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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
29/419

29.月の女神

 そう、彼イーリスはとんでもない美形だった。淡い金髪に銀色の目。毛先と虹彩の縁は水色で細くて形のいい鼻、切れ長の大きな目、薄い唇。全てのパーツが対照で全体も個別のパーツも整っている。次元が違う美形だった。

 虹彩の縁に色が出るのは魔力が多い証拠だと初級魔法の本に書いてあった。私の目も虹彩の縁が少し少し青い。


「何で絡まれてたんだ?」

「一つも売れてないから…」 

 なんだかなぁ。最初から順調に売れるってわけでも無いだろう。特にイーリスの食器は高品質過ぎて市場で売れるのには時間がかかるだろうし。

「僕、売れないと宿を出ていかないとで…」

「こいつが野宿とか危なすぎんだろ?」

 横からマルクスが言う。


 それは確かに。即座に変態貴族に売られる未来しか思い浮かばない。

「一つでも売れれば…時間がないんだ」

市場(ここ)では3ヵ月売れないと出店を取り消されるんだ」

「あと1週間…」


 私は考える。買うのは簡単なんだけど、それってその場しのぎだよね。

「時間稼ぎできたとして、その先はどうするんだ?」

「…具体的にはまだ」

 これだけのステンレス製品を作れるのならアクセサリーとか単価が高いものも作ったらどうかな?ちょうど紫水晶もあるし。

「ちなみに今までの宿はいくらだ?」

「1泊銀貨8枚」

 高いな。


 スーザンのところなら2食付きで銀貨5枚だ。

「まずは安い宿に変えることだな。時間稼ぎには乗る。スプーンとフォーク、ナイフを2セット買う」

「え…2セット?」

 驚いて固まった後に泣き出した。だからマルクスさんよ、後ろから睨むの止めて。

「ぐすっありがとう。ぐすっ…すぐに用意するから…ぐすっ…」

「泣き止んでからでいいぞ」

 むしろそうしてくれ。


 首を振って潤んだ目でこちらを見る。まつ毛についた雫が光っている。泣いていても美形は美形だな…。少し黄昏ているとそっと手を握りしめられる。

 人に触られるのは苦手で、すぐにその手をほどく。

 イーリスはお店のほうに行って品物を包み始めた。

「よぉ、太っ腹だな。でもありがとよ」

「欲しいものを買っただけだ」


 イーリスが大切そうに包んだ品を抱えて戻ってくる。銀貨18枚を渡して品物を受け取り帰ろうとしたら、また手を握られる。困った顔でイーリスを見ると

「安い宿知ってるの?君はどこに泊まってる?」

「ゼクスの宿。2食ついて1泊銀貨5枚」

「僕もそこに移ろうかな。ちょうど昨日でいったん宿を出たから」

「金なくって出たんだろ?」


 イーリスは頷いてこちらを見る。美形の上目遣いとか反則なんだけど。

 まぁあの宿、いいところなんだけど意外と空いてるんだよな。イーリスが泊まりたいならいいんじゃないか?

「主人に話しとく」

 そう言って今度こそイーリスの手を離して宿に向かった。


 それにしてもイーリスはとんでもない美形だったな。顔を隠すのも分かる。私がイーリスにそこまで興味を惹かれないのは、まだ自分に余裕がないからだろう。人に触れられるのが苦手なのも同じ理由。

 元から人との距離が遠いほうだったけど、こっちに来てからはそれが顕著になった。

 人と親しくなるのが怖いんだと思う。隠さなきゃいけないことが多すぎて。ジョブもスキルも全魔法属性も空間拡張ポーチもハクも…。髪と目も珍しい色だって言われるし。


 だから人にもそこまで興味が沸かないし、それなりに美形にはあってるけどきれいだなって思うだけ。今はなるべく親しい人を作りたくないからね。


 そんなことを考えていたら宿に着いていた。扉を開けると厨房に主人がいた。

「ちょっといいか?泊まりたいって言う子がいるんだけど」

「部屋なら空いてる」

「市場終わりで来ると思う、フード被ってるけど…イーリスって子」

「知り合いか?」

「買い物した店の店主だよ、知り合いってほどでもない」

「分かった。ありがとな」

「いや、ここはいい宿だから…」

 頷いてくれた。


 一安心だな。階段を上って部屋に入る。ハクたんが突撃してくる。飛びついて口元を舐めて頭を擦り付けてまた舐めてしっぽをぶんぶんして…可愛い。今日も可愛い。明日も明後日も絶対可愛い。もふりんなハクを堪能した。

 

 はぁ疲れた。ただの買い物なのになんでこんない濃いんだろうね?

 そうだ!ラベンダーとジャスミンの精油。少量で試してみるかな?ポーチから取り出していざ、と思ったら扉を叩くの音がした。開けるとスーザンが

「さっき言ってたヤツが来たぞ」

 うん、それで?首を傾げていると呼んでると言って階段を下りて行った。

 行かないとダメなの?はぁぁ、精油はまた後でかな?




 私の部屋のベットで美形が眠っている…久しぶりの何でこうなった?



 階段を下りると宿のカウンターにフードを被ったイーリスがいた。こちらを見ると近づいてくる。

 スーザンを見ると少し困ったような顔をして

「部屋は空いてるんだが…1階はダメらしい」

 ん?何で??イーリスを見ると

「音に敏感で…上の音がダメなんだ」

 あ、分かる。私も苦手だし。


「2階は今は空いていない。2日後には空くんだがな。でだ、お前さんの部屋に2日だけ泊めてやってくれないか?」

 あの狭い部屋にベットはいるのか?

「ベットの予備はないから一緒に寝るんだな」

 いやいやいや、何で?無理。断固無理!

「む、「ダメ…?」…」

「まさかな、紹介した本人が断ったりしないだろ」

 スーザンがにやりと笑う。これはあれだな?確信犯だな?イーリスも上目遣いでフードの奥から見ないの。断れないじゃないか…はぁぁ仕方ない。


 スーザンを見て頷くと

「2日分は食事代だけでいい。銀貨1枚だ」

 はい、交渉成立ですね。そうしてイーリスは私の部屋に泊まることになった。


 部屋に入るとイーリスは不思議そうに部屋を見まわす。そしてハクに気が付くと恐る恐る近づいていく。しっぽを緩く振っているからリラックスしているな。

「撫でていい?」ハクを見ると頷くので「どうぞ」

 うわぁ…しばし目の保養タイムでしたよ…もふもふと美形のコラボ。ありがたや…

「荷物ないの?」

「カバンに入るぐらいしか持ってない」

 間違っていない。空間がちょっと拡張されているだけで。


「ふーん」

 イーリスはそれなりに荷物を持っていたので、部屋の隅に置くとベッドに腰かけた。

 そしてなぜか枕の匂いを嗅ぐ。へ?恥ずかしいからやめて??そのままベットに横になると寝始めた。

 えっとイーリス、警戒心は?男とは言えやっぱりその顔だし警戒しようよ。私が人畜無害とは限らないよ??いや、まぁ無害だけどさ。




 私の部屋のベットで美形が眠っている…何でこうなった?



 夕食は主人が部屋に運んでくれる。フードを外さないイーリスに気を使ってくれたみたいだ。

 なんか、顔がきれいとかだけじゃなくてどことなく上品なんだよね。この子。

 年齢を聞くと「18才」だって。え?マジで??同じ歳かと思ってた。横からハクが

『森人だな、若く見える種族だ』

 …そうなんだ?

 

 食べ終わって順番にシャワーを浴びるといい時間になった。いや、まだ夜になったばかりだけどさ。今日も色々疲れたんだよ。明日も早いし寝よう。って美形と同じベットかぁ…困ったな。床に毛布引いて寝よう。そう思っているとイーリスに手を捕まれてそのまま一緒にベット入る。


 シングルベットは狭いから少し体が当たる。人肌は苦手だ…ハク…念話で呼びかけると嫌だよと返される。また何も言ってないのに。

 軽く手を握られて「おやすみ」耳元で囁かれ。動けないでいるとやがてすぅすぅと寝息が聞こえてきた。手、離していいよね?…抜けない…


 そうして夜は更けていった。


 苦手なんだよなぁ、人と寝るの。元が女性だったのもあって男性は特に苦手…そんなことを考えていたらいつの間にか眠っていた。

 なんか温かくて重い?目を覚ますと目の前に淡い金髪があった。んぁ?えぇ?マジですか…

 イーリスが私に抱き着いて寝ていた。はい、抱き枕状態です、私。そら温かいわけだ。重いよ…半分のしかかる様に寝ている。私より小柄だけどとは言ってもね?


 何とかどかそうとゆっくり動いているとイーリスのまぶたが震える。ゆっくりと目を開けるとこちらを見上げてほんのりと笑う。

 そのまま私の頬にキスをしてきて、耳元でおはようと呟く。き、キスとか…?単なる挨拶??混乱している間にイーリスは頭を私の胸元に何度か擦り付けて目を閉じた。


 寝ぼけてる?離れて…お願いだから…見かねたハクが間に入り込んでくれた隙に脱出。今夜は野宿しよう。無理、いろいろ無理だから!



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