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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第1章 異世界転移?
24/311

24.野宿

 膝に抱えたロルフ様を見ながらどうやって野営しようかと考える。

『テントあるでしょ?』

「一人用のね」

『この人に使ってアルと僕は野宿だね。僕が力を少し開放すれば動物も魔獣も寄ってこないから』

「ロルフ様にバレない?」

『そっちにはあまり気配がいかないようにするから大丈夫』


 そうと決まればまずはテントを張ろう。ロルフ様をそっと横たえると肩掛けカバンからテントを取り出す。手早く張るとハクと協力してロルフ様を中に寝かせる。

 まだ朝晩は冷えるからロルフ様の上に毛布と自分のローブを脱いでかける。テントの入り口を閉めてその近くの大きな木の根元に座った。


 ふぅ。なんかこっちに来てから運がないなぁ。平和が恋しい…空間拡張ポーチから携帯食を出して齧る。ハクには持ってきていた食材のお肉を。嬉しそうにしっぽを振りながら食べている。可愛い。

 ローブは貸してしまったけどハクがいれば暖かそうだ。

 ほっと一息つくと眠気が襲ってきた。

『アル、もう寝よう』

 ハクが側に寄って来たので横になる。ハクが胸の中に入り込んで来て口元を舐める。抱きしめて首元に顔を埋め、匂いを嗅ぐ。ハクからは森の匂いがした…


 ふと目が覚める。胸元を見るとハクも目を覚ましている。

『熱が出ている。アル、僕はあちらにいくよ。ごめんね一緒に寝れなくて』

 頷く。そっとテントに向かう、その背中からしっぽを撫でる。起用にテントを鼻でめくると中に入って行った。ハクがいれば大丈夫だろう。

 もう一度、横になる。隣にハクがいないだけで何だかとても寂しかった。




 暖かくて柔らかいものが頬に当たっている。とても心地よい。微睡んでいるとふいにしっかりと目が覚めた。私は昨日…。目を開けて周りを見る。テントの中?

 体には毛布とそしてローブがかけてある。そして横には白いもふもふがいた。

 あの子が連れていた犬か。犬は伏せの姿勢でこちらをチラッと見る。そして立ち上がるとテントを出て行った。


 記憶を辿ってみる。私は昨日ポイズンスネークに咬まれたのだったか…そっと起き上がって指先を見る。咬まれた傷はもうほとんど塞がっている。これは…あの子が手当てをしてくれたんだろうか。

 体は少しだるいが毒は抜けているようだ。朦朧とした意識の中で、そういうば指が暖かいものに包まれたような気がする。

 助けられてしまったな。


 外で人が動く気配がする。テントのすぐ側まできてロルフ様と呼びかけられた。

 返事をしてテントを開ける。そこにはアイル君がいてこちらを心配そうにのぞき込んだ。


「気分はいかがですか?」

 そう言うとオデコに手を伸ばしてくる。その手のあまりの冷たさに思わず掴むと驚いたように手を振りほどかれる。


「熱は下がったみたいですね」

「あぁ少しだるいが動けないほどじゃない…その…寒くなかったか?」

「大丈夫です。途中まではハクもいましたし」

「途中まで?」

「ロルフ様が熱をだしたので…」

「そうか…毒はどうやって」

 気まずそうに 

「吸い出しました…口で」

 最後はかろうじて聞こえる程度の小さな小さな声で。

「ありがとう。私はある程度、毒に耐性はある。しかしポイズンスネークの毒は致死毒だから危なかった」


 私は首を振る。

「助けられたのは自分の方です」

 ロルフ様は驚いて

「気が付いていたのか?」

 頷く。


 あの時、咬まれるのは自分だったはず。何だろうと手を出そうとした私に気がつき、ロルフ様は先に手を出した。だから…

「参ったな…カッコ悪いところを…見せてしまったね」

 今さらだけど、と思っていると

「今さらかな…」

 やっぱり心読めてます?

「読めないよ」

 ……読めてるよね?


 取り出したコップに魔法で水を入れ、渡す。それをゆっくりと飲んでコップを返してくれる。

「何か食べられそうですか?」

「そうだな、温かいものが飲みたいが…ここでは無理か」

「それならスープを作りましょう」


 そう言うとカバンから小さな鍋を取り出す。その辺に落ちていた石で竈門を作り、拾った枝に魔法で火をつけた。鍋に魔法で水を満たす。

 そこに葉野菜を千切って入れて、最後にお肉をナイフで削いで入れる。岩塩を削り味を整えて煮込む。あっという間にスープが出来上がった。


 それは食欲を唆る匂いで…お腹がくぅと鳴る。恥ずかしさに赤面していると彼は軽く笑って

「すぐよそいますね」

 底の浅い器に盛ってスプーンを添えて渡してくれる。「1人で食べられますか?」と真顔で聞きながら。


 頷くと自分の分と犬の分もよそって食べ始めた。

 私も軽く息を吹きかけて一口食べる。そのスープは塩だけで味つけたとは思えないくらい美味しかった。

「美味しいよ」

 彼は首を傾けて少し笑った。





 ロルフ様はまだダルそうだったけどスープも食べて、大丈夫だから戻ろうと言うので、テントと毛布を畳んで火の始末をしたら戻ることにした。

 そこから1時間弱歩くと馬車が見えた。こちらに気がついた御者が走って来る。


 帰って来ないことを心配したけど、入れ違いにならないよう夜中待機していたそうだ。無事で良かったです。そう言って馬車の扉を開ける。

 ロルフ様は事情を話し、念の為今日は移動を控えて一昨日泊まった宿に向かった。すぐに近くの医者が呼ばれ診察を受ける。


 やはり毒は抜けているから1日休めば大丈夫とのことで、明日早朝に帰宅することにした。

 私が帰らないと宿の筋肉主人やギルドが心配するかもしれないので、医者からギルドへ連絡してくれるという。

 

 伝書鳩ならぬ伝書鳥がいるんだとか…

 良かった、死亡認定されなくて。その日は宿で昼食と夕食を用意して貰えることになった。ロルフ様の体調もあり部屋食だ。助かる。

 周りに人がいると落ち着かない。今は恋しさより煩わしさが勝ってしまうから。

 そうしてこの日は宿に籠もって穏やかに過ぎていった。


 翌日の早朝、宿を出てゼクスの町に帰る。日帰りの予定がまさかの2泊だったよ。ふぅ。今回も濃ゆい依頼だった。

 帰りの馬車でももちろん自作クッションに座って遠慮せずに爆睡した。貴族と同じ馬車で寝れるほど図太くないとか言ってたような気もするけど。慣れって怖いね。


 こうしてゼクスの町に帰って来たのだった。そのままロルフ様とギルドに向かう。

 依頼完了の窓口に行くと、ロルフ様が

「ギルマスいるかな?」

 職員は頷いてカウンターを出ると会議室の扉を開き

「ここでお待ちください」

 と言って出て行った。ロルフ様は奥の椅子に座って隣の椅子をトントンと叩く。

 隣?と戸惑っているとさらに、トントンと叩く。


 え、はい決定事項ですね…。

 諦めて隣に座るとハクが膝に飛び乗ってきた。そして前足を机についてしっぽをブンブン降る。風圧で私の髪の毛が泳いでますけど?ハクさん…可愛い。


 突然ドアがパカーンと開いて

「おぅロルフ生きてたか?」

 と言うなり、その肩をバンバン叩いた。宿の主人並の筋肉登場。ロルフ様は嫌そうに痛い、と文句を言う。その言葉を丸っと聞き流して

「ちゃんとご飯食べてるのか?」

 勢いの割に言葉遣い丁寧だな?


 筋肉さんはこちらを見て

「ここのギルマスをしているバージニアだ」

 そう言ってニカッと笑う。色々豪快な人だ。

「見習いのアイルです」

「おぅ。色々聞いてるぞ!」

 色々って何をですかね?


 ロルフ様はじっとギルマスを見るとポーチから水晶の六角柱を取り出す。うん、見事な結晶だ。

 ギルマスはそれを見てはぁ?と言って固まっている。

「おいおいおい、何だこれは?こんなの見たことないぞ」

「水晶」

「そんなことは分かってる!」

「見つけだのは彼だよ」

 とこちらを見る。慌てて首を振る。空洞を見つけたのは私だけど結晶を見つけたのはロルフ様だ。

 ギルマスの目線はロルフ様と私を2往復してロルフ様に固定される。

「おい、どういうことだ?」


 それからロルフ様が採取初日からの顛末を話す。それを聞いたギルマスはうーん…眉間にシワを寄せて唸っている。

 私もう帰ってもいいかな?ロルフ様を伺うとゆっくり首を振られる。あ、ダメですね…しょんぼり。

 膝にいるハクをもふもふする。癒しだ、癒しがここにある…。


「取り敢えず、預かる。俺だけでは判断出来ない」

「だろうね…」

 ロルフ様は頷いて、ひとまず当初の報酬を変更すると私に告げる。君に拒否権はないよ、と。

 どこかで聞いた台詞だなぁ…遠い目。

「これだけ盛り沢山なら当然だな」


 ギルマスが手元の紙をロルフ様に渡すとサラサラと書いていく。書き終わるとギルマスが確認し、妥当だなと言って部屋を出て行った。

 悪いようにはしない、ロルフ様が言う。信用していいのだろうか… 自分のことなのに蚊帳の外でなんだか落ち着かない。

 やがてギルマスが戻ってくるとその手には袋と紙を持っていて、紙とペンを私に渡して受け取りのサインをと言った。

 

 紙を見て固まる…はい?見間違いかな?大銀貨10枚って見える。大銀貨1枚が1万くらいだから10万か…いやいやいや多すぎる。

 やっぱり見間違いかな?目を擦ってまた見る。やっぱり大銀貨って書いてある。何で?首を傾げると笑い声が聞こえた。


 びっくりしてギルマスを見る。

「いや、お前、それさ…ぐぶっ…面白いなアイルは」

 えぇ?面白いことしてないけど?

 ロルフ様は苦笑している。そりゃはじめの報酬が大銀貨1枚だからね、10倍はないでしょ。


「あの、自分はたいしたこともしてないので…」

「拒否権はない」とロルフ様。

 ギルマスは笑いながら紙をずいっと押す。あ、はい…サインしますよ。ため息をついてサインする。ギルマスはさらに爆笑。たくさん貰えるのにため息つくヤツ初めて見たぞ!とか言いながら。


 ほっといて!こちとら庶民なんですよ…波乱で高額な依頼より安くて安全な依頼プリーズ。

 そしてまだ笑いつつ袋から大銀貨を10枚だして渡してくれる。もう貰えるもんは貰っとく。それをポーチにしまってロルフ様にお礼を言う。

 ロルフ様は首を振り、少し笑う。はぁやっと帰れるぞ!と思ったらギルマスが

「まだだ。採取した薬草の検品と報酬がある」


 え?薬草代込みじゃないの?

「さっきの報酬は指名依頼の分。採取した薬草の報酬は別だ」

 えぇ。もう早く帰りたいのに…



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