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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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278.イリィの憂鬱

 最後にアイと会ってからちょうど1週間。アイに会える。楽しみでソワソワしてしまう。何を話そう?どんな顔で会おう?

 この間はハクが取り乱して、僕もアイから返事がなくて寂しく思っていた。でもニミが大丈夫というから、会いたい気持ちを抑えて我慢した。

 ようやく会える。アイが作ってくれた魔道具を起動させる。アイの元へ…。

 あれ?どうして…エラーになってしまう。アイ?どこにいるの…。言いようのない不安が押し寄せる。


 屋敷を出てニミを探す。

「ニミ!」

 楽園にいたニミに駆け寄る。

『探せないのね?』

「アイの元に、飛べない」

 泣きそうに言えば

『魔力が…閉じてるわ。私が連れて行く。触れてて』

 僕は頷いてニミに縋り付く。



 シュン



 目の前にアイがいた。

「アイ、アイ…顔を見せて?」

 僕は目で見たアイに不安を感じる。だってすごく穏やかな顔だったから。ずっと張り詰めた顔をしていたのに?何で…。その変化を本能的に好ましくないと感じる。その体を抱きしめる。涙が止まらない。

「声を聞かせて」 

「イリィ…」

 小さく呟いた声は掠れていた。


 アイ…何で?その体はあの時と同じ。温かくて触れられるのに、遠い。

 僕が抱きしめても、アイは抱きしめてくれなかった。その目を見れば、変わらずに湖面のように穏やかで。僕を見ても、熱を感じられない。

 その日はずっとアイにくっついて、そばにいた。アイは食事も作らないし、お風呂も入らずきれい玉に入るだけ。

 穏やかで静かで…でも何かが抜け落ちたみたいだ。


 不安な思いを隠してアイに寄り添う。アイは笑ってくれる。でも笑ってない。ロルフもエリアスも困惑している。ブラッドは沈黙し、ベル兄様は不安そうだ。

 アイに何があったの?そう聞いても首を傾げるだけ。アイの顔をした別の人が入ってるみたい。

 それでも僕はどうする事も出来ずに、ただアイのそばにいた。そして翌朝、ニミに連れられてイグ・ブランカに戻った。


 このまま、なの?混乱した僕にニミが

『マズイわね…』

 何が?

『あの子はね、巻き込まれたの…あちらの世界でまだ生きていられたのに…』

 どういう事?神の恩情じゃないの?

『巻き込まれた…だからあの子はこの世界の歪み』

「そんな事って…何のために?」

『生かしたかった子の為』

「…アイの為じゃない?」

『私たちの話を聞いてしまったのね…迂闊だったわ』

 なんでそんな事に…


「アイはどうなるの?」

『歪みはやがて淘汰される。()()()()()()()()()()()。誰の記憶にも残らない』

 そんな…アイ。

「嫌だ!絶対にそんな事…」

『忘れる痛みも、失くした痛みも知らずに済むのよ…覚えていないのだから』

「こんな…」

 一緒に過ごした記憶さえ奪われるなんて…。僕はもうどうしていいか分からなかった。





 その日は朝からどんよりとした空。飛び始めてしばらくすると暗い色の雲が近づいて来た。そして、あっという間にブランごと私たちを呑み込んだ。

 私は背中のみんなとブランまで含めた範囲を風魔法で包んでいる。その魔法が雲に入って散った。ブランの翼は傷付き、血を流しながら錐揉み状態で落ちて行く。背中の私たちは辛うじてジョブで透明な、ダイヤモンド並の硬さの箱を作って囲ったから無事だ。すぐにブランに治癒をする。魔法を使わなければ効果がある筈。良かった、治った。翼の傷は治ったけど、ブランは翼を動かせず、推進力が得られない。

 ここままでは地面に激突する。


 何か、何か方法が…。ポーチに触れて思い出す。あ、これなら…。私はポーチからそれを出すと

「みんなを助けて!」

 そう叫んだ。

 ブランは何とか上昇しようとするけど、魔法は使えず落下の速度が僅かに緩まるだけ。私はジョブで精一杯の空気抵抗を生み出して、落下速度を少しだけ落とした。


 バサッバサッ…来た!間に合ったか?

 力強い翼ばたきが聞こえる。ブラン、あと少し…耐えて!


 一際大きくバサリッと聞こえると、ブランごと包み込んで大きな翼が躍動する。そして、暗い雲を抜けた。抜けてすぐに振り返ってその雲に特大の魔法を放つ。あれは雷?

 遥か彼方から雷鳴が轟き、その雲に突き刺さる。そして雲は霧散した。そのまま大きな脚でブランを優しく包んだまま力強く羽ばたき、近くの山の麓にブランごとそっと降ろすと、その隣に降り立った。


「来てくれて、ありがとう…間に合って、良かった…」

『久しいな…。タチの悪い呪いだった』

「呪い?」

『狙われたようだ…小賢しい。呪いは返されたからな、今頃は体を切り刻まれているだろう』

『お父さん!僕は名前貰ったんだ!ブランだよ』

 頭を擦り付けて甘えるブラン。

『そうか、ブラン…いい名だ』

『うん、お父さん来てくれてありがとう…僕では何も出来なかった』


「そんな事ない!頑張って翼ばたこうとした。私が作った空気抵抗にも抗って…立派だったよ」

 私は久しぶりに大きな声を出すので、掠れた声で必死に言う。

『ご主人…』

 ブランが私に頭を擦り付ける。その頭を抱きしめて

「良く頑張った…翼が傷付いても耐えてほんの一瞬、魔法を展開してくれた。()()()()()()()()

『ご主人は気が付いた?』

「もちろん、ブランの魔力が分からない筈無い」

『必死だったから…』

『ふはっはっ…これはまた、なんと良き契約者に巡り会えたのだろうな?ブラン…翼は大丈夫か?』

『うん、ご主人が治してくれた』

『ありがとう…人の子よ』


「私は何も…」

 そう、もうすぐ消える私はブランに何もしてあげられない。

『ティダ』

 えっ?

『私の名はティダ』

「太陽…」

 エリが呟く。

『そう、太陽』

「イズワットの古い言葉でティダは太陽を意味する」

『我に名をくれた者は太陽だと言った』

 そうか、ティダ。

「いい名だね…ティダ」


 アイルは契約者以外に聖獣が名を告げることの意味を知らない。それは人として認めたことの証。

 ハクがロルフたちに名乗ったのも、人として認めたから。

 それはとても強くて確かな信頼の証でもある。


『太陽はな、近づけば火傷をする。しかしその光は世界を照らし、その熱は氷をも溶かす…』

 その真っ青なまん丸の目で私を見つめるティダ。

『そして、家族を大切にする…もちろん、その契約者も。私は諦めない、たとえ君が諦めても…』

 驚いてティダを見る。

『歪みなど消さずに治せばいい。異物なら取り込めばいい。取り込めば異物ではなくなる。違うか?』

 分からない、分からないけど…何かがゆっくりと音を立てて崩壊するような感覚がした。

 何だ?これは…。


『諦めの悪いものはな、しぶといのだ』

 そう言って豪快に笑うティダ。太陽のように底抜けに明るいティダ。壊れたのは心の氷、砕けたのは心の檻。なんて明るく熱いのだろうか。

 その光は世界を照らし、その熱は氷をも溶かす…本当だね、ティダ。私の心の氷も簡単に溶かしてしまった。


 私はちっぽけで、こんなにも情けなくて揺れ動いてしまう。どんな理由で転移したとしても、何の意味もない転移だとしても…今ここに私はいる。

 決められた事を嘆くのではなく、楽しんで。楽しんだ先で全てぶっ壊そう。

 神なんて私に何もしてくれなかった。私は使い捨ての駒で、使い潰されるだけの存在。

 ならば少しでも足掻いて、見返してやろう。


 私は胸いっぱいに息を吸うと

「アリステラのクソやろー、人を駒みたいに使うんじゃなーい!人をバカにするなー!そんな世界は壊してやる!全力で全力で…壊れてしまえ!」

 ふぅふぅ…涙が溢れてくる。バカにするな。私の命を弄ぶな。握りしめた手の指が食い込んで血が流れる。痛みを感じる。冷たい空気も、湿った風も、木々の匂いもちゃんと感じる。


 ナビィが飛びついてくる。ハクも飛びついてくる。ブランもティダも、そしてロリィとエリも。ブラッドにベルまで。ベビーズはハクの背中で伸びをしている。私は順番にみんなを撫でる。負けてなんかやらない。もう使いまわされるのは嫌だ。


『アル!』『アイリ』『ご主人』『人の子よ』『パパン』『パパン』『アール』『ピィ』

 最後はリツだよね?でその前のは誰?ってハルか…。

「イル…」

「アイル…」

「「アイル!」」

「この世界を壊す…」


『ふはっはっはっ…それが良いな。調子に乗っているアリステラなど知った事か。神獣に聖獣に雷獣に幻獣に…精霊王までいる。勝ち目はある…そうだろ?神聖の森の管理者よ…いや、アイルの監視者かな』

『僕の意思ではないよ…それに監視ではあるけど、アイルではなくてアリステラの方。ユーグ様がね…』

『なるほどな、創造神は世界樹を敵に回したか』

『僕はね、この子を守りたいんだ。だから…アリステラの監視を監視してる』

『ならば同志か?』

『世界を壊されるのは困るけど、創造神を排除するなら同志だよ…あれはやり過ぎだ』




敵の敵は味方…


*読んでくださる皆さんにお願いです*


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