232.再び町へ
出発は12日後
今日は登録やアルミの引き渡しに製品を渡すなどの取引へナルダの町に行く。
先に商業ギルドのソートと探索者ギルドのノーベルには連絡済みだ。登録担当のベラシアにも声を掛けてくれるらしい。
最初にアルミの納品と製品の納品と登録。
次にランカとオカリナの製法と意匠登録と少し納品。
その次が毛織物の製法と意匠登録と少し納品。
最後に土鍋とミンサーと料理の製法登録。納品もする。
あ、卵の殺菌機は登録しない事にしたよ?極秘のレシピだね。マヨの独り占めだ…ふふふっ。
とこんな感じだな。
メンバーはロリィ、エリに私と護衛でブラッドとサリナスだ。もちろんハク、ブラン、ナビィ、ミストにミアとベビーズも一緒。
アイリーンとリツはロリィのポーチの中だ。
馬車と馬2頭で出発する。馬はイズワットたちが連れていた黒馬だ。
朝食後に出発した。早く出たからお昼前には着けるかな?ハクを撫でながらロリィにもたれてのんびりとした馬車の時間を過ごした。
ウトウトしていたみたいでロリィに肩をゆすられる。
あ、もう町が見えて来た。
「そろそろ着くよ…」
体を起こして伸びをする。
そういえばヤンはどうしてるんだろう。若木を枯らした超本人を抱えて仲間と合流するって言ってたけど。
誰も何も言わないし、でも許せない。いったい誰が…ふぅ今は考えても仕方ないか。
でも若木が枯れなければ私もこんなに苦悩しなくていいのに。暗い思考に染まってしまいそうになったらハクとブラン、ナビィが寄り添って来た。
あ…ダメだ。誰かを恨んで状況が変わるわけではない。私が暗い顔をしてたらみんなが心配するし。
私は大丈夫だよ、という風にみんなを撫でた。今は出来ることをただするだけだ。
そうして門に着いた。貴族家の紋章は便利だね、フリーパスだよ毎度。そのまま探索者ギルドに向かう。
なんで探索者ギルドが絡むかって?それは私も良く分からない。
ただ、小さな町ほどギルド間の垣根が低いとは聞いた。その為かな。
程なくして探索者ギルドに着いた。ギルドではもちろんギルマスたちとベラシアさんが待っていた。
「ようこそお越し下さいました。ロルフリート様」
「お待ちしておりました」
「お迎えご苦労だね、さっそく話を…」
「「よろしくお願いします」」
前と同じ部屋に入る。
みんなが座るとロリィが目配せをしたので、エリがアルミとアルミ製品、鍋類と食器を出した。窓枠とか扉は立ち上がって部屋の端の方に出した。
ギルマスたちは興味津々だ。
説明はエリがする。
「採掘したアルミと製品だ。製品は鍋類と食器、そしてそちらが窓枠と扉。木製の扉は厚くすると重いから。ただ、アルミの保温性は低いから扉の内側には木製の扉を付けて2重にしたらいい」
「鍋か…薄いが大丈夫か?」
「鉄よりは薄く加工が出来る。簡単に曲ったりはしない」
ソートは持って軽く手に打ち付けた。
「軽いな」
「探索者用の食器にも使える」
「なるほど…小さい鍋も作れるか?」
「もちろん」
私はポーチからイリィ作のフォーク、スプーン、ナイフを取り出す。
ソートが食い付いた。
「それは、なんて優美な曲線」
「軽くて使いやすい、野外でも」
手に取って見ている。
「このマークは?」
「俺と共作者のマークだ」
「Airis イリス?」
「アイリスだ」
「そのアイディアが面白いな」
「そのマークと名前の登録、出来る…?」
ロリィが聞く。
「そうですね、意匠登録しては?」
「それも頼むよ」
こうしてアルミ製品の製法と意匠登録をした。
次はランカとオカリナだ。こちらもエリが取り出す。
「楽器」
「音楽を奏でるという?」
楽器はあまり一般的ではないのだろう。
エリが私を見るので自分のオカリナを取り出した。
「少し奏でる」
ギルマスたちは神妙に頷く。
そして私のオカリナに合わせてエリがランカを吹く。物悲しい旋律を一節吹いて終わらせた。
目を閉じて聞いていたノーベルが目を開け
「なんて素晴らしい音色…」
「まるで神の声を聴いているような…」
「神楽器とはこのような物を指すのでしょうな」
ギクッ。ロリィもエリも私を見ないよ。ハクは寄り添ってくれるんだね…。
『アイツ見る目あるな』
感心しないで、ハク。
「これは販売のみ。製法登録はするけど、非公開で」
「意匠登録も併せて致しましょう」
エリは鷹揚に頷く。
「少しでも本日の納品は可能ですか?」
「あぁ各10持ってきた」
「どちらも銀貨4枚でおろして貰えたら。販売価格は銀貨5枚で固定します。北部の特産品となれば」
オカリナが4000円ほど。高いのか安いのか。楽器は元々高いだろうしな。でも誰を相手にするかによるのでは?
「安過ぎる。売る相手は聖楽団や教会だよね。もしくは貴族お抱えの音楽家。ならばもっと高く売れる。数を抑えてね」
とロリィ。もっともではある。
「貴族…寒い冬の楽しみに庶民向けと考えていました」
とソート。私も庶民向けがいいな。なら貴族向けは。
(ロリィ、貴族向けに装飾を入れた物を作ったら?私は冬の娯楽が少ない時期こそ、庶民に使って欲しい)
(イルがそう思うのなら…)
(特産にして、お土産に買って貰えたら…)
(分かった、イルはやっぱり優しい)
優しいというより貪欲?だってたくさん売れて買った人が笑顔になれたら嬉しいから。
「貴族向けのものは別に高級嗜好として価格を上げる。卸値が銀貨10枚、販売価格は銀貨12枚でどう?」
ソートは瞬きしてから
「差別化なら良いですね、その価格なら。豪華にして貰えれば、飾りとしても人気が出そうです」
どちらも変わった形だからね!芸術は爆発なんだよ、うんうん。
そして納品した。定期的に納品して欲しいと言われたので、2週間に1回の頻度で納品となった。
お次は毛織物。エリが取り出す。
「羊毛を使った毛織物。服に付ける」
説明用にエリの左袖に着けてある。それを見せる。着けてないものも机に出した。
「羊毛を糸に?」
「糸から細い毛糸に撚り合わせて織った。服につける小さなものとか、もう少し大きくて壁に飾るものも作れる」
「図案や糸の色が独特で美しい」
「羊は羊毛だから?ですか」
「伝統だよ、我らの。羊と雪の結晶」
「なんと…これはまた」
みんなでしげしげとワッペンを見ている。
「これも素晴らしい。糸にする技術は製法登録されますか?出来れば公開して欲しいです」
エリが私を見たので首を振った。
「それは登録しない。欲しいなら糸は卸す」
糸にする機械と機織りがあるからね…登録はちょっと。
「では糸の納品をお願いしたい」
「織り方は織り機を購入したら教える」
「織り機はいかほどで?」
私はロリィにお任せだ。全然分からない。
「織り機はこの町限定で、登録制。外部への公開も持ち出しも禁止」
「勿論です」
「それなら金貨100枚だね…」
「そ、それは…いや、しかし」
流石にその金額は払えないだろうな。
「貸し出しにしたら?商業ギルド内に設置して管理を任せる。貸し出し金は織った布や作品の売値の3割とか?」
ロリィは考える。
「ソートはぜひそれで!」
勢い込んで言う。
ロリィはエリを見る。頷いたので
「それならその案で。守秘義務についての魔法契約を科す。破ったら手が使えなくなる」
「問題有りません」
「しかし、本当に素晴らしい図案ですな」
ふふっ私とイリィが考えたからね!
「エリアス、次へ」
「まだあるのですか?とても有り難いですが」
「最も意味があるかもしれない」
エリはポーチから土鍋を出した。まだホカホカだ。時間停止のカバン渡したからね!
「はっ、えっ…湯気が」
「そこは気にしないで…」
「土で作った鍋だよ。で、野菜や肉をこうやって入れて煮込んで味を付ける。試食を」
それを器に入れてフォークを渡す。3人はふうふう言いながら口を付けた。
私たちもちょうどお昼時だからと一緒に食べる。うん、美味しいね。ちなみに肉団子鍋だよ。
「これは体が温まってとても美味しいですな」
「絶品です」
「野菜もとても柔らかくて美味しいです」
エリがうどんを投入する。茹で済みだよ?
それをよそう。配るとみんなは不思議そうな顔でうどんを見ている。
口にしてはふっと食べる。
「これはまた面白い食感で、嚙みごたえがあってつゆに絡んでなんとも…ふうふう」
「とても、ちゅるん…ふぅ、美味しいな」
エリとロリィは黙々と食べている。うん、美味しいね。
食べ終わるとソートが
「これは鍋の製法登録ですな。で、この柔らかい肉とこの麺は?」
「この肉を作る機械は販売のみだが、非開示で製法登録を、そして柔らかい肉と麺のレシピは登録して非開示」
驚きながら
「それはまた…」
「機械の購入者にはその肉の作り方を無償で開示」
「畏まりました。これはその…」
「鍋の購入者には肉の作り方とうどんの作り方は開示していい」
「助かります。鍋の製法は」
「商業ギルドに限り無償にする」
「「ありがとうございます!」」
それからは諸々、具体的な内容や金額を決めて登録者を決めて登録。最後に魔法契約をして終わりだ。
お昼を挟んだとはいえ、流石に疲れた。今はもう午後3時だ。やっぱり日帰りは無理だったか。
仕方なくそのままお泊まりだ。
予めギルドが例の宿を確保してくれていたので、宿に馬車で向かう。
今日はエリアスが1人だから部屋は違うけど食事とお風呂までは一緒だ。
夕食を部屋に用意して貰って食べながら
「エリアス、今日はお疲れ様だったね…」
「説明しただけで、何もしてない」
「それでも、だよ。誰が作ったかでは無く誰が頭となるかが大事。良く頑張ったね」
言い方は素っ気ないけど、心からの労いだ。ロリィはエリを認めたんだな。
私は嬉しくなった。亡国の王族なんて難しい立ち位置だけど、しかも生い立ちもなかなか複雑だ。それを乗り越えて少ないとはいえ、仲間を導こうとするその態度は立派だ。そういう教育をちゃんと受けていたとは思えない。なのに、だ。
彼は自分を犠牲にしてもヨナを生かそうとした。それが彼の誇りだったのだろう。
僕は感慨深くエリを見た。
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