表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

305/428

閑話 エリアストレーザ・イグニシア

 私は大陸一古い王国であったイグニシア王国の、第一王子として産まれた。

 そう知ったのはかなり後のこと。

 物心ついた頃には乳母と、そして一緒に育った乳母の子供であるキリウスと共に生活をしていた。

 身の回りの世話はその2人でしていたと思う。僕の記憶には僅かに母の面影があるだけだ。

 優しくされたことも、抱きしめられた記憶もない。


 キリウスの母親である乳母のマルサバスは、私に対して使用人としての距離を貫いた。だから私は孤独であったが、孤独であることを認識すらしていなかった。

 そして、私は父の顔も長いこと見たことが無かった。

 王宮の片隅、北の端に近い離宮に住んでいたから。自分が王子であると知ったのも5才になってからだ。


 イグニシアの王族、男子にのみ訪れる変化。最初は5才だ。魂に刻まれた記憶が、その封印が一部開放される。

 そこで初めて、自分が古い国の…第一王子だと知った。

 そんなことすら知らなかったのだ。


 確かに着ている服は華美では無いが、質の良いものだった。食事も豪華ではないが、必要な量は足りていた。

 教師などは付いていなかったが、勉強に必要な本(貴重だと後で知った)も与えられた。

 そんな風に過ごしていたある日、突然激しい頭痛がした。数日寝込んで、起きた時には記憶の封印が解けたことが分かった。


 この国の始まり、初代の王イグニシア。イグニシアの母である創世の神イグニス様のこと。

 国の起こりと鎮魂の森、そしてそこにある我が国の生命樹。


 そして、この国の中における自分の立ち位置も。

 この国は第一王子が国を継ぐ。それは3000年の歴史の中で、脈々と受け継がれてきた伝統だ。

 なのに私は第一王子なのに、王宮の中枢にすら入ったことがない。もちろん、現王の顔すら知らない。


 そしてその理由も知った。知ってしまった。


 現王、イグニシア97世。王には正妃と第二、第三妃がいる。

 この国の王は正妃をまず迎える。そして半年経っても子の実が成らなければ、第二妃を迎える。そしてまた半年経っても2人の妃と子の実が成らなければ、第三妃を迎える。

 そしてまた半年、誰との間にも子の実を成さなければ…妾を持つ。

 この国はそれ程までに王子を切望する。


 そして、現王は第三妃まで娶っても誰も子の実が成されなかった。そして第一妃のそばで世話をしていた貴族である私の母を見初め、妾とした。

 すると母との間にはすぐに子の実が成り、私が産まれた。そして私は…男児だった。

 国としては待望の、しかし王からすれば妃では無い妾の子。それでも、王族の男子は貴重な存在だ。


 そんな複雑な背景から私を守るため、そして妃を刺激しない為に…私は王宮から離れた棟続きだが、本来なら上級使用人の住む宮で密やかに生かされた。

 私が5才を迎え、記憶の封印が解かれると正式に王族の一員として国に認められた。

 それを機に家庭教師が派遣された。私のそば付きとして正式に雇用されたキリウスにも、訓練という名の試練が待っていた。

 2人共に外界から隔離されて育った為、それが試練でも訓練でもなく…ただのイジメだとは知らなかった。

 だから愚直に与えられたことをこなして行ったのだ。


 そうして5年が経ち、私は10才になった。そこで王族の記憶の封印がまた解放された。

 鎮魂の森に関する、国の成り立ちとより深い話。私は森に迎えられ、立ち入りが許された。

 そこは日々追われる勉強と訓練という名の過酷な毎日を忘れさせてくれた。


 しかし、私の本当の試練はここからだった。

 初めて王宮に呼ばれ、父と謁見した。その隣には3人の妃たち。その目は私を射殺そうとしているような、苛烈なものだった。

 特に正妃の目。怖かったことを覚えている。

 なぜなら正妃は漸く子の実が成ったから。実に結婚11年目の事だ。もしその子が男児なら、私は邪魔なのであろう。

 その日から派遣される家庭教師が変わった。

 その男は私に王族として必要な知識だと称して、私の体を触り無理やり繋がった。その時の男の目は今でも忘れられない。暗く愉悦に浸るその顔を。

 嫌がる私の服を無理矢理脱がし、ことに及ぶ。それが何を意味する行為なのかすら、知らない頃だ。


 だから私は人に服を脱がされることが怖い。今でも、キリウスですらダメなのだ。

 なのに、何故アイルなら大丈夫なんだろう。彼が私の服を脱がそうとした時、あの呪いを見せてと言われたあの時。一瞬、条件反射でビクッとした。

 でも不思議と嫌な感じはしなかった。なんとなく彼なら大丈夫。そう思えたから。だから体を力を抜いて任せた。傷ましそうに私の体を見て…目に涙を溜めていた。君は何故、知り合ったばかりの他人のために涙を…?

 単純に分からなかった。私の周りにはそんな人は居なかったから。


 私の周りには、一部を除いて自分の欲望に忠実なだけの者ばかりだったから。

 彼は醜い私の体を見ても、蔑んだりしなかった。よく耐えたね…と、誇りに思ってと言ってくれた。

 嬉しかった。私の生き方は、間違ってなかった。私は、生きることを認めてもらえた。

 生まれながら当たり前に切望し、叶えられなかった望みは…諦めた後にこんなにも簡単に手に入った。


 だから私は、すでに愛する人がいる彼に…体を委ねたいと思った。

 唇を噛まれて痛いだけのキスは恐怖でしかなかった。

 体を繋げる行為は虐げられる為の手段でしかなかった。

 家庭教師の男性による虐待と、15才になって王位継承権が認められた日以降に、第一妃の夜の相手をさせられた事で、私の体は正常な反応が出来なくなっていた。


 さらに私の食事にはいつからか、密かに毒が盛られていた。それに気が付いたのは体に蠢くような紫のアザを見つけたから。

 そしてちょうどその頃、食事が質素になった。不思議に思っているとある時、キリウスが届けられた食事ではなく私が好む、手作りの食事を私には出していることを知った。

 毒入りの食事は自分が食べて。私はキリウスに詰め寄った。私は大丈夫だからやめろと。しかしからキリウスはあなたは正式な国の跡取りである第一王子。その人を守るのが自分の役目だと。

 相手にこちらが気が付いていることを悟られないためにも、必要なのですと言われてしまった。

 それが国を出た後に、解呪されるなど誰が思っただろうか。


 キリウスはその愛想の良さと過酷な訓練を切り抜けた事による強者の風格で、王宮でも一目置かれる騎士のなっていた。だから様々な情報を集め、やがてこの国が壊れることを知って出奔することを決めた。

 私は迷った。ヨナバルのことが気になったからだ。

 ヨナバルは第一妃の息子でわたしとは10才歳が離れている。

 だからなのか、素直に私に甘えるヨナが可愛かった。例えあの女の子供であっても。


 家庭教師に暴行される私を見て笑っていたあの女。自分の寝室に私を連れ込んで太ももや腕の内側に爪でキズを付けた女。嫌がる私の体に乗っかり無理矢理体を繋げた女。全てが嫌で堪らない。なのに、ヨナはとてもいい子だった。

 そして私は決心する。ヨナを連れて出奔することを。密かに私を慕ってくれる僅かな民と一緒に。


 私は離宮にいたから、いなくなった事に気が付いた頃にはもう国は崩壊を始めていただろう。

 あの女は異国の男に夢中でヨナを放置していたから。ヨナも連れて共に逃げた。



 私はあの女や家庭教師の男に翻弄され、だから男としての正常な反応が薄かった。人と触れ合うことは恐怖でしかない。

 なのに、私は産まれて初めて人に触れたいと自ら触れたいとそう思った。触れられたいと思った。

 あの唇にキスをしたら、あの細い体を抱きしめたら、違う自分になれるような気がしたから。

 そして、アイルはその私の想いに応えてくれた。

 柔らかくて温かな唇はそっと触れるだけで離れて行く。もっと、もっと君の柔らかな唇を感じさせて。

 人の唇がこんなに柔らかいなんて知らなかった。何度も求める私にアイルは困惑しながらも応えてくれた。

 どこまでも私の為の優しいキス。湧き上がるような歓喜が私の体に正常な反応をもたらす。


 そしてついに私は彼をこの腕に抱いた。なんて柔らかくて温かいのだろう。細い体はなめらかで柔らかくて、その手つきは優しくて。

 あぁこんなにも気持ちが昂るんだ。私はこの日初めて、本当の営みを知った。

 また何度も求めて、困惑させてしまったけど。

 醜い私の体を見ても、そこにキスをしてきれいだよ…そう言ってくれたアイル。


 ねぇ、僕が君を愛するのは仕方ないと思うんだ。だって君はこんなにも温かい。責任を感じて僕の想いを叶えてくれるくらいに。

 そして決して嫌々じゃなく、僕を大切な人として扱ってくれる。アイル、僕は君を愛しているよ。


 後で知ったアイルの歳が僕の国ではまだ未成年と知って驚いた。顔立ちは幼いけど、やってることがね?

 だから僕は決めた。一生、アイルを愛し続けると。長く過酷な冬を乗り切るイズワットの民は、1人の人に深く長く愛を注ぐ。

 アイル、ぼくの愛も…深いからね。だから諦めないよ。君がイーリスと結ばれていても。

 ロルフが君を愛していても、僕は僕の愛し方で君を一生愛し抜くから。


 幻獣のユニコーン、ユニミという変わった名前を付けたアイル。ニミは僕を見守る為に、アイルと契約をした。

 アイルを利用したんだ。

 それが分かってもアイルは僕を嫌いになったりしなかった。

 僕の国の民たちを守る為に、生活の糧を与えてくれた。住まいに食事。

 町の名前だって僕たちの国を連想させる名前を付けてくれた。


 イズワットの白


 という名前の町。新しい鉱物、そして今は亡き故郷の伝統楽器と織物。

 僕は君に与えられてばかりだ。だからせめて、君のために祈らせて。

 神様たちすら籠絡してしまうその純粋で真っ直ぐな君を、そばで守らせて。


 僕が民のことを気にしてると知って、一緒に魔力を供給することは断られた。だからせめて君をここで見守っているよ。君の家族であるイーリスと一緒に、ロルフと共に君の帰りを待とう。

 祈りは空高くやがて天にも届くだろう。

 イグニシアの最古の祈り、その祈りを僕は捧げる。


 どうかここに戻って来て


 また笑って


 君を笑顔を見せて


 またキスをして体を重ねて


 君のそばで


 君だけを見て


 だからどうか諦めないで


 愛おしい人


 どうか


 どうか



 真摯な祈りの声は神界にまで届き、まるで泡のように溶けていった。




エリアス視点でした…

途中から僕に変わるのは敢えて、です


次から第5章です!

引き続きよろしくお願いします



※読んでくださる皆さんにお願い※


面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価ををよろしくお願いします♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ