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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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272.最後の夜

 箱庭に移動する。

 まずは夕食の準備かな。今日はキムチ鍋。まずは白菜を洗って水気を取る。

 そこから白菜とチリソース、鷹の爪を交互に層になるように重ねる。

 陶器の壺に重ねて入れると重しをしてポーチの男子更衣室(時間促進)に入れておく。


 土鍋を取り出してお湯を沸騰させて鶏ガラスープの素を投入。

 ネギと白菜を入れて煮込む。

 野菜がしんなりしてきたらオークのバラ肉をスライスしたものを入れる。

 ここでポーチから程よく漬かったキムチを取り出してお鍋に大胆に入れる。

 そして火を弱めると合わせ味噌を投入。これこそが味噌。味噌だけにね!


 唐辛子の辛みが中和されてまろやかに美味しくなる。

 最後にお豆腐を入れたら完成。

 後ろで私を抱きしめながら見ていたイリィの喉がゴクリとなる。

 そりゃね、もういい匂いが充満してるからね…。


 椅子に座って(ぴったりと隣り合って)、いただきます。

 でも猫舌な私はイリィの口にキムチ鍋が吸い込まれるのを眺めている。

 そのきれいな唇にお鍋の汁がついてなんだか色っぽい。あぁいかん、イリィといると思考が変態寄りになる。

 だってさ、全ての仕草がね…絵になるんだよ。美形はたとえゲップをしても美形なんだ。うんうん。

 よし、そろそろ食べられるかな。はふっ、うん美味しい。


 イリィは私を見て笑う。

「美味しいよ、アイが作るものは全て…」

「良かった。イリィに食べて欲しかったんだ、故郷の味だから。覚えていてね」

「アイの事なら何でも覚えているよ?」

 微笑あって食べる。美味しい…大好きな人とお鍋を囲む幸せをひたすら噛みしめながら。

 食べ終わった…。

 そのままイリィは私を抱きしめる。耐えるような顔で。ごめんね、そんな顔をさせて。

 でもね、どんな形であってもここに戻るから。待ってて。


 片付けをしてお風呂。今日は温泉に行くよ。しばらく行けないからね、温室の精霊たちにも音楽を届けて行こう。

 でもやっぱりどこかでお別れだって思ってる自分がいて…奏でたのは、別れの曲。さよなら…愛しい人。僕が愛したのは、そのままの…あるがままの君だけ。

 泣きそうな自分を奮い立たせて吹ききった。

 一瞬静まり返った温室で、その後優しい光が舞った。


(優しい音色)

(悲しい音色)

(大丈夫…)

(泣かないで)

(待ってる…)

(忘れないで)

(ずっとここにいる)

(望まれているから)

(生きて)(生きて)(生きて)(生きて!)


 まるで叫びのような精霊たちの声が木霊する。

 うん、そうだね…待ってて。

 私は泣かないよ、だから笑ってイリィとお風呂に入る。月明かりに照らされた温泉でイリィのきれいな体をしっかりと目に焼き付ける。

 大丈夫、どうしたって帰らなきゃね。どんな状態でも…ここに。


 でもね、裸で抱き合うのはやっぱり刺激的で…

「外で…刺激的だよね?ふふっ」

 妖しい色気を纏ったイリィはもう圧倒的に美しくって…外って背徳感あるよね?


 やっとお風呂から上がるとフルーツ牛乳。

 そうそう、フルーツと言えばフィーヤで北部にしかないっていうリンゴに似たフルーツが売ってたんだ。

 もちろん大人買いしたよ?

 リンゴジュースはそのままでも美味しいからね。

 でもこっちの世界では果物をジュースにするっていう習慣がないみたいでね。

 イリィやロリィにも驚かれた。凄く美味しいって。

 繊維質も豊富だしリンゴジュース美味しいよね?こっちのは全部に蜜入りだよ?凄いでしょ。


 で、リンゴのフルーツ牛乳。これも凄く美味しかった。

 そして箱庭に戻る。

 縁側に並んで座って浴衣を着て、何故か箱庭にはちゃんと月が出る。

 私の心の風景を映しているんだね。

 イリィの記憶にいっぱい私が残りますように…またここに2人で並んで座って笑いあえますように。


 その後は手を繋いで私の部屋に行く。

 入り口で何となく部屋の中を2人で眺めた。

 私はイリィの手を引いて部屋に入る。イリィはまるでそこに入るともう二度と入れないと思っているみたいに泣きそうな顔をしている。

 いつだって入っていいのにね?

「イリィ、覚えていてね…」

 泣くのを我慢した顔で笑ってくれた。私の大好きなイリィの笑顔。

 そうして二人で過ごす夜は優しく、残酷に過ぎて行った。


 朝、目が覚めると淡い金髪。その体が震えている。私は気が付かないふりをしてその髪を撫でる。

 ごめんね…私じゃなければイリィはいつでも笑っていられたかもしれないのに。

 ごめんね…イリィだけの為に生きられなくて。

 どうしても切り捨てられなかった。でもそのせいでイリィにこんな想いをさせている。

 だからといって出会わなければ良かったとは思えない。こんなにも大切だから。

 自分の生に精一杯いしがみついて、運命に抗ってみるよ。

 その為の、君は道しるべだからね。

 出会ってくれてありがとう、愛してくれてありがとう。

 大好きな人、愛してるよ。たとえ私が私じゃなくなっても…ずっと、ずっと。




 イリィはもう泣き顔を隠すことなく私の前で泣いた。

「戻るからね、もし私が私じゃ無くなっても、見捨てないでくれる?」

「アイが、アイなら…いつだって、アイが」

 言葉にならなくてもその気持ちは伝わったよ、ありがとう。


 ゆっくりと起き上がる。

 居間に行くとハク、ブラン、ミスト、ナビィ、ミアにニミ、イアンとベビーズが勢ぞろい。

 リツもいたよ、ロリィが気を遣ったんだね。

 みんなで朝ごはん。

 ふふふっ美味しいね、優しい時間が過ぎて行った。

 さぁ、今日飛べばもう国を出る。

 イリィとこうして過ごせるのも今日まで。

 さよならは言わないよ?また一週間後にねって言って。おでこにキスをしてイリィはイグ・ブランカに戻って行った。


 宿を出るとジークリフさんとエルが待っていた。

「よう、もう行くんだな」

「朝の挨拶が先、おはよう」

「お、おはよう。おかんか、ロルフ」

「違う、常識…。世話になった、いや世話した、かな?」

「お、おう世話になったのはこっちだな、ありがとよ。あの混ぜ器な?革命だぞ」


 実は美味しいリンゴジュースを飲めるようにミキサーを作ったんだよね。

 挽肉用のミルサーは登録済みだけどジューサーは初。

 もっとも原理は一緒だから製品登録だけね。

 そしたら革命だ!って言われて、原理登録してるしミルサ―の方が応用が利くんだけどね。

 すごく感謝されたんだ。


 イグ・ブランカでもリンゴを育ててもらうよ?

 低温温室なら栽培できるからね。

 もちろん、ミキサーはソマリに渡してってイリィに託したよ。ほら、イリィはお料理がちょっと苦手だからね。


「俺からの贈り物だ、受け取ってくれ」

 ジークリフさんが差し出したのは抱えるほど大きなアイスブルーストーン。そして布。

 その布はフリースみたいな素材で出来ていて、私もそこそこ買ったんだけど嬉しいな。

 だって、きれいな色に染められた布だったから。

 多分、特注だと思う。

「ありがとう」

 素直に受け取る。

 エルは私に向かって何かを差し出す。これは?

「精霊の加護がついた剣だ。きっとお前を守ってくれる」

 えっ、それって凄く貴重なものでは?

「たまたま手に入れたけどな、売るのも憚られて…だからお前に託す。大切にしてやってくれ」



(先祖代々伝わる家宝 アイルの為に手放すことにした)



 そんな大事なものを?どうやって報いれば…あ、それなら。

「ありがとう、剣に負けないように頑張るよ」

 私は受け取りがてらエルに軽く魔力を流した。癒しの魔力だ。彼自身を覆うように…。

 そして背後にいた馬たちにもそっと触れる。最大限の防御を、彼を守って。

 私の目には水色に光ったのが分かった。良かった、これもう大丈夫。


「馬車で門の外まで乗せていこう」

 ジークリフさんの言葉に頷いた。

 一緒に乗り込む。いい町だったな。門から外に出たところで馬車から降りた。

「気を付けて…また会えるのを待ってるぞ」

 私たちを見てそう声をかけたジークリフさん。

「お元気で」

 その言葉にこの町の発展を願って、私たちは町を後にした。


 彼らが見えなくなると大きくなったブランに乗ってパナパルと王国の北端を目指す。

 国境を越えて、いよいよ国を出て自由地帯に入る。いつものように前後左右を固めてもらったよ。

 で、ブラッドは最後尾で無双感増し増しだ。ベルは相変わらず飄々としながらも空の旅を楽しんでいる。

 頬を撫でる風を感じながら、いつものように気分悪く…ハクにもたれかかった。

 やっぱり慣れない。



 こうして私たちはバナパルト王国を北へ北へと進んでいった。




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