252.商売上手
完敗だ…フェリクス様よ。
「せっかく王都から来てもらったし、領主からの労いだよ」
爽やかに言ってたがな。これはやられたな。
「あぁ、道具も肉や串の製法も商業ギルドで取り扱ってるよ。道具は凄く人気でね、でもこの災害で避難民用に使うからと他の人には納期を遅らせて貰ったんだ。今なら買えると思うよ?」
だとさ。こんなに美味いもん食わされたら買うだろ?
画期的だ。なんせ遠征の多い俺らにとって、何が辛いって不味い食事だ。
それが、折りたためて簡単に、しかも燃えないように安全装置が組み込まれた箱は、火が付けられて料理がこんなにも美味しくなる。
「お肉はね、美味しくするレシピがあって…硬い肉でもね?」
フェリクス様の言葉だ。
師団は国の直轄だから、安心して売れるってか?いやはや、若いのにしっかりしてる。
しかしまぁ、宣伝しなくても十分売れてるだろうからな、労いは間違いないのだろう。
有り難い。
ん?何やら騒がしい。振り向くと涎を垂らした団員たちがこちらをガン見していた。そうか、匂いがな。
「お前ら、領主様からの差し入れだ!有り難く食え。美味いぞ!」
団員たちは焼けた肉と串を頬張る。
「うんめー」
「ヤバい!」
「パネっす」
「美味いぞ…」
「止まらん」
大騒ぎだ。かなりたくさん貰ったはずが、あっという間になくなった。
「団長、これっすか?この道具?欲しいっす」
「どうしたんすか?団の物?」
「あぁ、そうそう。道具は貸し出しだからね。ゼクスを出る時に返却をよろしく」
フェリクス様の爽やかな笑顔を思い出す。
クソッ、思う壺だぞ。フェリクス様め…腹が立つが、その貪欲さは嫌いじゃ無い。
「残念だがな、領主の好意による貸し出しだ」
途端にあちこちからため息とヤジが飛ぶ。
「お前ら、この道具が欲しいか?」
「「欲しいっす」」
「当たり前だ!欲しい」
だよな…。ここまで読んでたな?まぁ俺も欲しいし、士気が上がるのだから安いもんだろ。買いだな。
おっ、そうだ。あれも出すか。
「お前ら、食後のおやつもあるぞ!」
おっしゃー、やったーなどの野太い声が響く。
俺は貰ったそれを取り出す。まずは弾けるキビの塩とカラメル味。さらに容器に入った白いものだ。
焼き菓子も貰っていて、白いのを掛けて食べるとか。一人に一つずつ、当番がスプーンですくって白いものをかけた焼き菓子と弾けるキビを配る。
全員に行き渡ると
「食え!」
俺の号令で一斉にかぶり付く。んっ…美味い!何だこれは。口の中で溶けたぞ。ふわっとして優しい甘さが口に広がる。
「「「…」」」
しばらくみんな黙っていた。そしてうぉぉーーーーという雄叫びの後に
「「「美味い!」」」
これはまたなんと上品で優しい味なのだろうな。泣いてるやつもいるぞ。分かるな、ホッとする味だ。
そしてつまんだ弾けるキビ。口の中に幸せがいっぱいだ。
「その白いのはクリームって呼んでる。ある機械を使って、それをね。ふふっその機械も製法も登録済みだよ?あぁ、製法は非開示だけど」
フェリクス様よ、あっぱれだ。
いやしかし、これを考えた人は天才だろ?ゼクスの活気は本物だな。
「そちらの機械も納入が追いつかなくてね。でもそうだね…第一師団になら、優先して買えるように手配できるよ。私なら、ね」
はぁ、今から商業ギルドに行くか。探索者もこの災害で仕事があるからと徐々にゼクスに向かい始めてると聞いた。
知られる前に買わねば。乗せられているようで癪だが、有用性は間違いない。
アイツらの目がキラキラしてる。こりゃ団長としては購入一択だ。後は何台買えるか、だな。
「ギルドに行ってくる」
領主邸に行った2人のうち、1人を連れて商業ギルドに向かった。ギルドの中はまだ賑わっている。俺たちが入ると全員の目が注がれる。魔術師団の制服は、濃紺の立て襟で丈の長い上着だ。その左肩に一のエンブレム。それが第一の制服だ。
すぐに分かったのだろう。人が割れて奥に向かえた。
ギルドの職員が出て来て
「魔術師団の方ですね?こちらへ」
と言って歩いて行く。個室の扉を開けて中に通された。
「ようこそ、商業ギルドへ。私は登録担当のアレストスと申します。ダウルグスト団長様」
俺は眉を上げる。何故知ってる?
「フェリクス様からお見えになるかも、と連絡がありまして」
どこまでも想定通りかよ。敵わないな。
「あぁ、様々な道具は素晴らしいな。我らのように野営が多いと非常に重宝する」
「それは、野外用の調理道具ですね?」
「そうだ。折りたためてしかも安全に火が使える。あれは魔法か?」
「原理登録もしておりまして、非開示となっております」
それもそうか。
「なるほど。作るつもりはない。買いたいのだが、在庫はあるか?」
「フェリクス様から優先的に、と言われております。すぐにお渡し出来るのは…」
アレストスは書類をめくって、手を止め紙を見る。
「そうですね、手元にあるのは2台。三日後に追加納入の予定です。何台がご希望ですか?」
何台、沢山欲しいのが本音だ。第一師団は総勢100名。他の国軍はもちろんもっと桁違いに多いが、各隊に3台は欲しい。予備も含めたら最低10台。買えるなら30台は欲しい。
「10台は欲しい。最終的には30台が希望だ」
魔術師団は少数での任務も多い。だからなるべくたくさんの分隊に行き渡らせたいのだ。
「10台はお帰りになるまでにご用意致しましょう。追加分は追って連絡いたします。ご用意はもちろん可能ですよ」
「助かる。何とも画期的だ。野営が変わる」
アレストスはニコッと笑う。
「他にもあれこれあるのですがね…」
何だと?
「調理道具か?」
「いえいえ、野営道具ですよ。こちらも避難民用に領主様がお買い上げになって在庫が切れておりますが、見本があります。ご覧になりますか?」
頷くと
「少し下がって下さい」
と言って部屋の隅に置いてあった何かを手に持った。ん?テントか…。
袋から出すとポンッ。えっ、はっ…?はぁぁ?
そこにはすでにテントが出来上がっていた。
「袋から出してすぐテント、です」
ふざけた名前だが分かりやすい。そして、何より簡単だ。中を見る。普通に広い。それを触る。しなやかだが意外にもしっかりしている。持ってみる。!なんと!軽い。もう1人の団員も持って驚いている。
「軽い!」
またなんてもん持ってるんだ。欲しいに決まってる。ただ、どうやって畳むんだ?
「畳むのは?」
「あぁ、それは…順番に折りたたんで…こうです」
袋にしまえた。原理は全く分からないが素晴らしい。
「それはいつ入荷する?」
「こちらも三日後に納入予定です」
「買わせて欲しい。買えるだけ」
アレストスはニコリと笑い
「はい、領主様の次に優先でお渡し致しましょう」
さらに
「ちょうど先ほど入荷して、もう数個しか残っていない美味しい甘味があるのですがね。いかがですか?二つで銀貨1枚です」
「買う」
食い気味に応えた。お待ち下さいと言ってアレストスが部屋を出て行った。
戻ったアレストスの手には小さなカップが二つあった。スプーンも添えられている。
「容器とスプーンは回収しますが、よろしければ食べてみて下さい」
俺たちはそれをスプーンですくって食べる。
「!!!」
それななんとまろやかな。口の中で溶けたぞ?そしてすぐに食べ切った。素晴らしい。こんなに美味しい甘味は初めてだ。感動でしばらく動けなかった。
「いかがでしたか?」
「美味かった…とんでもなく、な」
「こちらは北の町で登録された製法で作りました。なかなかその味にはならないんです。今日は格別ですよ?」
ん?
「卵がね、特別なんです」
「普通のでは無いのか?」
「魔鳥の卵です…」
なんだと!超がつくほど貴重な卵だぞ?
「それが、ここだけの話。領主様から手に入るんです」
何でだ?そんな事はあり得ない。
「飼育に成功しました」
「なん、だと…?」
「いえね、それも北の町で。知り合いからね、領主様に送られて来たんですよ。卵を産む魔鳥が。増やし方も教えてもらって、今は3羽います」
「…」
「フィフスからも乳牛を何匹か購入しまして…新鮮な牛乳と魔鳥の卵。今なら魔鳥の卵が一つだけお売り出来ますよ?製法も登録されていますので、ご購入も可能です。またコクのある砂糖がフィフスで登録されまして、そちらもお売り出来ます。それらの材料があれば先ほどの甘味が作れます」
買うぞ!あの味をまた食えるなら!隣の団員の目もギラギラしてる。
「買う」
「明日、野営地までお届けいたします」
「請求は軍に上げてくれるか?」
「畏まりました。後で署名をお願いします」
こうして、例の調理台も届けてもらう事にして、ギルドを後にした。
クソッ本当にフェリクス様に完敗だ。
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