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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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298.閣下との話

後一話で第4章が終わります…

 はぁ、盛大なため息をバージニアが吐く。

「だから嫌だったんだよ…」

「今更だろう?彼に関わった以上は」

 そう言うシスティアもふっと息を吐いた。


 ここは王宮の控えの間だ。すぐに帰れるとはもちろん、思っていなかった。しかし、まさか…。

 ダナンは自分もふぅと息を吐いた。



「会いたいものだのぉ…」

 


 閣下の一言が王にどう響いたのか。


「災害は誠に不運であった。余はこの国の現状をしかと見届けねばならぬ」

 嫌な予感がした。でも、まさか…な。

「新年の祝賀が終われば、しばらくはゆるりと出来るであろう。各地を視察せねばならないな」

 イリリウム閣下がニヤリと笑う。

「ちょうど我ら第一師団が()()()()訓練で、北部に向かう予定であったのです。新しい諸々の道具にも慣れるための。護衛を兼ねてお供仕しましょう」

「良いな、我の視察に魔術師団の同行を命ずる」

「はっ」


 閣下に腰に後ろ手を当て、腰を折る。

「ダナン、そしてシスティア…歓待を期待する」

「「はっ!」」

 それ以外に答えようが無いのだ。

 それらの打ち合わせの為と留め置かれ、今日は王宮に泊まることとなった。

 はぁ、なんでこんなことに。



 思い出してまた息を吐く。

 バージニアが

「あー、だから嫌だったんだよ…。あんな貴重なもんをたくさん送りつけやがって」

「ジニーはまだマシだ。私など未来の子供のために、と涎掛けまで蜘蛛シルクだぞ?なんならオムツもだ…」

「そ、それは…また」

「我が家もだ。アイリーンの為にとな。これでもかと蜘蛛シルクだ。ふわふわした枕などはブラン様の羽毛が入ってるだとさ」

 本当に彼は、何と言えば良いのか。それがすべて善意なのだから。



 ダーナムやサリナス、ロルフからの知らせでは新しい町の中にも楽園が出来たとか。もちろん、精霊たちの楽園だ。そして、そこにも白蜘蛛や虹蝶が住み着いたらしい。

 しかも、だ。魔鳥の卵すら彼にかかればだ。まさか魔鳥を飼育して卵を採るなど思いもつかない。それをまたやってのけるのが彼だ。

 順調に増えた魔鳥は卵を産む個体がすでに5体いる。

 魔鳥の卵を使った卵サンド(彼がレシピ登録した)は濃厚な味とボリュームで、大人気だ。

 それが宿に併設された持ち帰り専門の店で買える。有り得ない。


 冬の楽しみに良かったら、と贈られたのは…楽器。嫌な予感がする。案の定、神楽器だった。何やってるんだよ!

 見た途端に全員が突っ込んだ。



(創世の神が吹いたとされる楽器 特級遺物)



 その鑑定内容を見て、倒れなかった私を褒めて欲しい。それくらいの驚きだった。もう驚かないぞ?そう思った自分を猛省した。




 ―今、自分たちは北に向かっています。詳しくは言えないけど。新しい町で登録した物があるので、贈ります。

 そうそう、ラルフ様が魔術師団に助けられたとロルフから聞きました。なので、お礼?を兼ねて…試作した物を贈ります。

 それは毛織物のエンブレムです。下地は蜘蛛シルク、その上に羊毛を敷き詰めて、蜘蛛の糸に虹蝶の羽を埋め込むように刺繍しました。国の紋章に、数字、それは師団の数字。

 で、数字の周りにある模様は自分の故郷の古語で「(イチ)」です。国の紋章に組み込んだデザインにしました。イリィはいないので、自分で考えて。自分の案なので地味になったけど、色々と機能を付けたのでお礼に渡して下さい。

 聞いたのは第一師団と第三師団。でも第二もあるだろうし、その上にもどなたかいるかな、と。―




 そう()の手紙に書いてあった。


 もうどう突っ込んでいいのやら、だ。

 まずだ、薄いその毛織物の紋章。見るからに高級だ。虹蝶の羽…この国の誰もが見たことすら無いくらいの珍品なのだ。それをエンブレムに埋め込むとか。

 それを、だ。第一、第二、第三とそれぞれ5個、そして更に格が違う逸品。そこには全ての数字が刺繍されていた。

 まさにイリリウム閣下に相応しいエンブレムだ。


 普通、ここまでしたら国王のためにエンブレムを作る。しかし、彼に取っては関わりのない国王よりも関わりのある他人なのだ。

 これは、しかし託された以上は致し方ない。


「そのエンブレムが?俺ももらったぞ?探索者ギルドの剣と盾の紋章だ。そこに、ZGMって文字か…なんか、故郷のカッコイイ文字らしい。それをよ、贈ってきた。ゼクスのギルドマスターって意味らしいぞ?なんで糸が虹色に輝いてるんだよ…」

 バージニアが頭をくしゃりとする。



 分かるさ、我々も貰ったからな。

「サファイアは?」

「んあ?」

「サファイアは縫い付けて無かったか?」

「…マジかよ?ダナン様たちのは、サファイアが?」

 頷く。侯爵家の紋章の中央に燦然と輝いているのだ。サファイアが。



(大変透明度の高いサファイア 国宝級だよ!)



 …鑑定がおかしいか?



(彼のスキルに感化されて…自我が芽生えたよ!)



 何をどう突っ込んでいいのやら。頭を抱えたのは我々もだ。

 もっともシスティアよりはマシか。あちらは孫が聖獣様のお子様と兄弟だ。全く末恐ろしい。



 部屋の扉が叩かれる。バージニアが扉を開ける。そして扉を開いて人を招き入れた。

 入って来たのはイリリウム閣下とその後ろには魔術師団のローブをつけたダウルグスト殿であろうしっかりとした体躯の男性、そして同じく魔術師団のローブをつけたハウラル殿であろう若い男性だ。


 立ち上がって軽く頭を下げる。

 閣下はひらひらと手を振ると

「良い。無礼講だ」

「「「はっ」」」

 奥のソファに3人が並んで座り、手前側に私を真ん中に左にシスティアが右にバージニアが座る。

 閣下と共に入って来た従者の少年が、部屋の端に供えられた茶器で紅茶を淹れて配るのを、沈黙したままみんな見つめていた。


「さて、まずは先ほどを言ったが…我が師団が世話になったな」

 私に向かって言われた言葉だ。

「わざわざ王都から来て貰ったのです。物資の提供は出来ませんから、せめて過ごしやすくなればと思ったまでです」

「ふっはっはっ。愉快よのぉ。戻った第一師団の隊長であるこちらのダウルグストがな、派遣の連絡の第一声に言ったのは予算を付けろだったわい。くっくっく…」

 呆れたような顔で閣下を見ていた男性が

「お初にお目にかかる。魔術師団の第一隊長を務めるダウルグストと申す。以外、お見知り置きを」


「私がダナン・アフロシアだ。我が息子フェリクスがダウルグスト殿に、災害派遣の際には大変世話になったと言っていた。改めて礼を申す」

「与えられた仕事をしたまでだ。こちらこそ、貴重な技術を惜しみなく与えて貰った。感謝する」

「ふっそれぐらいにしておけ。しかしダナン殿。我ら魔術師団は、野営のあり方を変えるあれらを…とても評価しておる。それを我ら師団に優先的に販売をして貰った事は大変重い。我らは今後も、貴殿らの領地に何かあれば、最優先で駆けつけよう」

 私は驚いた。それ程まで、なのか。そう言えばイズが


「これはもう野営ではなく野外宿泊だ…」


 そう遠い目をして言っていたか。

 私には分からないが、ありがたい事だ。

「覚えておきましょう、閣下」

「うむ。何やらこの者たちに用が?言伝を聞いてな、我も同行したのだ。ふっはっはっ」

 確かにダウルグスト殿とハウラル殿に面会を願い出た。まさか閣下までしゃしゃり出て、おほんっ、出てくるとは思わなかったが。

 

 システィアが私に頷く。

「私はシスティア・カルヴァンと申す。お初にお目にかかるな、魔術師団の方々。ダウルグスト殿とハウラル殿には我が息子が世話になった。礼を申す」

 第三師団の若い男性が口を開く。

「お初にお目にかかる。第三師団上級研究員のハウラルと申す。以外お見知り置きを。時にラルフリート殿は息災であろうか?」

「其方が。息子は私と入れ替わりに領地で災害の後処理をしているよ。何か、変わったようだ。新しい出会いは…息子を変えた。良い変化だ」

「ならば良かった。優秀なご子息が2人、安泰であるな」

 閣下が後を継いで、この件は終わりだ。


 その目線は用向きを、と訴える。

「我が息子の、詳しくは言えないが…大切な者からお2人に荷が届いた。それを渡す為に。納めてもらえるか?こちらだ」

 システィアが胸元からそれを取り出す。それを向いの3人はガン見した。

 だよな?どこから出したんだって思うよな。

 システィアは澄ました顔でダウルグスト殿とハウラル殿、そして閣下の前に包みを置く。それは白くてキラキラと輝く袋に入っていた。



 ゴクリッ



 誰かの喉がなる。もしかすると3人ともか。

「これは、我に…か?」

 閣下が訝しげにシスティアに聞く。

「はい。ラルフを助けた師団に、お礼として渡して欲しいと。そして、偉い方がいると思うので…その方にもと預かっています」

 閣下は驚いて、その袋を手に取る。

「なんと柔らかでなめらかな…」

 気が付いただろう。それが蜘蛛シルクであると。


 閣下は徐に袋を開けて、中からエンブレムを取り出す。

「これは…」

 固まった。やはり彼は…歴戦の勇者であり、この国の魔術師の頂点に君臨するお方すら、翻弄してしまう。

 閣下の手はそのエンブレムをそっとなぞる。すると、水色にふわんと光った。

 システィアを見ると、もう色々と諦めた顔だ。彼の事だ。



 ―魔力が馴染むように…触れたら所有者登録をします。無くしても、手元に戻るように―



 とか言いそうだ。

 両隣のダウルグスト殿とハウラル殿も閣下の手元を凝視している。彼らも袋からエンブレムを取り出す。そして表面をなぞると…やはり水色に光った。

「「…!」」

 なんとなく色々と入ってそうだ。だいたい、あんなに薄い物になんでテントとか毛布とか食料が入るんだ!

 私たちのものと違い、サファイアではなく水晶が付けてある。

 そしてそこには彼の魔力が。対になるように、エンブレムから垂れ下がる細い鎖の先にも水晶。


 あれか、鎖を外して誰かに渡しておけば

 ()()()()()()で居場所が分かるのか?


「良き物…であるな」

 閣下をしても、その言葉しか出て来なかったか。

 エンブレムを魔術師団のローブの胸元付近に持っていくと

「これはこのように付け…」



 ギュン



 ローブにしっかりと貼りついた。すでに元からそこにあったかの如く、しっくりとしている。

 閣下はまた言葉を失い、しばしエンブレムを見ていた。



「ふはっはっはっ、ぐわっはっはっ…何とまぁ。ひぃ、まさか我が、顔を知らぬ者に泣かされるとは」

 閣下の目には涙が光っていた。

「これで、隊員の安全は向上する…」

 しかし、全員分は無いが?

「例え1人でも、このエンブレムを付けておれば充分じゃな」

 閣下は共に戦い、散った戦友を思い出しているのだろうか。遠くを見つめるその目は、潤んでいた。



 そしてソファからサッと立ち上がると、胸に手を当てて軽く頭を下げた。両隣の2人も追随する。頭を上げた閣下は

「彼の者を、彼の者の願いを…全力で支持致す。魔術師団総長の名にかけて…」



 あぁ、やっぱり彼はとんでもない。そして、それがまた心地良いのだ。

 そしてあれ、と思う。そう言えば彼の名前は…?





※読んでくださる皆さんにお願い※


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