22.ローズマリーとバラ
「朝6時に食堂で」
そう言ってロルフ様は部屋に入っていった。
何か柔らかくて温かいものが顔に当たる。そして口元をぺろぺろと舐められる。あぁハクだ。
手を伸ばしてそっと撫でる。本日も良きもふもふですね。
窓の外を見ると薄っすらと白み始めている。起きないとな…ぼーっとしながらハクを撫でる。無限に撫でられる…でも起きなきゃ。
そっとハクの叩いて体を起こす。
『アルおはよう』
「ハクおはよう。今日も可愛い」
しっぽが揺れる。
水魔法で出した水で顔を洗って着替える。服は昨日と同じだけど汚れは落としてある。あんまりきれいにしてしまうと不自然だから見た感じはほどほどに。体に触れる部分はしっかりと。
食堂に行くとロルフ様がすでに席についていた。
「おはようございます」
「うむ、おはよう。早いな」
「ロルフ様も早いですね」
「あぁ実は昨日の君が採取した水晶と紫水晶の…興奮してずっと眺めていたら夜が明けていた」
…はい?まさかの貫徹??
良く見なくてもわかるくらい目の下にくっきりと隈がある。顔もいつも以上に青白い。
なのに整った顔立ちは陰りもなく…イケメン凄いな。感心して見てしまった。
「良く寝れたか?」
「はい、お陰様で」
えぇ本当にロルフ様に振り回されたせいで疲れ切って良く眠れました。もっともそれだけでもないんだけど…。
「朝食を食べたら出発しよう。今日はローズマリーとバラを採取したら昨日の洞窟に行く。時間の許す限り採取して…門が閉まるギリギリに戻ればいいだろう」
え?朝から晩まで?水晶の採取って腕の力使うから凄く疲れるんですけど?
何ならすでに筋肉痛ですが??
そしてこちらの気持ちも知らずに朝食を上品に食べ始めた。
同じテーブルに出されたそれに手を出さずにいると
「食べないのか?」
「いや、あの同じテーブルでは…」
「気にするな」
こっちが気にするわ!
全く意に介さず食べているロルフ様。宿を3部屋とるとか細かな気遣いができる癖に空気を読まないって何でだよ。いや、これ分かってやってるのか?
どちらにしても私には選択肢がない。諦めて食べ始める。
塩だけの味付けだけど暖かいスープは染みる。そうして食べ終わると一度部屋に戻り、荷物をもって宿を早々に出発した。
泊まった宿は森の手前から馬車で20分ほどのところにある小さな村にあった。ロルフ様は時々利用しているみたいだ。
森に着くと馬車を降りて歩き始める。1時間弱歩いてローズマリーの採取場所に着いた。
ローズマリーは細い葉っぱを採取する。といっても葉っぱだけではなく茎ごとだ。枝分かれした細い茎の中でも新芽に近い黄緑色の部分を中心に採っていく。下のほうの葉っぱは土で汚れていて痛んでいるからね。パッシブスキルの洞察力さんが今日も安定の仕事ぶり。そうして渡された袋がいっぱいになったので自分の分をまたせっせと採る。
ほどほどに採れたところでロルフ様が移動すると言うので袋を渡す。
もう中身の確認すらしないけどいいんだろうか?
「昨日で君の採取は信用出来ると分かった、問題ない」
前から思ってたけど心が読めるのかな?
「君はとても分かりやすい」
思わず頬をにぎにぎしてしまった。そういえば律にも愛理はすぐ顔に出るって言われてたっけ。
なるべく無表情になろう。
その時俯いていたのでロルフが可笑しそうに笑っていることにアイルは気が付かなかった。
そこから昨日の洞窟とは違う方向に進んだ。そしてバラが咲いていた。野バラってもっと小ぶりだと思っていたけどここのバラ大輪だった。凄いなぁ。花をレジンで固めたらきれいだろうなぁ。
昔、律が作ってくれたレジンのヘアゴムを思い出した。持ってこれたら良かったのに、そう思った。
野バラは群生しているわけではなく点々と咲いている。見える範囲でと言われたのでロルフ様から離れすぎないけど手元が見えない位置で花ごと採取していく。
バラの花は深紅で香りも濃厚だ。この匂いが苦手という人もいるけど私はけっこう好きだ。
いつかお風呂を作ったらバラの花びらを浮かべて入ろう。そしてお風呂上りにはローズオイルを付けて…そしてあ、今は男だったと思う。
変かな?バラの匂いとか。ま、匂うほど人の近くにいなければ大丈夫だろう。そういうことにしてまた、ロルフ様の分が終わると自分用にせっせと採っていく。
バラもそれなりの量とれたな。
ロルフ様に袋を渡して最後の目的地、昨日の洞窟へ向かう。
それにしてもロルフ様、全く迷いがない。覚えてるんだろうか?
「私は人より記憶力が良くてね、方向感覚も優れているんだ」
やっぱり心読めてない?
「心は読めないよ」
…私の心の声と会話しないで下さい…。
そうして洞窟に着いた。その手前でお昼ご飯を食べることになった。
そういえば宿の筋肉、もとい主人に作ってもらったパンがあったんだ。
ロルフ様はまたスープを出してくれたので有難く受け取って、パンは遠慮した。代わりに自分が持っている昨日のパンを出して、良かったらとロルフ様に進める。
ロルフ様は私の手元のパンを不思議そうに見てから受け取る。
「これは肉が挟んであるのか?」
「はい、宿の主人に作って貰いました」
「…君の宿ではこれが朝食?」
「いえ、野外で食べやすいようにお肉をパンに挟んで、適度な大きさに切って欲しいとお願いしたんです」
「これは外で食べるのに便利だな」
あれ?これやっちゃった感じ??
「はい、そう思って」
いかにも単なる思い付きですというフリをする。
一口食べて美味しいな、と呟いた。それを聞いてあ、と思った。ロルフ様は貴族だった。
平民の食べ物を勧めちゃったよ。どうしよう…今頃気が付いて焦ってしまう。
しかしさすが心が読めるロルフ様
「大丈夫だよ。君には僕を害する利点がない」
「すみません」
ロルフ様は軽く首を傾げる。眉間にシワ寄ってるから怖いです、イケメンだけど。
もう気にしない。暖かいスープと筋肉主人のパンを食べて少し休憩。
そしていよいよ水晶の採掘に入る。
昨日と同じ道具を渡された。ロルフ様は紫水晶の近くを掘るみたいだから、さらに奥に進んだ辺りで採掘することにした。
しばらくはコンコンカンカンとハンマーの音が響いていく。ふと足元に転げていた塊を手に取る。なんか既視感が…?
その塊の真ん中あたりにノミを当ててハンマーで強めに叩く。するとパカっと割れた。そしてその中には透明な結晶がびっしりと詰まっていた。そうジオードだ。晶洞。なかなか見事なもんだな。
岩肌が崩れて落ちたんだろう。近くにもそんな塊がいくつかあったので順番に割ってみる。当たりだ。なんと10割。気が付いたロルフ様がまたすっ飛んできた。
「これは何だ?」
さて、なんと答えるべきか。こちらでジオードが一般的か分からない。
「水晶ですね…」
くわっと目を見開いてこちらを見る。いや、眉間のシワ怖いから。
分かってますよ、こんなこと聞いてないよって言いたいんでしょ。でもね、言えないし…
「壁から剥がれ落ちた塊ですね。結晶と結晶の間に大きな空洞があったんでしょう」
と言う。
「なるほど…」と言ってロルフ様はジオードを持って考え込んでしまった。
ジオードいいですよね
持ってないけどw
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