289.箱庭の語らい
神様回…終わらない
シシラル様に試食をしてもらったので、私も食べる。
うん、美味しい…あぁ故郷の味だ。
思わず色々なことを思い出す。
律と桜餅は関東風が良いとか関西風がいいとかで喧嘩したこととか。
いちご大福は白餡がいいか普通の餡がいいかでお兄ちゃんと喧嘩したこととか。
どちらも懐かしくてもう戻れない日常だ。最近はあちらのことを思い出すことが減っていた。こちらでの試練?に精一杯で、余裕が無かったんだ。
だからふいに思い出して、思い出してしまって…心構えが出来ずに気持ちが保てなかった。
気が付けばシシラル様の腕に再び抱えられ、その逞しい胸に顔をつけて泣いていた。大きな暖かい手が私の髪を撫でる。不器用な優しい手はそっとそっと。
私の顔を覗き込んで、顎に手を当てる。頬の涙を拭うとそっと温まるように瞼にキスをされた。
そして、私は涙を流しながらシシラル様と見つめ合った状態だった。
『まだかのー』
『匂いだけは辛いよ』
『早くぅ』
台所の扉が開いて、雪崩れ込んだ神様たち。そして、私たちを見て固まる。
『お、おじゃまだったかのぉ』
『甘味は…?』
『泣かせてるー』
反応は三者三様だった。
『いや、違う。う、違わないが違う』
慌てたシシラル様のがさらに混乱するようなことを言う。えっと…?
そこにイリィとロリィ、エリもやって来て私が泣いてるのを見てイリィが駆け寄ってくる。
「アイ、どうしたの?」
心配そうに私の頬を撫で、目元を拭う。
「うん、ちょっと…」
流石に故郷の味に感動して泣いたとか恥ずかしくて言えない。
俯いていると耳元で
「後で聞かせて…」
囁かれた。頷くとイリィはホッとため息を吐いた。
私はシシラル様に
「もう大丈夫なので…」
降ろして、と言おうとすると真顔で
『震えているではないか…あちらまで運ぼう』
スタスタと居間に向かうシシラル様。
盛り付けも終わってるし、後はお茶を入れるだけだから大丈夫かな。
どうやら私の知らない2人の神様がワゴンに甘味のお皿と急須に湯呑みを乗せて、持って来てくれた。
いや…なんで神様を使ってるのかな。
イリィ、は無理だな。
ロリィ、はもっと無理だな。
エリ、もさらに無理だな。
ベル…笑顔だけどやっぱり無理
ブラッド…食べ専ですね
うん、私が動けない時点で詰んでたよ。おもてなしのはずが…。
でも神様たちは嬉しそうにワゴンを押して、居間の机の上に甘味を載せる。
私はようやくシシラル様から降ろしてもらって、お茶を入れる。
そして配ると
「甘味は名前の通り、甘いので切り分けて…」
『バクッ』
『ハムッ』
『ムグッ』
『アムッ』
…神様ズは誰1人聞いてないな。みんな一口でいったよ。もぐもぐが終わるとお茶をがぶ飲みして
『美味いのぉ』
『美味いっ』
『美味しいぞ』
『美味しいー』
甘く無かったの?そして、熱く無かった…お茶。啜るものなんだけどね…。ゴクゴク一気に飲んでたよ。
イリィはフォークで切り分けて小さく一口。目を開いて赤く染まった頬に手を添えている。可愛い、どんな仕草も表情も…抜群に可愛い。大好き。
ロリィはナイフとフォークで切り分けてって、どこからか、マイナイフで上品に口元に運ぶ。目を瞑って口を動かす様はまるで豪邸の食事のようだ。可愛い。
エリはフォークで切り分けたそれを口元に運ぶ。白いまつ毛を伏せて一心にもぐもぐする姿はなんだかとても愛らしい。そして目を開いてふわりと微笑む。眼福。
ベルは目を輝かせて食べて頬に手を当て私を見て片目を瞑った。はい、ウインク頂きました。儚気美形のキラキラ笑顔、ご馳走様です。
ブラッドはあぐらで無双感出してるのに、パクリと食べて…ふわりと笑った。おうふ、いつも真顔ばかり見てるけどブラッドも鋭い目付きに引き締まった頬で、なかなかのイケメンだ。それが和菓子を食べて笑うとかね、ギャップ萌えですね。
いやぁ、美形たちの食べる風景は見てるだけで幸せになる。それが自分が作ったものなら尚更だよね。色々とご馳走様です。
お茶を啜る仕草すら上品なんて、反則だよ?もう。みんな可愛い、あ、ブラッドはカッコいいだな。
そこにハクとブラン、ナビィにベビーズとティダにニミそしてヒュランがやって来た。
もちろん、みんなのもあるよ。出してあげるとやっぱり一口でモゴモゴしてる。うん、可愛いね。ハクとナビィのしっぽが凄いことに。ベビーズも短いしっぽを振ってるね。リツはベビーズと共に食べてるから、私はロリィのポーチの中のアイリーンに魔力を渡す。
ブランとティダは羽をバサバサ首をぴこぴこ、これは嬉しいんだね。ニミのしっぽもばっさばっさと揺れてナビィの頭をふぁさふぁさしてる。
ヒュランのしっぽは先端だけが別の生き物みたいにくねくねしてて、飛びつきたくなる可愛いさ。口の周りをペロペロする仕草も前脚で顔を洗う仕草も可愛い。
神様ズは速攻で食べ終わってハクたちの甘味をガン見してる。取らないで下さいよ?これはハクたちのですから。ルートヴィー様、口から涎垂てます。
『…足りないのぉ』
『もっと欲しいな』
『うん、もっと食べたい…』
うーん、和菓子は材料があまりないからなぁ。それなら焼いてあるアレを出すか。
「違う甘味ならありますよ?」
『ナンジャと!』
『食べたいぞ』
『僕も食べたい』
『早く出して』
ぐりんとみんなに見られた。迫力がね?神様なんだからね、迫力が…怖い。
神様ズは食べ物いらないんだよね?珍しい娯楽だからかな。喜んでもらえるのは嬉しいけどね。
なぜかイリィたちも期待の目だ。食べたよね?和菓子2個。1個でも充分な量じゃないの?
まぁこれなら、そこそこ作り置きがあるから。
ドンッ
2種の甘味を追加。
1つは胡桃入りのパウンドケーキ
もう1つはクレープ
クレープは生クリームに果物をトッピングしてある。黒糖を使った甘めのものある。
飲み物は紅茶にしよう。各自のお皿に大めに取り分けて、残りは中央に2ヶ所だ。神様ズとイリィたち。残りはハクたちだよ。ヒュランのしっぽもゆらゆらしてるね。
さぁどうぞ。
…みんなお腹空いてたの?ハンバーグ食べてからそんなに時間経ってないよね?その後は和菓子食べて。
『美味いのぉ。まさか我が寝ている間にこんなに甘味が進化したとは…』
『イグニスよ、それは違うぞ。そこの小さき子の力だな』
『そうだよ、イグニス。彼にしか出来ない』
『美味しい…』
そこまで大袈裟ではないけどな。パウンドケーキやクレープは味噌や醤油と違ってこの世界の材料で作れるものだし。
『やはりお主にはなるべく早く戻って貰わねばな…』
『そうだな、供えて貰わねば…食べられん』
『そうだね、アイリとして戻ると僕たちのことも忘れそうだし』
『それは困る』
私だってアイルで戻りたいけど、それは賭けだって聞いたし。神様たちには色々な制約もあるから、考えて貰えるだけでも幸せかも。
そう考えていると
『案ずるな…この世界の不始末じゃ。多少のことなら問題あるまい』
『そうだな、小さき子よ。夕飯も期待しておる』
分かりましたよ。所で、そちらの神様たちは?
『おぉ、そうじゃったな。お主は寝ておったんじゃ。まずそちらの優男が大地神のグライオール。で、ちっこいのが豊穣神のルートヴィーじゃ』
『よろしくな』
『よろしくなの』
な、なるほど。イグニス様の雑な説明はよく分からないけど…多分、分かったよ。
で、その後は神様ズが聖獣ズと外を走り回ったり縁側で寛いでいた。
私はイリィたちと居間で寛ぎながら、私が寝ている間に起きた加護の話を聞いて真っ赤になったのだった。
寝ている間にキスとか、えぇ…。
確かにハクがより凛々しくなったし、目が紫に途中から変化していて、びっくりした。ナビィの目もね。
まさか、シシラル様の加護とは。
さらにティダがどうやらかなりの大物だったことも。種族長って…ね?もう考えちゃ負けな気がする。ここは流そう。
神様たちにキスされて髪の毛を撫でられたとかね、眠ってて良かったよ。起きてたら居た堪れないからね。
もっとも話を聞いてあまりの恥ずかしさにイリィの膝に甘えてよしよしされたんだけどね。
隣からロリィの手が伸びて来て髪の毛を撫でてくれる。エリは背中を撫でてくれる。
そしていつの間にか戻って来たナビィのお尻が私の腰あたりに触れていた。その背中を撫でる。柔らかなナビィの毛。癒されるなぁ。
その後はルートヴィー様が
『加護をあげるね』
と言って頬にキスをされた。エリの頬にもキスをして、イリィとロリィにはおでこにキスをしていた。
ベルにもおでこにキスとブラッドにはビンタだった。なんで?
『アイルはアイル自身がよりたくさんの奇跡を生み出せるように、イグニシアの末裔は治める場所の繁栄を、森人は守護する森の回復を、そして貴族の子はその守るべき民の安寧を。探索者にはゲキを』
と言ってにっこりと笑った。見た目はまだ幼い少女だけど、キスされた場所が暖かい。
やはり神様は凄いな。
そんなこんながありつつも、夕飯の準備をする。
このメンバーは私以外、誰も作れないからね。するとグライオール様が手伝うと言う。いや、神様に手伝わせるのは…と思ったら
『僕が見たいんだよ…特等席で』
ならば、と野菜を切るのをお願いした。
私は魚を捌いたり、お肉の下拵えをした。折角だから、ご馳走だよ。
お魚はお刺身の表面を炙ったものに蒸し魚と蒸し野菜。お肉は生姜焼きとステーキ、もちろん醤油味。
ご飯はきのこの炊き込みご飯にした。そしてお味噌汁。具は大根と芋。シンプルにね。
グライオール様には切ったり焼いたりの簡単な作業を手伝って貰った。申し出るだけあってなかなか手際がいい。
ステーキにお醤油を垂らした時のいい匂いにびっくりしてたよ。堪らないよね?
そして、密かに漬けてた大根のお漬物も披露したよ。醤油があるからたまり漬けだ。
日本食だよ!グライオール様には白ご飯とお漬物を少し味見して貰った。
『とんでもなく美味しいよ!』
良かった。
1人一膳で用意した。おかわりの分は中央にね。
「どうぞ、私の故郷の味です」
『美味そうじゃ』
『食べる前から美味いな』
いや、食べてから言ってくださいね。
『美味しいに決まってる』
『見た目から美味しいよ』
グライオール様は実食済みだもんね。
だから食べてから…あ、そんなにかき込んで食べたら喉が詰まりま、だから。あぁ、大丈夫ですか?はい、ゆっくり呼吸して、お茶飲みます?ん、良かった。
ゆっくり食べて下さいね。
『予想以上じゃ、美味いー。この茶色いのがなんとも味わい深い。あとはこの粒々じゃな。おかずに合うぞ』
『ヤバいな、止まらないぞ…美味い!表面がパリッとして香ばしくて。この茶色いのは確かに凄まじく美味い』
『これはまた絶品だね、美味しい…。どれも美味しいけど、このお肉。焼いてる時からこの匂いがね、堪らないよ』
『もぐもぐ、やめられないくらい美味しいぃ。ふわふわした魚なんて初めて。その汁物も優しくて美味しくて。このパリパリしたのも凄く美味しいよ』
良かった。神様のおもてなしは成功かな。凄い勢いでおかわりにと置いたお皿が減っていく。
イリィは
「アイの故郷の味…とても優しくて美味しいよ。どれも全部、アイの気持ちが籠ってて」
微笑んでくれた。イリィが笑ってくれるだけで嬉しいよ。あ、口元にご飯粒が付いてる。取ってあげるよ!うっ、照れたイリィが可愛すぎる…。
「イルの故郷はとても豊かなんだね、美味しい…」
そうだよ、穏やかで豊かで平和で。ロリィがふわんと微笑むのが嬉しい。上品なのに物凄い早く、しっかりとおかわりまで確保してるね、真顔なのに凄く喜んでるのが分かる。ふふっ可愛いぞ。
「奥深い味わい、とても美味しい」
エリは寒い所で育ったから、食の大切さを良く知ってるよね。その白い頬が色付いていてきれいだよ。
口元に醤油付いてる。拭ってあげるよ、おうふっ…色白の頬を染めて、ご馳走様です。
ベルはもくもくと食べ進んでる。色白の頬は色付いてもきゅもきゅしてると小動物みたいだ。可愛い。
ブラッドは背筋を伸ばして目を瞑って味わってるね。無双感がね、食事食べてるだけなのに無双感が半端ないよ?
ハクたち?それはもうね、ガツガツと。ヒュランなんてもうね、顔からお皿にダイブしてたよ。気に入ってくれたみたいで良かった。息できてる?あ、顔を上げた。良かった。
私の故郷の味だからね?
こうして夕食のおもてなしは無事に終わったのだった?
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