295.審判の日 神界にて
閑話含めて300話です…祝
物語はもっと長いんですよね…汗
今日はいよいよ10月10日。神界では審判の日と呼ばれる。この日は神々にとっての審判が下るのだ。
神だって万能じゃ無い。下心もあれば、妬みもある。神たちは総じて優秀な者が多く、その階級は上級神と下級神にハッキリと分かれる。
上級神は祝福や加護などを多岐に渡る権限を有している。限定はされるが、下界への干渉も出来る。
下級神は祝福は出来るが、それだけ。神託も出来ないし、下界への干渉も出来ない。
上級神のいわばお手伝いのような存在だ。
アリステラはイグニスのお手伝いだったが、イグニスが眠りについたことで、その権限の一部を行使出来る立場になった。
本来はそれだけしか出来ない筈が、どう取り入ったのか…本来は持たない権限を行使し、あちらの世界から人を呼んでいた。
薄々気が付いてはいたが、管轄が違う為にこちらも直接的には手を出せなかった。
そして、この度…イグニスが目覚めたことで諸々の問題が表面化したのだ。
創世の神を差し置いて、あたかも自ら世界を創ったように思わせていたアリステラ。
今日はそのアリステラが弾劾される、誰もがそう思っていた。
イグニスはヒュランの中から出て神界へとやって来た。
アイルたちは眠り、そして仮初の器も消えて。エリアスに留守番をして貰いやって来た。
そう、アリステラを訴える為に。
我々神々の頂点に君臨するアウグステスタ様へ。
審判の間に神たち一同が集まる。少し前の私のように、事情があって眠りについたもの以外の神は一堂に会している。
もちろん、シシラルやグライオール、ルートヴィーもいる。
そして…アリステラも。
私を見て驚いていた。それはそうだろう。上手く言いくるめて眠らせたのだから。しかし、流石に今回は私を目覚めさせるつもりだったのでは無いのか…?
その驚き方が尋常じゃない。嫌な予感がした。
カーン…
審判の間、その上から雲に乗って神が降りて来た。最上級神のアウグステスタ様だ。
一斉に頭を垂れ、跪く。その余りの神々しさに、眩く光っていて…ご尊顔がなかなか見えない。
演出などではなく、それだけ雲の上の方なのだ。
ようやく光が収まり、そのお顔が見えた。何年経っても、変わらずに大変美しいお姿だ。
『皆の者、息災かの?』
一斉に
『是』
と応える。
『良き…この度、審問を執り行う。イグニス、創世の神イグニス…前へ』
『はっ』
御前に進み出て、胸に手を当てる。
『良き、顔を上げよ!』
『はっ』
『しばらくぶりじゃな…自ら眠っておったか?』
『否…謀られましてございます』
『真か…どいつにじゃ?』
『下級神のアリステラにございます』
『ふむ…生命樹がの』
『その通りにございます』
『下級神アリステラ、前へ』
『はっ』
アリステラが前へ進み出る。
『真か?』
『それは…その』
『…余は真かと聞いておる』
『否』
『…イグニスが嘘を?』
『…』
『アリステラを捕らえよ!』
バシュ
何か音が聞こえたその直後、カッと身体が熱くなった…何だこれは…?
腹に手をやると、真っ赤だった。何だ、これは…。血、なのか?
神の体は剣で斬ることは出来ないし、魔法ももちろん効かない。ならばこれは…何が?急速に意識が遠のいていく。イニィ…どうかあの子たちを…。
『控えよ!』
ザシュ
また腹に熱が…何かが、体が冷たくなっていく。
『ぐっ、くっくっくっ…これで思い通りにはならない。ふはっはっはっ…』
けたたましく笑うアリステラの手には何やら見たことの無い物が握られており、その筒の先は我を向いていた。
すかさずアウグステスタ様の眷属がアリステラの手を切り落とす。
『ふははははっ…』
そこには手を切り落とされても、壊れたように笑うアリステラの姿があった…。
ドタッ
神界は騒然としていた。
審判の日に、神が傷付けられた。長く眠っていたイグニスだ。そこで下級神が審問を受け、黒と判断された。
黒と判断されると、神界より地獄へと落とされて、未来永劫…輪廻の和から外れて苦しみ続ける。
黒と判断された者が、囚われる前に凶行に及んだ。見たこともない物で、神が撃たれたのだ。
本来は、神界の神たちを傷付けることは出来ない。その体は精神体であって受肉していないから。
唯一、闇の武器は聖なるものを斬ることが出来る。しかし、今回のは闇の武器では無かった。
神を傷付けられる武器は他にもなくは無い。
異界の武器
この世界の理りから外れいるもの、それは神といえども例外なく傷付けられる。
『イグニス!』
『イグニ!』
『イグ!』
その傷は神でさえ治せないのだ。その腹からは止めどなく血が流れる。癒しの神であるシングリータが癒しの光を当てる。血は止まったが、傷が塞がらない。
どうしたら…異国の武器なら、彼は…彼ならば治せるのか?
シシラルはそう考えた。しかし、彼は魂を返している。戻ったのか?戻ったとしてもアイルでなければ、助けられない。
考えても妙案が浮かばない。そもそも、若木とアイルたちを繋いでいるのはイグニスだ。
万が一、イグニスが消えたら…?
シシラルはゾッとした。最悪だ…アイルは体にその魂が戻れず、助けたかった生命樹に宿る命も…消えてしまう。それでは何のためにイグニスが目覚めたのか分からないでは無いか!
何か、何か方法は?
シシラル同様、グライオールもルートヴィーも必死に考えた。そして、ある結論に達する。
とにかく、下界に降りよう。
すぐさまアウグステスタ様に申し出る。
『我らの至高神、アウグステスタ様にお願いがございます!』
跪いて請う。
『戦神シシラルよ、申せ』
『はっ。我らが同胞のイグニスを助けたく、下界に降りる許可をっ』
『大地神グライオール、シシラルに続きたく存じます』
『豊穣神ルートヴィー、同じく』
『…許す。アリステラの事は、余の過ちでもある…努めよ!我の加護を託す。必ずやイグニスを!』
『はっ、一つお願いがございます』
『申せ』
『あちらの世界に魂が帰った転移者のアイル…かの者の魂がこの世界に辿り着いたなら、その体に!イグニスの連携が途絶えたとしても、どうか…』
『保証は出来ぬ…あちらの世界との制約がある故な。だが、力の限り尽くそう』
『充分にございます』
『行けっイグニスを頼むぞ』
『『はっ』』
こうして我々はヒュランのいる鎮魂の森、アイルたちの眠るその森に降りた。
その頃、イグ・ブランカで…
審判の日から5日経った。まだあちらからは連絡が無い。
エリが、ニミを通してあの日のことを教えてくれた。ハク、ブランそしてロルフがアイと魔力を供給する為に眠りについたこと。
イグニス様の仮初の体は消えて、ヒュランと同居していること。イグニス様は神界に行った事、などだ。
アイは氷の棺で眠っていると言う。なんだか不安だ。帰ってくるよね?アイ…。僕はここにいるよ、だから僕を見つけて。
その時、僕は楽園で寝転んだニミにもたれて座っていた。
『!』
突然、ニミが体を起こす。
『何、これは一体…。イグニス!』
僕は訳が分からないうちにニミに咥えられて転移した。
えっ、と思ったらもう鎮魂の森だ。そこに氷の棺がある。そして、あれ…この風景は…アイの箱庭?何でここに…?
僕とニミに気が付いたエリとナビィが寄ってくる。ナビィは飛びかかって来て上から唇をペロペロ舐める。
待ってナビィ…うわぁ。
…顔中が。もう、アイがいないから洗浄出来ないんだよ!
「イーリス、何かおかしい…」
エリアスが不安げに言う。えっ、何かって?
「ヒュランが落ち着かない。声も聞こえなくて…」
「ニミが急に慌てて転移したんだけど」
僕にも良く分からない。何故か心臓がバクバクする。
ニミが棺の中のアイを見つめる。
『マズイわ…』
えっ…何が?駆け寄ってアイを見る。血の気のないその顔はまるで人形のようで、大好きな顔で、でも。表情のないその顔を見てて切なくなった。
『繋がりが…』
パキンッ
何の音…?今のは、一体…アイ。その冷たい手を触る。
何故かとても嫌な予感がした。アイ、戻ってくるよね?イグニス様だって、アーシャ様だって大丈夫って言ったよね…。
『アーシャ…何が、何が起きてるの?』
ニミがアーシャ様に詰め寄る。
『イグニス様が…繋がりが、生命樹とアイルの…繋がりが…』
混乱したアーシャ様も言葉にならない。
アイ、戻って来て!アイ…アイ!!
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