268.ファーヤの特産品
馬車は20分ほど走ると止まった。
ジークリフさんが飛び降りてロリィに手を差し出す。その手に掴まって優雅に降りるロリィ。そして私の手を握って降ろしてくれる。まだ気分が悪いままだから僅かによろけると素早くロリィが支えてくれる。
エリもブラッドも降りて、ハクとナビィも飛び降りてみんなで目の前の建物に入っていく。
多分、商業ギルドかな?雰囲気が。
裏口の馬車寄せから入って少し大きな会議室に入る。そこには色々な商品が置いてあった。
何だろ?宣伝?売り込みとか…?
部屋の中には2人いて、見るからに商人と見るからに探索者。ギルマスかな?
「来たぞ、お待ちかねの人物が」
ジークリフさんが言う。ロリィを待ってたのかな?
「違うよ、イルだよ…」
私?
「あー改めて自己紹介だな。俺はここファーヤを治める侯爵家の次男でジークリフ・ダナフォスターだ。で、そっちのいかにも商人がエラスノ、こっちのいかにも探索者がリバーテイルだ」
「初めまして、エバルデル伯爵、そしてゼクスの救済者、ナルダの救世主様方。私は商業ギルドのマスターでエラスノと申します。以後、お見知り置きを」
「初めまして、エバルデル伯爵様方。お噂はかねがね…探索者ギルドのマスターでリバーテイルと申します。よろしくお願いします」
エラスノさんは細身のおじさまで、キッチリと体にフィットする服を身につけている。
リバーテイルさん、川のしっぽさんはなかなかマッチョなおじさまで顔にキズがある。どちらも北部の人らしく色白だ。
ちなみにジークリフさんは背は高いけど細身だ。肩幅はがっしりしてるから頼れるお兄さんって感じ。長めの金髪を背中で括っている。
でも救世主って何?
「座ってくれ」
私を挟んでロリィとエリが座る。ブラッドはエリの隣で、ベルはロリィの隣。ハクは私の膝でナビィはロリィの膝だ。
「呼び出しはアフロシア侯爵家とカルヴァン侯爵家の依頼だ。それぞれから依頼があってな。あーアイル?」
私を見る。フードは外していないけどね。
「ここは安全だ。フードは外してくれ」
フード以外の認識阻害はどうしよう?ロリィを見ると頷いた。
(外していい、よ)
フードを取って認識阻害も解除した。
私を見てみんなが息を呑む。
「これはまた、珍しい色だな。隠すのも道理だ…。でだ、両家からお前に渡して欲しいと依頼があってな。この辺りの特産品だ」
「説明は私が。まずは香辛料ですな、ジンジャー。これは他の領にもありますが、こちらの物は最上級です。そして、こちらはチリ。辛味のある香辛料で、寒い地域では重宝します」
生姜と鷹の爪だな。どちらも他で買えない事はない。でもやっぱり嬉しいな。
そして次にエラスノさんが手に取ったものに目が釘付けになる。
「こちらはミーソと言います。豆を発酵させて作るフィーヤの特産品です。野菜を付けて食べます」
えっ、野菜に付けるだけ?
(ミーソ アイルの世界では赤味噌 白味噌も少ないが作られている)
何だと?合わせ味噌も作れる。でも野菜を付けるだけって?
(こちらではスープにする習慣がない)
あぁ、出汁がないとただの濃い色の汁だもんな。出汁なら作ったからあるよ。
魚の骨から作ったからね。カツオ出汁風とアゴ出汁風だよ。
これは広めなくては、私の使命だ!キリッ。
私の目の色が変わったのをロリィは見逃さなかった。
「イル?」
「後でね…」
小さな声でやり取りをした。
エラスノさんは更にいつくかの商品、多分ソースと多分焼き肉のタレ風な調味料も見せてくれた。
大人買いしよう、と心に誓った。
「何かお望みの物がありますかな?」
少し食い気味に
「全部、特にミーソとタレは大量に欲しい。売れるだけ売って」
それを聞いたエラスノさんはニヤリと笑うと
「両家からの贈り物だそうですよ?」
えっ?贈り物?私に…嬉しい。思わず頬が緩む。するとロリィが私にフードを被せる。ん?ロリィを見ると
(そんな可愛い顔は人に見せちゃダメ)
何故かエリは更に私のフードを深く被せた。
「そんな顔はダメ…」
良く分からないけど?貰えるなら嬉しい。でも買えるだけなんて結構な金額にならない?大丈夫かな。
「ゼクスは少し前に大雨でな、たいへんな被害があった」
ジークリフさんが教えてくれる。そう、なの…?
「それなら、貰えないよ」
僕の言葉は丸だと無視して
「その時にな、キビサンドやサバサンド、乾燥キビスープが活躍したんだと。更に、円外分離器で出来る透明な方の液体。製法開示をしなかった方だ。で、余ってた硬い魔獣の肉を大量に安く仕入れて、避難民に配布したんだとさ。そのお陰で町は救われた、と」
私が登録したから?
「イルがいたから…だね」
もロリィ。
でもやっぱり貰いすぎだよ。どうしよう…あ、それならば。ミーソの食べ方とか出汁の作り方。両家には使用料と製法開示の料金を免除したらいいかな。
ミーソスープは絶対に売れるから。これから寒くなるからね、きっと困ってる人も美味しいスープで温まる。
「分かっ!有り難く…貰う」
「食べ物以外にもあるからな、それはリバーテイルに任せる」
筋肉さん、もといリバーテイルさんは箱から何かを取り出す。うわ、凄くきれい。
「これが領地の特産品だ…アイスブルーストーン」
半透明な中に青が溶け込んだような色合いと波模様。これって…。
(アイスラリマーだね)
ビクトル、やっぱりそうなんだね。凄くきれいだ。エリみたい。
私はエリを見て
「エリみたいだな…透明で凄くきれいだ」
少し戸惑ったような顔で、でも頬を染めて私を見るエリ。本当にどちらも透明感が半端ない。
ロルフリートはまた無自覚天然に煽ってると思った。
そしてロリィはもちろん、食いついた。
「初めて…実物。欲しい…」
だよね?私も頷く。
「もちろん、用意するぞ。これな、加工が難しいんだ。何かいい方法があれば教えて欲しい」
(こちらの物は純度が低い 水分を多く含むために脆く加工に不向き)
んー、なら水分を分離して固めて純度を上げたらいい?
(透明度が失われるのでお勧めしない 水分ごと永久凍結して硬度を上げるのがお勧め)
なるほどな。
「触っても?」
リバーテイルさんは頷いたので、手のひらに収まるくらいのそれに触る。うん、確かに水分が多いね。永久凍結って簡単に言うけどさ。どうやるんだろ。
永久凍土を想像して、溶けない氷…北極…氷山。
どうだ!
(永久凍結された水分を内包するアイスラリマー アイルが手を加えたので特級 サファイアに匹敵する価値がある)
ぐほっ…げほげほ。突然咳き込んだ私の背中をロリィとエリがさすってくれる。
ハクとナビィは痛い子を見る目だ。
ブラッドとはまたなんかやったな、という目で僕を見ている。ベルはなんだか嬉しそうだ。
ヤカラシテナイヨ…ビクトルダヨ…ワタシハシラナイ。
遠い目をした僕だった。
「イル?品質が…」
ロリィ、言わないで。そっと目を逸らす。
目の前のジークリフさんとエラスノさんとリバーテイルさんが目を開いて私の手の中の鉱物を見ている。
「おい、何だそれ…えっ、いや…はぁぁぁ!」
「品質が…硬度が…」
「輝きが…美しさが…」
さっと目を逸らしてロリィに渡した。僕は何も知らない。
「イルの力…何をしたの?」
私は涙目でロリィを見る。
「水分を凍らせて?」
「凍らせて?」
「永久に溶けないように?」
「溶けないように?」
「硬度が上がるかなって…」
「…イル…もうこれは違う鉱物だよ」
「「「はぁぁぁ?」」」
阿鼻叫喚の嵐?私は膝の上のハクをもふもふした。うん、もふもふだね?北に来れば来るほどもふもふだね?
その首毛に顔を埋めた。
「イル…新種の登録を」
「製法登録と使用登録も!」
「製法はぜひフィーヤに特権を!」
「おいおい、はぁ?新種になったら硬度が上がって特級になって輝きが増しただと!さらに品質まで」
だってね、加工したいし?イリィに絶対似合うし?へそピ風アクセサリーの新作?にしたくてね。
誤魔化すためにポーチから出した銀と目の前のアイスラリマー(アイル改)を使ってへそピ風アクセサリーを作った。
それをガン見してた3人が
「「「それは?」」」
「おへそに付けるアクセサリー」
そう言って見本に自分のお腹を見せようと服をまくりかけたらロリィに止められた。
そしてそのアクセサリーをジークリフさんに渡す。
「シャツをまくって…」
はい、拒否権は無いですね?確定事項です。その勢いに押されて、ジークリフさんがシャツをまくる。白い割れたお腹が顕になり、僕がそこにアクセサリーを付けた。うん、割れたお腹にアイスブルーと銀が映えるね!
そのままみんなが割れた腹筋を凝視する(割れた腹筋を見てたのはアイルだけ)
「これは…」
エラスノさんが
「製法登録を!」
あれ?更に面倒になった?困ってロリィを見るとため息をつかれた。
どうしてこうなった?
どうしてそうなると気が付かない?
ロルフリートとエリアスは思った。
どうしてそうなると気付かない?
*読んでくださる皆さんにお願いです*
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪
モチベーションになります!




