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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第6章 ピュリッツァー帝国

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306/429

300.神聖の森

第6章始まります…


そして閑話をのぞき、本編祝300話!

150話くらいを目指してたんですが…終わりはまだ見えません

 朝のシンとした空気の中、その森の中を進む一団がある。一糸乱れぬその歩みは迷いなく、森の中を進む。

 しばらく歩いた後に、目の前が突然開けた。そこには天にまで伸びるような、巨大な木が静かに佇んでいた。

 その幹は大人が10人ほど手をつなげてようやく一周するほどに太くて白い。そう、白く輝いている。

 見上げるほど高く、枝は横に広く張り出している。その葉は青々として、葉の裏側は白い。

 大人の手のひらほどもある大きな葉は透けるほどに薄く繊細だ。

 陽にかざせばキラキラと眩く光る。



 ここは神聖国、その北端に少し張り出した領土。その辺り一帯に広がる神聖の森と呼ばれる場所。

 その森のほぼ中央にある巨木、この世界が創られた時に命を生み出す役割で植えられた木。



 世界樹



 世界樹自体は生き物の命を生み出すのではなく、命を生み出す生命樹を生み出す。

 だから命の源と呼ばれている。


 この世界樹は永いこと眠りについていた。

 たくさんの生命樹を世に送り出し、その役割が定着したのを見届けて…かれこれ1000年ほどか。

 最古の国と2つの大国、そして世界樹を守るための国。それらの国々の営みを見て…生命樹を生み出すという役割に区切りがついた。

 それがキッカケだ、とも…周期的な眠り、とも言われているが、真相は闇の中だ。


 この世界樹には高位の精霊が宿っている。過去の文献には人型の神々しい姿だったと記録されている。

 その名を



『ユーグ・ド・ラシル』



 森に棲息する数多の精霊たちの頂点である精霊王様だ。

 いわゆる聖なるものと呼ばれる精霊、妖精。さらには聖獣や霊獣。

 その中で精霊や妖精たちを見守るお立場だ。

 この世界樹の周りにはたくさんの精霊たちがいる。小さな淡い光から大きな強い光、そして人型など。

 様々な精霊たちが、この巨木に集っている。


 さらに、世界樹の周囲数キロルにも及ぶ神聖の森。そこは聖なるものの楽園だ。

 さらに多くの精霊たちが生まれ、森の中を飛び回る。

 聖獣や霊獣も…ここに郷を築き、ひっそりと暮らしていた。



「変わりはないな…?」

「「はっ!周囲にも異常は有りません」」

 先頭に立つ真っ白な服装の男性が、後ろに声をかける。すぐ後ろを歩いていたら2人がこれに答えた。



 永い眠りから数ヶ月前に目覚めた精霊王様。そのお姿は現されていないが、()()()()()()()()()()。何故かと聞かれても、ただ分かるのだ。

 この巨木の中で静かに力強く動くのが。


 動き始めてしばらくは安定していたが、ある時に突然また()()()。眠ったのではなく。

 2000年ほどの歴史の中で、閉じたことが数回あったと記録されている。

 その理由は判然としないものの、比較的短い期間(といっても場合によっては百年単位)でまた活動すると報告されていた。

 すると、今回は僅かな時間でまた開き…しかし、しばらくはまるで傷を癒すかのように沈黙していたのだ。


 目覚めたのも閉じたのも6月。そして、また穏やかな活動が始まった。

 その葉が風に揺れる音、幹の中で水が回る音。その巨木からは生命の確かな営みが感じられた。


 そしてその日、フィレンツィアはいつもとは違う胸騒ぎがして…こうして巡回をしている。

 どこにも目に見える異常はない。自分でも確認した。しかし、何かが違う。それは勘などではなく想いだ。


 フィレンツィアはここ神聖国の第三王子として生まれた。この国の王族には大切な役割がある。

 神聖の森に()()()()()()()()()、一生を世界樹の見守りと森の管理に捧げるのだ。

 誰もが認められるわけではない。王族の場合は男子に限り、しかも選ばれた一部の者だけが森に入ることを許される。


 フィレンツィアの上の第一王子は認められず、第二王子とフィレンツィア、そして第四王子が認められた。

 第五王子も認められなかったのだ。何をもって選抜されるのか、今もって不明だが今代は3人の王子が認められた。


 そして、神聖国にある騎士団の内…神聖騎士団と呼ばれる騎士団は、森に受け入れられた少数のもので構成される特殊な部隊だ。

 たったの50名。普通の騎士団は何万人といるのだから、その少なさが際立つ。

 50名の内、王子が3人。それぞれの王子の元に10人の部下がいる。残りの者たちは11人で部隊を構成し、残りの6名は部隊間の連絡役を務める。

 一年300日をこの4部隊で交代しながら、森を巡回したり不穏な動きに対処したりしていた。


 世界樹と森を守っているのは神聖騎士団だけではない。他にも森人がいる。この森に住む守護一族だ。総勢20名、5家族がこの森を代々守っている。

 この森で育ち、外で諜報を担っている者もいる。各国の生命樹の様子は随時、この国に集まっているのだ。

 ただ、魔道公国の動きだけは知ることが出来ない。かつてはイグニシアの一部だった北西の領土。氷に覆われたその地に国が出来た。

 そこには生命樹があったとされている。しかし、ある時から生命樹の痕跡が消えた。


 それを皮切りに、他の国でも生命樹が絶えた。寿命などでは有りえない。

 聖なる木である生命樹は常に世界樹と繋がり、その力で守られている。なのに、だ。


 そんな中、この大陸で最古の国が消えた。さらには西の大国であるバナパルトである生命樹が絶え、森が閉じて凍った。森が凍るのは、神聖の森の管理者である最高位精霊のアーシャ様の戒めだ。決められた掟が破られた時…森は閉じる。

 元々、生命樹は守られている。それでも、不敬な輩の標的になってしまう為、周りを深い森で覆っている。

 もしくは隠蔽している。

 前者は白の森のかつてのユウリや巫女アルテノが見守る森のユーグ(分身)、後者は死の森近くのユーグ(分身)だ。



 そんな不穏な動きが加速する中、最古の国は滅び、その国にある森も閉じた。そしてその森の生命樹は沈黙した。

 何かが大きく動こうとしている。それは分かるのに、誰が、何のために、が全く見えない。

 フィレンツィアはその圧倒的な存在である世界樹を前に物思いに耽っていた。



『ジャジャーン、アーシャだよぅ。フィレンツィア、久しぶりー!』



 物思いを吹き飛ばすような軽い声が聞こえた。フィレンツィアは絶句する。

 神聖の森の管理者、最高位精霊たるアーシャ様だ。お姿は見えないが、強く凛々しい光が目の前を漂う。

 フィレンツィアはすぐに跪き、頭を垂れる。

「我らが尊き森の管理者、アーシャ様にご挨拶申し…」


『硬いなぁ、相変わらず』


 挨拶の途中で割り込まれた。



『余り時間がないから手短に!そんなに遠くない未来、ここに客人が来る。僕が祝福を与えた者だよ。丁重に迎えてー。じゃあねー!』



「…はっ?」

 頭を上げた時には目線を下げていてさえ分かるほどの光が、すでに消えていた。

 幻、なのか…?



(やだなー!幻じゃないよ!急いでただけー。今ね、人の中に同居してるんだー!楽しいよっ。でも色々と難儀でね…)



 頭の中に幻じゃないと主張するアーシャ様の声が聞こえた。色々と整理出来ていないが、とにかく、だ。あのアーシャ様が誰かに祝福をした。それが事実であればとんでもない事だ。

 あの苛烈で厳格な掟、それを作り遂行するアーシャ様。ご本人の性格も苛烈で曲がったことが嫌いなお方だ。その方の眼鏡に叶うなど、人ではあり得ない。

 そうとまで言わしめたアーシャ様が祝福を与えた、あまつさえ同居する…。


 フィレンツィアはそこで考えることを諦めた。アーシャ様が客人と言うなら、受け入れるまでだ。

 どんな御仁なんだろうか…。

 フィレンツィアはまたしても深い思考に潜って行った。






 その頃、バナパルト王国の王宮にて…



 私は今、夕食の席に着いている。私の左側にはシスティア、右側にバージニア。

 そして…向かいには国王その人、そして隣、システィアの向かいには王妃。

 王の右側にはイリリウム閣下だ。



 何故こうなった。



 ロルフ経由で預かった魔術師団へのお土産。第一師団長のダウルグスト殿、そして第三師団員のハウラル殿、さらには魔術師団総長のイリリウム閣下。

 それぞれに託されたエンブレムを渡す。

 もちろん、喜ばれた。それはそうだ。だって()が作ったものだから。


 素材もさることながら、探すための魔力を込めた水晶。そしてこれも想定内の「念の為」の野外装備など一式。

 何であんなに薄いものにテントや毛布、薬に食料まで入るんだよ!

 それに気がついた3人はもう泣き笑いだ。

 ハウラル殿はまだお若いが、閣下は我らの親世代、ダウルグスト殿も我らと同世代。 

 世の中を渡り歩いてきた歴戦の猛者を泣かせるとは。さすが彼だ。


 その場が何とか収まり、王への献上品目録と献上品を渡して王宮を辞する筈だった。

 しかし、もちろんそんな事は許されず…目録の内容と品を確認するために、と数日は王宮に留め置かれる事になった。ここまではまぁ想定内だ。

 さらに、王と王妃が()()()話を聞きたいと言い出して、こほん、言われて…こうして夕食を食べている。



 私は密かにため息を吐く。何故こうなった…。




 こんな状況で供される食事は、豪華であっても味なんてあまり分からない。いや違うか、分かるが()()()()()()()()()()

 彼の作る絶妙な味に慣れてしまったからなのか。彼のレシピで作られる味に慣れてしまったからか、豪華なのにどれも味気なく感じる。

 それはシスティアもバージニアも同じなのか、複雑な顔をしていた。


 卵はよく言えばアッサリ、悪く言えば足が薄い。あの濃厚な魔鳥の卵を食べ慣れていると…余りにもアッサリとしていてコクが感じられない。

 参ったな…胃袋まで彼にガッチリと掴まれてるなんて。


 ふと彼の面影を思い出そうとして…上手くいかなかった。焦るような気持ちのまま、それらを押し込めて食事を続ける。

 何故だか彼に会いたいと思った。切実に。





*読んでくださる皆さんにお願いです*


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