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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第5章 イグニシアへ

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251.ゼクスの様子

 俺はフェルから渡された手紙を呼んでいた。どういう事だ?

「イズに何か連絡は?」

「いや、入ってない」

「最後に会ったのは1週間くらい前かな?アイルの件で、王都行きの調整について」

「それ以降は?」

「システィア様に伝えて、日にちを確定したら入れ替わりにゼクスに来ると言ってからは連絡がない」

「宿にもいない」

「どういう事?」

「詳しい事はこちらも分からないな」

「ゼクスにいないとだけ伝えておく」


 頷いてソファに体を沈める。ここはダナン様の、今は俺の家でもある屋敷の居間だ。

 何日も対応に終われ、やっと帰宅出来た。明日には王都から第一魔法師団が派遣されてくる。少しは落ち着くといいが。

 そこにフェルから手紙を渡された。ラルフと連絡が取れないというシスティア様の手紙だ。

 そこで冒頭の会話となった。

 ふぅ、流石に疲れた。フェルも疲れの見える顔で、しかし嬉しそうに俺の前に立つと俺の頭を抱きしめた。

 その手がゆっくりと労わるように髪を撫でる。

 気持ちの良い温かい手だ。腕をフェルの腰に回す。耳をフェルの胸に当てると、規則正しい音が聞こえてくる。


 あぁ、落ち着くな。心からここが俺のいる場所だと思えたからか。

 フェルも、そしてダナも抑えていた気持ちを解放したかのように俺を甘やかしてくれる。それがとても心地良い。

 フェルに抱きついたまま寝てしまいそうだ。腕をほどくと軽く頭を振る。

「どうしたの?もっと甘えてていいのに」

「心地良くて寝てしまいそうだ」

「僕はそれもいいけど、またギルドに戻るんでしょ」

 フェルを見上げる。優しく微笑むフェルは多少の隈など関係ないくらい素敵だ。

 見惚れていると首を傾げて俺を見る。その髪が頬にかかり、俺はその髪を耳に掛けてやる。


「何?イズ」

「素敵だな、と」

 頬を染めたフェルは

「イズがそんな事言うなんてね?自覚が芽生えたのかな?」

 自覚?なんのだ?

「家族になったって自覚。そして僕を愛してるっていう自覚だよ」

 愛して…俺まで赤面してしまう。それは確かにそうなのかも。こうして疲れている時にそばにいてくれる事が凄く嬉しい。

 フェルは目を細めるとキスをして

「そんな反応されると、襲いたくなるから」

 俺は恥ずかしくて顔を上げられない。

「ふふっ可愛い…」

 フェルは俺の頭にキスをして解放してくれた。


「お父様にもあいさつするんでしょ?」

「そうだな…報告も兼ねて」

「行ってらっしゃい」

 フェルに見送られてダナの執務室に向かう。

 中に入るとダナが書類に埋もれていた。俺を見て

「ああ、イズ、お帰り。大変だったな」

「ただ今戻りました」

「今は2人きりだ」

「ただいま、ダナ」

 優しく微笑んだ後に顔を引き締める。

「今回の災害は重いな、色々と」

「はい、でもゼクスはアイルのお陰で産業が好調で、だから人手もいるだけ助かるから。避難民も貴重な働き手だから」


 ダナは少し黙ってから

「またアイル君に救われたな…」

 ポツリと呟いた。俺は頷くとダナが椅子から立ち上がって俺のそばに来た。

「イズ、顔をよく見せて?」

 寝不足で酷い顔をしている。思わず目を逸らす。

「イズ…」

 優しく顔を上げられる。目の前には落ち着いた大人のダナ。優しく頬を撫でて

「どんなイズでも、見たいんだ」

 そう言ってキスをされる。そのままふわりと抱きしめてくれた。

 体から力が抜けていく。その背中に手を回して俺も抱き付く。温かい。俺の帰る場所…。しばらしてダナの腕が緩む。


「肩の力は抜けたかな?」

 お見通しか。頷く。

「ラルフの事は心配だが、アイル君が何かしら渡しているのなら。心配は無いだろう」

 確かにそうだ。

 俺はその後、ギルドからの報告を済ませるとシャワーを浴びて慌ただしくギルドに戻った。




 魔術師団の第一師団長のダウルグストは二日目の野営の日の夜、ハウラルのテントを訪ねる。

 しかしそこにハウラルはいなかった。保冷箱の件で確認したい事があったのだが、また明日にするか。


 しかし、翌朝になってもハウラルはテントに戻っていなかった。

 どうしたものか、しかしもう出発の時間だ。伝令を2人置いて師団は出発した。

 そして午後3時にゼクスに到着した。東門近くに部隊を展開して、ダウルグストと部下2人を連れて領主の屋敷を訪ねた。


 この件を任されているという領主の息子に会う。そこで東門の外に部隊を展開した事を告げる。

「迅速な対応、いたみいる」

「ひとまず、被害状況を教えて欲しい」

 それからは把握できている事を共有して屋敷を辞した。若いがなかなかしっかりしている。

 今、ゼクスは産業が盛んだ。元々、堅実ではあったものの目立つ産業もなく決して豊かとは言えない領都だったが、画期的な登録が相次いだ。

 しかも薬草の研究者として有名なロルフリート様が、珍しい水晶を発見した。


 その産地がゼクスに近いことから貴族や商人が注目してしているのだ。そこにこの災害だ。

 ところが、来てみれば街の周囲に避難民がいたが、食料は隣領から届けられる農作物などを使った食べやすく安価なものが配られていた。

 話には聞いていたが、避難民に振る舞うにはとても美味しそうなものばかりだった。

 朝晩は冷えるようになったが、何やら温かいスープをカップに入れて配っていた。

 領主代理のフェリクス様に聞けば、乾燥キビのスープ出そうだ。お湯を入れるだけで美味しいスープになるとか。


 それが本当なら師団にもぜひ欲しい。そう言うとレシピは商業ギルドで製法登録済みだとか。

 これはぜひとも購入しなければ。領主邸で軽食として出されたサバサンドなるものと、キビサンドはどちらもたいへん美味しかった。

 さらに弾けるキビも師団に差し入れだとたくさん貰った。塩味とカラメル味があるとか。

 帰りの馬車で少し食べたが美味い!とんでも無く美味い。腹の足しにはならないが、なんとも口が寂しい時にいい。


 ゼクスが活気付くのも道理だ。納得して野営地に戻った。実は乾燥キビのスープも持たせてくれた。

 早速、今日の食事当番に渡して味見をする。

 お湯を注いで混ぜるだけ。そして飲む。これは、また美味いな。粒が少し残っていて、しかもアッサリとしている。味が奥深いというのか、なんとも言えず。

 ただ美味い。これは野営が変わるな。

「領主がある程度は買い上げたが、商業ギルドで購入出来る。大口の場合は早めに注文したら大丈夫だ」

 と言われた。避難民の分はと思ったらその程度は充分、備蓄で足りるだとさ。


 感動していると、ハウラルの伝令として残して来た2人がやって来た。

「ハウラル上級研究員を回収しました」

「は?」

「少し先の土砂崩れで埋もれるように倒れていましたので」

「無事なのか?」

「魔力をかなり使ったようで、疲労かと」

「何でそんな所に?」

「血まみれの上着と靴とバックを抱えていました」

「助けを呼ぶ声でも聞いたか?」

「分かりません。テントに寝かせています。そして、その…」

「どうした?」

「握っていた石から魔力が…」

「ん?魔石か?」

「いえ、水晶です」

「…他言無用だ」

「はっ」


 おいおい、ハウラル。どういう事だ?誰の服だ。俺たちに声を掛けなかった。ならば、単なる救助者では無いな。だとすると…いや、今は考えても仕方ないか。

 ダウルグストはため息をついた。


 気を取り直して食事当番の方を向く。

「領主から労いとして肉とパンを貰った。肉を焼く道具も預かっている」

 その場で預かった箱を取り出す。折りたたまれたい足を広げて置く。蓋を開ければ中には調理に使う肉を挟むものやフォークと皿が入っている。それらを取り出して網を乗せる。

 網の下には黒い塊があった。確か箱の側面にある石に魔力を流すと聞いた。

 慎重に魔力を流すと黒かった塊が赤くなった。暖かい。網の上に味付きですよ、と渡された肉を乗せる。

 ジュウ…といい音がした。


 他にも野菜と肉を交互に差し出し金属製の串焼きを貰っている。

 それも網に乗せる。縁が窪んでいるからそこに乗せるのだと。これなら持つところは熱くなり過ぎない。

 こうして小隊30人分をドンドン焼いていく。

 味見で当番と自分が口にする。サクリッ…!何で柔らかい。しかも何か爽やかな味付けで肉の臭みを感じない。美味い!外は香ばしく、中からはジュワッと肉汁が出てくる。


 串焼きも試食だ。ホクホクとした野菜、これは芋か?とネギだろうか?細かくして食べるイメージだが、辛味と焼いたことによる中の甘みを塩味が引き立てる。

 そして、肉。交互に食べればすぐになくなった。

 美味すぎる。

 パンに肉とこれを挟んで食べると美味しいと、これも渡されたのはしんなりとしたキャベチだ。

 薄いパンにはキビの粒。肉とキャベチを挟んでパクリ。!これは、キャベチの酸味とパンのほのかな甘み、そして肉のガツンとした旨み。それらが合わさってとんでも無く美味い!


 完敗だ…フェリクス様よ。




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