264.順調な旅?
キウリラの町の人たちが見えなくなってしばらくするとブランが大きくなった。さぁ進もう。
ブランの背中に乗る順番は私の前にエリ、後にロリィ、右がハクで左がナビィ、私の膝にハル、ナツ、リリ。そう、私を囲んでくれてる。
ブラッドは1番後ろで胡座をかいて目を瞑る。無双感が凄い。ベルは1番前ではしゃいでいる。
最初はロリィ私エリが横並びで前にハクたちがいたんだけどね…私が酔いまくったから。
全方位囲んでくれてる。辛くなったら後ろからロリィが抱えてくれてそのままハクかナビィにもたれる事が出来る。
飛び始めたら3時間は降りないからね。
ブランの背中は広くて安定してる。私たちを覆うように風魔法を展開してくれるから本当にそよ風みたい。
さらに私はブランごと囲うような風結界を無意識に常時発動している…らしい。だから空中で飛獣に会ってもブランが通り過ぎるだけで切り刻まれる。
それをハクが亜空間に収納していく。飛ぶ凶器となっているブラン。
凄いなって呟いたら、誰のせい?って冷静にロリィに切り返された。
なぜ切り刻まれるのか…それはそこにいたから。うん、格言だね?と言えば無言の圧をたたえた目で見られた。何故だろう?
で、ナビィじゃないけどワイバーンと思える飛獣がね、数匹の群れで飛んでた。ブランは私のために基本、軌道を変えない。真っ直ぐに飛んで行く。でもワイバーンを見つけたら急降下した。
そしてまるで曲芸のように飛行してその群れを殲滅した…そして
『美味しいお肉確保ー』
ブランちゃん…人が恐れる飛獣もブランにとってはお肉に見えるのね。ナビィもハクもでかした!とか言ってるし、ベビーズも『お肉〜肉肉』とか鳴いてるし。
後ろからロリィがソテーと呟いた。今日の夕食はワイバーンのソテーです。
でもあの群れ、何匹いたのかな?お肉たくさんあるよね?今までもハクとかハクとかナビィとかナビィが狩ったお肉、もとい魔獣が沢山あるんだよ?
見てないからね、どれくらいあるのか分からないけどさ。また増えたね?
出発して3日目。順調だから後2日でこの国を出る。箱庭経由でイリィと会えるのは今日を入れて3日。
例の転移は体の負担が大きいから1週間に一度がいいと、時と空間を司る幻獣ユニコーンのニミが言った。だから今日から3日間はイリィと一緒に寝るんだ。
夜はずっと一緒にいたい。
お互いに依存し合うのは良くないからと、旅の前にいくつか取り決めをした。
食事は一緒に取らない、一緒に過ごすのは基本夜だけ。
基本としたのは最北の町、フィーヤに着いたら2人で一緒にお出かけしようって約束したから。
イリィにはそういう思い出がきっと必要なんだ。何故か分からないけどそう思った。それは私が無事に帰れないかもしれないと、何処かで思ってるから。
そしてそれは多分、間違っていない。命の対価は命だ。それでも…アリステラ様は何かを託そうとしてくれるのだと。この時はそう思っていた。
この旅は生命樹の若木を根付かせる事が目的。でもそれは、私の命と密接に関わっている。
だから私ではなくイリィにたくさんの思い出を残してあげたい。そう決めた。
3日目の旅は相変わらず私が青くなってロリィに抱えられハクもたれている事を除けば、順調だった。
山のふもとにテントを張って(カモフラージュ)、食事をする。
寒さが徐々に身に染みる。エリは平気そうだし、私より細いのにロリィも平気そうだ。私だけもこもこしてる。何故?
犬耳付きの内側に羊毛の入ったもこもこローブを着ていると、ロリィとエリがなんか顔を赤くして俯いてしまった。
あれ、なんか痛い人になってる?私は犬耳を見上げる。ピコピコしてて可愛いと思ったんだけど?
今はピンを立ったハクの耳を真似したんだよ。
ブラッドは相変わらず、無双感を漂わせている。寝る時もテントでひとりだ。寡黙なんだけど、食事は沢山食べるし多分、楽しんでる。
ワイバーン騒動ではぐほって笑ってたし。
ベルもなんか楽しそう。心から楽しんでるって顔。やっぱり夜は1人で寝てるけど、時々突撃してくる。そんな時は4人で寄り添ってる寝てるよ。
イルは相変わらず青い顔で僕に体を預けている。力の抜けたその柔らかい体を後ろからしっかりと抱きしめる。ふわりと耳にイルの髪が触れる。ねぇ、イルはどうしてそんなに無防備なの?
力を抜いて目を閉じて。僕が何も感じないと思ってるの?なめらかな頬にそっと自分の頬を寄せる。
甘えるように顔を寄せるイル。ねぇ、こんなに体が密着して…僕がどう思うのか、考えないの?
嬉しくて切なくて大事で、手放したくなくなるよ。
3日目の移動が無事に終わって山のふもとで食事と野営の準備。実際に私たちは箱庭で寝るから、あくまでもフリだけど。
ブラッドは
「このテント、快適過ぎて出たく無いな…」
なんて言ってた。
箱庭はもっと快適だけど、ブラッドは入らないからね。
外はだいぶ寒くなって来た。僕も厚手のローブを着ている。でもまだ大丈夫。ただ、イルは寒いのが苦手らしくて。内側に羊毛を入れた新しいローブを羽織ってフードを被る。
えっ、それは…えっ…か、可愛い。ハク様とお揃いのような耳が付いている。えっ…イル、それは反則。
思わず口元に手をやって悶えそうになる自分を抑える。
エリアスも同じ反応だ。可愛すぎて反応に困る。僕たちの反応に戸惑って耳を見上げて犬耳をまふまふしてるイル。
上目遣いとか可愛い…可愛すぎて辛い。
震える手でそっと犬耳を撫でるとイルを胸に抱きしめた。その耳にキスをして可愛いよ、と呟く。イルは少しだけ震えながら耳まで赤くなってた。
体を離してその目を見る。恥ずかしさで潤んだ目が、寒さで少し赤い頬がまた可愛い。
その頬を撫でて
「天使かと思った…」
と言えばその目を大きく開いてさらに頬を染めた。そんなイルに微笑んで、目をナビィに移す。
そのしっぽはブンブン振られていてお尻を高く上げている。
あ、これは…と思ったら全身でイルに突進して押し倒し、その口元をペロペロと舐めていた。
少しだけ羨ましいと思ったロルフリートだった。
ロリィが私の犬耳を触ってふんわりと抱きしめて来た。可愛いって囁きながら。いや、男子だし…可愛いは恥ずかしいよ。
私の目を見て微笑んで、ロリィの目線が横にそれた。 私もそちらを見るとナビィがしっぽブンブンで私をロックオン、ヤバい…ドンって押し倒されて口元をペロペロと。
だから、ナビィ…大きさ考えて。2メルもあるんだよ?今は。少しだけ無になった私だった。
食事を食べてからみんなでテントへ。
入ってすぐ箱庭に転移。少しするとイリィがやって来た。私はそこで女神のようなイリィを見てまだ気持ち悪い体を必死に動かしてイリィに近づく。
イリィは私を見ると駆け寄ってくれる。そしてギュッと抱きしめてくれた。
私もその背中に手を回して抱き付く。スーハースーハー。首元の匂いを嗅いで頭をイリィの胸にすりすりする。イリィは私の頭にキスをすると私の頬に手を当てて私の顔を見る。
「アイ、顔色が悪いよ…」
「うん、まだダメだから…ぐすっ」
イリィに抱きついて泣いた。なんでこんな事に…ただこうやってイリィと一緒に穏やかで静かに暮らしたいだけなのに…離れたくないよ。
体が弱ってるからか、心まで弱ってるみたいだ。イリィから離れられなくてグズグズしてしまった。
イリィは何も言わずに、ただ私を抱きしめてくれる。辛いのはイリィだって同じなのに…甘えてばかりで。
でも、どうしても無事に帰る未来が見えない。それが私をより不安にさせる。
イリィはやっと離れた私の手を握って
「温泉に行く?」
と聞いた。私は頷く。ロリィとハクたちに温泉に行くと告げる。みんなも行きたいと行ったので温泉施設に移動した。ベルも一緒だ。
シュン
相変わらず箱庭はチートだな。と思ったら
「その箱庭を維持してるアイが凄いんだよ?」
とイリィ。そうなの?だって出来たから。イリィは優しく微笑むと温室に入って行く。
(来たよ)(来たね)
(弱ってる)(辛いのね)
(癒してあげる)
(可愛い子)
(大切な子)
(癒してあげる)
虹色の羽を持つ蝶々が私たちの周りをゆっくりと飛ぶ。数匹の蝶々たちだ。鱗粉がキラキラと光ながら舞い落ちる。
それは体に触れると光って消えた。きれい…ここは外と中の合間だから、月の光に照らされてキラキラと…。
見惚れていると
(もう大丈夫)
(もう大丈夫)
(苦しまないで)
(いつだって待ってる)
(助けるから)
(忘れないで)
(私たちを忘れないで)
あれ、気持ち悪いのが?無くなってる。これはいったい。
「妖精の安らぎ。治癒魔法…」
「妖精の安らぎ?」
「そう、妖精とか聖虫とか、精霊…彼らの持つ不思議な力…その総称」
ロリィが教えてくれる。
「僕も初めて見たよ、話は聞いた事がある」
「僕も、古い国の絵本で呼んだよ…御伽話だと」
イリィとエリも知ってるみたいだ。
へー、みんな優しいな…ありがとう。お礼はやっぱりこれだよね?
オカリナを取り出して吹く。
「〜〜♪」
沖縄の歌手の…大好きな歌。大丈夫…大丈夫…。自分に言い聞かせるように、吹く。
(優しく音色)
(悲しい音色)
(温かい音色)
(柔らかい音色)
(心地良い)(心地良い)
(ありがとう)(ありがとう)
(また聞かせて)
(必ず聞かせて)
(待ってる)
こちらこそありがとう…みんな、待ってて。忘れないよ、ここで見た幻想的な景色も…美しい月も。
私たちは温泉に入り(ロリィの試練は今日も健在だった)マッタリとしてから上がった。
もう恒例のフルーツ牛乳。これはハクとナビィとベビーズが本当に大好き。これを飲むためにお風呂入ってる?って言うくらいね。
そして箱庭に戻って私とイリィは私の部屋でくっついて寝た。いつもだとかなり情熱的なイリィだけど、私の体調を気遣って寄り添って眠るだけ。
私もその方が嬉しいので、その柔らかな体に抱きしめられて、私も抱きついて眠った。
大好きだよ…イリィ。
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