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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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288.豊穣の神様

 何やら扉が出現した。

 テントの中にロルフの家の扉が出て来たみたいな感じで。

 そして、意気揚々と入って行こうとしたイグニス様。そこに



『ねぇ、仲間はずれは酷いよぉ…』



 幼い声が空間に響いた。


『来たの』


『来たな』


『来たね』



 シュン



 トンっと軽い音がして、そちらを見ると…そこには小さな女の子がいた。見た目は10才くらいか?

 銀色の髪に金色の目。ってことはやっぱり神様だよね。赤いほっぺが可愛い女の子だ。


『呼んでくれたらいいのにぃ』


 ぷくっと頬を膨らませる。

 …神様の威厳はどこ?


『くくっ、どうせ自ら来るじゃろうとな』


『そうだな、呼ばずともな』


『そうそう』


『むぅ、それなら仕方ない。その子の亜空間に行くのでしょう?』

『そうじゃな』

『あちらの世界を摸した空間だから、行きたいの』

『あぁ、楽しみじゃな』

『また美味いもんが食えるのか?』

『僕は食べてないからさ、楽しみだよ』

『わ、私もー』

『ではみんなで行くか。我は少し寝過ぎてな…精神を回復せねば。記憶の継承もあるしのぉ。あの空間ならさぞかし快適じゃろうて』


『行くぞ?』

 イグニス様に声を掛けられた。これはもう選択肢はないよね?アイはまだシシラル様の腕に抱えられてるし。

 ロルフとエリアスを見れば頷いた。ベル兄様とブラッドは初だね?不思議そうな顔をしている。

 イグニス様は当たり前みたいに扉を開けて、するとそこはアイの亜空間だった。

 暗いのは夜だから?それとも、アイが眠っているから?


『寝ておるからか、暗いのぉ』

『起こすか』

 シシラル様は腕に抱えたアイにキスをして、するとアイの瞼が震えて目を開けた。何度か瞬きをして、目の前のシシラル様を見て自分の状況を確認して、またシシラル様を見て…頬を染めた。

『くっ、また何とも可愛らしい反応をするのだな』


「あの、私は…?」

『ちと大切な話があっての、眠ってもらったのじゃ』

 アイは驚いてから頷く。そして遠慮がちにシシラル様を見ると

「あの、もう大丈夫なので…降ろして」

『気にするな!』

 今、アイの言葉を遮った。とてもいい笑顔で笑うシシラル様。もしかして、アイのそばが心地よいから離したくないとか?

『柔らかくていい匂いがする。もう少しここにおればいい』

 アイは頬を染めたまま頷いて、力を抜いてシシラル様の逞しい胸に寄り添った。


 あ、シシラル様が震えながら上を向いた。もうアイってば…天然無自覚人たらしが昇格して天然無自覚神たらしになってるよ。

 だってイグニス様は優しく微笑んで、グレイオール様は頬を染めてため息を吐いたから。

 ちなみに少女な神様も目を輝かせて見ている。

 もう、アイってば。


 アイが目覚めたからか、箱庭は明るい日差しに照らされて…緑溢れる姿を見せた。

『なんとまぁ』

『これはまた…』

『凄いよ!』

『ん、気持ちいい』

 4神が感動している…その場面を見て、周りのみんなは感動していた。

 ヒュランもヒゲを揺らしながら

 『心地よい場所だな』


(アイってばやっぱり人ならない神たらし、だ)

(イル、だから…)

(アイル、さすがだな)

(僕のアルだから当然!)

(ご主人凄いー)

(私のアイリだからねー)

(ブランの契約者はまた凄いな)



 とそれぞれに思っていた。当のアイルはそれを全く理解せずに、恥ずかしそうにシシラル様の胸に体を預けていた。




 なんか、シシラル様から加護をもらう為にキスをされて…なのに眠くなって。どうやら眠らされていたみたい。

 起きたら逞しい腕に抱えられてるし、目の前には美丈夫なシシラル様のご尊顔があるし、で焦ったよ。

 だから降らしてもらおうとしたら即、拒否された。何でだろう。柔らかいって聞こえたような?

 まいっか、役得だし。そう思って逞しい胸に体をもたれかけた。なんだか凄く安心するな…まるで包まれてるみたいだ。


 そして、良く見たらここは箱庭?私の固有空間だよね。え、どうやってみんな入ったの?私は寝てたのに。

 不思議そうにしていると、イグニス様が

『おじゃましておる』

「その、どうやってここに?」

 と聞けば

『ふふっ、こちとら神だからな。これくらいは容易い』

 そうなんだ?凄いな…神様って。

 箱庭は爽やかな春の日差しで、明るかった。木々の緑は濃く、畑の野菜は瑞々しい。

 遠くには黄金色に輝く稲穂。そう、お米だ。


 季節はまぜこぜだけど、ここは私が好きに出来る理想の空間だ。

 ふふふっ、密かに探し当てた枝豆を大豆に育てて…苦労したなぁ。

 枝豆から芽を出すのは本当に試行錯誤の連続だった。そして、やっと…念願かなって大豆が出来た。

 そこからはとにかく数を増やすことに専念して、やっとだよ…ジョブで味噌と醤油を作り出せたのは。

 流石に、原材料が無ければ作れないからな。


 そろそろ、熟成しているはず。

 この二つの調味料があれば、料理の幅がとにかく広がる。ちょうど神様もいるし、おもてなしに使おう。

 そうと決まれば、まずはお茶とお茶菓子だね。

 イリィが買ってくれたお米に手を加えて餅米を作ってたんだ。

 春っぽい日差しだからね、アレがいい。まずは降ろしてもらって、台所に行かないと。


 だから降ろしてと言う為に私を抱えているシシラル様を見上げる。うわぁ、下から見る美丈夫もまた、感慨深い。

 まつ毛がバサバサだよ…凄いなぁ。見惚れていると

『どうした?』

 優しい笑顔を向けられる。うわ、イカつい美形が微笑むとか…イリィとは違う破壊力だ。

 しかも肌が触れているところに感じるその逞しい体と熱。身の置き場がなくてもじもじしてしまう。

『ん…?』

 さらに顔を近づけて私の顔を覗き込む。


「あの、降ろして…」

 緊張でそれだけをかろうじて言うと

『こんなに震えているではないか…聞けないぞ。我が支えてやらねば』

 まさか、シシラル様に抱えられてるのが畏れ多くて、さらにそのカッコよさに震えてるとは言えない。

 どうしよう…おもてなししたいのに。困ってシシラル様を見つめていると

『ぐっ、震えながら潤んだ目で我を見るとは…また戦わずして敗北するのか…』

 最後の方は聞き取れなかった。


『シシラルよ、この子は何かもてなそうと思ってるのではないか?』

 イグニス様の言葉にハッとしたシシラル様。

『そうなのか?小さき子よ』

 小さくないけど、ここは話の腰を折るべきじゃないよな。

「はい!おもてなしに、甘味を作りたいと」

『ヤッター』

『僕も食べたいな』

『ふむ、良い心がけじゃ』

『むっ、なら仕方あるまい。作る場所まで運んでやろう』

 シシラル様、降ろしてくれないの?

『どこじゃ』


 こうして神様ズ(寝ている間に知らない神様が増えてた…)を連れて家に入る。

 ちゃんと玄関で靴を脱いでくれたよ。優しいね。

 そしてまずは居間に向かう。

「ここで座って待ってて下さい」

 神様ズはシシラル様の以外、座った。イリィとロリィ、エリ、ベル兄様とブラッドもだ。

 ちなみにハクたちはヒュランと一緒に外を走り回っている。甘味が出来る頃には戻るだろう。


 そしてなぜかシシラル様に抱えられたまま、台所に移動した私。そこでようやく降ろしてもらえた。

「抱えてもらってありがとうございます」

 と言うと

『良き良き』

 と笑った。強面だけど、優しい神様だな。

「皆様の所で待っててください」

『大丈夫だ』 

 何が大丈夫か分からないけど、まぁいいか。


 私は餅米を(本当は道明寺粉が良かった)使って求肥を作る。そしてお次は餡だ。

 そう、小豆。大変だった、これを作るのは。思わず遠い目をしてしまった。でも、ここに小豆がある。

 ならば作るのは餡子だ。せっせと小豆を煮て、砂糖を投入する。お塩も少々。

 こちらにも高いけど砂糖は売ってる。ただ、精製が甘くて白くない。だからその精度をあげて純砂糖を作ってあった。

 茹で上がった小豆を潰す。普段の私は粒あん推しなんだけど、今日はこし餡だ。

 求肥に丸めた餡を包む。最後に片栗粉(じゃがいもから精製した)をまぶして一つは終わり。


 もう一つはあるものを餡子で満遍なく包む。それをやはり求肥で包む。

 火魔法で軽く温めて伸ばしながら均一に。

 久しぶりに作ったけど、まぁまぁかな。

 残念ながら食紅がなかったから見た目は白い。でも味は美味しい筈。

 私の後ろで静かに見守っていたシシラル様の目はキラキラしている。

 緑茶を2人分入れて、作った2種類の甘味を小皿に入れてフォークを添える。


「味見、しませんか?」

 シシラル様は満面の笑みで

『もちろんだ!』

「甘いので一口では…」

 遅かった。一口で食べてしまった。私はシシラル様を見つめる。

 もぐもぐと食べ終わると

『なんと美味しいものだ…しつこくない甘さともっちりした食感。これはまた…』

 と言って緑茶を飲んだ。


「熱いのでゆっくり…」

 遅かった。上を向いて一気飲みしたよ。喉焼けてませんか?

 オロオロと見ていると

『ほぅ、なんと美味な…口の中の甘さが緩和されて、なんとも心地よい渋みが口に広がるぞ』

 シシラル様の感想はとても的確です、嬉しい。

「良かった。もう一つもどうぞ」

『うむ』

 また一口で食べる。もぐもぐしているうちに、目を開く。そして目を瞑って咀嚼した。


 私はその間にお茶を継ぎ足す。

『これはまた、なんと爽やかな酸味と甘味。見事だな』

 そしてまたお茶を一口で飲み干した。

『ほぉ、この後味の素晴らしさよ。これほどまでとはな…。戦わずして我に三度敗北させるとは』

 また最後の方は良く聞き取れなかった。でもその笑顔が美味しかったと伝えてくれて、凄く嬉しい。

 作るのも久しぶりだしな、緊張したから。





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