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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第4章 転移の真実

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236.試作品を試そう

 やっぱりあの人しかいないな。

 私は部屋を出て居間に向かう。ちょうどイリィも区切りがついたのか、ルイを抱えて立ち上がった所だ。

「イリィ、少し実験したいから戻るね?」

「僕も戻るよ。少しロルフと話がしたいから」

 ということで2人でロリィの屋敷に戻った。


 私はそのまま外へ。

 ツリーハウスの方に向かう。今、ハウスは使えないようにしてる。

 自分でも色々と思うところがあったから。

 その近くの花畑にはシア兄様とベル兄様がいた。

「アイル見て!お花がたくさんだよ」

 ベル兄様が声を掛けてくる。

 確かに、まだ数日なのに蕾を持つもの、すでに咲いたものもある。

 あ、私がイリィに頼んだあの花も、若葉が出てる。嬉しいな。このお花が一面に咲き誇る頃、私はここにいるだろうか。ふとそんな事を思った。


 すぐ横ではベル兄様が期待に満ちた目で私を見る。私はツリーハウスの根本に打ち捨てられた枯れた草や木を思い出して胸が少し苦しくなった。

 ふわりと抱きしめられる。

 耳元でごく小さな声で…ごめんねと。

 私は何も応えられなかった。あの時の感情はうまく思い出せない。ただ、自分はこの世界の異物だと認識させられた事だけは覚えている。


 ベル兄様の手が頬に触れた。そちらを見ると透明な目で私を見ていた。

 あ、そうだ。お願いがあって来たんだ。

「ベル兄様、お願いがあって」

 驚いた顔をする。でもすぐ笑顔になって

「嬉しいよ?」

 ギュッと抱きしめられた。ほんの少しその体が震えていたのは気が付かないフリをした。

「少しここから離れても?」

「もちろんだよ」


 そうして2人でそこから楽園の方に移動する。ここは普段人が入らないから試すのにちょうどいい。


(来たよ)(来たよ)

(優しい子)

(優しい子)

(ゆっくりしておいで)


 光が瞬く。ここは賑やかだな…。

 ベル兄様に

「これを付けてもらって少し試したい事が」

 私は指輪を渡す。

「きれいだね!つけたよ」

「見えない所に行くので、少ししたら私の魔力をたどるようにして…私の元に行きたいと思って」

「僕はいつだってアイルのそばにいたいよ?」

 私は手を振って見えないところまで離れた。少し待つ。

 あれ?失敗かな。


 ヒュン

 目の前にベル兄様がいた。私にそのまま抱きついて

「凄いね!アイルの元に飛べたよ」

「その実験なんだ」

「イーリスの為?ここをしばらく離れるって聞いたよ。僕らのせい?」

 ベル兄様は私に抱きついたまま聞く。

「違うよ、自分の為」

 そうか、と呟くとまた抱きしめられた。体を離すと正面から私を見て頬を手で挟みキスをされた。

「忘れないで、ここはもうアイルの戻る場所だ」


 ベル兄様は自分を指してそう言った。

 ベル兄様…その真剣な目は彼なりに色々苦悩してことが伺える。誰もが傷付いて苦しんだのだろうか?

「だからと言って君を傷付けていい理由にはならない」

 労わるような優しい抱擁は痛みを知ってる人のそれで…いつも笑顔なベル兄様の強さでもあると分かった。私はベル兄様の背中に手を回して抱きついた。


「くすっやっと甘えてくれた。待ってたのにね…意地っ張りで頑張り屋さんは人に頼るのが苦手なのかな?ん?」

 そんな風に思われてたのか。恥ずかしい…。

「でもそれがアイルなんだろうな。手先は器用なくせに生き方は不器用で、それがたまらなく愛おしい…」

 そのまま私の頭に頬擦りする。

「でももっと頼って欲しいよ。頼られる事で必要とされてる、信頼されてると思える。イーリスだってもっと頼って欲しい筈だよ」

 そうか、そうなのか…また不安にさせてたのかな。

「大丈夫、分かってるよ。それでもやっぱり頼られたいんだ」

 イリィ…そうだよね。イリィが何でも1人で頑張ろうとしたらきっと寂しい。


「だからね、思ったことも言って?君は自分の為のツリーハウスに不貞腐れて居座った僕たちがとても嫌だったよね?」

 頷く。そう、私の憩いの場所が汚された気がする。

「だからもうあのツリーハウスはアイルにとって楽しい場所では無くなってしまった」

「…そう、とても悲しかった。本当の家族には言わないこと。甘えるだけの都合のいい家族にしか言わないこと、それを言われたから。私はやっぱり他人なんだと思い知らされた。誰も私の気持ちなんて気にしない。都合のいい存在」

「そんな風に…アイルからしたらそうなんだね。確かに親しくない他人にも、家族にも言わなかった。アイルにだけぶつけたのは…そうだね。そうなんだね…」

 ベル兄様はそう繰り返す。

「取り返しのつかない事を…アイルが僕たちを突き放した時に、まだ気が付いていなかったよ。そんな風に思ってたなんて」


 私は怒ってすらいなかったから。

「怒ることすらしてくれなかったんだね」

「そうかも、切り捨てた方が私は楽だった。向き合ってより辛い思いをするくらいなら、ね」

「ごめん…本当はこんな風に抱きしめる資格もないのに。でも離したくないんだ」

 ベル兄様は悪くない。だって何も言わずに気にかけてくれてた。

「ベル兄様は気が付いてくれてたよね?」

「分かってなかったよ、辛い思いをさせたのは分かっても。そんな風に感じてるなんて。僕も一緒だよ…本当にごめん」

「もういいよ…あの時の辛さが変わるわけじゃない。終わったこと」


 ベル兄様は目に涙を溜めて私を見る。

「違うよ、アイルはそうやって諦めてきたの?人との関わりを。嫌なことだってある。でも当たり前なんだ。違う人間だからね、考えや受け止めが違うのが普通だ。分かり合えるんじゃない、分かりあう()()をするんだ。諦めたらそれ以上の関係にはなれない。僕はそんな上辺だけの関係でいたくない。怒鳴られても泣かれてもいい。でも諦めないで欲しい。僕との関係を、どうか諦めないで…アイル」


 私は言葉がでなかった。そうか、私は諦めてたのか。自分を守る為、いや違うか。面倒だったんだ。向き合うことが。そうすれば傷付かないで済むからね。

 そうか、そうだったのか…。

 でもやっぱり怖い。傷付きたくはない。私はそんなに強く無いよ…ベル兄様。

「だからだよ。だから誰かに頼るんだ。辛かったよって、嫌だったよって吐き出すんだ。そうしなければ溜め込んでしまうだけだ」

 どうしていいか分からないよ。向こうでは誰かが気が付いてくれたから。


「泣いて欲しくないけど、でもいつでも泣きにおいで?どうしていいか分からないなら迷えばいいよ。迷って悩んで…そばにいるから。どんなに情けないアイルでも、構わない。むしろそんな姿を見せて。飾らない君を見せて欲しいよ」

 私のとても繊細な部分、心の柔らかい部分にその言葉は沁みた。だからベル兄様にしがみついて泣いた。たくさんたくさん泣いた。

「孤独だった。独りなんだって、結局私はこの世界に弾かれるだけの存在なんだって。そう思ったら悲しくて寂しくて消えてしまいたくて…消えてしまおうって。苦しかった…ずっと。なんで転移なんだろうって。よそ者のまま、帰れないなんて。酷いよ。帰れないのに、孤独で…」


 私は泣きたかったのかもしれない。声をあげてただ、寂しいと悲しいと泣きたかったのかもしれない。

 ベル兄様は私が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっても、笑ったりなせずにただ抱きしめてそばにいてくれた。

 その温もりは変わらずそこにあって、私は泣き疲れて…そのまま寝てしまった。


(大切な子)

(大切な子)

(悲しいね)

(寂しいね)

(でも忘れないで)

(みんな君が好き)

(みんな君が愛おしい)

(ここにおいで)

(いつでもおいで)




 アイルが声をあげて泣いた。そう、やっとその想いを打ち明けて泣けた。どれだけ我慢したのだろう。どれだけ我慢させたのだろう…こんなに愛おしいのに。

 今だけ、僕だけのものに…。その冷たくなった顔に頬に、そして唇にキスをする。その体を抱きしめた。

 安らかに眠って、アイル。


 リベールはただひたすらに愛おしいその存在を、ずっと眺めていた。




 ん?あれ…なんか柔らかくて温かい。でもイリィじゃない?

 …あっ、思い出した。ひどく泣いてそれから…。私はそっと顔を上げる。私を抱いて木にもたれて眠るベル兄様がいた。やっちゃったよ…どうしよう、ベル兄様。重くないかな?その寝顔を見上げる。黙ってると儚げなんだよな。

 ほっそりした顔に切れ長の目、長いまつ毛に小さな口。優しげな細い眉。

 モテるだろうな…この人。少し色付いた頬が可愛らしい。

 今日まで独特な雰囲気の美人さんとしか思ってなかったけど、良く見てるな。ロリィは私に向き合っているけど、そこは人付き合いが苦手だからか、あまり踏み込んではこない。


 でもベル兄様はハッキリと諦めないでと言ってくれた。そこまでしても、私と関わりたいとおもってくれたんだから。私は向き合う事をせずにいたんだな。

 もう少し甘えさせて…。その胸に頬を寄せる。

「もう、アイルは…可愛すぎるんだけど…」

 えっ?起きてたの。恥ずかしい…。

「顔赤いよ?ふふっ」

「ベル兄のイジワル…」

「うふっ…だって可愛いからね?なかなか2人きりにならないし。これで僕の存在感も爆上がりだね!」

 チラッと見るとウインクされた。


 ふふっ、やっぱりベル兄様だ。私は安心して寄りかかって笑った。




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