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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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276.独白

(私は救えなかったその子を…その子の体を食べました。せめて肉体だけでも、一つになりたかった。その子の魂は輪廻の輪に入って新しい命となった。

 そして、私は見つけたのです。その子を。私を逃してくれた清らかなままの魂のその子を)


 そこでグレイは一旦、間をおく。しっぽは緩く振られている。


(だからその子に贈り物をしました…)


 その贈り物ってもしかして…?


(あの鉱山の奥、その下が空洞で地下水が流れているのを知っていたんです。岩庇も…あの子の想いも。だから贈り物をしました)


 ダイヤモンド鉱山は私ではなくその子への贈り物。そして、多分私自身も。その子の名は?


(ローレンス…)


 ローレンス。そう呼んでたの?いや違うよね。その子はきっと。


(ロリィ)


 あぁ、やっぱり。そうだったのか。グレイは色々分かっていて?


(もちろん、アイル様への贈り物でもありますよ。ミストを拾ってくれたあなたへの。でもそうですね…ロリィへの贈り物です)


 そうだったんだね。なんか納得したよ…。グレイによるものだったのか。


(アイル様…あなたは無になって消えることを本当に望みますか?)


 分からない…もう何も分からないよ。


(死ぬことを考えているアイル様の孤独はきっと誰にも理解出来ない。でも無になりたいと思っている、それは生きる事を諦めていないからです)


(何のこだわりもなく、死にたいと思うのならもう今頃は消えています。あなたは消えたいほど苦しいけど、どこかで生きたいと願っている…無になりたいと思う事こそが、あなたが生を望む証拠です)


(人は賢い。考える力がある。だからこそ迷う。我々は生きるか死ぬかの二択です、常に。生きる事を諦めたら即死神が魂を刈り取ります。

 そもそも生きる事は当たり前で、望みですらないのです。生きられなければ死ぬ。それだけ…人はなまじ考える頭があるから悩む。本当はとても単純な事です)



 グレイは静かに私に語りかける。獣は生きる事など考えない。ただ生まれたから食べる。食べることが生きる事。それが出来なければ死ぬ。そう、それだけ。

 悩む要素など無い。

 生きたいか、死にたいか…。



(生きたくて生きられないものもいる。それでもアイル様が消えることを望むなら、仕方ないです。あなたが消えれば、やがてみんなの記憶からも消える。

 あなたがした事は誰かがした事にすり替わり、その存在()()()()()()()()()()()()()事になる。だから残していくものを気遣う必要は有りません)



 そうか、それなら良かった。



(私はそれでもあなたに生きて欲しいと思う。それは自分の為。託した我が子ミスト、名をくれたロリィの想い、敬愛するハク様の気持ち。私は自分の為に、アイル様に生きて欲しい。自分本位でいい、生きるとはこういう事)



 真っ青な目で私を見てそう宣言する。グレイのあり方のような潔い言葉。そんな風に割り切れたら良かったのに。


「グレイ、たくさんの話ありがとう…少し考えたい」


(もちろんです…おそばでお待ちしておりましょう)


 私はまた目を瞑った。沈むような感覚の中でまた静かに心を閉じた。





 アイル様は目を閉じてまた繭に抱かれた。私には生きたいと叫んでいるように見えるアイル様が儚くて。

 アイル様からアーシャ様が飛び出す。



(また眠ったね…どうしてこの子なんだろうね)

(アリステラ様の…)

(本来の運命を捻じ曲げてまで呼んだ子…律の為に)

(こんなにも苦しんで…あちらで生きられたはずの魂を…)

(この子だからなのか…皮肉な事だ。律を助ける為に呼んだ愛理。なのに律はすでに消えて、その再生の鍵は愛理が握っている。

 それも命を掛けた鍵だよ…アイリステラ様の恩情は愛理ではなく、律に向けられている。こんなに愛理は苦しんでいるのに…)



 アーシャ様はそっとアイル様の唇に口付ける。私も体を起こしてその唇にそっと触れる。

 幸せになる為に生きたいと願うアイル様。なのにアリステラ様はアイル様を見ない。複雑な気持ちでアイル様に寄り添う。

 そして、思う。ハク様は今頃どうしているだろうか、そう北へと思いを馳せた。




 自由地帯の森の中で。

 僕たちはテントの中にいた。イルが作ったテント。みんな入っても大丈夫。自動で大きさが変わるから。

 寒くも暑くも無い、適度な温度に設定されている。床も柔らかくて冷気は来ない。

 イルがみんなに持たせているアクセサリーやポーチ。そこ中にはたくさんの食料や食材があった。食べる事に困る事はない。

 お風呂だってシャワーだって入れる。なのに、イルがここにいない。それだけで空虚だ。


 昨日の夜、みんなで客間に集まって眠る事になった。魔力循環をしたいとハク様とナビィが言ったから。

 昨日は毎日飛んでるブランにイルが魔力を渡す為に一緒に部屋に籠っていた。ハク様はそれが羨ましかったのか?

 昨日の夜は部屋に入ると人型になり、イルの服を脱がせて魔力を繋げていた。溶け合うような心地は私も少し経験した。それを全開でイルにするハク様。

 そのうちその体に愛撫をし、ついには体を交わらせた。それはまるで教会の聖なる儀式のように厳かで美しい光景だった。

 ハク様は何度もイルと交わり愛おしげにその体を抱きしめた。


 人と人とのそれではないから、見ててもただ美しいと僕は思うだけだ。エリアスも同様なのか、イルの細い体を見て頬を染めながらもイヤラシサのない視線を向けている。

 ただ、イルがその事を知ったらどう反応するだろうか?恥ずかしいと思うだろうし、いたたまれないだろう。それで済めばいい。良くはないけど仕方ない。

 ただ、今のイルには受け入れられないかもしれない。常に張り詰めた状態で、見ていてこちらが苦しくなるほどだ。

 そんな時に、だ。

 案の定、朝起きて、何があったか知ったイルは独りで部屋から出て行ってしまった。


 その後のハク様の取り乱し様は凄かった。

 箱庭の家の外は大雨。

 みんな居間に集まっていて、しばらく静かに時間が過ぎたけど突然、箱庭から元のテントに戻った。

 箱庭はアイルの魔力で出来ている。魔力を閉したのか?

 ハクはどこかに転移して戻ってきだけど、イルはいなくて。

 切ない遠吠えが自由地帯に響いた。

 イル…どこにいるの?みんな待ってるよ。

 そこに



 シュン



 ユニミがやって来た。

『ハク、人と交わるのなら人の理りに乗っ取らなくてはならない…あの子はあなたの想いを受け止めきれていない』

『でもアルは…』

『あの子は眠っているわ』

『…』

『あの子はあちらの世界で生きられた。それを、その人生を捻じ曲げてまでこちらに転移させられた。恩情はあの子へじゃない…だから、あの子は異物だから。あんなにも脆くて』

『そんな…』

『異物はこの世界に馴染めない…戻る事も出来ない。しばらくあの子に触れる事は禁止よ。今度こそ消えるわ…』

『…アル』



 シュン



 いうだけ言ってニミは消えた。

 異物?恩情ではなかった…。そんなこと。僕はイルを想って切なくなった。



 シュン



 あの子のそばで、守るように寄り添っている銀狼が顔を上げる。


(幻獣様…)

(この子は?)

(話は出来ました…今はまだ)

(そう、辛いのでしょうね)

(私も、あなたもアイル様をいわば利用しています。そしてアイル様はそれに気が付いている)

(賢くて優しい子…)

(連れて行かれますか?)

(そうね…この子はまた前を向いて歩き出すわ)

(ニミ、よろしく頼むよ)

(アーシャ、手先が何を偉そうに…)

(…僕の意思ではない)

(監視でしょう)

(否定はしないよ)

(私たちみんなクズね…この子を利用して。アーシャ…あなた何もしてないわよね?)

(…してない)

(そう、まぁいいわ。あちらに連れて行く)

(アイル様をよろしくお願いします)

(アイル自身はどうでもいいのに?)

(そんな事は…)



 沈黙が落ちる。そして私はこの子を連れて、自由地帯に飛んだ。




愛理は巻き込まれでした…


※読んでくださる皆さんにお願い※


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