250.嵐
投稿時間がズレてすみません…
忙しくて忘れがちです
バナパルト王国の短い秋。9月の半ばに、王都から北の地域で嵐が吹いた。
当初は激しい雨、やがて風が強まり雷鳴が轟いた。嵐だ。比較的天候が安定しているこの国では珍しい。
災害の備えは魔獣の備えや飢饉の備えに比べると少ない。
被害が大きかったのはゼクスと王都により近いツヴァイだ。
川の氾濫や土砂崩れ、街道も寸断された場所がある。2日も続いた嵐で、領軍から人を出しギルドも動いたが、被害を完全に把握出来きていなかった。
領都周辺の村などは家屋の倒壊で住めなくなり、領都に逃れた人もいた。
ゼクス町には受け入れるだけの余力がない為、城壁の外に避難所を開設した。
テントや毛布は支給して、最低限の食事を提供した。
ゼクスほどではないがフィフスからゼクスに向かう地域の村も被害を受けたので、フィフスの城壁外にも避難者が集められた。
システィアは急ぎルシアーナを呼び戻した。ラルフにも伝書鳥を飛ばしたが、返事がない。ゼクス周辺も被害にあっているから動けないのだろうか?
ルシアーナはすぐに侯爵家に戻った。
執務室に入って来たルシアーナに声を掛ける。
「ルシー、帰って来てくれたか…ラルフがゼクスに行っている。避難民の援助や被害の確認が急務だ。その、アイル君の事は済まなかった。その話はまたきちんとするから、今は緊急時だ。手伝って欲しい」
「システィ、私は許していません。でも領民が苦しんでいる時にいがみ合っている場合ではありませんわ。もちろん、すぐに手配をいたしましょう。ラルフには?」
「鳥を飛ばしたが、しばらく公爵家で預かると連絡があり…その後は連絡が取れていない。ゼクスに戻っているとは思うのだが」
「ゼクスは大変な被害にあっていますわ。街道の状況も分かりませんし、ラルフはしばらく戻れないかもしれないわね」
「私とルシィで出来ることをしよう」
「分かりましたわ。避難民たちの方は私が」
「帰ったばかりで申し訳ないが、頼むよ」
ルシィは軽く頭を下げて執務室を出て行った。さて、被害状況の確認だな。
その少し前、ゼクスでは。
降り始めた雨が止まず、風も強まり嫌な感じだった。俺はギルドに泊まり込み、状況の把握に務めた。川の氾濫や街道の状況など、各方面からの連絡を領主側の責任者となったファルと連携して展開していく。
ファルは軍を、俺は探索者を派遣しながらその嵐が過ぎるのを待った。
思いの外、長引いた嵐は2日間も雨と降らせた後にやっと止んだ。
その後も被害状況の把握に努めるが、街道が寸断されている場所から先には進めなかったり。
地盤が緩んでいて近寄れなかったりしてなかなか捗らなかった。
街道で転倒した馬車が発見された、と連絡があったのは雨が止んださらに翌日だった。
御者は死亡、中にいた人は瀕死の重症を負ったという。すぐにゼクスに運んで治癒院に入院したと聞いた。
その馬車は公爵家の紋章を掲げていた為、すぐに王都の公爵家へ伝書鳥を飛ばした。
この国にある公爵家は一つだからだ。
しかし今は該当者の心当たりがないと回答が来た。ダナとフェルも首を傾げていたが、やる事は山程ある。ケガ人は治癒院にいるのでしばらく様子を見ることにした。
その後、王都から魔塔より第一師団を派遣するという連絡があった。
災害時に出動するのは、戦闘部隊である第一だ。
第二は王都周辺の治安維持を担っており、第三はそもそも研究者の集まりだからだ。
フェルは受け入れ態勢を取れないが、歓迎すると返した。自分たちのことは自分たちでしてくれ、という意味がある。
そして雨が止んだ1日後に第一師団は王都を出発したと連絡があった。
*******
ハウラルはラルフから聞いた(聞かなかった事にした)魔石以外に魔力が込められる件について研究する為、王都近くの国が所有する鉱山に来ていた。
様々な石で試す為だ。ラルフを送り出してからすぐに出発して、鉱山に泊まり込んでいた。
王都の魔塔に戻ったのは4日後だった。そこで、第一がゼクスに災害派遣されると聞いた。
ゼクスに行けばラルフに会える。派遣に付いていこう。
ハウラルは第三の師団長に直談判して認められた。
慌ただしく準備をしている第一師団長に挨拶に行く。
師団長室の扉を叩く。
「入れ」
扉を開けて中に入り
「第三師団、ハウラル上級研究員参りました!」
「おう、第三師団長から聞いてるぞ!保冷箱を大量に提供してくれるそうだな」
「はいっ!主に試作品ですが、使用に問題は有りません」
「助かる!明日には出発だ。自分用の食料は全て持参だ。こちらも持っていくが、保冷箱にも入れて持っていけ。提供される保冷箱は輸送隊に渡してくれ」
ハウラルは敬礼して部屋を退出した。
輸送部隊に保冷箱の試作品を100ばかり渡して、えらく感謝された。災害派遣だと食料は現地調達出来ないからな。保冷箱が無ければ悲惨な食事となる。
時間遅延の空間拡張カバンなんて出回っていないのだから当然だ。
屋敷の離れに戻ると部屋で必要なものを詰め込むと、家人に挨拶もせずにまた魔塔に戻った。
いつものことなので、家のものも気にしない。
こうして王都を第一と共に出発した。俺は最後尾の荷馬車、その上に座っていた。見晴らしが良くて何よりだ。
ゼクスまではどんなに急いでも明後日の夜、なので無理をせずに野営を挟む。
ハウラルは緩む顔を引き締めた。災害派遣なのだ、ラルフに会えるからと浮かれてはいけない。
短い間だったが、2人で過ごしたあの時間は忘れられない。早く会いたい…ラル。
初日の野営後は何事もなく進み、出発2日目の夕方、3分の2の距離を過ぎた辺りで野営となった。俺は1人で少し離れた所にテントを張る。
そこにラルフに付けていた者が駆け込んできた。
「どうした?」
「やっと…お会いできて…」
息を切らしている。水を渡すとゴクゴクと飲む。口元を拭うと
「見失いました」
俺は顔が強張るのを感じた。
「どういう事だ?」
「大雨に風が吹き荒れて、街道が寸断され…近くの村人から救援の要請もあり、こちらに駆け付けていたのです」
「彼はゼクスに辿り着いてるのだろ?」
無言で首を振る。まさか…?辿り着いでいない?
最悪の状況が思い浮かぶ。いや、それはない。俺は最大の防御を掛けた。
それにラルフには元から防御の魔力が展開されていた。ならどこに?
「ご苦労だった。周辺で聞き込みをしてくれ!」
そのまま立ち去った彼の後を追ってテントを出る。
薄く薄く遠くまで、魔力を展開させる。ラルフの魔力なら分かる。それにラルフには違う保護するような魔力があった。
見つけろ、ラルフの魔力を…。
これは?僅かに引っかかるこの魔力。薄くて消えそうだが間違いない。ラルフに感じた別の魔力だ。ラルフかもしれない。
すぐに風魔法で体を空かせてその魔力に近づく。薄くて消えそうだから時間がかかったが見つけた。
そこで俺は愕然とした。大規模な土砂崩れの中から感じたのだ。まさか、そんな事が…ラル、ラルフ。
急いで土魔法で土砂を退かす。しかしどかしても上から上から土砂が降ってきてラチがあかない。
焦れば焦るほど、進まない。その内、魔力が尽きかけた。こんな時に!クソッ。
その時ふと手にローブにしまっていたあの水晶が当たった。そうだ、ここには誰かの魔力が籠っている。ラルフが帰る前に、渡すだけならと置いて行ってくれたのだ。
この魔力を使えればもう少し掘れる。ラル…。
水晶から魔力を引き出そうとした。っ!なんて魔力だ。俺の魔力がフルになってもまだある。
気になる事はたくさんあるが、細かい事は後だ。今はラルフを探さなくては。
俺は貰った誰かの魔力に勇気を貰って、また土砂を掘り出した。
そして…やっと辿り着いた。ラル…、俺は疲れもあって膝を突いてその場に踞った。
そこには血のついた服、間違いなくラルの服があった。僅かな魔力は服のポケットに入っていた水晶だった。
しかし、その姿は見えない。上着と靴と持ち物だけが泥にまみれていた。
俺は疲労とラルの行方を見つけられなかった事で力尽きてその場に倒れた。
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