285.イグニス様とイグニシア
『して、なにがあったんじゃ?』
ヒュランとニミがイグニス様に、イグニス様が眠ってからの話をする。眠ってから3000年ほど経っている事や、この世界の国のこと、そしてイグニシア初代王とイグニシア国のこと。
その後に出来た国々のこと。人類の栄枯衰退。
魔道具の発展と魔法の衰退…
(魔法は衰退してるんだ?)
(古代魔法というのがある。文献には出てくるけど、それが出来る人は今はいない、よ)
ロリィが教えてくれる。
ニミとかハクみたいに空間魔法なんて、昔は誰もが使えたのかな?
(流石にそれはないけど…今は誰も使えない。いや、イルは箱庭があるから、使えてるかな?)
箱庭はそう言えば私の専用空間だよね、なるほど。魔道具の発展の陰で、魔法は衰退したのか。
私の物思いの最中にも、話は続いている。
最近の話としては、生命樹が枯れていることやユウリ様と白の森の話。ユウリ様が契約者を持たなかったこと。若木を残して絶えたこと。
長く眠っていたユーグ様が目覚め、アイルを契約者となったたこと。
最後はイグニシアの崩壊と鎮魂の森が閉じたこと。
イグニス様は起き上がり、ヒュランにもたれながらその話を聞き終わった。
『そうか…』
ポツリと溢すと、そのきれいなお顔を憂いさせる。
そして
『お腹が空いたな…』
えっ…?
この話を聞いて、第一声がそれ?
まじまじとイグニス様を見つめる。憂い顔でため息をこぼす。儚くて消えてしまいそうな風貌で。
ぐぅ…
もしや、お腹鳴りました…?イグニス様の。
『何か食べるか?と言ってもな、あるのは草だけだが…』
ヒュラン、草って食べれるの?
ことの成り行きを見守って口をつぐんでいた私たち。私はエリを見る。エリは頷くと
「食事の用意を致します。イグニス様、立てますか?」
紳士なエリはイグニス様に手を差し伸べる。
「頼むぞ、腹ペコじゃ」
そう言ってエリの手を掴むと、立ち上がった。
イグニス様は小柄で、本当に3000年も寝ていた神様とは思えない。
その体は普通の人に見える。
不思議そうに見ていると
『お主がユーグの契約者か…ふむ、清々しいの』
そう、優しく微笑まれた。
ぐぅ…ぎゅる
とても愛らしい、一見すると少女…から聞こえる場違いな音。ほんの少しお顔を赤くしているのがまた可愛い。
隣ではエリが粛々と食事の用意をしていた(ポーチから取り出すだけ)。閉じているこの森では魔法が上手く発動しない。
だから私がジョブで椅子と机を作る。ジョブは魔力は使うけど、魔法ではないからここでも使える。
『ほぉ、面白いのぉ…』
目を細めて私を見るイグニス様。
そして、机の上には湯気をたてるお鍋がドンッと置かれた。
イグニス様はそれを目にして飛んで行ってお鍋を覗き込む。
あれ、早!姿がブレたよ?
私はお鍋からクリームシチューをよそって、パンを添える。
ヒュランがその瞳孔をかっぴらいてシチューを見つめる。涎が垂れてるよ?
私はちゃんとヒュランの分もよそった。そして何故かロリィが私の袖を突く。食べたよね?
えっ、お腹空いたの?仕方ないな…よそってあげるよ!
足元でハクとベビーズはハクの背中から、ナビィが私の足に頭をすりすりする。そのしっぽはブンブンと振られている。可愛いね。
でも、ハクとナビィもなのか…。
すると肩の上からブランがほわほわの胸毛を擦り付ける。うん、分かってるよ?
食べたいよな、うん、あぁもちろん。ティダもだね。えっと、イリィもなの…?いいよ、いいよ!たくさん食べてね。大好きなイリィ。
あっとニミも食べたいの?仕方ない。
えっと、エリもなの?あ、まぁね…緊張でお腹空いたと。ん?そうなのか、普通逆では?
匂いが?まあね、いい匂いだよね。
俺も?何もしてないよね、ブラッドは。えっ、待てるだけで緊張して腹減ったと、仕方ないなぁ。
んと、ベルも?アイルが心配でね、だからすこしほっとして、そうなんだね。ありがとう。沢山どうぞ?
えっと、はい、みなさんどうぞ…お待たせしました。お代わりありますよー!
イグニス様は早速、シチューを口に運ぶ。
そして目を見開くと
『うまぁーい!ぅまーぃ…ぅまーぃ…』
こだましたね?
隣ではヒュランがバクバクと食べている。二口くらいでペロリと食べると前脚でお皿を押す。
『美味いな、もっと食べてやる…』
上からですね?
そして早い!飲んだ?飲んだの…イグニス様、ヒュランも?
お腹空いてたのは分かるけど、メッだよ、ちゃんと噛まないとね、分かった?
あぁそんな悲しそうな顔しないで…分かったよ、好きに食べて?今おかわりをよそうね。
うん、美味しいんだね…良かったよ。はい、どうぞ。大盛りだよ!
えっと、ハクもなの…?ナビィはお皿を鼻で押さないよ!ブランはたくさん頑張ったからね、多めに。
えっと、そうだね。ティダに今日頑張ったのは我だ!って言われてね。嘴でお皿を持って顔にぐいぐいと押し当てられた。
今よそうからね。
おかわりを求めるみんなに休みなくよそっていたよ。ふう。
大鍋いっぱいに作ってあったクリームシチューが完売した。それでもね、まだイグニス様とヒュランは分かる。
でもさ、なんでハクとナビィがたくさん食べるのかな?要らないよね、食事。なくても大丈夫だよね。
ん…?
『アルのことが心配でね、食事が喉を通らなかったんだよ…』
『私もーアイリのことがね…』
ハク、ナビィ…。
『わふん(そうそう)』
『わふわふ(それな!)』
『わうわう(Z Z Z…)』
『ぴぃ(アイル)』
最後のはリツだね、で寝てるのはリリかな?そもそもベビーズたちは食事いらないでしょ?
『まぁ食事が美味しいから仕方ないな』
イグニス様の言葉にうんうん頷く面々。それは良かったよ。
『イグニス、話があるんだー』
アーシャさまが左目から顕現した。
『そうよぉー大切なは、な、しー』
ニミも続く。
イグニス様はアーシャ様とニミを見て
『生命樹の若木のことか?』
そう言って私を見る。
『そうだよー!アリステラはやり過ぎた。昔から続く救済、異世界からの救済に…無関係なアイリを巻き込んだ』
『なん、だと…?』
イグニス様のお顔が厳しくなる。
『そうなのよー。助けたかったのはその子の親友。その為に、アイリを巻き込んだのよぉ』
『本来なら救済される対象ではないアイリは、この世界に受け入れられない。常に弾かれそうななっている』
『しかし、白銀狼の契約者で、生命樹の愛し子であるのだな?運命に抗ったか?』
『本人は知らずに、ね。その清々しいの心で、たくさんの応援者を得て。最愛の人も、愛するたくさんの人も得て…この子はこの世界で懸命に生きてきた』
『なるほど、して。若木に宿るのは本来の救済者かな?』
やはり神様なのだろうか、今の話で分かってしまうなんて。
『精霊たちが寝ている間の記憶を継承してくれている。それが無ければ分からん。まだごく一部だがな』
なるほど。
『だから、アリステラを粛清する為にも…手伝って欲しいのよん!』
『ふむ、若木を根付かせてから…その子の魂を一度返すのだな?そして、あちらで救済の対象とし、またこにらち呼び戻すと。うむ、その体には入れるがな…問題は記憶であろうな』
『そうね、あちらに一度帰るなら…あるいは』
『うむ、消えはしないな。ただ、奥深くに眠ってしまうであろう。何かのきっかけで思い出すやも知らぬが、な』
イグニス様は考え込む。
『どちらにせよ、今すぐには無理じゃな。時はいくらか?』
最後はヒュランへの呼びかけだ。
『8日ほどはあるぞ!』
『審判の日には間に合うな。それに合わせて若木を根付かせて、その者の魂を返すぞ。返してすぐは、目覚めないからな。どれくらいで目覚めるかは、神のみぞ知る…』
知ってる神様はあなたでは?
『我にも分からんな。あちらの神様も噛んでるからなぁ。良きにはからえじゃ。案ずるな。悪いことにはならん』
まぁ私がこの世界で生きる為には選択肢が無いからな。覚悟があるかと言われたら無いけど、仕方ない。
私を待ってくれるイリィがいるから。頑張るよ、と言っても私は何もしないけど。
『まずは少し、眠っている間の記憶を継承しないとな…休むか。皆も来るがいい』
シュン
ここは…?一瞬で全く違う場所に来た。そこは白くて白い空間だった。
見渡す限り、白い。果てもない空間が広がっている。
イグニス様が伸びをすると
『おう、イグニスか…しばらく見なかったが。どこぞ行ってたのか?』
渋い声が聞こえた。見回しても誰もいない。
イリィは私の手を握りしめて立ち尽くしている。
ロリィを見ると目を輝かせて、私の手を握りしめる。
エリはイグニス様の近くでやっぱり唖然としていた。
ハクとベビーズは何故か寛いでいる。
ナビィは…後ろ脚で耳を掻いている。ブランとティダは羽をバサバサして喜んでる?かな。
ヒュランはイグニス様のそばに寄り添い、アーシャ様は私の頭に座ってる…いや、何で?
『久しいのぉ、戦神よ。何、ほんの少しな…下界におったんじゃ』
『そうか、そろそろ戻らないといかんのだろ?』
『あぁ、その前に審判を下すがな』
『そうだな、言おう言おうと思っておったんじゃ。アリステラは粛清せねばならぬぞ?掟をな…』
『そのようじゃな、我の眠っている間にの。審判の日まで後少し…ヤツは生命樹の若木のことしか頭にない。そこで、だな』
『分かっておれば良い…』
『あぉ、戦神よ…加護を授けて欲しい』
『誰にでも、は無理だぞ?』
『もちろん、このな人間だけよ』
見えない人と会話をするイグニス様。戦神だって。
強そうだな。声も渋いし。
『ヤッホーシシラルー、元気?』
『ん、その声はアーシャか?ずいぶん可愛い姿だな』
『えへへっ』
『褒めてないわ』
『僕の大切な子をよろしくだよー』
『そこの人間か、なるほど。これは特大の加護が必要じゃなぁ。しかしの、簡単にはやらんのよ』
『大丈夫だよー、アイル、アレ出して!』
アレって何?
『アレじゃな、良いな。シシラルも来い!』
ドンッ
どちら様?
そこには歴戦の勇者も真っ青な筋骨隆々の男性が立っていた。
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