269.アイスブルーストーン
あれ…更に面倒になった?困ってロリィを見るとため息をつかれた。
どうしてこうなった?
「きれいだよね?」
「新種だよ…名前」
名前付けるの?だって加工品だし。
「鉱物としてではなくて製品として、だね」
あぁ、製品名か。うーん。チラッとエリを見る。首を傾げて見るエリ。もうそのまんまで良くない?
「アイスエリー」
エリが驚いた。その名前の由来が分かったのだろう。
「ん、いいね」
「おう、きれいな響きだな」
「登録を!」
でもこの後が大変だった。だってね、この製法。私以外誰で実現出来なかったから。永久凍土とか知らなければね?難しいよね。
ロリィには後で共有しよう。むしろエリの方が想像しやすいかな?
ジークリフさんはシャツをまくったまま固まった。
「こ、これは…」
もうジークリフさんのでいいんじゃない?
「ジークが使えばいい…イルが作った物は価値が高い…家宝になる」
ならないでしょ?
(アイルが作ったアイスエリーの記念すべき最初の作品 高純度の銀とアイスエリーの組み合わせ サファイアもびっくり…)
…ジークリフさん、使ってね?
割れた腹筋が揺れてる。シャツを降ろすと
「ありがとな、特産品としてなんとか作れるように努力する」
「侯爵家の依頼だとしても、色々と集めて貰ったし。いる間に作品を作って納入する。後はアイスエリーへの加工かな。ある程度なら作っていくし、作れるようにジークリフさんに教えるから。それと、さっきのミーソとあとは紅茶に入れたヤツ。色々と教えるよ。ミーソは製法登録するけど、ここは免除するから好きに使って」
「…助かる。ここらは冬になると産業がなくてな。実際に生活は苦しいんだ」
「アルミの話は聞いてる…?」
ロリィがジークリフさんに聞く。
「ん?いや、何だそれ」
やっぱりまだ広まって無いのか。登録したのがナルダだからな。ナルダも宣伝するより自分たち用に作るのに忙しいだろう。
ロリィがポーチから塊を出す。ジークリフさんは渡されたそれを持って驚いている。
「軽い…?」
「新しい金属、軽くて加工がしやすい」
「なん、だと…?」
「扉とか窓枠に使う。機密性が上がって隙間風が防げる…」
「どこで採れる?」
「イグ・ブランカ…白の森周辺の空白地帯に、小さな町が出来た。そこでしか採れない」
「まとまった量が欲しいが無理か…遠い」
寒さの厳しい地域ほど欲しいよね。うーん…。
(イアン、聞こえる?)
(はーい、ご主人…聞こえるよぅ)
(アルミをね、フィーヤって言う北の町まで運ぶ方法ある?)
(地中で繋がってるから、僕なら何とでも出来る!)
(どうやるの?)
(僕の眷属がその辺りにもいるよ。消滅寸前で生き延びたんだ!だからその近くにアルミを輸送出来る)
(良く分からないけど、そっちのアルミをこちらに移せるんだね?)
(そうだよーまだまだたくさんあるし、ご主人の復元があるからほぼ無限だよ!)
(…復元て何?)
(ご主人様の回復魔法だね…)
(採った鉱物が復元するの?)
(そうだよー)
(…分かった…イアン、また呼んだらアルミをこっちにお願いな)
(はーい)
さてと…ロリィがこちらをじっと見ている。
「少し休憩…5人にして」
「おう、そうだな。気がつかなくて。夕飯は?」
「良かったらさっきの香辛料を使った食事を作るけど、用意できたら一緒に」
「それは助かるな!調理道具は?」
「後でどこかの厨房を借りたい」
「なら試作室のを使ってくれ。後で案内する」
こうしてみんなが部屋を出て行った。
「イル、アルミの事をイアンと話したの…?」
何で分かるの?
「彼らのために、アルミを輸送出来ないかと考えたよね?言ったよ?考えてることがなんとなく分かるって」
考えたよ。
「で?」
「イアンの眷属がここら辺にもいるから、運べるって。なんか地中は繋がってるからとか?」
「なるほど…輸送の常識が変わるね…イル」
「…」
「まぁ、彼らの為にそこは仕方ないね…。で、アイスエリーは?」
「ビクトルがね?水分が多くて脆いって言うから。凍らせた?」
「溶けない…」
「溶けない氷だよ…」
「ロルフ、イグニシアの北部は氷だ。夏でも溶けない。アイルはそれを再現したんだと思う」
やっぱりエリは分かるのか。
「ロリィ、溶けないんだ。氷の周りは溶けない温度で固定する。だから永久凍結…出来るよね?」
ロリィはアイスブルーストーンを手にとって目を瞑る。口元が僅かに動いて、長いまつ毛が揺れる。
ピシッと僅かに音がして…出来た。やっぱりロリィは凄いや。
隣でエリも同じように凍らせた。
「ほら、出来たよ?」
「…考えつくのがね?」
それはビクトルだからさ。
「アルミの件は僕からジークに伝える」
それを横で見ていたブラッドも一発で出来た。ベルも同様に、だ。
「魔法はそれなりに、使える」
「僕もそれなりに…ね」
ロリィがほんの少し拗ねてて可愛いかった。
しばらくして部屋に戻って来たみんなに、ロリィが伝える。
「方法は言えない、色々と。でもアルミはかなりの量をこの町に渡せる」
ジークリフさんはロリィを見て私を見て、くしゃりと笑った。
「色々な?承った。恩にきる…ロルフ」
「僕じゃない…」
私でもないよ?
ジークリフさんはロリィを見て
「お前、変わったな。人になんて一片の興味も無かったのによ」
「何故か、分かるよね?」
ジークリフさんは私を見て頷いた。
「全くだな…」
さて、なんの事やら。そっと目を逸らした。
「厨房…」
うん、そうだったねロリィ。試作室と言う名の部屋に移動する。その名前の通り、新しいレシピなんかを作るための部屋だって。
早速ミーソを貰う。白味噌も用意して貰ったよ?
でね、ここで使うのはオークのモツ。ビクトルによると凄く美味しいらしい。
臭みを取るための下茹では必須だけどね。
私は赤味噌と白味噌を大胆に混ぜ合わせた。風魔法で満遍なく。
で、下茹で前のモツを取り出す。
ロリィとエリ以外の3人は顔を顰めた。分かるよ、気持ち悪いもんね。
「オークの胃…洗浄してある。これをぶつ切りにしてお湯でゆがく。塩を入れて臭みを取る」
ツヤツヤふっくらしたモツの出来上がり。
で、ミーソを沸騰したお湯に出汁を入れて少し冷まして土鍋に入れる。キャベチは投入済み。
箱庭で作った大豆から作ったお豆腐も投入。そしてモツ。
グツグツと煮込む。煮込みすぎると固くなるから味が染みるくらいで火を止める。
器によそって配った。
「オークの胃と豆から作ったものとミーソ、それに自家製の調味料で作ったお鍋」
簡単に解説して実食。私は猫舌なので、冷めるのを待つ。3人はグロい見た目に躊躇してるのか、固まってる。ロリィとエリにブラッドとベルは全く躊躇なく口に運んだ。初めてなのにな?
ロリィとエリの頬が僅かに色付く。美味しかったみたい。良かった。ブラッドとベルも顔が綻んだ。
4人はパクパクと食べると器に残ったスープもスプーンで飲み干した。私はやっとふうふうしながらモツを口に運ぶ。
うん、プリッとしてて美味しいね。キャベチは甘いしお豆腐はなめらか。合わせミーソもいい味だ。
ロリィとエリ、ブラッドとベルが揃って器を差し出すので、おかわりをよそう。やっと3人も意を決して口にいれる。
パクリ…ガツガツ。
えっと…熱くないの?凄い勢いで食べてる。あ、だから…むせるよそりゃ。落ち着いて食べて?
スープまで飲み干すと
「「「美味い!」」」
ふふっ味噌もつ鍋さ…。白味噌だけでも美味しいよ?
ただね、出汁がないとこの味にはならないけど。
みんなが何度もお代わりをして具がなくなった。そこにうどんを投入。シメだよ?普通の卵でとじて出来上がり。そちらもロリィとエリ、ブラッドとベルはどんどん食べる。3人は迷いながらもパクリ。
「「「美味しい!」」」
良かった。私はまだ気分がね?でたくさんは食べられなかった。
食べ終わるとみんながため息をついた。
「こりゃ凄いな」
「この鍋?は冷えないんだな」
「ミーソがここまで美味しくなるとは」
「鍋は製法登録済み…で、白い麺もね。ミーソのスープはね、秘密な調味料が入ってる…」
ロリィが説明する。
「鍋とその白い麺の製法は買いだな…で、ふわふわした白いのは?」
お豆腐だね、あれは新作。
ロリィは私を見て
「登録してない…欲しい?」
でもお豆さんが無いと出来ないよ?あ、ミーソがあるから大丈夫なのか?
「いいよ、登録」
「後な、あのプリッとしたヤツ。あれは胃、なんだな?」
「うん、洗浄して使う。製法登録する?ここのギルドだけ特例に、するよ…」
ロリィの提案に食いついた。
「頼む!」
「なぁ、アイル…あのミーソに入れた調味料は?」
あれは登録してないよ。ソマリしか知らないし。でも味噌鍋には欠かせないよね。うん、よし…ここ以外には非開示にして製法登録しよう。あ、もちろんダナン様とシスティア様には教えるよ?
「非開示で登録を…ここは特例で開示する」
「助かる!あれがあったら寒い冬も乗り越えられる…それから、紅茶に入れたのは?」
「これ…」
私がポーチから出した瓶を見つめる。ジークリフさんたちみんなが鑑定待ちかな?
「リル草…この辺には無いな」
「ゼクス周辺にしか生えていない」
「そうか…」
明らかに落胆している。温室なら育つのでは?
(ロリィ、温室なら育つよ?)
(温室?)
(あったかい箱?囲うだけじゃなくて、火魔法で温めれば)
(イル、それも新しい発想…植物の冬用の家、だね?)
(そうだよ…)
「ジーク、方法がある」
イリィが声をかける。私はポーチから取り出したアルミから温室の骨組みである枠を作って、そこに綿と不織布を重ね貼りした物で覆う。簡易温室だ。
3人は私の手元を凝視した。
「この中に植えれば、冬でも育つ。中の温度は25度に保って…」
「どうやって?」
「火魔法で熱だけ…常駐で」
「いや、意味が分からん」
「燃やさないで、熱だけ…。こう」
火魔法で熱だけを閉じ込めたアルミの箱を作る。ほんのりと暖かい。
ジークリフさんに渡そうと手を出したらロリィが奪った。観察してからジークリフさんに渡す。
「これは!」
※読んでくださる皆さんにお願いです※
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪




