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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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293.そして審判の日

誤字報告ありがとうございます…

沢山ありますね 汗

『さてと、これからの手順じゃな』

 イグニス様が教えてくれる。


 まず、ポーチから若木を取り出す。そして、若木を鎮魂の森の生命樹のそばに植える。まずは生命樹から養分を若木に渡す。

 それでひとまず繋ぎ止められるらしい。

 その後は私が魔力を注ぐ。注ぐのは土だ。その際に、私は自分の魔力を注ぎ続けるために、イグニス様が若木と私の魔力を紐付けをする。

 魔力も体力も使うから、そのまま眠りにつくらしい。眠りながら魔力を供給するんだね。


 若木が根付いたら、私と若木を切り離して…若木はまた白の森に返す。繋がりがたたれたら、私は目覚める。ただ、もしかしたら私だけは年単位で眠るかも知れない。そう言われた。

 私が魔力を供給する時、ハクとブランは私と魔力を繋げる。だから一緒に眠る。


 若木が根付いて切り離された瞬間に、私の魂を飛ばしてあちらの世界に戻る。戻っても体が無いから、死亡認定されて、体のあるこちらにまた戻るって事らしい。魂と体は繋がってるから、間違いなく体に戻ると。

 ただ、あちらに帰った時点で私はアイリになっている。それからまたここに戻っても、アイルとしての時間が記憶として残るのかが微妙らしい。

 もっともイグニスさまもアーシャ様もニミや神様たちも記憶は無くならないって言ってた。覚えているかは分からないけど。


 要するに深層に記憶が入ってしまうと覚えてないとなるみたいだ。難しくて良く分からない。


 で、若木を出す前にロリィとエリにもイリィほどの厚みじゃ無いけど本を渡す。

「後で読んで」

「「…」」

 ロリィが私を見て

「僕も、一緒に」

 私は驚いて

「ダメだよ!ラルフ様がいるのに…それにロリィは貴族だ」

「お母様に言ってある。思う通りに生きなさい、そう言われた…譲らない、よ」

『我も了承した。何、この世界の人間ならすぐに目覚める。心配無い』

 いつの間にイグニス様にまで話を通したんだろう。


「アイリーンは?」

「後でニミに…。それまではエリが」

 エリは頷く。

「分かったよ…ロリィも一緒に。だから、それは目が覚めてから読んで」

「分かった」

 まさかロリィが、アイリーンよりも私を選ぶとは思わなかったけど…その気持ちは嬉しいよ。

 ロリィは胸のポーチを外すとエリにアイリーンとリツを託した。私はアイリーンとリツを何度も撫で、キスをした。


 こうして私、ハク、ブラン、ロリィが一緒に魔力を供給する事になった。

『私はアイリの道標だから、ここで待つよ!』

 ナビィ、そうだね。アイリもアイルも知ってるナビィ、心強いよ。

 郷からまた来てくれたティダも

『我もな、我が子が帰るのを待とう』

 私はしっかりと頷く。ブランは必ず帰すから。


「僕は、僕はここで待つよ…アイルとハク様の子供も、アイルとロルフの子供も僕が、僕が…」

 唇を噛んで、エリが言う。

「うん、頼むよ。大切な子たちなんだ」

 エリは目に涙を溜めて、でもしっかりと頷いてくれた。



『始めるぞ!』

 イグニス様が言う。いよいよだ。



 私はポーチから若木を取り出す。カラカラに干からびてしまったそれを。

 イグニス様は傷ましそうに若木を見るとそっと持って、生命樹のそばに行く。ヒュランと共に魔力を注いで、若木は枯れているけど土の中に凛と立った。魔力で緑に光っている。

 心なしか水分を含んだように見える。

『生命樹と魔力を繋げた。我のこの体も共に眠る…しばらくはヒュランに同居しておるぞ!では、アイルよ…こちらに』



 私がハク、ブラン、ロリィと生命樹のそばによる。そして、イグニス様の手が私の手を掴む。

『アイルに触れておれ…』

 みんなが私にくっついて、そしてイグニス様の魔力が体を包み込む。若木も生命樹も、私たちも。

 圧倒的で力強い、でもとても優しい魔力で。



 こうして私は若木に魔力を供給する為に、そしてこの世界に根付く為に…深い、いつ目覚めるか分からない眠りについた。





 力強くそこにあった生命樹は、その葉を散らし…幹も枯れた。生命樹としての役割が終わった、それが分かった。僕はがイグニシアの末裔だからか、分からないけど。もう命を生み出すことはない。

 こうして、僕の生まれた国は生命樹が枯れたことで。完全に無くなった。



 なのに、僕が考えるのは無くなった国ではなく、若木の、みすぼらしく枯れていたあの若木、そのそばで氷の棺に眠るアイルたちの事だ。

 棺は余りにもって思ったけど、イグニスさま曰く、眠るのに丁度いいらしい。

 横たわるアイルのその手は、大事そうにロルフの手を握り、もう片方の手はハク様とブラン様を抱いている。まるで絵のような…とてもきれいな姿。


 でも、僕は…笑ったり泣いたり、そんなアイルがいいよ。その冷たい頬に手を当てる。

 血の気のないその顔は人形のようで、だからはやく目覚めて。僕に新しい人生をくれたアイル。

 何度もその頬を撫でる。


『うむ、四足歩行は不便じゃな』

 ヒュランに同居したイグニス様はそう言って人型になった。僕はとても驚いた。だって僕にそっくりだったから。

『似ておるだろう?これはイグニシアじゃ』

 双子みたいだ。

『ふふっ…しばらくはこの姿でおる』


 こうして、ここにはヒュランとイグニス様(同居中)の人型、そしてナビィとベビーズ、ティダがいる。

『アイル以外はすぐに目覚めるじゃろう…それまではここにおる。なんせな、アイルの箱庭があるしの』

 えっと、えっ…?本人が眠ってるのに?

『我は神ぞ?それくらい容易い』

 それは、確かに快適かも。

 でも、僕はアイルのそば(ここ)を離れたく無い。

『大丈夫じゃ、大盤振る舞いする』

 大盤振る舞い?


 と思ったら、箱庭と鎮魂の森が繋がった。うわ、凄い。たしかにこれなら、快適で、でもアイルのそばにいられる。

「イグニス様、ありがとうございます」

『ん、そのな…しばらくの間で良いから、我のことは母上と、呼んでもらえぬか?』

 恥ずかしそうにいうヒュラン、の中のイグニス様。

 双子みたいにそっくりだから、なんだか変な感じだ。でも、また呼べるんだ。それはすごく嬉しいから

「母上…」

 と呼べば、イグニス様は

『ふふっ良いな…』

 とふわりと笑った。


 さて、我は一旦神界に向かう。ヒュランとティダ、そこの犬はこちらにおるから大丈夫であろう。あちらはこちらと時間の流れが違うからの、少し遅くても気にするで無いぞ!


 そう告げるとヒュランの体から神界に行った。



 僕はハル、ナツ、リリ、リツと遊んでいた。遊ぶって言ってもただヨタヨタしてる子たちのそばで見てるだけ。ナビィは箱庭で走り回ってるし。

 背中をコロンコロンして。とても楽しそうだ。気にならない訳がないけど、ナビィはアイルも、アイリもどちらも知ってるから僕たちよりは不安が少ないのかも知れない。



 先ほどの事、神界に行く前。

 イグニス様が僕のそばに来て座る。

「その、みんなはいつ頃に?」

『そうじゃな…年が明ける前までには』

 今日が10日。20日かからずに目覚めるんだ。僕はそれまでに、王宮の離れにまた行こうとそう思った。

 ろくでもない時間だったけど、僕を構成するための時間でもあって。それが無ければ僕はアイルと出会えなかった。だから、あの時間も慈しみたい。

 そう思えたのは今が幸せだから。全てはアイルがくれたもの。




「笑ってくれたら、それでいい」




 アイルはそんなことしか望んでくれないから。それならば、望んでくれたことを精一杯に…。



 そうして、アイルの箱庭で、アイルの作ったご飯を食べて、アイルの作ったものに囲まれて。優しくて、とても長く感じる時間が過ぎて行った。

 その時間で、僕は過去に向き合って…その度に氷の棺で眠るアイルを想った。



 若木は本当に少しずつ、茶色から緑に変わり…やがて双葉が脇から出た。それからは早かった。枝が伸びて葉が茂り、50セル(cm)ほどだった高さが1メル(m)になり、枝が横に広がっていった。

 その幹はまだ細いけど、青々として力強く育っていた。 

『もうすぐ、だろうな…』

 ヒュランはその若木を見ながら言った。

 アイル、早く戻って来て…早く、会いたい。その温かな肌を…早く、早く。

 僕は若木の前で毎日、祈っていた。





 その少し前、イグ・ブランカでは…


 とうとうこの日が来てしまった。アイ…また、会えるよね。イグ・ブランカに戻った僕は楽園に行った。

 たくさんの光が迎えてくれる。


(帰って来た)

(アイルはまだだよ)

(アイルの匂い)

(アイルの魔力)

(大好きな魔力)


 精霊たちが騒めく。アイ、みんな待ってるよ。早く戻って来て…。ずっと待ってるから。


「イーリス」

 振り返るとお父様にお母様、シア兄様がいた。

「お帰り」

「…ただ今」

 お母様が抱きしめてくれる。

「いつの間にか、こんなに大きくなったのね…イーリス。あなたが、生きられて良かった。その事を私たちは忘れないわ…だから。一緒に待ちましょう」

「お、母さん…」

「森人の誇りにかけて…忘れないよ。私の魂に刻もう」


 それは森人の覚悟だ。当主である守り人は、次代に伝える為に、その魂に記憶を刻むことが出来る。

 ただし、たったの一つだけ。

 お父様はそれを、アイにしようと言っているのだ。

 アイが消えてしまえば、記憶からも消えてしまう。それをさせないための、それは覚悟だ。

 アイリとしてでも()()()()、僕たちの記憶は消えない。でも、もし戻れなかったら…記憶からも消えてしまうんだ。


 あんなに愛してことも、苦しかったことも…全部。

 それを、忘れさせないと言ってくれるお父様。

「お父さん…」

 抱きつけばしっかりと抱き止めてくれる。その力強い様は、やっぱりアイのお陰で…。だから

「ありがとう」


 みんなの想いがアイに届きますように…。僕は月の女神に、生まれて初めて神様に…祈った。




※読んでくださる皆さんにお願い※


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