284.イグニスの目覚め2
前回は目覚めまで辿りやつかなかったので…
今度こそ
しばらくは憮然とするヒュランと私。楽しそうなハクとブランとナビィ、頬を染めて目を潤ませるロリィとエリ、微動だにしないかだきっと笑ってるブラッドに目をキラキラさせたベル、そして大爆笑しながら転げ回るティダ。
カオスだった。
『流石にそれはない!素直にキスしろ!!』
えっとそれも無理かな…。
「無理」
端的に返した。私には愛する旦那様がいるんだ。どんな事情でも、眠っている少女にキスは出来ないよ。
『なあんだと!』
キレられてもね?
「愛する人がいるからな…無理なのは無理」
ぐぬぬっと唸るヒュラン。それを見てティダが
『ここには神聖の森の管理者たる精霊がいるではないか!キスはその者に任せて、アイルには真摯に祈って貰えば良い。神獣も聖獣も、そして黒曜犬もおるのだ、充分であろう』
ヒュランはヒゲをそよがせると
『一理ある』
と重々しく告げる。
でもアーシャ様は全く空気を読まないお方。
『僕も無理ー。色々なしがらみがね?』
だそうだ。またもや憮然とするヒュラン。そこで名乗り出たのは
「私に任せてもらえないか?これでもイグニシアの蒼き血を持つ者。資格はあるはず」
エリだ。その堂々とした姿は例え虐げられても王族であることを示していた。
『ふん、やむを得ぬな!全身全霊で祈るのだぞ』
ヒュランが宣言したので
「待って、この後のことを知りたい。若木をすぐに何とかするって事じゃ無いのでいい?私にも準備がある」
ヒュランは
『目覚めてすぐにはどのみち無理だ。7日以上は時間を置く。約定の日まではまだ時間もあるしな』
約定の日って、もしかして10月10日?予定を23日と組んで、結局は15日でイグニシアまで着いた。だからまだ余裕はある。
でも、それはアリステラの意思ではないのか?
とにかくホッとした。アイルとして愛する旦那様であるイリィと会える時間がある。良かった。
ならばまずはイグニス様に目覚めて貰わないと。
『10月10日は神々に取って特別な日なんだ。約定の日と一般には認識されてるけどね、本当は審判の日。アリステラの所業を神々に知らしめて、イグニス様が審判を下す。若木が根付いたのを見て、油断したその隙にアイルの魂を飛ばして…アリステラが守りたかった者を見ている時が好機。やり過ぎたヤツは弾劾される』
『その時にアイルの魂を体に戻して、ジ、エンドよ。あなたの苦心は報われて、その世界に根源を持つ魂となる。ようやく、本当にこの世界に根付くの』
アーシャ様の言葉に続けたのはニミだった。いつの間に?そして、その横には最愛の人の姿があった。
イリィ…
「アイ…」
駆け寄ってくるイリィをしっかりと受け止める…つもりが、勢いに押されてロリィに支えられた。
両手で私の頬に手をやると目を覗き込む。そして目を瞑ってキスを、優しいキスをしてくれた。イリィ、あぁ大好きなイリィ。その顔をもっと見せて…イリィ。
見つめあってそのきれいな顔を見る。涙を湛えた目はいつもながらにきれいで、どんな顔でも私のイリィは美しい。
「きれいだよ…」
私があつらえたフード付きのもこもこローブのイリィはその白い頬を僅かに染めて、とてつもなくきれいだった。女神か、天使か…本当にきれいだ。
『うおっほん…ユニコーンでは無いか。久しいな。名は何と言ったか…』
ヒュランはやっぱりニミを知ってるんだ。
『イグニスが眠りついて、あまりにも永い時間が経ったのよ?名はもう消えたわ。今はアイルと契約をしたのよ、ユニミっていうの。ニミって呼んでちょうだい』
待って、もしかしてヒュランはヨボヨボのおじいちゃん?
そちらを見ると
『ふん、失礼なヤツだな。我も永らく眠りについていたのだ…目覚めたのは森が閉じてからだ。ヨボヨボなどでは無いわ。ピッチピチの486才だわ!』
「「「…」」」
基準が分からないんだけど、もういいかな。そこは触れずにおこう。
『して、護り馬の役目に戻るのか?』
『それは無いわ…。目覚めたらイグニスの魂は神界に戻るもの。器はどうなるかしら?どのみち、記憶はすぐには継承されないのだから』
『神界には戻らぬのか?』
『戻らないわよ、そもそも追い出されたのだし』
『そうであったな…まぁ追い出されたというよりは、イグニスに付き添わされたのだろうが』
『同じよ…神界から出されたんだもの』
なんか聞いちゃいけない会話だけどいいのかな?イリィは大丈夫と耳元で囁いた。
確かニミはイグニス様の護り馬で、よろしくって伝えて!とエリに言ってたよな。そもそも私と契約したのも本当はイグニシアの末裔を守る為。エリと契約出来ない理由があるから、遠回りだけど私と契約した筈。
なのに結局、ニミは自らイリィを連れてやって来た。何でだろう?
いつの間にか話を終えていたヒュランとニミ。私たちを見て
『まずはイグニス様を目覚めさせる。その後にニミに協力して貰い、眠っている間の記憶を聖なるものから継承する』
その時は良く分からなかったけど、どうやらこの森の精霊や妖精たちは時の記憶を司るのだとか。永く眠っていたヒュランが起きたことを把握しているのも、その記憶の継承によるらしい。
それは聖なるものに出来るけど、今回は時間がない。だから時と空間を司るニミがその手伝いをする。私の箱庭のような感じを空間を切り取ってする感じだとか。
そしていよいよイグニス様を目覚めさせる為、棺をみんなで囲む。
私はイリィと手を合わせてイグニス様の右手を握る。眠っていたからなのか、氷のように冷たい手だった。ロリィは私とイリィの後ろから私たちを抱きしめる。
エリは私たちの反対側でお顔に近い場所に座り、ヒュランは頭の方に、ブラッド、ベル、ハクと背中のベビーズ、ブラン、ナビィとティダ、ニミはそれぞれ足元や体の横あたりに座って棺の中を見る。イグニス様に触れてはいないけど、棺に触れている。
ヒュランが厳かに
『目覚めの儀式を始める…よしなに』
要はただ祈れってことかな?エリだけはキスをする役割があるけどね。
私は目を瞑って祈る。
どうかこの地の安寧を…
どうか失われし尊厳を再び…
どうか先人として道標と…
そして、どうか安らかなる眠りからの目覚めを…
切に願います…
そう祈った。
イリィの想いも私の手に伝わる。
私を想う愛おしい気持ちが、溢れるほどに。そう、私はこんなにも愛されている。
そっと目を開けるとエリがイグニス様のお顔に近づき、その頬にそっとキスをした。
あれ、頬で良かったの…?思わずこの神聖な時に場違いな感想を持ってしまった。
目をパチパチさせていると、眩い光が棺を照らし七色に光った。光の暴力に目を瞑る、その少し前にそっとロリィの手が私の目を覆ってくれていた。
そのロリィの手が離れると、ゆっくりと目を開ける。そして、イグニス様は…そのまつ毛を揺らして、何度か瞬きをする。
そしてついてその目が完全に開いた。
眩い光を思わせるような、金色の目。力強いその目は真っ直ぐに虚空を見つめ、やがてエリを見つめる。
「イニィ?」
エリは目をパチパチさせながら困ったように笑う。そして
「違います…何代も先の血縁ですが」
イグニス様は目を開いて、ゆっくりと瞬きをする。そしてまたエリを見つめる。
「イニィに、我が子イグニシアにそっくりじゃ…」
エリは初代の王様にそっくりなんだ?へー。
『やっと目覚めたな、イグニスよ』
首を回すようにして声の方を見るイグニス様。
「その声はヒューか?」
『いかにも…ちと寝すぎではないか?』
ヒュランだって起きたの数ヶ月前じゃなかった?思わずロリィを振り返る。すると
(そう言ってたね…ふふっ)
私の気持ちを読めてしまうロリィなら伝わるね。イリィには耳元で
「ヒュランはこの森が閉じた時に目覚めたらしいからどっちもどっちだよ」
と呟く。
「なぬ?ヒューも大概、寝坊助ではないか!」
…ヒュランがあからさまに目を逸らした。猫なのにね?
『我は猫ではない!』
猫科だよね?ユキヒョウだっけか…。猫ちゃんだね!
『ぐぬぬっ不快な奴よ!』
イグニス様は軽く息を吐くと
「相変わらず沸点が低いのぉ…少しは成長したかと思えば」
『ぐっ、ワシだって成長しとるわ!』
この内輪喧嘩にイリィも困惑している。すると
『久しぶりぶりねーイグウ!あ、た、し、よー』
イグニス様の目はぐいと目の前に顔を突き出したニミを見る。
「護り馬のユニオか?」
…ユニオ?
「「ぶはっ…」」「くふぅ…」「ぐはっ…」「ふふっ」
思わず私とイリィ、ロリィ、ブラッドにベルまで吹き出した。なんて言うかね?くすっ…ユニミに負けずとも劣らないよね。
ニミが歯を剥いてこちらを振り返る。怖っ、顔怖っ。
『乙女に向かって失礼よ!』
「「乙女…」」
「なぜ笑われたんじゃ?」
イグニス様は不思議そうに聞く。
『ふん、名前がダッサイからよ!もう何年も経ったから名前は消えたのよ!新しい名前はユニミよー』
「ユニミ?素晴らしい名前だな…」
「「「……」」」
沈黙を守ろう。
『して、なにがあったんじゃ?』
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