 テトの一家は代々、巫女の身の回りの世話をする。メイナはテトの娘だ。

 メイナの手で着ていた服が脱がされ、そこで全身に自ら浄化をする。

 それが終わるのを待っていたメイナの手で儀式の衣装が着けられる。


 白い裾の長いローブを腰の高さに紫紺のサッシュで留める。首には儀式用の水晶の首飾り。頭には同じく水晶の雫型の飾り。

 髪は編み込んで結上げ、肩からショールを羽織る。

 化粧を施し、淡い紅を付けて完成した。

「「ほぅ」」

 声が漏れる。

「何度見てもこの世のものとは思えない美しさ…」

「たいへんお綺麗です…オババ様」


 自らの目で見る事は叶わないが、荘厳な装いである事は分かる。

 少し緩んだ空気を締めるように

「行くぞ」

 厳かに告げる。この先、祈りを口にするまで…声は出さない。

 身のうちにある聖なる力を練るためだ。ユーグ様、精霊王ユーグ様の愛し子が迷われている。

 道なのか、心なのか、場所なのか…迷われている理由は分からないが、態々巫女である自分を呼び出した。

 ならばただ人ではどうにもならない事態なのであろう。


 どれだけの間、祈りを捧げれば良いのか分からぬが。出来ることをするまでだ。


 生命樹の結界の外、そこには簡易な祭壇と櫓が組まれていた。櫓には赤々と火が灯っている。

 テトが手を離す。我は祭壇の前に進み、跪く。手を組み合わせ頭を下げて…祈りを捧げた。

 ただ一心に、その迷える者を導く為に。




 森人はただ人より長生きだ。

 人のおよその寿命は60年。

 森人のおよその寿命は100年。

 そして森人の巫女の寿命は300年。



 アルテノは200才であり、テトやメルラよりも長生きだ。

 そも巫女とは何か。

 生まれながらに視力をもたず、聖力を持つ女性だ。この世界に必ず1人は存在する。

 巫女が淡くなると、次代の巫女が生まれる。

 ゼクスにほど近いこの森は、巫女の生まれる場所であり…隠れ里だ。

 巫女はここの生命樹から生まれる。アルテノも然り。先代の巫女が亡くなり、それから1ヶ月後にアルテノが誕生した。


 巫女は代々の巫女の記憶を継承する。長い建国の歴史も創世の歴史すら記憶にあるのだ。

 この隠れ里はバナパルト王国が出来る前から密やかに存在していた。だからアルテノには過去の記憶がある。


 その過去の中で、歪められた認識も知っている。イグニス様とアリステラの真実も。

 巫女には神聖な祈りを捧げる役割と共に、聖なるものを見守り精霊たちの声を聞く役割もある。

 6月以降、森や山などに籠っていた精霊たちが大きく動いた。 


 1つはユーグ様の目覚めによるもの。

 もう1つは聖なるものの棲家が移ったこと。

 後者はもちろん、アイルが使った温室や楽園だ。そこにはたくさんの精霊や妖精が集い、暮らし。

 やがて聖域(サンクチュアリ)と化したのだ。


 巫女は日々の祈りの中で、世界を知る。絶えた生命樹。狙われた聖獣。そして、彼の者の存在。

 その危うさと脆さも。彼の者の置かれている状況は切迫していた。

 我の祈りが必要になる…そう判断し、イザークに祈りの詰まったペンダントを託した。

 しかし、それ以前の問題が発生したようだ。


 導くこと、祈りにより彼の者を導くこと。

 迷いなら行く道を指し示さねばならない。魂を回帰させる為、真摯な祈りが必要だ。


 アルテノは気がつく、祈り始めて。

 彼の者のの為に…たくさんの願いと想いが溢れていることに。

 その危うい状況にあって、彼の者が耐えているのは…ひとえにその者たちの多大なる願いと想いによる。

 そうか、それほどまでか。


 それほどの想いを持ってしても迷わすのなら…それはもう人外による干渉。ならば、我の祈りはそれを打ち砕き…願う者たちの想いを道標として、彼の者を()()()()導く事。



 アルテノは願う。 



 たくさんの願いを

  溢れる想いを

   彼の者に届け…



 そして


  邪悪なる者は退け!




 ただ一心に祈る。

 その祈りは生命樹に届き、生命樹から空へと流れ…やがて天へと昇華した。



 その願いは…切なる願いは…



 アルテノは一睡もせず、何も口にせず、一心不乱に祈り続けて…



『聞き届けた…』



 そして倒れた。全ての力を使い果たし…祭壇の前に崩れ落ちるように踞った。

 すかさずテトが抱え上げ、メルラが装束を脱がせて沐浴をする。

 儀式の終わりに浄化をするのだ。アルテノの意識がない為、テトが代わりにその身を浄化する。

 ふわりを光ったのを確認し、いつもの服を着せてテトが抱えて屋敷に帰った。

 回復の魔法を掛けてベットに横たえ、部屋を辞した。




 *****




 イザークはその日、ギルドの仕事が休みだった。久しぶりに体を動かそうと領軍の訓練所に足を運び、朝から剣を振っていた。

 夢中で振っていて、ふと気がつくとフェルの姿が見えた。もうそんな時間か。

 フェルは近づいて来ると

「おはよう、イズ」

 汗を拭く布を渡してくれる。

「あぁおはよう、フェル」

「珍しいね?イズが時間も忘れて剣を振るなんて。何かあった?」

 俺は驚いた。さすがというか、フェルは俺のことを良く見ている。


「これが…何というかな。騒めいた」

 首にかかるソレを指して言えばフェルは少し驚いて

「どれくらい?」

 あぁフェルも感じたのか。野生の勘とでも言うのか、それはフェルより俺の方が優れている。

 状況判断は生きることと直結する。そんな生活を続けていれば嫌でも諸々の気配には敏感になるのだ。

「目が覚めて、落ち着かなく…夢中で剣を振るくらい、だな」

 フェルは俺をじっと見るとふっと息を吐く。

「僕には違和感程度にしか感じなかったよ」


 首を振るフェル。敵わないなぁ…と呟いた。

 俺はフェルの頭を少し乱暴に撫でる。

「分からなくていい。フェルには俺がいる。気配が分かるような生活はフェルには似合わない」

 少し拗ねたような顔で、でも嬉しそうに上目遣いで俺を見る。

「守ってね」

 笑い合って訓練場を後にする。


 俺は体を拭くために部屋に戻った。何か、予感のようなものがして…。アルテノから預かったペンダントを見る。それは机の引き出し、その奥にしまってある。

 胸騒ぎがする。

 引き出しを開けて、奥からペンダントを取り出す。

 これは…一体?




 フェルと食事を終えた。ダナは今、アイルの諸々の報告に王都へ出発して不在だ。

 その際に、またアイルがやらかしたらしい。



―ラルフ様を助けてくれた人たちに、お礼です。



 そんな書き出しの手紙と共に入っていたのはエンブレムだ。ラルフを探すために送って来たアレだ。

 もっともデザインは違う。

 ちゃんと魔術師団用に考えたらしい。それはなめらかな曲線と鮮やかな刺繍で出来ていた。


 もう見るからにヤバいやつだ。

 間違いなく、色々とやらかしている。あの虹色に輝く糸は何だ?

 やたらと手触りのいい袋に入っているし、真ん中とエンブレムから垂れた鎖の先にもキラキラと輝く水晶。

 それは見たことのないカットだ。


「探すための魔力」


 入ってるな、間違いなく。知ってから知らずか、総長閣下のものと、各師団へは5個。

 それ自体が間違いなく国宝級の物なのに、5個。

 ダナやシスティア様用のは中央に燦然と輝くサファイアだ。

 何してるんだよ、アイル!


 説明と言う名の釈明に行くダナを、王都を、より煽ってどうするんだ!

 それが全くの善意なんだからな…本当に参った。



 ―あ、イザークさん。きっとイチャイチャしてるだろうし、じきに子供できるだろうから。子供用のあれこれをついでに贈ります―



 涎掛けにオムツ…白蜘蛛の糸で織られた布。きっとアイルは肌触りがいいから、とか思ってるんだろうな。

 どこの世界に国宝級の布でオムツ作るやつがいるんだよー!


 

 イザークの心の叫びは、仕方ないだろう。




時系列が分かりにくいので…


10月10日 審判の日

アイルやハクたちが魔力を捧げる為に眠る

イグニスが神界でケガをする


10月15日頃

シシラルたちがイグニスを連れて下界に降りる(神界と下界は時間の流れが違う)

アルテノが祈りを捧げる

イザークがペンダントにざわめきを感じる


10月18日頃

ダナンたちが王都を訪れ、会食

アーシャが神聖の森に伝言をする

若木が根付く?



※読んでくださる皆さんにお願い※


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