210.精霊たち
(素敵な戦慄)
(素敵な音楽)
(また聞かせて)
眩いほどの光だ。皆は驚きで固まっている。
(我らの巣箱を作ってくれたら)
(我らの巣箱を作ってくれたら)
(羽をあげる)
(糸をあげる)
(七色に輝く羽)
(魔力が含まれた糸)
(あなたを守ってくれる)
(あなたを包んでくれる)
(あなたの道標)
(あなたを呼ぶ声に)
(織りなす布は守り)
(織りなす糸は繋ぐ)
(あなたを想う人の心を)
(届ける)
幻想的な光の渦にのまれながら、私は彼らの願いを叶える。それは私を想ってくれるみんなの願いでもある。
地に手を当て、彼らの望む物をここに…
色とりどりの巣箱を、それらを隠す木々を。妖精たちの為の花を、ここに。
たくさんの魔力を注ぎ、小さな楽園を出現させた。
光はまるで爆発するかのように飛び回り、喜びを伝える。
(棲家だ)
(棲家だよ)
(なんて優しい空気)
(なんて清らかな空気)
(ここに住もう)
(我らの棲家)
光が落ち着くとそこだけが楽園のようになった。いや、まさしく楽園だ。
そして、私の足元にはたくさんの輝く羽と艶やかな糸があった。そして瓶に入った輝く粉も。鱗粉かな?
何にしても有り難い。
「たくさん貰えたよ?」
振り返って言うと、みんなは微動だにしていない。大丈夫かな?
「おーい、聞いてる?」
「…イル、だからね」
「そう、だな…アイルだし?」
「だからアイ…」
どしたの?首を傾げていると足音が聞こえた。
「これは…」
「まさか?」
「「精霊や妖精が…」」
イリィの家族だ。みんな見えるんだ?さすが森人だね。
「これはアイル君が?」
イリィが肩をすくめて
「アイしかいないよ」
ファーブルさんは涙を流しながら膝をつく。
「なんて素晴らしい…」
彼らはひとしきり感動して泣いてから顔を上げる。
「アイル君、ありがとう」
頭を下げられるような事はしてないよ。オカリナ吹いただけ…あっ、エリもだ!
「エリも楽器吹いたから」
エリの足元にも羽や糸があった。
「分ける?」
エリは首を振る。
「イリィとロリィもどうぞ?」
2人はいくつかを手に取る。
「私たちにも少し分けて貰えるかしら?」
キャロラインさんが言う。
「どうぞ」
いくつかを手に取り頭を下げた。
イリィのお兄さんが
「アイル君、本当に申し訳ない…」
頭を下げられた。
「謝られるようなことは何も…だから頭を上げて」
「前のように、シア兄様と呼んでくれないか?」
私は困ってイリィを見る。
「アイ、僕からもお願いだ。だって家族だから」
私は首を振る。
「私に家族はいないよ…イリィと子どもたち以外」
「僕の家族としてでもいいから」
あの時の、自分だけが家族じゃないという疎外感を思い出す。苦しいほどの孤独だ。
本当の家族には言わないこと、本当じゃない家族だから言えたこと。きっと他人には言わない。
それが分かったから…辛かった。私の家族ならそんなこと言わない。
でも、それは私だけの思い。彼らには私の孤独は関係ない。ふぅと息を吐く。
「シア兄様…」
シア兄様は目に涙を溜めて、私をふわりと抱きしめた。
「ごめん…許してくれ。僕は君を…」
私はその背中に手を当てる。誰にも、悲しくて寂しくて、そんな思いで泣いて欲しくないから。
顔を上げたシア兄様は私の頬を撫でるとそこに軽くキスをした。唇にしたら止められないから、と囁いて。
ファーブルさんが今度は
「アイル君、私のこともその…出来ればお父様と」
憂いは少ない方がいいか。
「はい、お父様」
目を潤ませて小さくありがとうと呟いた。
とベル兄様が横から抱きついて来た。そのまま私にキスをする。驚いて目を見開いていると
「ベル兄様だよ?」
笑ってしまった。本当にこの人は…見た目は儚げなのに。
「ベル兄様…相変わらずだね」
「キスしてもいいよ?」
私は笑いながら首を振る。だってきっとベル兄様は…案の定ガッチリとキスしてきた。
自分からしてくるからね。
焦ったイリィに
「だからベル兄様、ダメだよ」
何でって顔してるけど、私はイリィの旦那様なのだ。
うん、自分でそう心の中で言って自分で恥ずかしくなった。
それを見たイリィが
「そんな可愛い顔見せたらダメ」
って言いながら私の頭を抱きしめた。
ベル兄様が
「ふふふっ、仲良しだな」
本当に独特の雰囲気があるよな、ベル兄様は。
『うわぁ精霊や妖精で溢れてる!』
『凄いーアイリが?』
『ご主人様さすがー』
ハクたちが帰っき来て口々に言う。
「うん、建物作って薬草を植えたから、少し外と空間を繋げてみたらね」
『やっぱりアルだね!』
何がやっぱりか分からないけど。
「アイル、さっきの音楽をまた聞かせて。僕も合わせるから」
「何?アイル君が音楽を?聞きたいな」
エリが言えばベル兄様がウインクする。
『僕も聞きたい!』
ハクたちも言うから、では…エリを見てオカリナを構えて
〜〜〜♪
曲調がね、短調だから少し物悲しい。でも澄んだ響きで雄大な自然の中を飛ぶコンドルを思い描く。
エリのランカの高い音もオカリナと調和していい感じだ。吹き終わるとまた光が騒めく。
「素晴らしい音色だ」
「なんて美しい…」
感動してもらえたなら嬉しいよ。
「アイル、やっぱりランカも作りたい。それとアイルのその楽器も」
「そうだな、ランカウだな」
『あったよー、種が。採ってきた』
えっハク、見つけたの?ハク、ドヤ顔だよ…可愛い。
もふもふしてあげるよ?うふふっさわさわ撫で撫でくんくん…あぁハクの匂い。
たくさん覚えていこう。スハースハー、お尻の匂いも…うくっ、ぐほぁ。なかなか刺激的なにほいだね…
。ついさっき大をしたって?なんてこったい。
あれ?なんかみんなの目が生ぬるい?気のせいかな。もふもふ最高。
「エリ、ハクがランカウの種を見つけて持ってきたって」
「ハク様が?ありがとうございます」
胸に手を当てて頭を下げる。
『アルの為だよー』
ハクたん、ありがとう。心の友よ!なんてな。
その前にアルミの採掘で、地下拠点の整備だな。
シア兄様が
「拠点の整備だな、何処がいい」
だいたいアルミは何処にでもあるけど、生活の場からは離した方がいいよな。
「ここから少し離れた辺りかな?森に対して離れる方向に」
「あの辺りか?」
「そうだね」
「任せてくれ」
サッと移動したシア兄様はそこに屈んで大地に手を当てる。そのまま目を瞑り、何かを呟く。
濃厚な魔力が動いて、地下に部屋が作り上がっていく。すごい速さだ。
あっという間に拠点が出来上がった。
私はポーチに収納した家具などを拠点に置いていく。よし、完成だな。
地下拠点は生活の場からは500メルほど離れた場所だ。万が一の事故にも対応できる。
それにしてもベル兄様は凄いな…。感心していると
「凄いのはあなたよ?アイル君」
えっ、何でだ?
「あなたがシアに渡した魔力を込めた石よ。あれのおかげなの」
そうだったのか。でもいくら魔力があっても、出来ることじゃない。やっぱり凄いな…。
(アルはさ、絶対に自分はたいしたことしてないって思ってるよね?)
(ご主人はそうだろうね、それがとんでもない事って分かってない)
(分かってないよーそれがアイリだからね)
((そうだね))
(((でもそんな彼が大好きだよ!)))
こらこら、聞こえてるぞ?嬉しいけどな。えへへっ。
『それにね、アル。まだ時間がある』
『新しい発見もあるんだ』
『だから大丈夫』
『ずっと一緒だよー』
そうなのか?それなら嬉しいよ。たくさんもふらせたな?あんなとこやこんなとこも…うふふっ。
『ご主人キモいー』
えっブランちゃんてば、何処でそんなことば覚えたの?
(ご主人の記憶ー)
ガクッ…それなら仕方ない。
さて、気を取り直して
「アルミの採掘にはロリィも協力して欲しい。最初だけでいいから」
「もちろんだよ」
こうしてアルミの採掘準備が整った。詳しい事はまた明日となり、ひとまずお昼ご飯だね。
温室みたいになった空間でバーベキューだ!
たくさん肉を出して串に刺し、野菜も切って串に刺し、マツタケ様はサクッと作ったアルミホイルでホイル焼きに。塩を振ってパクリ。おぉーこれは美味しいぞ?
イリィにもあーんして食べさせる。目を開いた!
「何これ、凄く美味しいよ」
だろだろ。ロリィが凄い目力で見てくる。ロリィもあーんだよ?
パクリ…んふぅってどんな感想なの?
「美味しい…よ」
良かった。エリが私とマツタケ様をガン見する。よし、エリもだな。
はい、あーん。ぱくり。恥ずかしそうに目を伏せて食べるエリ。透けるようなまぶたが震えて可愛いよ。
パッと目を開くと
「美味しい…」
ふふふっ、感動したかな?きのこの王様だからな!
それからもバーベキューを楽しんだよ。
精霊や妖精が飛び回っていて、私は自然と鼻歌を歌っていて。
楽しいお昼だった。こんなスローライフを目指してたのにな…。
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