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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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297.謁見と報告

「説明を…」

 厳かに王が告げた。



 私とシスティアは顔を見合わせると、打ち合わせの通りにまずは私から話を始めた。

「ダイヤモンドの話の前に、伝えなければならない事がございます。我が国に聖獣様が現れました」



 その一言で…部屋の中が騒めく。それもそのはずだ、もう数100年もこの国で聖獣の報告はなされていない。

 一同は入り口から見て右側の壁面に飾られているその絵を見た。

 そこには初代のバナパルト国王とその隣には白銀の凛々しい狼が並んでいる。狼の体高は王の腰ほどまであり、胸元の逆三角形の銀色が眩い。圧倒的な強者の風格を備えている。


 そして、国王の肩には白く大きな鷹が留まっている。やはりその胸元は銀色に輝く逆三角形の毛。まん丸な青い目と鋭い嘴、凛とした姿は神々しい。

 聖獣として有名な白銀狼と白大鷹の姿だ。


「どこにお見えになったのだ?」

 国王のこの言葉は場所を指しているが、なんと答えるべきか…。しばし考えたのち

「我が侯爵家の領都、ゼクスにございます」

 また騒めく。

「我ら魔術師団が訪れた時に、その報告は無かったがいかに?」

 魔術師団の総長であるイリリウム閣下だ。

「その時点では、ゼクスを離れてございました」

「なんと…」


 沈黙が落ちる。

「経緯を説明せよ」

 宰相が促したので、私は簡潔に話を始めた。

 ゼクスに来たばかりの初級探索者が()()()()聖獣の白銀狼を助け、そして聖獣の契約者となった事。

 そしてその探索者がまた、()()()()獣に襲われていた白大鷹を助けた事。

 そしてその聖獣もその者と契約した事。

 その白銀狼が死の沼を含む死の森の一部を占領した事。そして、その占領した土地でダイヤモンドが見つかった事。


 また沈黙が落ちる。

「して、その聖獣様は何処へ?」

「北を目指したと聞いております」

「何故に引き留めなかった」

「権利は誰のものだ?」

「その探索者を連れて来い!」

「聖獣様をお連れするべきだった」


 などなど。

 勝手な事を。聖獣様が人ごときを相手にするわけがないのに。


「何故、ここに連れて来ない?」

 ふぅ、この国では長いこと聖獣様が現れていない。だからか、その在り方を知らないのか…?

「恐れながら、聖獣様に取っては()()()()()…配慮するに足りないのです。あの方に取って最大の興味は、契約者である探索者のみ。それ以外のものなど、それこそ眼中に有りません」

「ならばその探索者を連れて参れ!」

「そうだ、そうすれば聖獣様も一緒に」


 私とシスティアは盛大なため息をついた。

「本人の意に反して、そのような事をすれば…この国は翌日には無くなっておりますよ。それをお望みか?」

「そんな訳あるまい。所詮は1()2()ではあるまいか!」

 私はその発言をした国務大臣を睨む。

()などと!聖獣様を蔑むか?」

 その圧に、流石に言葉が不適切と思ったのか

「い、いや…その」

 国王も鋭い眼差しで見つめる。

「失言にございますれば…」

 ふんっ、ハク様の迫力を知らない輩が!


「聖獣様からすれば、人の作った国などどうでも良いのです。あの方の心は、契約者にのみ向いております。彼の者を嫌な気持ちにさせた…それだけで聖獣様は単身、我が屋敷に乗り込んで来られた。その圧は凄まじかった…」

「その契約者は圧倒的な善人です。それは我が国にとって救いであります」

 システィアも言葉を重ねる。


「彼はゼクスを、我が領土を…第二の故郷だと言ってくれました。彼との友好は、聖獣様を宥める為にも、そしてダイヤモンドの権利を手にする為にも…必須です」

「彼はダイヤモンドの権利すら要らないと、そう申しました。そのダイヤモンドを鑑定した我が息子のロルフリートに、全てを委ねると。そう申しております。ロルフリートによれば、そのダイヤモンドは過去に類を見ない高品質だと…」


 王はダイヤモンドと一緒に提出された鑑定書を見る。

「これはまた…」

 王は横に控えた宰相に渡す。

「これは…」

 それは驚くだろう。余りにも今までの物とは格が違う。

 王様に続き、宰相も…そして鑑定書を見た大臣たちも唸った。

「これほどまでとは…」


「し、しかし…貴族に恩を売る方が得だと考えたのではないか?下賤の者の考えそうな事だ」

 発言した農産大臣に、私とシスティア、そして背後からも圧力がかかる。

「下賤とは…聖獣の契約者殿を指した言葉か?」

 一際大きな声は私、ではなく、システィア、でもなく、バージニアでも無かった。

 魔術師団総長閣下だ。

 さすがに農産大臣も武が悪いと思ったのか口籠る。


「先日の災害派遣の際、我が魔術師団は部隊を派遣した。どこぞの大臣のように、視察にすら行かない間抜け

 とちがってな?」

「ぐぬっ…」

 北部の都市は収穫期だ。この災害で被害が出た。それを現地で確認すらせずに、農産大臣のくせにどの口が言うのか。


「その際に、ゼクスの発展を間近に見たと報告があった。しかも、派遣した部隊にまで差し入れを貰ったと。この場を借りて例を申す。そして、部隊の士気を挙げただけに留まらず、今後の隊の在り方すら変えた。その技術を惜しみなく提供して、な。ロルフリート殿の鉱物の発見…関わっておるのではないかな?彼の契約者殿と、聖獣様と」


「ご慧眼でございますれば、閣下。まさにその通りにございます」

「頭の硬い連中は目先の利益と、自分に置き換えた考えしか出来ぬ。どこぞの大臣は自分なら権利は決して渡さないのであろう。どちらの考えが下賤であるのか」

 魔術師団は、ゼクスの発展を間近に見て、感じた。その違いもあるだろうな。それ以上に、人としての格の違いを見せつけた。


「農産大臣の今後は、考えねばなるまいな。国の発展よりも個人を優先する輩は、国には不要だ」

 王の発言に、文句の一つも言おうとしていた農産大臣は真っ青になった。色々な噂のあった御仁だ。いわば出来レースだろう。体よく使われたか。


「聖獣様と、その契約者殿の望みは如何に?」

 やはり王は聡い方だ。ダイヤモンドの権利を放棄してまで欲しいものがあると見抜いたのだから。


 システィアが発言する。

「彼の者の希望はただ一つ、平穏に暮らしたい。目立ちたくない…それだけにございます」

 場が騒めいた。それもそうだろう。ダイヤモンドの権利と平穏な生活は余りにも釣り合わない。一見すると、だが。

「また、難しい要望であるな…」

 王が呟く。

 分かっているのであろう。ゼクスの発展と彼の存在の関連を。彼は()()()()()()()利益を生める。そういう存在だ。

 それこそ目先のダイヤモンドよりも遥かに価値がある。そう、彼にこそ最も価値があるのだから。

 流石に閣下もそれに気がついた。

「それはまた…」



 彼の価値に気がつかない輩は

「ダイヤモンドの方がそんな奴より価値がある」

「儲け物だな」

「頭が弱いのであろう」

 などなど。

「頭が弱いのはお主らだ」

 閣下の言葉に内政大臣が声を上げる。代替わりしたばかりのまだ若い御仁だ。

「何故です?ダイヤモンドであるぞ!只人の代わりになどなるはずもない!」


「ダイヤモンドは永久に湧いてくるのか?技術は後世に残る。聖獣様がおわすこの国の価値も、だ。物は無くなれば終わりだ。しかも彼には聖獣様が2体、寄り添っておられる。その価値を如何に見る?」

「っ…」


 ダイヤモンドの話で忘れていたのか?彼は聖獣様の契約者だ。しかも生命樹に宿る精霊王の愛し子であり、高位精霊の祝福まである。

 そばには伝説の黒曜犬がいて、聖獣様との間にお子までいるのだ。この大陸で無敵の存在だ。

 それらは敢えて言わないと決めてはいるが。


 さらに幻獣と契約したと言う。幻のユニコーンだ。もう伝説どころか御伽話の中にしか登場しない。それが見ただけではなく、あちらから乞われて契約したとか。

 もう、とんでもない戦力を有していて、彼自身も手厚い防御が人に施せる、解毒も、呪いの解呪すら出来る、それほどに有能なのだ。


「会うことは叶うか?」

 私はシスティアとバージニアとそれぞれ目で会話する。

「難しいかと…」

「不敬だ!」

「王に会わないなどど!」

 また有象無象が騒ぐ。 


「何度言えば分かるのだ、貴公らは。彼はこの国にいる()()()()()()。聖獣様がいれば、どこででも暮らせる。違うか?この国に恩恵をもたらす必要は、何も無いのだ」

 システィアが口を開く。

「彼はダイヤモンドの権利すら1人で独占できた。でも、敢えてそれを我が息子に伝え…託したのだ。その意味も分からぬとはな…おめでたい物だ」

 辛辣な言葉だが、的を得ている。


「アイツは…ゼクスだけでなく、フィフスの発展の要だ、です。我らの衣装をご覧になりましたかな?この生地は彼が「すごく手触りのいい生地なので、良かったら…」と、両侯爵家とそのほかの知り合いにくれた物です。そしてこれは白蜘蛛の糸から織られた布でした」

「…なんと?」

「まさか…」

「白蜘蛛とは聖虫の?」

 騒然とした。いわゆる蜘蛛シルクだ。その価値はダイヤモンドと比較すら出来ないほどに貴重なのだ。


 ここ王の間では魔法の使用が禁止されている。使おうとしても、普通は使えない。そう言う防御が施されているのだ。


 王はイリリウム閣下に頷く。

 閣下ほどの魔法の使い手であれば、無理矢理にでも使えるのであろう。

 我らの服を鑑定している。

「ほぅ…これはまた。真であるな。しかも大変質の良い布に織られておる」

 蜘蛛シルクはその繊細な細さで扱いが難しい。そもそも、染めることすら困難なのだ。

 それをアイルは



「似合いそうな色に染めました」



 と何でも無いことのように手紙に書いてきた。その場で固まったのは正常な反応だと思う。


「それが彼の聖獣様の契約者殿が?」

「その通りにございます」

「太っ腹であるな…」


 何と答えればいい。バージニアを見る。頷くと

「彼の者にはその価値など眼中に有りません。きっと、たくさん貰ったから、そんな理由でしょう」

 その言葉に王も、イリリウム閣下ですら固まった。

「何と、申した?」

「たくさん貰ったから、そんな理由で我らにくれたのだと思います」


 騒めいた。それはそうだろう。

 王宮の宝物庫、そこにある蜘蛛シルクは手拭き程度の大きさだと聞いた。それ程までに貴重なのだ。

 なのに

「温室にたくさん()()()()()…たくさん貰って。これでも下着とか普段着に使ったんだけど…減らなくて。溜まる一方だから…」

 とのたまわったらしい。ロルフはアイルだから、と笑ったそうだ。



「ほっほっほ…これはまた愉快だな」

 閣下が実に愉快そうに笑った。その顔を見て、大臣たちが驚いている。それはもう、理解できる。

 鋼鉄の魔術師と呼ばれる程のお方だ。それは魔法の威力のことでもあり、その人となりのことでもある。

 とにかく、揺らがないお方だ。

 その方を笑わすとは、さすがアイルだ。


「会いたいのぉ…」

 閣下が呟いたその言葉は、王の間に静かに響いた。




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