217.公爵の継承者
「それは困るんだ。だってラルを僕のものにしたいから。
私は目をまた開く。どういう意味?
「くすっ怖い?大丈夫だよ、僕は酷いことなんてしないから。だってこんなにも…」
頬を撫でる手を止めると屈んでその唇が僕の唇に触れる。軽く触れるだけの優しいキスだった。
「ハウラ…」
「言ったよ?酷いことはしないって」
愛おしそうに僕を見る。僕はこんな風に誰かに見られた事がない。なんて優しい眼差しだろう。
攫うなんて普通はしない。なのにこんなにも優しい。僕は混乱した。
「お腹空いてるよね?ご飯食べさせてあげる」
嬉しそうに言うと部屋を出て行った。なんだ?彼は一体、何がしたい?
混乱した頭でこれからどうなるのかと考える。
少ししたらハウラが戻ってくる。後ろからフードの男が付いてきて机に食事を並べる。そして、そのまま出て行った。
ハウラは上機嫌に僕のいるベットまで来ると僕を抱えて机に向かう。えっ、なんで抱っこされてるんだ。僕は。絶賛混乱中のまま、ハウラの膝に座らされる。
手枷がじゃまで食べられない。困った顔で見ると
「食べさせてあげるよ」
はっ?なんで。
「手枷は取れないからね」
嬉しそうに笑うとスプーンを待ってスープをすくう。そして僕の口元に持ってきた。
「口開けて、ラル」
しかしお腹は空いていたから仕方なく口を開けるとスプーンが口に入りスープを飲んだ。
温かくて美味しい。ハウラもスープを飲んでから水を口に含む。そのまま口移しで僕に水を飲ませる。びっくりして少し溢れたし、咳き込んでしまった。
溢れた水はハウラがナプキンで拭いてくれる。そして背中をさすってくれた。
「大丈夫?」
頷くと次はサラダを口に運ばれる。そんな風にして結局、全部食べさせて貰った。
以外にもとても美味しい食事だった。
ハウラは食べ終わると僕を抱えて部屋のベットとは反対側にある戸を開けた。そこは小さな空間で右と左にまた戸がある。その左側を開けると僕を降ろした。
トイレだ。実は少し前から尿意をもよおしていた。
ハウラは当然のように僕のベルトを外して下履きまで脱がす。僕は恥ずかしさで顔が赤くなった。
「していいよ、手伝う?」
僕は首を振る。見るのは可哀想だと思ったのか、違う方向を向く。仕方なくそのまま放尿して自分でズボンを上げようとしたら手伝われた。
恥ずかしさでいっぱいになり、俯いていると今度は逆側の扉を開けてまた抱かれて部屋に入る。そこは浴室へ通じる脱衣室だった。
ハウラはサッと服を脱いで裸になると、今度は僕のズボンを脱がせてやっと手枷を外してくれた。
でも服を脱いだらまた嵌められる。
そのまま浴室へ入って全身を丁寧に洗われた。兄様にもされたことがない。丁寧を通り越していやらしい手つきだ。
自分は簡単に体を洗うと僕を立ち上がらせて抱きしめる。色々当たってるし、こんな状況なのに体は反応してしまう。
「くすっ、可愛い」
そのまましばらく腰を抱きしめられてからまた抱えられて湯につかる。僕は手枷をされているからされるがままだ。
僕の体をじっと眺めるハウラ。そしてゆっくりと体を肩から腰へと撫でる。
やめて…恥ずかしさと、怖さで混乱する。
「やめないよ、ずっと待ってたんだから」
僕はハウラの手つきにさらに混乱してしまう。嫌だよ…こんなの。
「言ったよ?僕はずっと見てたって。君のお兄様は3年間主席だったね。でもラルだって3年間、一度も4位以下になってない。それは凄いことなんだよ」
えっ…。僕は驚いてハウラを見る。優しいその目は僕を映す。見てたから…その呟きにこんな状況なのに、嬉しさを感じた。
兄様は僕を頑張ったね、と褒めてくれる。でも成績が優秀だねとは言われたことがない。お父様にもお母様にも。だっていつでも兄様は僕より優秀だから。
ハウラは本当に僕を見てたんだね。
「見てたよ。魔法術の校内戦で1年は3位、2年と3年は2位だったことも」
あぁ、ハウラは本当に僕を見てたんだ。兄様は3年連続で優勝だ。物理は苦手だけど、魔力操作がとても上手で魔術のみの大会では負けなしだ。
僕は一度も優勝しなかった。
「論文だって健闘賞を貰ったよな」
そうだ、2年の時の論文で貰った。工夫すれば色々と便利になる可能性のあるもの。牛乳の活用性についての論文だ。
でも兄様は薬草の複合作用について、と水晶の結晶についての論文で最優秀賞を貰い、さらに表彰されている。爵位に至っては学院入学前に叙爵され保有していた。
結局、牛乳の活用についてはアイルが遥かに使える機械と使い方を考案した。僕の論文はある意味、彼が実現した形だ。
僕の場合、兄様が比較対象になった途端、僕の功績は霞む。なのにハウラは知っている?
その手はまだ僕の体を撫でている。でも怖く無くなった。僕は彼に求められている。そう感じたから。
「たくさん感じて…俺の手で」
その言葉になのか、分からないけど。僕は気持ちが昂って彼の手で…。
脱力していると耳元で、本当に可愛い。
ねぇ、抱いてもいいよな?と聞かれた。真剣なハウラの目を見つめる。きれいな青い目。兄様とは違う僕を求める人の目だ。
僕は頷いた。もしかしたら、僕は誰かに認めて欲しかったのかもしれない。求めて欲しかったのかもしれない。そう思った。
僕だけを見て…そう囁いてハウラの体に自分を預けた。ハウラは僕を抱えたまま湯から上がると脱衣室を抜けてベットに僕を降ろした。その間に体はちゃんと乾いていた。凄い、魔力操作が早くて正確だ。
僕が驚いてると、ラルに負けないように頑張っただって。そのまま僕の上に乗り体を密着させる。
「手枷はこのままでね。なんかヤラシイから」
僕は凄く恥ずかしいと思った。手枷ごと頭の上に押さえられている。
ハウラは少し強引だけど、力は抑えているから痛くはない。ただ恥ずかしいだけだ。
顎に手を掛けてキスをしてくる。求められてる、そう感じられるような激しいキスだった。兄様とは違う、男の人を感じた。
それからは激しくも優しい彼の手で昂まり、一つに…その囁きの後に体を交わらせた。
ハウラは繋がった後に少し震えて、僕の目を見る。
「受け入れるのは初めて?」
頷くとキスをされ
「嬉しいよ、ラル」
君の初めてを俺が…。
ハウラの目は潤んでいた。最高だよ、ラル。耳元で囁く。僕は痛かったけど心が満たされていた。これが、こいうのが恋人同志の営みなのか…僕と兄様の交わりが単なる僕の一方的な行為だったと改めて分かってしまった。
そしてだからこそ、ハウラの気持ちが本物だと分かった。攫うのはどうかと思うけど、僕はそれすら許せた。僕を見て…ハウラ、僕だけを。
一緒に気持ちよく…ハウラは時に激しく時に優しく、僕を導いていく。それはとても心地の良い時間だった。求められるのがこんなにも嬉しい事だと分かった。同時に、兄様に求められていないことも。
僕はそのままハウラの腕の中で眠った。手枷は外されて。でももう逃げる気はない。だってここは心地が良くて、まだもう少し離れたく無かったから。
翌朝目が覚めるとハウラの顔が目の前にあって少し驚いた。彼の手は僕の腰をしっかりと抱えていてそれが嬉しかった。
ハウラは太い眉に大きな鼻と口。目は切れ長の男性的な美形だ。こうありたい、と思うようなガッシリとした体型。なのに腰は引き締まっていて腕の筋肉がカッコいい。この腕に昨夜は何度も抱かれたんだな、そう思ったら恥ずかしくて顔が熱ってしまった。
「おはよう、ラル。顔が赤いぞ?」
目を開けたハウラが心配そうにこちらを見る。
「おはよう、ハウラ」
手が僕の腰を撫でる。さらに頬が赤くなる。
「体は大丈夫か?顔もまだ赤いし」
「少し怠いけど、大丈夫。顔が赤いのは、昨日の事を思い出して…」
ハウラは驚いた顔をして、でも意味が分かったのか嬉しそうに笑うと僕にキスをした。
「朝からそんな可愛いこと言うんだな?俺に抱かれたいのか?」
えっ?抱かれたいって…いや、えっ。あわあわしていたらふっと笑って頭をキスされる。
「止まらなくなりそうだ、いいよな?」
僕は俯いた。ハウラは体を起こすと手を絡める。
覚悟しろよ?そんな荒っぽい言葉にキュンとしてしまった。何もかもが兄様とは違う彼に、僕は何故か惹かれかけている。その仕草や言葉に翻弄される。
そして、彼の愛情を受けてまたその腕の中で目を瞑った。
目を開けるとそこにはハウラの温もりがあった。それが堪らなく嬉しい。甘えるようにその胸に顔を付ける。クスッとと笑い声がして
「ラルは本当に可愛いな」
ハウラの声が耳に心地よく響いた。
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