275.孤独な朝
私は纏まらない思考の中で温室から出た。精霊たち聖なるものは結局、人ではない。この世界の人に私のことは分からないんだ。
分かり合える、なんて思ってないけど本当に孤独だ。
ふとユーグ様に会いたいと思った。でもやめた。みんな同じだ。人ならざる者。私は人ですらない。
孤独すぎて頭が割れそうに痛む。結局、独りなんだ。どこまで行っても私はこの世界の人間じゃない。孤独感なんで生やさしい者では無い。
ここにいるの事の違和感だ。それは結局、生きている事の違和感でもある。
私は誰…。目が回る。もう全てを拒絶したくなる。もういい、何も要らない…死なせて。
私はそのままハクの縄張りから出て、目に付いた洞窟に身を寄せた。今はとにかく思考が闇に落ちてしまいそう。自分でも危険だって分かる。だから周りから全てを排除して独り籠る。今はそれでいい。もうそれでいい。
律…あなたは生きたかった?私は迷ってしまった。ここは自分の居場所じゃない。それをただ分からせられるだけの生を、律は望むのだろうか?
私は自分の周りを繭で包んで眠りについた。少し休もう。
*******
アル、大好きなアル。昨日はブランと一緒だったから、僕は羨ましくてそして寂しかった。
アルとしばらく繋がっていない。魂の契約。それは絶対的な力を持ってハクを縛る。僕だけのアルじゃない。僕だけなものにしたいのに…。
そんな孤独感もあって、今日もブランと交わるというので混ざる事にした。
もちろん、僕はアルと繋がりたいよ?いいよね…。だって魂が求めるんだから。
みんなで寝る部屋に集まって、僕は人型になってすぐにアルと交わった。魔力が巡ればアルは意識を保てなくなる。
気を失う訳では無いけどね、酔ってるような感覚かな。だから大丈夫。みんなに見せつけるんだ。僕のものだよってね。
ふふふっみんな見てるよ?アルは人気者だからね。でもここにはイーリスはいないから、誰にも渡さないよ?
僕は満足だった。だって僕だけが特別だからね。なのに…翌朝、目が覚めたらアルは真っ赤な顔でナビィから昨日の話を聞いていた。照れてる、可愛い。僕のアルはやっぱり最高だ。
そう思っていたらアルが、何であんな事って。あんな事じゃ無い。大切な事だよ?
だから凄く可愛かったよ、って言ったのに…アルは応えない。何かに耐えるように目を瞑って、涙を流した。
えっ…アル、何で泣くの?アル…?
目を開けると僕にナビィを渡して服を掴んで部屋を出て行ってしまった。えっ何で?アル…何で?
頭が真っ白になる。僕の世界から色が抜け落ちて、アルが振り返らずに出て行った。
アル、ねぇ何で?
お風呂に入ったみたいだ。そこに行っても扉は開かない。体当たりしても全くダメだ。
ここはアルの魔力で作られた空間だ。アルが拒絶したら扉一つ開かないのか?
僕は呆然として扉の前で踞った。体を維持できなくて狼に戻る。ウロウロと扉の前を行ったり来たりして、アルが出てくるのを待った。でもいつまで待ってもアルは出て来ない。
アル?アル…?
それからしばらくすると、全員が大雨の箱庭から強制的に自由地帯のテントに戻った。
全員が呆然としている。アルはどこにいるの?僕ならアルの元に転移出来る。でも、何処にいるか分からない。
アルが頼るならイーリスだ。イグ・ブランカに行こう。
そこに転移すると、まだ朝早かったからイーリスは寝ていた。イーリスの隣にアルはいなかった。ここにいないの?アル。なら何処に?
僕は混乱してイーリスに訴える。アルを知らない?あるが…僕を置いて…アルが。
イーリスは困ったような顔で、でもきっとアルに念話をしている。
でも、さらには困った顔をしてしまう。
「アイが…返事をしない」
そんな…何処にいるの?アイ。僕は温泉に飛ぼうとしてイーリスに僕も行くと言われ、一緒に温泉に行った。
あ…アルの魔力だ。ここにいたの?
温室に入ると
(泣いてた)(傷付いてた)
(慰めたけど…余計に心を閉した)
(孤独に泣いてた)
(殺して、と)
(そして、いなくなった)
(ここを出て行った)
(閉した彼は見つけられない)
アル…。どうして?
「ハク、何があった?」
『アルと繋がった。みんなの前で僕のアルだよって…』
イーリスは驚いた顔で
「体を?」
頷く。
「みんなの前で?」
また頷く。イーリスは絶句した。
「あり得ない…」
ふぅ、と息を吐いたイーリス。
「アイの魔力を感知出来ない…ハク、人にとって…体を繋げる行為は秘め事なんだ。みんなの前で見せるものじゃ無い」
『でもアイとイーリスは僕たちの前で…』
「ハクが人ならその前で繋がったりしない」
『…』
僕には分からない。どうしてダメなのか…。強いものが見せつけるのは力関係を分からせる為。むしろ必要な事だ。何がいけなかった?アルは…どこ?
「繋がれても、交われてもやっぱりハクは人じゃ無いんだな…感性が違う。ハクがしたことは人であるアイには屈辱でしか無い」
そんな…そんな事。だって僕たちは魂の契約者なんだよ?
「ハク、魂の契約をアイが自ら望んだか?」
『…』
「アイには覚悟も、ましてや魂の契約の意味すら理解出来ていない。そんなアイとみんなの前で交わって…それはハクの想いだ。アイの想いじゃない」
僕は何も言えなかった。結局、アルを探す事は出来なかった。魔力の残滓はあるのに、魔力が感知出来ない。閉ざされた魔力は全く感知出来なかった。
僕は落ち込んだままイーリスとイグ・ブランカに戻り、そこからテントに飛んだ。
アルがいないだけで寒々しいテントの中で、みんな固まってどこか呆然としていたのだった。
僕はふとナビィならアルの元に行ける、と気が付く。
ナビィを見ると緩く首を振った。
「ダメだった。アイリの魔力が感知出来ない。だから飛べない。アイリは魔力を、自身を閉している」
そんな…ナビィすら拒絶するほどなの?アル…アル。
自由地帯に物悲しい狼の遠吠えが聞こえた。
(…ル様、アイル様…)
誰か呼んでる?私は独りになりたくて籠っているはずなのに、なんで声が聞こえるの?
(アイル様…)
私は好奇心が勝って目を開ける。そこは眠りについた洞窟ではなくて、白い空間だった。そこに立っている。そして視線の先には灰色の狼がいた。
グレイなの…?
(アイル様…はい、グレイです)
緩くしっぽが揺れる。なんでここに?ここは私の精神世界じゃないの?
(そうです、アイル様の心に話しかけています)
…グレイ、君は何者?
(私はグレイ。ミストと同じ…)
やっぱりグレイも雷獣なんだな。
(お察しでしたか…)
そりゃね?聖獣ですら意思疎通が出来ると知られていなかった。なのにグレイは契約をしていないのに普通に私と話が出来ていた。それに名前。誰かに名を貰っているはず。
(ご明察です…ミストは私に似たのです。私の契約者はすでに亡くなっています。アイル様は、聖獣の魂の契約についてどこまでご存知ですか?)
生涯ただ一度きり、としか。
(それはほんの一部です。魂の契約とは聖獣と契約者の魂の融合です。それは血となり肉となり、聖獣にとっては自分を構成する全てでもある。それ程のものなのです)
…そうなんだね。私はどう理解していいか分からない。
(そして、求め合う魂としかこの契約は出来ません。あなたの狂おしいほどの孤独。ハク様はその事に気が付いて、一緒に背負う事にしたのでしょう。心も体も、離れられない契約の形で)
だからどうしろと?それを聞いて、私はどうしたらいいの?
(昔、まだ小さな女の子がいました。貧しくて痩せ細っていて、生きる事に必死で。その子の父親がたまたま狼を捕まえました。まだ子供の狼。狼の肉は硬くて美味しくない。でも、狼でもいいから肉が食べたい。それ程の貧困でした。
でも女の子はきゃんきゃんと鳴く小さな狼を可哀想に思い、こっそり逃します。逃す時に名前を付けました。助けてあげる、だから私が困ったら助けに来てと言って。
逃したことが父親に分かって、女の子は殴られたて蹴られて…家から放り出されました。生き延びた狼はその女の子を今度は自分の住処に匿いました。
しかし、狼もまだ子供で狩は出来てもそのまま女の子の前に置くだけ。女の子は解体など出来ない。しばらくは木の実などで食い繋いだけど、冬になり木の実が無くなり…やがて女の子は死んでしまいました。
狼は思いました。魂の契約が出来れば、救えたのにと。魂が融合すれば、人として絶えても自分の中にその魂が息づく。しかし交わらなければならないこの契約は簡単には出来ないのです。自分が求め、受け入れられなくては…)
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