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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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282.ヒュランとイグニス様

途中、ブラッドとリベールの事を少し書き足しました

2025.4.28

 そーっと振り返るとヒュランを目があった。ハクはしっぽをブンブンしてる。ハクの背中でベビーズもしっぽを揺らしている。

 ナビィのしっぽもブンブンしてる。ブランは目をキラキラさせて、ティダはなぜだかドヤ顔だ。

 えっと、私?

 ヒュランは大きく頷いた。


 えぇーーー!私?

 イグニス様を目覚めさせるって、眠り姫じゃあるまいし…。

「どうやったら起きるの?長いこと寝てたんでしょ?」

 いや、そもそも寝てたのか…?

「寝てたんじゃないぞ!眠りについていたのだ」

 えっと、違いが分からない。エリを見る。首を振られた。

 ロリィを見る。首を振られる。

 ハクを見る。しっぽをブンブン振ってる。

 ブランを見る。翼をバサバサしてる。

 ナビィを見て、何やら私に背を向けて一心に穴掘りをしていた。そうだね、職業病だね…ナビィは。仕方ない。

 ティダを見る。目が合うと

『眠りについたのは何故だ?』

 私の疑問を代わりにヒュランに聞いてくれた。


『イグニシアにこの国を託して、眠りについたのだ。影響力がありすぎるからな』

 うんと、全く話が見えない。

『アリステラに、世界を作るのに干渉するなと言われたこともあってだな』

 私は驚いた。イグニス様は創世の神。アリステラ(すでに呼び捨て)は創造神。どちらがより偉いのか。


『この世界の基盤を創ったのがイグニス様だ。アリステラは出来上がった基盤に上書きしただけだ』

 吐き捨てるようにヒュランが言う。

『要するに、世界を創ったイグニス様から国作りを任されたということか?』

『それとも違うな。イグニス様が世界を創った後、最初の国を作り息子のイグニシア様に託した。しかし、創世の神の親族が国を治めるのは、力が集中するので良くない、そう下級神だったアリステラがイグニス様に進言したのだ。イグニス様の駒使いの分際で!』


 ヒュランは怒ですね?

 圧力が凄いよ、みんな大丈夫かな。ロリィは…大丈夫だね。エリは…うん、大丈夫だね。ハクは…目をキラキラさせてるね。ブランは羽をつくろってるね。ナビィは…穴掘り中。

 ハクの背中のベビーズたちは?服の上から手を当てると、うん。寝てるね…大丈夫だ。


『要するに本当に世界を創ったのはイグニス様で、アリステラは一種の売名だな。国をいくつか作っただけで世界を創ったと喧伝した』

 ティダがまとめると


『まさにその通りだ!世界が落ち着くまで眠ってて下さいなどと胡散臭い笑みで言って。待てど暮らせどイグニス様は目を覚さない』

 ヒュランがガルルと唸りながら言う。

『アイルなら出来ると?』

 ヒュランは私を見ると

『どうやらそこの人間はこの世界に根源を持たない。故に、この世界の理りから外れた存在だ。ならば、アリステラの呪縛も効くまい。ヤツが掛けた眠りの呪いだ』

 呪い、なのか。それって私の解毒剤が効く?


(眠っているものに解毒剤は投与できない)


 ビクトルに却下された。点滴みたいに静脈から入れたらどう?


(物理的なものでの解呪は不可)


 そうなのか…ならいったいどうすれば?

『でも、どうやって?』

 ヒュランに聞く。

『起きてと願えばいい』

 えっ、それだけ?それはもう散々みんなが願ったんじゃ?

『我らの願いではダメなのだ。お主の切なる願いが必要だ』

 切なる願い…生命樹を根付かせるためにイグニス様が協力してくれるの?

 そういえば、もう一つの白銀王の物語の眠りについた聖なるものってイグニス様?


『イグニス様は白銀王の物語の?』

 ヒュランに聞く。これはエリと私、ロリィとそしてイリィしか知らない話だ。ベルとブラッドが?な顔をしている。

 ヒュランはその光る金目で私を見て首を振る。

『それはお主だ…』

 あぁ、やっぱり私は一度魂を死なせて眠らなければならないんだ。


『行くぞ!』

 私の物思いなんてどうでもいいとばかりに、ヒュランは木から木へと飛び移って奥に進む。

 ちゃんと私たちが付いていける速さで、速さ…なの?

 はぁはぁぜぇぜえ、まだかな?だいぶ歩いたけど。ふう、疲れた。よろけたらロリィが支えてくれる。

 ロリィは本当に細身なんだけど、全く疲れてないみたいだ。エリは、と見ると息を乱すことなく付いてきてる。

 ブラッドはもちろん上級探索者なので余裕、ベルも細いのに平気な顔をしている。


「アイル大丈夫か?ここは空気が薄い。それに、雪の積もった森は歩きにくいだろう」

「うん、思ったより足が取られる」

「手を…僕が支える」

 有り難くエリの手に掴まる。それにしてもなんで平気なの?離宮に篭ってたんじゃないのか?

「僕は離宮からは滅多に出なかったけど、訓練は小さな頃からしてたよ」

 そうだったのか、なら私が一番体力なくても仕方ない…よね?多分、きっと。

 黙々と進んで行く。どれほど進んだのか感覚が分からなくなる。そして唐突にヒュランが止まった。

 あ、この感じは…。


(来たよ)(来たね!)

(待ってたよ)(待ってたの)

(時が満ちた)(満ちたよ)

(目覚めの時)(目覚めるの)

(時の番人が)(扉を開ける)

(その鍵は)(その鍵は)

(聖なる色を持つ者)

(聖なる色を持つ者)

(イグニス様を)(イグニス様が)

((目覚められる))


 どこにいたのか、と言うほどの精霊や妖精がまるで爆発するかのように飛び回る。光で前が見えない程の眩さ。

 やがてそれが収まると、ヒュランが

『進むぞ!』

 そう声を掛けて、地上に降り立った。そのまま付いてくるように目で促し、進む。


 ヒュランが進んだ先で景色が歪んだように思った。これは守護結界…しかも何重にも張り巡らせた、厳重というのが烏滸がましいほどの強固な守り。

 幾重にも渡る守護。イグニス様が眠りにつかれる時からか、はたまた永い時を得てこれほどの守りとなったのか。余人を拒む厳しい守り。

 ヒュランが守護者であれば、抜けられるのは必然として私たちまでなんなく通過出来た。守護の守りの残滓は見て取れたけど、いいの?

 ヒュランはそのまま当たり前のように進んで行く。


 ふと気が付く。寒さが感じられない?ここは鎮魂の森であって、鎮魂の森ではないのか…。白い閉ざされた森とは一線を画しているように感じる。

 ハクも服に隠れて見えないベビーズも心なしかソワソワしている。そのしっぽを見れば分かる。ナビィはあからさまにワクワクしている。


 若木を根付かせる。その為にイグニス様を目覚めさせる。そして、ここの生命樹を廃してその力を若木へと注ぐ。

 それはもちろん、私の魔力もそして魂も捧げる事になる筈だ。なのに、ナビィはどうしてそんなに嬉しそうなの?


 私の不信感をよそにヒュランは進み、やがて目の前に厳かな姿を現すのは守護の森(ここ)の生命樹。創世の頃よりある国の、命の源。

 国は滅びても、その姿は荘厳で神聖なまま。それでも、閉じた森と同じくここの生命樹もその命を生み出す活動を停止していた。ただ、その姿は枯れてはいない。


 太い幹は水分を宿し、広がった枝と青々とした葉は健全な姿でそこにあった。

 枯れてはいない、しかし機能を停止した姿。一方で、私が持つ若木は枯れてしまい水分もなく干からびている。散りきっていないのはまだ生きているから。さしずめ水の中で生きながらえる木々のように、命を内に秘めたまま根付くのを待っている。


 対極にあるような姿の最古と思われる生命力に溢れた生命樹と若木。これから何が起こるのか、私はワクワクより恐怖が優っていた。

 私がアイルでいられる時間は後少ししか無いのかもしれないから。


 私が物思いに耽っている間、ヒュランは生命樹の周りをぐるぐると周り何がを探しているようだった。

 ハクは背中から器用にベビーズを大地に降ろす。ここは雪に覆われてすらいない。 

 ベビーズは大地の匂いを嗅ぎ、ヨタヨタと歩き回る。ナビィは…えぇ、ここで?


 一心不乱に穴を掘っていた…。


 いや、ほんとやめて?神聖な場所なんだよ、ここは。

 はぁとため息を付いた。横からロリィが私の頬に手を添えて正面から私を見る。真っ直ぐて、どこまでも澄んだ目。そこにはロリィの決心が見て取れる。


(僕も君と共に…イル、これは家族としての僕の決定だ。覆らないよ…)


 念話して来た不穏な内容に首を振ろうと思ったけど、ロリィの目がそれを許さなかった。


(本音を、聞かせて…イル)


 私はロリィを見る。私の本音、そんな事絶対にダメだよ!そう常識的に考える私。それとは別に心の底から独りじゃないと安堵する私。伝えるべきなのはきっと…。



 ロリィを見つめる。揺らぎない決心とそして恐れ、その澄んだ瞳の気高い人は必死に願っている。

 だから私が伝えるのは


(凄く心強いよ…ありがとう。共に…あって、ロリィ)


 ロリィの顔が自然と綻ぶ。優しさと慈しみをその目に乗せて。


(僕が愛した人は…こんなにも可愛いのだね、イル。離れない、よ…決して)


 その言葉はアイルとして生きた私への賛辞であり、はなむけの言葉。だからちゃんと伝えないと。

「ありがとう、ロリィ」

 ロリィはふわりと微笑むと私のおでこにキスをした。


 エリと繋がれた手が軽く引かれる。そちらを見ればエリが真剣な眼差しで私を見ていた。

「僕も一緒に…」

 私はエリの透けるほど白い肌と淡い瞳を見る。そして緩く首を振った。


「ダメだよ…エリは伝聞者として、残って」

 エリは目を開いてから悲しそうに

「しかし、私の命はアイルに救われたもの。恩返しさえさせて貰えないのか?私は愛した人に報いることすら、出来ないのか…?」

 その透明な目に涙を湛えて言葉を繋ぐ。違うよ、エリ…違う。


「エリ…私に恩を返そうと思うのなら、どうか生きて。生きて幸せになってくれる事こそが恩返しだ」

「アイルは、どうしてそんなに…。僕は諦めたくない」

 そう、だからだよ。()()()()

「伝える人が必要だから、知る人が必要だから…エリ、待ってて。死ぬわけじゃない」

 涙を流しながらも、頷いてくれた。良かった…。それに今すぐではない筈。私はイリィに会わなきゃ、魂を捨てられない。

 だから泣かないで、エリ。



 そんな感傷に浸っていると、突然

『やっと見つけた!永く時が経ちすぎて匂いが薄まってしまった…』

 そう呟いてヒュランが立ち止まったのは生命樹の幹から少し離れた場所だった。




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