291.箱庭の神様たち
目が覚めると淡い金髪。抱きしめられてるね…。その髪を梳く。サラサラとこぼれ落ちる髪が気持ち良い。
ほんの少し癖のある、柔らかいきれいな淡い金色。大好きな色…覚えていられるのだろうか。
決して忘れたく無いその色を心にしっかりと刻む。
その温もりも肌の柔らかさも、全て…記憶に留められますように。
願いを込めてそっとその髪にキスをする。
もし、私が忘れてしまっても…きっとまた好きになるよね。大好きだよ、イリィ。
後何回、こんな風に寄り添えるのだろう。清々しい朝、物思いに耽る。
イリィが顔を上げる。その目は涙を湛えていて。
「イリィ、どうしたの?」
慌てて聞けば
「アイ…必ずアイルで戻って」
目をパチパチさせる。そうか、そうだよな…不安なのはイリィだって同じだ。だから笑おう。大好きな人に、笑顔で待っててもらう為に。
「うん、そうだね…。イリィ、笑って?」
「アイ、もう…くすっ」
イリィだって分かってる。絶対なんて無いって。でも、笑ってくれた。その目に涙が溜まっていても、今にも泣き出しそうでも。
後7日。後たったの7日。イリィは一旦、ニミとイグ・ブランカに帰る。そして、審判の日の前日にここに来る。当日はここにいない。私が関連深いバナパルト王国で、イリィは私の帰りを待つ為に。
より深く関わった場所に、最愛の人がいた方が魂が回帰しやすい。そうニミやアーシャ様、イグニス様に言われたから。
その役目はイリィにしか出来ないから。
イリィは食事を食べずにニミと帰って行った。
私が作った日本食と、味噌やしょうゆをたくさん持って。ソマリにはレシピを。もし、私が帰れなくても…私が生きた証が残るように。
食材を渡したら、またイリィを泣かせてしまったけど。
『しばらくここで記憶の継承に努めるぞ!よって、我のお世話はアイルがするのじゃ』
え、嫌だよ…。思わず顔を顰めたのも仕方ないと思う。
『むっ、嫌なのか…?』
素直に頷く。
『イグニはわがままだからねー』
ルートヴィー様…人のこと言えます?
とにかく、神様たちは自由奔放なのだ。相手をするのは疲れる。なぜ神様たちは帰らず箱庭に全員いるんだか。
ロリィは研究、エリは勉強と言って逃げるしさ。大変なんだよ、神様の相手を1人でするのはさ、もう。
1日で7食くらい食べるんだから。ほぼ、何か料理を作ってるよ、私。作りたいものがあるのにさ。
だから、作り置きをたくさんしてね、勝手に食べてって渡したよ。
大事な時間なんだよ?もう。
で、自分の部屋に籠ってね、色々と作ったり書いたり。自分の時間を楽しんだよ。
そして、数日が経った。
今日は10月8日。審判の日、若木を根付かせる為に色々とする日まで2日となった。
イグニス様は記憶の継承を終えて、何やら考えていることが増えた。
他の神様たちもなぜか箱庭で色々とやってるみたいだ。神界と箱庭は繋がってるみたいで、ちょくちょく外に出てはまた戻ってくる。いや、何で?
神界の方たちだよね?
ヒュランも鎮魂の森に帰るでもなく、
『我はイグニスの守りだからな!』
とヒゲをそよがせながら、ご飯をバクバク食べていた。
そんなこんながありつつ、2日前だ。
その日はロリィとエリが私にベッタリだった。なんでも、明日はまたイリィが朝から来るから、私とゆっくり過ごせるのが今日だけらしい。私は除外してイリィとロリィとそしてエリで決めたとか。私は当事者だよね?決定権は無いんだね。
イリィはロリィを同志と認めて、諸々の関係を許容した。エリの事は、あくまでも助けた責任として…だったんだけど。いつの間にかエリも同志認定されたようで。
イリィ曰く、見守る人は多い方がいいとか。もちろん、これ以上は増やさないよって言われたけど。どう言う事かな?
「アイは無自覚に人をたらし込むからね。抑止力だよ」
…監視なの?憮然としたら
「ん、イルは無自覚にやらかすから…」
「気をつけないと…神様すら籠絡したし」
みんな酷くない?
なんて事があって、取り決め?でロリィとエリが今日は私と過ごすらしいよ。
だから2人には私が作ったあれこれをね、渡しておくよ。
まずはカバンだね。これはもう分かってると思うけど、私の故郷の味が詰まってるよ。たくさん食べて、時々思い出して欲しいから。例え、私が消えてその記憶すら無くなっても。
もちろん、薬も沢山あるから。
「ロリィ、この腰に付けるポーチはね…アイリーンに渡して欲しいものが詰めてあるよ!たがら、私がもし…」
「ダメ、だよ…。これはイルが持ってて」
私は首を振る。
「戻ってこれても、眠ってるかもしれない。だから…」
ロリィはその目に涙を溜めて
「なら、半分ずつ…」
ロリィ、分かったよ。私は頷いて、半分は自分のポーチに仕舞う。
「泣かないで、ロリィ…」
その目から流れ出した涙を拭う。
「一緒にアイリーンを、育てて…」
私は曖昧に笑う。
「努力するよ…」
次はやっぱりアクセサリー。
足の指に嵌めるものと、足首用のアンクレット、右手の小指用の指輪と左手の中指の指輪、ブレスレット。
チューカーも。
それ以外だと
「白蜘蛛の糸で織った布から作った服が入ってるよ。大きさは自動で調整するから。後は色々…」
たくさん入れたからね!自分でも忘れちゃったんだ。
シャンプーとかボディーソープはもちろん、入れてあるよ。他にはボディークリームとかハンドクリームとかも。小さな家も、ね。家具付きだよ。
そしたらロリィが私の耳にそっと触れて
「イル、これが欲しい」
これはピアスだよ。穴を開けないとだけど。ロリィの耳には穴が開いていない。
「ロリィ、これは穴を開けないとダメなんだよ」
「いいよ、開けて」
「同じデザインの?」
「違う、イルのしてるやつが欲しい」
これはイリィがくれたものだから。
「これは上げられない」
ロリィが悲しそうな顔をする。それなら、あれにしようか。
「ロリィ、私があちらの世界からしていたピアスなら?その代わり、片方だけ。もう片方は私の宝物だから…。それならお揃いだよ?」
「ありがとう、イル」
私はポーチから大切にしまってあったそれを取り出す。
先端を少し尖らせて
「少し痛いよ?」
ロリィが頷いたのを確認してその耳たぶに突き刺した。私に抱きついて痛みに耐えたロリィは留め具を留めた私を見て、優しく微笑んだ。
「ありがとう、お揃い?」
「お揃いだよ」
そんな私たちをエリが寂しそうに隣で見ている。
「エリ、あちらから持って来たピアスは他にもあるんだ」
そう、左耳には2つの穴が開けてあったから。でも、もう一つはロングピアスで。男になったから外したままにしてた。エリなら、似合うだろうから。ポーチからそれを取り出す。
「こっちでは付ける機会が無くて…どう?ロングピアスなんだ」
エリはその繊細なチェーンが揺れるピアスを見る。
「きれい…それを僕に?」
「良ければ、付けて欲しい。私が気に入って使ってたものだから…」
エリは涙目で頷く。エリの耳にはピアスホールが開いていた。そこにはかつて…エリを虐げた王妃が、自分のものだと誇示する為にピアスを付けていたらしい。
そこにはてめいいのかな?
エリは
「ここがいい…アイルの、アイルが…全て、嫌な記憶を幸せな記憶に上書きして…」
そういう考え方もあるんだな。分かったよ。
その左耳にフックを掛ける。取れないようにキャッチ付きだ。
その透明な肌に銀色の華奢なチェーンはとても良く似合った。
「きれいだよ…エリ。とても似合う」
エリはその透明な、避けるような目でふわりと笑った。その目には涙が光っていたけど。例え記憶が消えても、ここに私がいるから。
渡すものはこれくらいかなぁ。後は最後の最後に、でいいや。
その日はハク、ブラン、ナビィ、ハル、ナツ、リリ、ルイ、リツとたくさん触れ合って遊んだ。
ロリィもエリも笑顔で。
夜は手を繋いで寄り添いあって寝たよ。もちろんハクたちもね!
幸せな時間だった。私を忘れてもいいから、今この想いを、感じた想いを忘れないで。
こうして、審判の日の前日にニミとイリィがやって来た。
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