255.探す為の魔力
目が覚めると温かな腕に抱かれていた。あぁこれはダナの…。その胸に頬を寄せて抱き付く。そっと髪の毛を撫でる手。
「おはよう、イズ…よく眠れた?」
耳元で囁く声。
「おはよう、ダナ。ぐっすりだよ」
俺も囁くように応える。
顔を上げるとダナがふわっと笑う。それだけでもう頬が熱い。
ふっ、可愛いね?イズ。と言われて恥ずかしくなる。もう大人なのに。
キスされてまた腕に抱きしめられた。俺も抱きついてしばらくそのままじっとしていた。
ふとダナの腕が緩む。
「さぁ起きようか?イズ」
頷いてその心地良い体から手を離した。起き上がると自分の部屋に戻る。顔を洗って着替えをして、食堂に向かった。
すでにフェルが椅子に座っている。
「おはよう、イズ。気になってね、早く起きてしまった」
そんな事を言うフェルはとても可愛い。結婚してから少し幼い頃のような感じで俺に接するフェル。
そりぁもう可愛くて可愛かったからな…。思い出し笑いをしてしまった。
フェルは少し不満そうに
「イズだってまだ子供だったよ?僕だけ子供扱いして…」
「いや、本当に可愛かったからな。ありあとーだぞ?」
フェルは顔を赤くしてもう、と言う。俺はその頭を抱き寄せてキスをした。
「嫌か?」
「まさか…嬉しいよ」
ふわっと笑う。俺も隣の椅子に座った。ダナも来たので朝食を食べる。
「そうそう、サファイアともう一つね。小さな紋章みたいなものも入ってて。イグ・ブランカって」
「何の為に?」
「鑑定で見たら、食料が入ってた。後は薬」
「は?紋章なら薄いのでは?」
「薄いね」
「食料?」
「空間拡張…」
「薄っぺらいのに?」
「ね?アイルらしい…食べ物に困ってると思ったんだろうね?時間停止だよ、しかも」
「はっ?」
「鳥に持たせるからね?時間遅延じゃダメだと判断したんじゃない?」
もう、なんて言えばいいのか分からないぞ。はぁ…魔法契約を厳重にして結ばなければ。
食事を終えると、フェルとギルドに向かう。バージニアには手紙のあらましを伝え、ここに来てもらうよう伝えていた魔術師団の2人が来たら魔法契約を、とお願いした。
俺たちはロザーナの元に向かう。
「おはよう、ロザーナ」
「おう、イザークに…おはようございます、フェリクス様」
「やぁ、おはよう。毎日ご苦労だね」
「呪いがほぼ解けまして、元から体力には自信がありやす。これくらいはお安い御用です」
「呪いが解けたとは?」
「はい、石化の呪いでして…それがね、旦那方に関わってから調子が良くなって…気が付けばほぼ元のように体が動くんでさ」
フェルは俺を見る。頷いた。どうやらアイルは周りを無意識に回復させているらしい。無意識にってのがな、本当に彼らしい。
「そうか、良かったよ。優秀な探索者はね、領にとっても有益だから」
「有り難え…恩を返す為にも頑張りますぜ!」
そこに魔術師団の2人がやって来た。バージニアが頷いた。俺は
「やぁ、おはよう。今日は俺とフェルも同行する」
「頼む!」
ハウラルは赤い目をしていて、真っ青な顔だ。疲労が濃く滲み出ている。
馬車に乗って向かい合って座る。自己紹介の後、俺はフェルと頷き合ってからスープを取り出す。例のエンブレムに入っていた。渡してもいいだろう。
「体が温まる」
一瞬迷うそぶりを見せたハウラルだが受け取り、ゆっくりと口に運んだ。パクリ…一度止まった後にはもう凄い勢いで食べ始めた。
そして、すぐになくなった。腹が減っていたのか?
「ここの所、良く眠れなくてな。食事も喉を通らなかった。なのにこのスープはなんて美味しい…」
アイル作だからな。鑑定したら魔力知力体力を回復して気持ちを落ち着かせるとあった。
意味が分からない。スープだぞ?
俺はおかわりのスープとキビサンドも出してやった…。今度は躊躇なく口にして、完食した。
「美味しい…なんて美味しいんだ。しばらくは砂を噛んでるような味しかしなかったのに…ちゃんと味がわかる。しかもなんと奥深い味なんだ」
アイルだからな?
少し落ち着いたのか、ハウラルは
「俺はラルフが学院に通っている時からずっと見てたんだ。優秀な兄の影に隠れた努力家のラルフを」
遠い目をして語る。
ラルフ様は普通に優秀なのだな。ただ、ロルフ様が余りにも突出してるだけで。
あの歳で子爵位を賜っている。知識も豊富だし、魔力操作も非常に優れている。
かつ、全魔法属性持ち。さらにはその美貌もだ。中性的な美形は密かなファンが多い。
口下手で無表情だから分かりにくいが、本人は非常に優しくて家族思いだ。
ラルフ様は常にその影に隠れてきたのか。
「ずっと見てた…その言葉に喜んで笑ったんだ。とても恥ずかしそうで嬉しそうに。もっとラルフの笑顔を見たくて。俺が王都に呼んだから…その帰りに嵐に巻き込まれて」
俯いてしまうハウラル。俺は見ていられなくてつい、口を挟んだ。
「大丈夫だ。ラルフ様は生きてる。理由は言えないが、必ず見つかる」
ハウラルは目に涙を溜めて頷いた。
「何故だろうな?今は俺にもそう感じる…」
「あぁ、力強い味方がいるからな!」
目をパチパチさせるとぎこちなく笑った。
馬車は南門を出て街道を進む。さて、サファイアに反応は?手の中のそれを見れば僅かに光って、その光が伸びた。
もう驚かないぞ?
光をたどればラルフに行き着くのか?御者のロザーナにも渡してある。
ハウラルがその光を見つめる。見えるのか?
「その光は…」
「それは…」
さすがは魔術師団か、見えるんだな、魔力が。
「ラルフを探す魔力だ」
「それは、ラルフが纏っていた…ラルフのでは無い魔力」
「そうだ、ラルフが身に付けているその魔力を探して導く」
「「…はい?」」
そうなるよな?
「深くは聞かないでくれ、俺たちにも分からない」
「分かるのは、間違いなく辿り着けるって事だけ」
フェルも言葉を補足する。
目に見える光は確実に進む方向を指し示す。馬車はその方向にかなりの速度で進んで行った。
休憩なしで4時間ほど爆走した所で止まった。そう、光が収束したのだ。
馬車を降りるとそこは森の入り口だった。周辺は土砂で埋まっている。
ハウラルが魔法で道を作り、そこを進んで行く。
「ラルフの魔力も感知できた!」
急足で森の中を進んで行くと、洞窟があった。ハウラルが駆け込む。
「ラル、ラル!」
*******
王都を出て三日目の朝から降り出した雨は止まずに風も酷くなって来た。ゼクスまで後どれくらいだろうか?
そんな事を考えていたら馬車が止まった。何だ?外を確認しようとしたら
「ぐわっ…」
ドサッ。音が聞こえた。
扉が開く。
「この馬車を寄越せ。その上等そうな上着と靴も、だな…。そうすればお前の命だけは助けてやる」
「御者は?」
「さあな?生きてるかもしれないし、死んだかもな?血を流して雨に打たれればどうせ死ぬだろうよ。ははっ、お前はどうする?」
「分かった」
わざわざ聞いてきたのだ、言うことを聞けばここで降ろされるだろう。素直に上着や靴、カバン(アイルの作ってくれたポーチは持って行く)を置いて予備の古い靴を履いて馬車を出た。凄い雨だ。
男は馬車に仲間と乗ると俺と御者を置いて去って行った。御者に駆け寄ると息はある。とにかく腕に抱えて雨を避けなければ。
そこからほど近い森の中へと進んで行く。
森に入った後で土砂崩れが起こり、元には戻れなくなった。進むしか無い。
どれくらい歩いたか、窪みになっている場所を見つけた。奥行きは思いの外ある。5メルほどか。入り口は狭いから雨が吹き込んでいない。
そこに御者を寝かせて兄様が持たせてくれた薬を御者にかける。これで血は止まった。
食料はアイルが耳飾りに入れてくれて(何でこんな小さな物に入るんだ?)いたものを食べる。
しかもテントや毛布、着替えまである。謎だが、助かる。
テントは組み立てたことが無いので不安だが、と思って開いたら勝手にテントになった。は?えっ…。
まぁアイルだからな?
御者の体を拭いて、テントに寝かせて毛布を掛ける。
何か他に入ってるか?
これは、薬だな。普通の傷薬…わざわざ普通って。他にはきれい玉。使い方が看破で見れた。はっ?
僕は半信半疑ながら使ってみる。
温かい。そして全身サッパリだ。雨に濡れた筈なのに…体も服も乾いている。しかも、服はきれいになってるな。どいうい事だ?
しかし、俺も疲れた。御者を運ぶのに風魔法でかなりの魔力を使った。テントは結構な広さがあって、中は快適な温度だ。毛布は3枚も入っていたからそれを被って目を瞑った。
翌朝か?目を覚ます。まだ雨は止まない。食料はまだある。御者はまだ目覚めない。傷は完全に治っていないから、念の為にアイルの普通の傷薬を掛けた。
すると傷は塞がり、何故か服まで新品みたいになった。服も傷判定されて治ったのか…?
食事を食べて、寝て…。昼前に起きたら御者が目を覚ましていた。
「私は…?」
長くなりそうなので分割
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