279.監視の監視をする
あ…魔力が動いた?
僕は楽園でニミにもたれていた。昨日の話が衝撃的過ぎて気持ちが置いていかれてる。眠れない夜を諦めても楽園に来れば、ニミがいた。
『イーリス?』
「うん、ニミは何をしてる?」
『ここにいればあの子を感じられるかと思って』
「ニミはアイを利用しただけだろ?」
『否定はしないわ…でもね、私たちは誰とでも契約出来るわけでは無いのよ。あの子だから出来た』
「エリアスの為に、だろ」
『それもあるわ』
「も…?」
『引き合う、とでも言うのかしら?そういうものを感じたのよ…』
「番のような?」
『違うわね、むしろそう…同志、かしらね』
「同志?」
『そう、同志…惹かれる感覚が無ければ契約出来ない。私はそれなりに力もあるから、均衡を崩してはいけないの…森人とも、王族とも契約は出来ないわ』
沈黙が落ちる。静かだ、最近は精霊も妖精も元気がなくて。そんな風に静かに夜が明けて、それでも僕はここから離れられなかった。
あ…アイ?魔力が…動いた?
ニミが首を持ち上げて耳を動かす。まん丸な目を虚空に据えて、何かを見つめている。
『魔力が見えたわ…』
アイの魔力が見えるの?
『イーリス、大丈夫そうよ』
「この間もそう言って、ダメだったよ」
ニミを見てそう言うと
『あれは…誤算だったわ』
「魔道具で会いに行く!」
『少し待って…私も行くから』
仕方なく少しだけ待つ事にした。少しだけだよ?
『世界を壊されるのは困るけど、創造神を排除するなら同志だよ…あれはやり過ぎだ』
アーシャ様の意外な発言に驚く。
『ほう、面白い。生命樹を自分の思い通りにしようとしたらからな、世界樹に排除されて当然だ』
ティダが不敵に笑う。いや、鷹なんだけどね?ニヒルな雰囲気がね、伝わってきて。
『アイル、このまま終わらせはしないよ。でもその生命樹は再生が必要だ。それには君の魔力がいる』
『生命樹を再生させるほどの魔力など使えば死ぬぞ』
ティダがアーシャ様にくってかかる。
『だから、だよ。アリステラを欺く。アイルには一度、死んで貰うんだ』
そんな話をしていたら
シュン
目の前にイリィがいた。えっ?何でイリィが。驚いて見ていると
「アイ!魔力が…」
魔力が…魔道具が使えたの?
ギュウギュウと抱き付くイリィ。私はその細い腰に手を回した。一層強く抱きしめられる。
「イリィ?泣いてるの」
その涙を拭う。泣いててもきれいだけど、やっぱり笑顔がいいな。
「だってアイが、アイが…」
その唇にキスをする。驚いたイリィは泣きながら私に何度もキスをした。
「私が泣かせたの?」
「そうだよ…僕を泣かせるのも笑顔に出来るのもアイなんだよ」
頬を撫でてその目を見る。熱のこもった力強い目。瞼にキスして
「ごめんね、こんな私で」
イリィは首を振ると
「今のままのアイがいいよ」
そう言ってしばらくギュウギュウと抱きしめられていた。ようやく落ち着いたらイリィは私か離れて周りを見る。
そこでティダを見つけて固まっていた。隣のブランは胸を逸らして自慢気だ。
「えっ…?」
「ブランのお父さんだよ、ティダって言うんだ」
『ティダだ…アイルの想い人よ』
「えっ?凄い!大きい、カッコいい…ティダ?」
『そうだ、ふっはっはっ…若いな、アイルもお主も』
「えっ?」
何で笑われてるのか分からない。
『運命など、神ごときが決めた運命など壊してしまえ!アイルには神獣も我ら聖獣も雷獣も、そこの幻獣も、そして精霊王もあまたの精霊や妖精までついている。捻じ曲げられた運命なら正せばいい。我らなら出来る』
力強いその言葉にイリィは目を丸くして驚き、そして泣きながら笑った。そうだね、壊せばいいよねと。
『あら、楽しそう。壊しましょう。私は怒ってるのよ?この子をこんな目に合わせて、犬一匹を世界渡りさせて終わりなんて。ふざけてるわ!』
ニミも不敵に歯を剥いた。怖っ…、顔が怖っ。
『ちょっと失礼よ、乙女に向かって顔が怖いとか』
「「「乙女…」」」
イリィとロリィとエリの声が重なった。
『んですってぇ?』
だから怖いよっ顔が。
「くすっ」「くふぅっ…」「ふふっ」「ぶはっ」「うふっ」
みんな楽しそうだね?
「「「良かった」」」「「良かったよ」」
心配掛けてたよね?ほんといつもいつも、ごめん。
「ごめんじゃなくて」
「こんな時に言うのは」
「ありがとうだよ、アイ」
そうだったね。
「ありがとう、みんな…一緒に世界を壊してくれる?」
「「「うん」」」「おう」「もちろん」
『アイルには死んで貰うけどね』
出て来たアーシャ様の言葉に全員が本気のガンをアーシャ様に飛ばした。
「「「あぁっ?」」」「おう?」「あん?」
美形4人とブラッドの本気のガン…怖い。真顔の美形の迫力にアーシャ様がびびって
「一度死ぬだけだよ!」
「「「あぁっ?」」」「おう?」「あん?」
「いやその、体は死なないよ?魂を一度無に返す。で、そこに新たに入り直すんだ。そうすればこの世界ので生まれたのと同じ。ただ、アイルなのか、愛理なのかは分からないよ」
みんなが黙った。ガンは飛ばしてないけど真顔の美形4人とブラッド。ハッキリ言おう、怖いです。
「体はそのまま?」
「アイルかアイリのどちらか?」
「必ず入れる?」「いけんのかよ?」「本気で?」
質問が矢継ぎ早にくる。
『体はそのままだよ』
『入れるな、間違いなく』
『入れるわよ、確実に』
アーシャ様、ティダ、ニミが答える。
『その体にはアイルか愛理しか入らないわ、間違いなくどちらかよ』
『そうだな、全く違う魂は入らない…なんせ神獣の魂の契約者だからな』
『そうすれば生命樹も守れる』
『アイツは生命樹だけを助けて、この子を見捨てるつもりだ』
『だからそれを逆手に取るのよ!』
なるほど。関心がないなら裏を掻けばいいと。
「「「絶対に死なせない…?」」」
『『『死なせない』』』
こうして私の運命を正し、この世界に生命樹も私も根付かせよう作戦が始まった。
その日の夜はイリィと箱庭で眠った。またみんなが入れるようになったんだよ。
で、普通に寝ただけだよ?今はまだね、色々と受け止められないから。それでも匂いを感じられるようになったし、世界は色付いて、味もちゃんと分かる。
止まっていたあらゆる感覚が動き出したみたい。
ずっと不安定なのは、やっぱり私が曖昧な存在だからだってアーシャ様が教えてくれた。
なんか、悲しさより怒りが勝ったよ、今頃。簡単に消えてなんかやらない。私は律に会わないし、そこに運命はない。
律は何も悪くないけど、今さら会っても私はきっと許せない。何かもが。だからそれでいい。
新しく前を向く為には律はいらない。私が縋って律を求めると思ったのかな?そこまでされてまだ縋るほど情けなくはない。
覚えてろよ!
私はヤツから貰った真名を捨てた。要らないって思ったら捨てられた。笑っちゃうよね?
そしたらハクもブランもミストも…イリィですらね、捨てたんだよ。ふふっザマァみろ。
監視は弱まる筈ってアーシャ様が。繋がりが断たれるから。
ならナビィは?と聞くと、
『捨てたよ!』
うん?何を?
『使徒の肩書きを』
えっと捨てられるの?
『もちろん、だって要らないし』
何か困らないの?
『全く。今は自分の力でなんとでもなるし、転移はユーグ様から貰ったし…結局、何の力もくれなかったからね…ケチだよね?』
ケチとかそう言う事じゃないけど…まぁいいよね。なら今ナビィはどういう存在?
『ただの黒曜犬だよ』
『ただでは無いかな?黒曜犬自体が神獣並の存在』
ハク、そうなの?
『そうよぅ。だってこの世界に黒曜犬はナビィだけだもの』
…え、えぇーー。まさに伝説の存在?
『私たち幻獣も数が少ないの…でも二桁はいるから。唯一の黒曜犬は別格よ』
『黒曜犬、幻獣、雷獣、聖獣の順で数が少ない。あ、神獣は黒曜犬と同じ。この世界に唯一がハクだよ』
でも神獣になったのは真名があったからだよね?
『力を解放と言っても、それは力を与えた訳じゃないのよ。少し時期を早めただけ…元からの資質よ』
ならみんな困らないんだね?
『『『うん!』』』
良かった。みんなでこの世界の序列をぶっ壊そう。
どこかの過激な党の公約みたいな最後でしたね…
*読んでくださる皆さんにお願いです*
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