25.薬草代
指名依頼には2種類ある。一つは採取依頼。こちらは採取したもの込みの報酬となる。そしてもう一つが同行依頼。名前の通り、依頼者と同行することで報酬が発生する。
私がてっきり採取依頼だと思っていた指名依頼は、実は同行依頼の方だった。同行自体に報酬が発生するので、採取した薬草は別報酬となったのだ。
さらに強制依頼は報酬自体に割り増しされる。初級以下だと1割、中級で2割、上級だと3割。
私が見た報酬は指名依頼の同行分でそれが大銀貨1枚。強制分の割り増しが銀貨1枚。本来はこれに薬草代の報酬だった。
それが予定期間が3倍になり、ブラックベアとポイズンスネークの騒動があって予定にない野宿をすることになった。
ゼクスに宿をとっていた分も補填する意味があり、さらに水晶の巨大な結晶の発見と紫水晶の採掘で高額な報酬となったのだ。
だから薬草代は別…。納得しましたよ。ただ、薬草は鑑定が必要なので今日は解散することになった。助かった。早く1人になりたい。
部屋を出る時にロルフ様とギルマスに挨拶をして帰った。ハクの体温に癒されながら…
そして2日ぶりの宿の筋肉もとい主人。私の顔を見ると意外なほど素早く迎えてくれる。そして頭を乱暴に撫でるとお帰りと言ってくれた。
恥ずかしかったけどただいまと小さく答えて階段を上り、部屋に入った。ベットに転がる。
なんだかもうここが、自分に取って帰る場所になったんだなぁと。そう思って何だか嬉しかった。
その頃、ギルドの会議室では…
「良く無事だったな。いや、無事じゃないか…」
「無事だ」
「見習いだろ?採取はどんなだ?そもそも何で見習いに強制指名したんだ?」
「図鑑で薬草を調べてた」
「あの分厚いヤツか?お前が途中から書き足してさらに分厚くなった?」
頷く。
「マジか…ロルフ以外に見るヤツいたんだな」
「気候風土の本も…図鑑と見比べながら」
「採取場所と時期の確認だな。そりゃお前が気にいるわけか」
「いい目をしている」
「薬草の品質も問題なしか…」
「いい耳も」
「ん?水晶か?」
「音で岩の裏にある空洞を見つけた」
唖然とする。
「何だそれ?聞いたことないぞ」
「空洞があれば音が反響する」
「言われたらそうか…いやそんな事考えつかないだろ、普通」
また頷く。
「訳ありか?」
「分からない…悪意が全くない」
「あぁ。それな…報酬断ろうとしてたもんな、あれ」
「また依頼する」
「だな。お前が気にいるなんてと思ったがきっかけは図鑑かよ…」
そんな風に話題にされてることなど知らず、宿で夕食を食べたアイルはハクをもふりながら爆睡していた。
ロルフは馬車に揺られて今回の採取を振り返る。指名依頼は今までも出したことがある。しかしどれも採取依頼の方で、今回初めて同行依頼を出した。
あの図鑑、私が書き足して随分と分厚くなってしまったあの図鑑を真剣に見ている子がいた。めくって止まり、めくって止まり考えている。おもむろに立ち上がると別の本を持ってきた。気候風土の薄い本だ。
私もこちらに移り住んだ頃はお世話になった。何度も見比べて悩んでいる。あのページはジャスミン?
気が付いたら声をかけていた。不思議そうな顔で私を見てくる。採取に行くのかと聞いてもまだ決めていない、と言うとまたその視線は図鑑に戻って行く。
興味が湧いてきた。ちょうど今の時期ならあの森辺りで採取出来る。悩んでいるとしたら移動手段か?
資料室を出ようとした所で捕まえて指名依頼を出すと言うと見習いだからと断られた。それなら強制でと言うと困った顔をする。
嫌そうな顔なら散々されてきたが、困った顔をされたことはあっただろうか?益々興味深い。
結局、強制依頼という強権発動であの子と採取に行くことにした。
当日の朝、西門前で合流して馬車の同乗する。目を瞑っていると、何やらゴソゴソしている。薄目を開けて見ると肩掛けカバンから何か布を出して空気を入れ始めた。魔法か?そしてそれをお尻の下に敷いた。
「それ何だ?」
「お尻と腰の救世主です」
ん?何か知りたくて手を出すと見ないフリをされた。もう一度手を出すと渋々渡してくれる。
表を見て裏返して木の蓋を外してまたはめる。そしてお尻の下に敷いてみる。馬車の振動が激的に緩和された!
これいいなと言うと、また布を取り出して同じものをその場で作った。そちらは空気が抜けているからと作ったばかりの物と代えてくれる。
そして何事もなかったように馬車の窓から外を眺める。
思わず声を出して笑ってしまった。
採取に入ってからも驚かされた。私は鑑定で状態のいい薬草を判断出来るが、彼…アイル君は下調べで採取の仕方や保存方法まで確認してしていたようだ。
最初は確認するように薬草を眺め、採りだしてからは早かった。どんどん袋に詰めていく。渡された薬草は状態のいいものばかりだった。
その後になんどブラックベアと遭遇しそうになった。アイル君はそのことに気が付いて即座に私に木の陰へ隠れるよう言うと、犬と一緒に違う方向へと走り出した。
私は言われた通りに木の陰で息を潜めた。足音が遠ざかり、しばらく待ったがアイル君は帰って来ないし、ブラックベアも襲ってこない。私は自分の非力をが情けなくなった。年下の男の子に庇われて。
その後、雨が降り出したので少し先にあった洞窟の入り口近くで雨が止むのを待っていると、アイル君が探しに来てくれた。無事だ…良かった、本当に良かった。
…濃い3日間だった…自然と笑みがこぼれる。アイル君、またよろしくね。
さて、こんな面白い話を聞いたらラルフはいったい何て言うだろうか?
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