273.自由地帯
私の気分が悪いことも含めて、ある意味順調に旅は進んだ。
今日はバナパルト王国を出て自由地帯に入る。そこで野営と言う名の箱庭宿泊だ。
いつまで経っても慣れないんだよね、このふわりとした感覚。
私を気遣ってなのか、ハル、ナツ、リリとリツまで私に寄り添ってくれる。
アイリーンを守っているリツは基本、ロリィの胸元のポーチから出てこない。
もぞもぞしているけど移動中は大人しくアイリーンにくっついている。
でも連日の私の体調不良にさすがのリツまでポーチから這い出してきてくれた。有難い
もこもこたちが膝の上に固まってくれてその温もりが少し私を癒してくれる。
天気が荒れることもなく、きっと上空は冷たい風が吹いているだろうけど風魔法で散らしているからか、寒さも感じずに一見ゆったりとブランは優雅に飛んでいた。
お昼の休憩に地上に降りる。小さくなったブランは私の肩で休んでいる。
気になっていたけど、自分の体調に精一杯で声をかけてあげられていなかった。
ブランをそっと両手で包む。そしてそのほわほわな体におでこを付けて私の魔力を細く流していく。
疲れが取れますように、辛くなりませんように。
目を瞑っていたアイルには見えなかったがブランが一際強く水色に輝いたのをハクやナビィ、ロルフにエリアス、ブラッドとリベールも見た。
そうなのだ、ハクもナビィも小さくなっているとはいえ大人が5人も乗っている。軽いわけがないのだ。
それぞれが風魔法で体を軽くしていようとも、飛びながら風魔法で空気抵抗を少なくし、揺れないように細心の注意を払って飛んでいる。
体だけではなくずっと神経も張りつめて飛んでいるのだ。疲れないわけがない。
それでも大好きなご主人の為になるべく静かになるべく早く。
そんな気持ちで必死に飛んでいるブラン。
もちろん私だって気が付いていた。それでもブランが弱音を吐かない内は知らないふりをしていた。
だってブランはもう立派な聖獣で、だからきっと。
でもさすがに辛いはず。乗っているだけの私にだって分かる。だから問答無用でね?
私の魔力がどれだけ力になるのか分からないけど、少しでも楽になれたら。
大好きだよ、ブラン。いつも控えめだけどすごく私のことを想ってくれるブラン。
せめて今だけでもゆっくりと休んで。
ブランが羽を動かす。顔を上げると
「ご主人様…今日は一緒に寝て交わって」
「まだ下手だからかえって疲れちゃわない?」
「大丈夫…ご主人と(魔力が)交わりたい。たくさん(魔力を)感じさせて…」
やっぱり大分弱ってるよね。
「うん、分かったよ。一緒にお風呂も入ろうね?たくさん甘えていいよ、ブラン」
「ありがとう」
きっとお腹も空くだろうし、昼食はワイバーンステーキをドドーンとね。
動いていないはずのハクとナビィ、ベビーズが大はしゃぎだった。
そしてつかの間の休憩の後、またブランが飛ぶ。心なしか朝より力強い。
たくさん無理させてごめんね、背中の上からそっと撫でる。撫でながら魔力を渡す。
ありがとう、ブラン。感謝の思いを込めて。
そして夕方になる前に無事予定通りに国境を超えた。
ここからは自由地帯。自由ではあるけど無法でもある。そこは紙一重だ。
エリたちはこの無法地帯をひたすら馬で駆け抜けたんだね、凄いな。
私が黙って物思いに沈んでいると
「イル、どうした…?」
ロリィが私を後ろから支えながら聞いてくる。
「エリはここを馬で走り抜けたのかなって思って。自由で無法。どんな思いだったんだろうって」
エリは振り返ると
「必死だった。とにかく、1人でも多くバナパルトに…白の森にって」
毒に侵されて動かない体を押して、食うや食わずで走り抜けたエリ。それで救われた人たちが今、イグ・ブランカで暮らしている。まだ裕福ではないかもしれないけど、少なくとも食べるものに困らず、寝る場所があって働ける。
それだけでもエリが頑張った意味がある。
「エリはあの人たちを救ったんだね、王族としての権利は行使していないのに、立派に義務を果たして…」
1人で逃げたって誰にも分からない。自分だけが生き延びることは出来たかもしれない。もっともあれだけの毒だ。どこかで力尽きたかもしれないし、色白で端正な顔立ちのイズワットを飾りにと欲しがる貴族がいたかもしれない。
そんな悪意から、エリは自分もそしてみんなも守ったんだな。
エリとキリウスが走り抜けたから救われた…自分で自分の道を切り開いたんだ。だから白の森が受け入れた。
私は遠くを見る。私が切り開こうとしている道は自分だけを閉ざすかもしれない。それでも、開かれる道を、進める人がいるのなら。
私自身が諦めたら、きっとハクやブラン、ナビィは私と運命を共にするだろう。私だけの命ではないから。
そう思うと誰かの命を背負うのはやっぱり怖い。自分だけなら、諦められるかもしれないけど。誰かを背負った途端に重圧がのしかかる。
その重圧に耐えて、エリは今ここにいる。出会えて良かった。救えてよかった。改めてそう思った。
「違う、僕は逃げた。みんなを捨てて自分だけ。救えたのはほんの砂粒程度の人だけだ。立派なんかじゃない」
エリはどこまでも王族なんだな。みんなを救う事なんて出来ないのに、それでも救えた人よりも救えなかった人を想うなんて。私は自分すら救えないかもしれないのに。
「でも助けたよ?それが全て。みんなを救うことなんて出来ない。救えなかった人より救えた人を見て。みんなエリを慕っているよ。知らない国で知らない場所で、彼らはきっと凄く大変な思いをしている。それでもエリがいるから、頑張れる。エリはみんなの希望なんだよ。その存在がね」
「アイル、それはアイルも同じ。イーリスやネール(ネーシア)や、もちろんハク様たちも…ロルフや僕だって…君のことを慕っている。君の存在こそが僕の希望だよ」
どこまでも真っすぐな目で言うエリ。そういうエリだからキリウスだって命を掛けて付いて来たんだよ?でもありがとう。エリのその言葉は凄くうれしいよ。
それぞれの想いを乗せて、ブランは飛んで行く。
そして茜色に空が染まる少し前に、地上に降り立った。そこは小さな森の入り口。少し入ったところで野営をすることにした。周囲に人の気配はない。
あまり人には会いたくないからね。普通の旅人であれ、探索者であれ。野盗なんてもっての外。
周りに人がいないとはいえ、カモフラージュにテントは張っておく。
ブラッドとベルはここで普通に野営をして過ごす。全ては話せないけど、ちょっとテントに籠るよと伝えて。流石に誰もいないのは不自然だから。
代わりにほかほかの食事を渡しておいた。
私たちはテントに入ってから箱庭に移動。
シュン
箱庭でも夕陽が見れる。
さぁ、みんなお腹空いてるよね?私はね、ブランの背中で色々と放出したからね?食欲がない。
だからみんなの為に焼く肉だよ!私はね、その横で芋と魚を蒸して食べるんだ。
後は温かいスープ。今日はまろやかな牛乳をベースにしたスープだよ。
芋とキャロッテ(人参)にキャベチ、ベーコンとウインナー(自作new)も入れてブイヨン(自作new)と塩コショウで味付け。小麦粉を入れてるからシチュー風。
これなら私でも食べられるからね。
みんな大はしゃぎで、私はお肉を焼くのに大忙し。べビーズにはあまり味が濃くない部分を小さく切って。
他の子は大き目のサイコロ。ロリィとエリには一口大のテーキにして。
賑やかなお外で焼き肉はこうして満足で終わった。
そしてみんなでお風呂。全員だよ?みんなの体をわっしゃわっしゃ洗ってね?アイリーンも洗った。お湯につけてもいいらしいよ?胎教みたいなもんかな。
もちろんロリィとエリは髪の毛も洗って仲良く湯船につかる。
ハクたちは熱いかなって思ったけど大丈夫みたい。べビーズたちはハクの背中に全員集合。アイリーンはべビーズたちが抱えて守っていたよ。
みんなの兄弟だからね?
で、お風呂から上がったら全員でリンゴジュース。今日は牛乳じゃないよ?
ソファでくっついてまったりしてから私とブランは先に寝ることにした。
私の部屋で人型になった全裸のブランがね…
「ブラン、服着ようよ?」
「だってすぐに脱ぐし」
えっとね、服を着てても出来るでしょ?
「嫌だよ、アイルとぴったりじっくり交わりたいのに…素肌じゃなきゃ嫌だ」
魔力だからね?交わるのは。素肌じゃなくても出来るよ。
「素肌の方が心地いいし、より深く繋がれるから」
うん、魔力がね。まぁハクも素肌を触れ合わせた方がいいって言うよね?でも魔力の流れに素肌は関係ないんじゃ?
「ご主人は、僕と裸で抱き合うのが嫌なの?」
「ブラン、嫌とかそんなことないよ。ただね、魔力循環だからさ」
ついには泣き出してしまった。
「え、ブ、ブランちゃん?泣かないで。大丈夫だよ、その素肌がいいよね。うん、ブランと裸で抱き合いたいよ?うんうん、服は着てもすぐ脱ぐよね」
まつ毛に涙を付けて潤んだ目のまま私を見るブラン。
「ほんと?嫌いになったりしてない…?」
「そんな訳ないよ?ブランが大好きだよ、全部全部大好き。もちろん素肌も」
恥ずかしそうに笑って
「良かった。嫌われたかと思っちゃった。僕の裸なんて嫌いなのかと…」
言ってない、そんなこと言ってないよ。
「大好きだよ、いつだって。ブランのことは全部」
「じゃあ抱いて?たくさんたくさん…」
抱くっていうか魔力循環ね?
その後で、ブランから迫られて溶け合うような時間を過ごした私だった。
「アイルは下手だから、僕に任せて」
って言われてね?魔力循環の話なんだけど、なんだか憮然とした私だった。
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