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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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253.アイルのお陰で

 フェリクスは挨拶して帰って行った魔術師団長とのやり取りを思い出す。

 彼には労いを込めて、円外分離器で作った透明な液の方につけた魔獣の肉と、アイルとイーリスが北の町で登録した調理道具に金属の串に指したアイルのレシピにあった野菜と肉を交互にさす串焼きを渡した。

 キビパンとキャベチの酢づけもだ。

 あとは焼き菓子と分離機で作ったクリームも。


 野外活動が多い第一師団ならきっと欲しがるはずだ。商業ギルドに行くだろうから、やはり北の町で登録されたテントもお披露目させよう。こちらはさらに沢山欲しがるはずだ。

 もっとも避難民用にこちらで買い上げたから在庫は少ないが。

 第一師団が買えば王都に広まるだろう。それこそが狙いだ。勝手に宣伝してくれるのだ。その為なら肉など安いものだ。


 調理道具も、円外分離器も、そして黒糖も。さらにはテントやキビサンドにサバサンド。いまや、ゼクスの特産品とも言えるそれらは全てアイルの発案だ。

 判も、そしてあの紋章やマークもだ。

 北の町で登録したそれらも、こことフィフスには例外規定を儲けて、開示や閲覧の手数料を減免している。

 そのお陰もあって、それらが革命を起こしている。


 さらに、北に行って魔鳥の飼育に成功したからと連絡があって、魔鳥が届けられた。

 卵を産む魔鳥だ。しかも増やしたら安定して卵がとれるという。

 開いた口が塞がらなかった。しかも、飼育しやすいように小型に品種改良した、と。

 相変わらずなアイルで、でもそれがアイルで。何だか笑ってしまった。


 アイルが送ってくれた手袋やマフラーも暖房器具もどれも目新しくてデザインも斬新だ。

 あれはアイルだな。イーリスだともっと洗練されている。アイルのは愛嬌があるというか、優れたデザインだがイーリスとはまた違う。

 そして、これは鑑定でも分からなかったのだが。非常にいい材料を使っている。質が高いのだ。アイルの事だからな。もう驚かないぞ。



 別の機会にロルフから白蜘蛛の糸から織った布だと聞かされて大いに驚くのはまだ先の話。


 そんな感じで、どこにいてもやはりアイルだな。そう思えて何故か嬉しかった。

 そのアイルがもたらした様々な登録のお陰で、未曾有の災害でも乗り越えられそうだ。

 遠く北の町に思いを馳せる。アイル、またゼクスに帰ってこいよ。




 部隊に戻ったダウルグストはゼクスの急速な発展の裏にあるものは何だろうか、と考えた。

 料理のレシピだけならまだ分かる。しかし、それとそれを作る機械までが一体で登録されている。

 発展を支える人物がいるのだろうな。価値のある鉱物が発見されたという話も聞いた。それもゼクスで。

 ここには何かがある。

 それに、ハウラルの水晶に籠った魔力と血だらけの上着。全てがゼクス周辺での事だ。

 一体何が起きている?物思いに沈んだ。


「隊長!」

 声がかかる。その隊員はそばまで来て声を潜めると

「ハウラルが目を覚ましました」

 頷いて急いでハウラルのいるテントに隊員と向かう。

 テントに入ると横たわったままのハウラルが白い顔をしていた。

「おい、隊を離れて何をしてた?」

「…」

「ハウラル?」

「…ラルが…ラルが…」

「誰だ?」

 そこでやっとこちらを向く。

「俺の想い人だ」

 なんだと?コイツは王家の孫に当たり、血筋だけで見れば相当なものがある。

 しかしそういうものには拘らず、もちろん実力で魔塔に入った。第一師団に誘ったが断られた。

 その実力は確かで保冷箱を作って男爵の爵位を叙爵された逸材だ。


 まだ23才と若いのに浮ついた話は聞いたことが無い。それが想い人か?しかも魔力をつぎ込んで倒れるくらいの?

 全く想像がつかないが、この様子を見る限りは間違いないだろう。

「おい、順を追って話せ」

 それからハウラルはポツポツと話し始めた。自分たちの親は本来なら継げないはずの公爵位を継げる可能性があったこと。その事でずっとギスギスしていた事。

 そんな折、学院で見かけた侯爵家の次期領主が気になってずっと見ていた事。


 優秀な兄がいるのに、家を継ぐ事になった彼と自分は対照的で。その努力する姿に目が離せなくなった事。その彼と初めて話をして惹かれた事。

 また会う約束をして別れた事。その後にあの嵐になった事などだ。

 彼は公爵家の馬車でゼクスに向かった。だから無事に着いていると思って、何か困ってないかと今回の任務に同行した事。

 野営の時に、護衛につけてた部下から嵐で彼を見失った事を聞いた。

 魔力を伸ばして探すと僅かに気になる魔力を感知して、探しに行った事。

 血だらけの上着や靴しか見つけられなかった事。力尽きて倒れて…気が付いたらここにいた。


 そんな話だった。嘘をついてるとは思えない。さて、どうしたものか。

「その魔力はもう追えないのか?」

「あぁ…見つけた上着だった」

「情報を待つしかないな…」

「なんでよりによってあの日に嵐なんかに…俺だって防御を掛けていたのに」

「ケガをしたのがその彼とは限らないだろ」

「しかし…」

「とにかく、今は休め」

 頷くと目を閉じた。

 俺はテントを出る。公爵家の馬車なら紋章を掲げている。ならば、探索者ギルドで聞こう。

 その足でまた町に戻りギルドを訪ねた。


 受付で話をすると奥の会議室に通される。そこにキリッとした若い男性が入って来た。

「イザークだ。こんな時間にどんな要件だ?」

「遅い時間に済まない。その、被害状況はこちらで取りまとめていると聞いた」

「誰か探してるのか?」

 話が早い。

「侯爵家のラルフリート殿だ」

「なんだと?何か知ってるのか?侯爵様から連絡が取れないと問い合わせがあった。しかしゼクスにはいなくて、そう返事をした」

「王都に行っていた。嵐の日、その日にゼクスに戻る予定だったと」

「しかし侯爵家の馬車はゼクスにある」

「公爵家だ。唯一の方の」


「何、それは本当か…?公爵家…」

 イザークは青ざめた。

「間違いない。公爵家の馬車で送り出したと」

 彼は部屋を出て

「ジニー、いるか?ジニー」

 走って行った。しばらくして扉が開く。

「おい、王都に行ってたってどういう事だ?しかも公爵家だと?」

「詳しい事は俺も知らない。公爵家の馬車でここに向かったのは間違いない」

 イザークともう一人は頷き合って

「イザーク、行ってこい。フェリクスには俺から連絡しとく」

 そう言って部屋を出て行った。

「俺と一緒に。話は馬車の中で」


 ギルドの裏手からギルドの馬車に乗る。

 イザークは向かいに座ると話し始めた。

「あぁ、さっきの人はギルマスのバージニアだ。でだ。まず、公爵家の馬車が土砂崩れに巻き込まれているのが見つかった。嵐の止んだ翌日だ。御者は死亡、中にいた人は瀕死の重症で治癒院に運ばれた。その後のことは俺も知らない。公爵家には連絡済みだが、該当者についての回答は来てないようだ」

「瀕死の…それが?」

 イザークは少し考えて

「いや、多分違うだろう」

「何故だ?」

「詳しい事は言えないが、防御が掛けられていたはずだ」

「何で知ってる?ハウラルから聞いたのか?」

「ハウラル?いや、知らない。違うな、その人とは関係がない。しかし間違いなく防御があったはず。だとしたら、瀕死になる事はあり得ない」


「しかし…」

 血まみれの上着が…言いかけてやめた。もう直ぐ分かるだろう。いや、分かるのか?

「ラルフ様の顔は俺が知ってる」

 そのまま無言で馬車は走って、やがて止まった。

 馬車から降りて、イザークが職員に話をしている。振り返ると頷いたので、中に入る。

 4人部屋の奥にいるらしい。入って行くと確かに男性が寝かされていた。これは…違うな?

「違う…」

 だろうな。どう緩めに見ても貴族ではない。盗賊崩れか?ならラルフ殿は?


「捜索をしなくてはならないが、闇雲に探しても…」

「それなら…」

 イザークが目で静止する。目配せして部屋を出た。また馬車に乗ってギルドに戻る。

 会議室に入ると、少し待ってくれと言ってイザークは部屋を出て行った。

 少ししてギルマスを連れて戻って来た。

「違ったんだな?」

「あぁ、全くの別人。貴族ですらない」

「ったく…何があったんだ。ロルフもいないのによ…」

「少なくとも命に関わるケガはしていないと」

「あぁ、無いだろうな。アイツの事だからな。お前だってモリモリ付いてんだろ?」

 頷く。


 アイルから冬用のあれこれが送られて来た後。魔鳥と共に、また色々と送られて来た。楽器とか銀とかミスリルとかアルミという鉱物とか。サファイヤもあったな…。

 ラルフの分もあって、ゼクスにいるだろうからってこっちに送られて来た。

 確かに打ち合わせの時に渡したから。間違いなく身に付けてるだろう。

 ロルフとお揃いだって書いてあったからな。

 ラルフは顔を赤くして、兄様とお揃いって言ってたしな。直ぐに付けただろう。


 バージニアも家族とお揃いで、とかって貰ってたからな。鑑定で見たら世界最高の防御とか訳のわからない内容になってた。

 特級の魔法も弾くとかな?だから、命の危険は無いはずなんだ。だとしたら一体どこにいる…ラルフは。




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