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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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262.厄災

久しぶりの定時投稿です…汗


誤字訂正しました

 バナパルト王国の北部にある町 キウリラ。そのキウリラの探索者ギルドは騒然としていた。ここは最北の町であるフィーヤの一つ王都寄りの町だ。


 王国は南はアインスから北はフィーヤまで、南北に主要街道が走り、そこに6つの主要都市がある。

 南は海に面していて温暖な気候のアインス、その一つ王都より、方位で言えば北寄りのツヴァイ、そして王都の手前のドライと続く。


 そして王都から北に向かってゼクス、フィフス、フィーヤだ。

 ドライとゼクスは共に王都に近く、フィフスとゼクスは近い。

 これは領都がたまたま領地の北と南にあった為だ。

 フィフスのすぐ北には広大な森と農地が広がっていた為に大きな町が偶然隣り合ったのだ。


 アインスとツヴァイは馬車で1ヶ月、ツヴァイとドライが馬車で2週間、そしてドライと王都は7日。

 王都からゼクスは3日でゼクスとフィフスが1日、フィフスとフィーヤが1ヶ月半だ。

 ゼクスは元はもっと東寄りにあった町だが、森が進行して遷都したので、王都に少し寄った。

 フィフスは国の施策で農地を確保する為にやはり遷都してゼクスに寄った。


 街道の主要な6つの町は8家ある侯爵家の内、6家が治める。2家は領地を持たない貴族で、国の中枢を担う大臣を排出する。

 主要6都市の左右にはそれぞれ伯爵家が治める領地がある。その周囲に子爵家が治める領地があり、国境近くの都市や、主要都市の合間にある町は子爵家や男爵家が治める小さな領地があるのだ。

 ちなみにナルダの町は子爵家が治める領の町の一つだ。


 そしてここ、キウリラも子爵家が治める領地の領都だ。

 昨日の夜に飛獣の目撃証言が相次いだ。もちろん、魔獣だろう。飛獣は大きさもさることながら、上空から魔法を放つので厄介だ。こちらからは届かないのに上空からは広範囲に魔法が届く。


 さらに悪い事に、どうやらワイバーンのようだ。亜龍で性格は荒く獰猛だ。亜龍ではあるが、そこは龍種。口から火魔法を吐く。

 恐ろしい飛獣だ。この街など一吐きで4分の1は消し飛ぶだろう。

 それでも見過ごす事は出来ない。

 領軍も探索者も家族と別れを告げて門前に集合した。決死の覚悟で討たなくてはならない。


 ところが、3日たってもその姿が見えない。ワイバーンは近くに町があれば、間違いなく襲いにくるはずなのに。しかし警戒は解けない。

 そんな中、町に訪れた旅人がいた。門前で陣をしいていた領主の息子、バクセルは驚いた。


 ワイバーンの目撃情報と共に周辺の町には警戒情報を流した。だから商人も探索者でさえ移動を控えている。なのにどう見ても強そうに見えない3人組と探索者2人、犬2匹の組み合わせで、しかも歩いて来た。

 はっ?何考えているんだ?

 慌てて他の騎士たちと駆け寄る。

「おい、何してる?危ないだろう」


 近寄ると更に驚いた。明らかに2人は貴族だ。物腰や仕草が上品なのだ。強そうな探索者2人に、最後の1人は探索者?にしては線が細いし、まるで強そうに見えない。犬はもふもふとふわふわでただの飼い犬のようだ。


「何か…あった?」

 背の高い上品な、明らかに貴族な1人が問いかける。こちらが貴族だと分かった上でのこの口調。上位貴族か?

「私はこの領を治めるメルローズ子爵家の次男でバクセルと申します。あなた様も貴族とお見受けする」

「あぁ、メルローズ。ビラディールの弟、かな」


 兄の名を知っている?この方は?

「私はカルヴァン侯爵家のロルフリートだ。今は母の爵位を継いで、エバルデル伯爵、だね…」

 バクセルはそのロルフリートと名乗る男性をまじまじと見つめる。


 貴族学院きっての天才と名高いあのロルフリート様?

 確かに濃い金髪に青い目、中性的な美形とは聞いているが予想以上に美しい御仁だ。

 儚さと力強さという矛盾したものを内包する危うさがその魅力を引き立てる。


「エバルデル伯爵、ようこそキウリラへ。まさか徒歩で?」

「ん、色々とね。で、何があったの?」


 貴族の会話で言われる「色々と」は詮索するなという事だ。しかも相手は高位貴族の嫡男でかつ本人が伯爵。

 子爵家の次男でしかないバクセルにはこれ以上、この件については問えない。

 しかしワイバーンは別だ。

「3日ほど前にワイバーンの目撃情報が複数ありました!町を上げて迎え撃つ為に陣をしいています」

「そう…だから」


 あれ?驚かないぞ。バクセルは焦った。

「町には入れない?」

 父親からは警戒体制を取っている間は人は来ないと聞いていた。まさか人が来るとは。しかも貴族だ。嫌な汗が背中を伝う。


 それでワイバーンの襲撃でケガや最悪死なせたりしたら?

 町に入れても入れなくても一大事だ。

 すると隣にいたまだ幼い顔立ちの少年が

「僕は大丈夫。何か悪いし…でもあれだけは」

 とロルフリート様に言った。ロルフリート様にタメ口だ。誰なんだ?彼は。


 するともう1人のたぶん貴族が

「伝えるんだな?」

 と言った。

「町のためにも、な」

 探索者の男が言う。もう1人の探索者の男も頷く。

「伝えてやれ」


 少年は頷く。伝えるとは何をだ?

 少年は戸惑った顔でロルフリート様を見る。少し頬を緩めたロルフリート様は俺に向き直り


「こちらへ…」

 俺は全身から嫌な汗が吹き出すのを感じながら、ロルフリート様に近づく。

「ここだけの話…もう危険は、無いよ」

「えっ?」

 意外な事を聞いて思わず聞き返した。


「ワイバーンが地上に落ちて死んだのを見た…」

「はっ、へっ…?」

 間抜けな声が出た。

 ロルフリート様は腰のポーチからあるものを取り出して俺に見せる。これは…牙と鱗だ。

「詳しいものに見せても?」

 ロルフリート様が頷くので


「ベッツ!来てくれ!」

 キリウラの探索者ギルドのマスターを呼ぶ。ギルドの代表者としてここに詰めていたのだ。呼ばれたベッツは緊張した面持ちで足早に来た。そして俺の手の中を見て驚いた。


「これは…ワイバーンの牙と鱗…」

 やっぱりか。では間違いなく?

「何処で?」

「ここより少し離れた山の中…」


 何故そんな所にいたのか、とかなんでワイバーンは死んだのか、とか聞きたい事はたくさんある。あるが、ロルフリート様の目が質問を許さない。無言の圧力だ。

「町は助かった…喜んで」

 とだけ呟いて。


 そうだ、助かったんだ…思わず涙が流れた。町も人も助かった、助かったんだ。

 ベッツも目に涙を浮かべている。助かったんだ。




 どうしよう?なんか大変な時に町に来ちゃったみたい。だってさ、ナビィが狩ってきたーって喜んで引きずって来たからな?

 厄災級とか言われてもね。実感がなくて。


 それがこの町で軍人とか探索者が陣を張ってるのを見て、初めて本当はそれだけ大変な事なんだって思ったんだよ。

 私は相変わらず調子が悪いし、久しぶりに町に寄ろうってロリィが言ってくれて。それにワイバーンの事を気にしてるかもしれないし、伝えた方がいいかなって。

 そうしたら予想以上の緊迫感でね、まさかナビィが空を駆けて狩りました、てへっとか言える雰囲気ではなくて。


 でもね、貴族然とした、いや本物の貴族なんだけど…ロリィとエリが上手く収めてくれた。

明らかに上級探索者のブラッドの威圧も効いたかも?

 私は交渉とか苦手だから無理。なんか町の人が青ざめたり泣き出したりで大変だったけど町は無事だし良かった。良かったんだよね?


 ロリィが

(イル、町は無事。それが何よりだよ…イルが助けた)

 念話してきた。

(ロリィ、私は何もしてない)

 本当にただ気分が悪くてハクをもふもふしてただけ。

(ナビィはイルがして欲しい事をする子…だからイルが助けたのと同じ)


 そんな事は無い。ナビィは私に美味しいお肉を食べさせたかっただけだ。だって

『タンパク質が豊富でクセがないから雑炊にして食べたらいいよ!気分が悪くてもきっと食べられるから…ほら、あの調味料も作れるよ』


 鶏ガラだね。ナビィは私が食べやすいお肉だと思って狩ったんだよ。さらに調味料を作る為にな。

(それでも、結果が全て…)

 ロリィが優しく背中を撫でてくれる。少し笑って体を寄せる。目の前では号泣の連鎖だ。


 そんな中、ロリィは

「町に入れる?」

 やっぱりロリィだった。目の前で泣いていた人が頷いて、勿論です!ぜひ領主の屋敷に、と言ったのを

「ゆっくり休みたいから宿がいい…」

 とバッサリと切り捨てていた。

 うん、やっぱりロリィはブレずにロリィだ。





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