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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
30/331

30.イリィの作業

 ベットから逃げ出すと床に毛布を出してそこに横たわる。あぁ開放感〜体がバキバキだよ。大きく伸びをしてハクに抱きつく。首元に顔を埋めてスーハースーハー。耳の後ろをモフって背中を撫でてお尻を揉んでしっぽを撫でる。

 癒されるぅ。ハク大好きだよ…もっと早く救出して欲しかったけどね。毛布を開いてハクを中に入れる。私の精神安定のために抱き枕になってね、昨日助けてくれなかったんだから…

 うわぁもふもふだぁ。

 眠りに入って行く時に、イーリスにとって私は温かい抱き枕だったのかな…なんて思いながら。





 うーん、久しぶりに良く寝たな。最近は寝つきも悪くて起きても体が怠かったのに…昨日は温かくて…ん?温かい?目を開けると見覚えのない部屋だった?

 あ、あの僕の作品を買ってくれた子の部屋だ。一緒に寝たハズだけど横にはいない。体を起こすとベットのすぐ近くの床に毛布の塊がある。僅かに銀色の髪の毛が出ている。なんで床?


 ベットで寝るのを躊躇っていたから手を引いて一緒にベットへ入ったのは覚えている。なんか腕の中が温かかったような…あれ?抱きついてた?


 ベットから降りて毛布の近くに膝をつく。毛布からはみ出ている銀色にそっと触れる。柔らかくて少しひんやりしていた。すると毛布からこちらもはみ出しているしっぽが揺れて毛布がめくれて顔が見える。

 犬はまだ目を閉じている彼の口元を舐めている。不思議な子だな。珍しい色意外は印象が薄いはずなのに何故か惹きつけられる。僕を見て顔より名前に興味を持った人は初めてだし。

 目を瞑ったまま淡く微笑んだ彼は犬のクビに顔を埋めてしまった。そらそろ起きて欲しい。だから彼の肩をそっと揺する。




 うん…まだ眠い。また肩を揺すられる…目を開けるとハクの白い毛が目の前にある。もふもふ…

「ねぇ起きて」

 ん?顔を声の方に向けると、そこに美形がいた…顔が近い。朝から心臓に悪いわ。過ぎたるは及ばざるが如し。格言だね。ボッーとそんなことを考えていると眠いの?とさらに顔が近づいてくる。近い近い。美形から離れようとハクの方に後ずさると顔を舐められた。

 起きて…美形が首を傾げて言う。2人で過ごした夜の後みたいな台詞やめて?いや、まぁ2人で過ごしたけどさ。なんなら同じベットで手も繋いで寝たけどさ?

 ゆっくり体を起こすと、イーリスは少し恥ずかしそうにモジモジする。昨日は温かくて良く眠れたと…上目遣いで。朝から美形の上目遣いとかもう、なんか…ご馳走様です?それ以上に疲れたけど。


「あのな、イーリスは自分の顔が、その特別だって自覚あるだろ?」

 溢れそうな大きな目でこちらをじっと見つめる。

「もっと用心しろよ?無防備過ぎる」

 目をパチパチさせて首を傾げる。

「お、俺がその…そういうヤツだったら無事じゃないんだぞ」


『アルが俺って…ぷくくっ似合わないねー』

 ハクがからかう。

『分かってるわ!今は話の流れで仕方ないだろ。男っぽく言う場面なんだから』キリッ

 念話でハクと会話する。


「そういうヤツって?」

 さらに首をかしげる。

「でも僕は君なら別に構わないよ?」

 いや、構えよ!

「君なら優しくしてくれるでしょ?」

 もちろんそうだ…いや、だからそういう事じゃない!


 ふぅと息を吐き出す。大丈夫、君は僕を傷つけたりしないよ。イーリスはそう静かに笑う。

 ダメだ、頭を抱える。

「僕ね、そういうスキルがある。悪意のある人はオレンジに見える。君は青」

 青ってどうなんだ?

「青はね、無関心」

 ほぉ、合ってるな。うんうん頷く。だから大丈夫、そう笑った。

「急に興味を持つかも知れないだろ?」

 そんなの見てたら分かるよ、だって。まぁイーリスがいいならいいのか。 


 扉が軽く叩かれると飯持ってきたぞ、と声がかかる。立ち上がり扉を開けて2人分の朝食を受け取る。振り返るといつの間にかイーリスはフードをかぶっていた。素早い。

「アイルには無理を言ったからな、昼飯作ってやるから後で声かけろ」

 そう言って扉が閉まった。


 温かいうちに食べようとなって2人で黙々と食べる。私は床に座って。椅子は一つしかないしね。

 食べ終わるとイーリスが

「名前、アイル君て言うんだね、改めてよろしく。あ、僕のことはイリィって呼んで?」

 おぅ、まさかの愛称呼びか…もう面倒だしいいか。

「あぁ、よろしくイリィ。俺のことは呼び捨てでいい」

「分かった。じぁあアイって呼ぶよ」


 森人にとって愛称で呼び合うことが特別な意味を持っているとアイルが知るのはまだ先の話。


「そうそうイリィ、今後、店はどうするんだ?」

「うん、まずは手に取りやすい物を作る、かな」

「こだわりはあるか?」

「ないよ。僕はああいう食器しか思い浮かばないだけで」

 なるほど。作る方のこだわりはあっても作る物の種類はこだわらないと…ならやっぱりあれかね。


「金属の加工なら出来るのか?」

 頷くのでイリィの方を見て左の髪を耳にかける。イリィが驚いて、そして素早く近づいて来る。肩に手を置くとマジマジとピアスを見つめる。そして耳に触ったので、その手を軽く払う。

「あぁ、ごめん」

「ピアスしてたんだね。革のも石のも素敵だ」

「金具も金属だしシンプルな石を使ったの、作れないか?後は、ネックレスとかブレスレット。解毒剤入れられる容器になるような…」


 イリィは驚いた後、考え込む。しばらくして

「いいね。早速試作品を作るよ!」

 言うが早いか、荷物に向かっていって何やら取り出すと作業を始めた。紙に何かを書いてい。

 横から除くとデッサンだ。顔と耳を描いてその隣にピアスのデザインをサラサラと。

 今私がしている不正系な三角に、ポストピアス。上手だなぁ。

 眺めていると顔を上げてこちらを見る。

 そして素早く近づいてきてまた耳に触ろうとする。

 避けようとしたら肩を掴まれてそっと耳たぶを触られる。

 ゾクっとするので辞めて欲しい。


「この石は?」

 ポストピアスは水色の石が嵌っている。12月の誕生石のターコイズだ。

 極々小さい石で、親友の律が誕生日にくれたものだ。

「ターコイズ…特別な石だよ」

「石を嵌めるのがいいな」

 はい、そこで考えるの止めて。顔近いし息が耳にかかってくすぐったい。

「ちょっと離れて」

 困ったようん言うとあぁ、ごめんと手を放してくれた。


 この美形はちょっと距離感おかしいんですが?

 少し先から目を細めてこちらを見る。

 そしてまた手を伸ばしてくる。避けようとすると触れる直前で手が止まって戻ってゆく。

「何だろうね?アイには不思議と触れたくなる」

 そう言うとほんのりと微笑んだ。


 話題を変えるためにポーチから水晶と紫水晶を取り出して渡す。こちらはほんの欠片程度だから問題ないだろう。


 渡された石を見て、透明感が凄いね…呟いて色々な角度から石を見る。

「これ使っていいの?いくらで売ってくれるの?」

「クズ石だからお金は要らない」

「それはダメだよ」

「使わないし、本当に」

 顎に手を当てて伏目で考えている。


「なら有り難く使わせて貰うよ」と笑って受け取ってくれた。

「この部屋で作業してもいい?」

「んー音が出るなら市場がいいんじゃないか?」

 首を振る。これを作ってるのは秘密にしたいからと。

 あ、ならあそこがいいか。ハクを見る。

『仕方ない』

『ありがとう』

「音が出せて人が来ない場所なら知ってる。イリィが嫌じゃなければだけど…」

 瞬きしてこちらを見る。

「アイが勧めてくれるならそこでいいよ」

「本当にいいのか?」

 淡く微笑む。


 待ち合わせの時間にはまだ早いが、あっちで合流してもいいか…。

「道具を持って移動するぞ」

 そうして2人とハクで階段を下りていく。スーザンは厨房から出て来ると、包んだ物を渡してくれる。

「そつちのとガキ達の分もある」

 ?何でレオたちと合うこと知ってるんだ?

「明日はアイルと森に行くと張り切っていたからな」

 やっぱり心読めますね?

「読めない」

 …お礼を言って受け取る。横でイリィも軽く頭を下げていた。行ってきますと声をかけて外に出る。向かう先はもちろん、貧民街。

「ちょっと色々あれだけど、作業にはお勧めだから」





 アイが店のこれからについて話をした時に耳を見せてくれた。こういえば彼の耳は普段、髪の毛で隠れている。その小ぶりで形のいい耳にはピアスがあった。

 不思議な形の吊り下げるやつと普通に刺さってるやつ。吊り下げるやつは綺麗な色で多分、革だ。染色してある。刺さってるやつは見たことがない色の石か。気になって近づいて耳に触れる。すぐに手を払われたから触れたのは一瞬だったけど。


 革の方は表と裏で色が違う。犬の目の色と、アイの目の色。おしゃれだなぁ。後こっちの薄い青?は何だろ?聞くと特別な石だと言う。

 困ったように離れてと言われるので仕方なく少しだけ離れる。何でかな、アイの側は居心地がいい。離れてまた耳を見るとまた自然と手が伸びてしまう。あ、また困らせた。触れる寸前で手を引く。

「アイには不思議と触れたくなるんだよね」

 困惑しているな…迫られることはあっだけど、自分からこんなに近寄ろうと思ったのは初めてだ。


 その後、宿を出て歩いている。作業するのに宿では難しかったからだ。ドンドン寂れて行って、でもアイは迷いなく歩いていて…この子がお勧めと言うなら大丈夫なんだろう。大人しく着いていくと、ほぼ突き当たりの壁が崩れた建物の扉を叩く。

 中から現れたのは小さな子供で、貧民街の子だとは思えないくらい小綺麗だった。驚いていたが、嬉しそうにアイの手を引くと部屋の中に入っていく。僕の手は振り払うのに…その子の手は拒まないんだ?


 後をついて行って驚いた。少し先にあった扉の先…そこは清潔な部屋だったから。え?外から見たら廃墟なのに?ここだけ別の空間だ。

 驚いている僕を見て、部屋の中にいたもう1人の子が自慢気に兄ちゃんが直してくれたんだと言う。

 アイを見ると照れくさそうにしている。僕と態度が違うよね?


「ここはこの子達の家で俺が少し手を加えたんだ」

 子供達が案内してくれる。手前は居間、後は台所と寝室があって奥にはシャワーとトイレまである。蛇口をひねれば透明な水。凄いな…少し手を加えた、なのか?

「兄ちゃん、少しどころかほぼ全部だろ?床も壁も天井も扉やシャワー、トイレも。全部兄ちゃんがここであっという間に作ったんだ」

「兄ちゃんは凄いんだぞ!」

 アイは恥ずかしそうに俯いている。




 イリィが優しい顔でこちらを見る。何だろうその暖かい眼差しは。

「ここなら確かに音が出ても大丈夫だな。どこで作業したら?」

 部屋の中は良くないか…居間の奥に新しく作業部屋を作ればいいかな。一度部屋を出る。元の建物はかなり大きいからまだ広げられる。居間に戻って壁に手を当てる。この当たりだな。出入り口となる部分の壁に開口を作る。奥に転がっている木屑と金物を払って扉をつけ、移動。そして奥に一部屋作った。明かり取り用の窓と、作業用の机に椅子。


 やっぱりこっちにもトイレはいるだろう。あとは、ティーテーブルかな?作業台とは別に必要だよね?

 手元にはライトも必要だろう、細かい作業だから。

 周りを見回してガラスの破片があったからこれで簡易ランプを作ろう。中には火魔法の灯だけを閉じ込める。これで手元も明るいし。

 うんうん、なかなかいい仕事をしたな私。

 やりきって満足していると後ろから凄えぇ。と声が聞こえた。

 振り返るとキラキラした目で見ているレオ、ルドとその横で唖然としているイリィがいた。あれ?なんか調子に乗ってやっちゃった??

 でももう今更だよね、ここに案内した時点で。うん、気にしない気にしない。


 イリィが走ってきて肩を掴む。

「アイ、これ凄い!えっ?何が起きたの…一瞬で部屋が出来てパーと壁が出来てドンっ机が出来て…何したの?」

 思いっきり覗き込んでくる。美形からのけ反りながら

「作ったんだよ、廃品で」

「作ったって…簡単に言うけど、凄いや!スキル?」

「そういうジョブなんだよ」

「アイ、君…自覚ないの?どれだけ凄いことだと思ってるの?家でもなんでも君一人で建てられるんだよ?」


 まぁそれを期待して選んだジョブだからね。予想以上に規格外だったけど。

「これなら集中できるだろ?念のためハクを置いていくから」

 なんで?という顔で見る。まさか聖獣だとは言えない。今はもふもふなただの犬だ。

「吠えたら誰かが気がつくだろ?」

 と言うと、まぁそんなもんかという顔で頷いた。


 そして私の手を握ると「これで素敵な作品を作れるよ!」

 そしておもむろに抱き着いてきた。

 固まる私。それを見てレオとルドまで抱き着いてきた。だから、やめてほんと…。

 イリィは体を離しして私の耳を見てなぜかうっとりしている。

「ここに僕の作品が…」

 何かぶつぶつ言ってるけど聞こえない。


 ようやく皆が私から離れてくれた。ふぅ、やっぱりまだ人肌はダメだ。

 ハクを見つけて駆けより抱き着く。もふもふスーハースーハー。なでなでチュッチュ。腕に抱きあげて首に顔を埋める。

 あーもふりんだ…私のもふりん…癒される。美形とか美形とかいらないからもふもふが欲しい。

 やっと落ち着いて立ち上がる。


 レオとルド、やめなさいよ。可哀そうな人を見る目は。イリィもその温かい目をやめて!誰のせいだと思ってるんだ。

 イリィは作業を始めるために荷物を取り出した。

 私たちは少し早いけど出発することにする。やっと自分のための薬草採取に行ける!

 ワクワクしながらレオ、ルドと連れ立って行こうとして思い出した。


 イリィに台所とトイレの使い方を教えるのとスーザンに貰ったお昼ごはんの包みを渡さないと。

 作業に入ろうとしていたイリィに声を掛ける。

 台所に案内してコンロの使い方を伝えると珍しそうに見ながら頷いている。

 続いて作業部屋のトイレの使い方。流すときはレバーを引くんだよというと驚いていた。

 そして最後にスーザンお手製のお昼ごはん。

 嬉しそうにその包みをティーテーブルに置いた。


 さて、今度こそ出発だ!

 レオとルドもわくわくが止まらないという顔をしている。


 

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