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異世界転移 残りものでも充分です〜  作者: 綾瀬 律
第4章 転移の真実

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207.森を新たに

 僕は目を覚ました。いつもならアイに抱きついて眠っている。寝ながらも自然とアイを抱きしめているのだ。今日は昨日眠った時のまま、腕にロルフを抱いていた。その濃い金髪を撫でる。長いまつ毛が揺れてロルフが目を開ける。

 そして僕をジッと見つめて

「おはよう、イーリス」

「おはよう、ロルフ」

「眠れた?」

「うん、心地よく」

「そう…」


 少し目を瞑った後、体を起こすロルフ。細くて白い体と中性的な顔立ち。顔だけ見ていると女性にも見えるほどだ。

 何?というふうに首を傾げる。

「あまり無防備なのは…」

「イーリスは大丈夫」

 なぜか自身満々に言われた。起きて服を着る。ロルフはリベラを呼んで何かを伝えている。


 枕元にに置いてあるアイリーンとそばで眠るリツを撫でる。その目はとても優しくて、同じくらい寂しそうだった。


 扉が叩かれる。外からリベラが

「アイル様とエリアス様がお見えになりました。朝食をお待ちします」

「入って貰って」

 扉が開いてアイとエリアスが入って来た。えっ、あれがエリアス?全く表情が違う。無表情なのは変わらないけど、何というか。氷が溶けたみたいな表情。全体的に柔らかくなった感じ。

 凄いな。


「おはようイリィ、ロリィ」

「おはようイル、エリアス」

「おはよう」

「アイ、エリアスおはよう」

 アイは僕を見て少し驚いてからふわりと笑った。僕は立ち上がってアイに抱き付く。

「どうしたの?」

 僕は何も言わずにその体にギュッと抱き付く。アイもふんわりと抱きしめてくれる。

 顔を上げてキスをねだると笑いながらキスをしてくれる。


 またギュッと抱きついていると

「イーリス、食事だから」

 ロルフに言われてしまった。僕は渋々、アイを離して椅子に座る。

 アイを見る。静かに肉とオムレツを口に運び、パンを千切って口に入れる。スープを音もなく飲み口元を拭った。アイも所作がきれいだ。

 物静かだから余計にそう思うのか。ちゃんと食べてる?


 僕の目線に気がついたらアイが首を傾げる。

「ちゃんと食べてる?」

 驚いてから頷く。その目線がロルフを見る。ロルフは頷いている。

 机の上にあるアイの手を握る。そっと手のひらを返して握ってくれる手は確かに温かい。

 その手を両手で握ってキスをする。皆の目が僕たちに注がれて、アイは頬を染める。

 僕の中でアイへの気持ちが溢れる。こんなにも僕を惹きつけて止まない君は、それでも1人で消えようとしたの?思わず涙が溢れ出た。驚いたアイは僕に体を寄せて頬に手を添える。


「嫌だ、アイ…いなくならないで」

 ビクッとしたアイは何も言わずに、代わりに優しく頬を撫でてくれた。

 だから僕は顔を上げる。

「アイも、アイが救いたい者も…助けるから。だから…うぐっ、ぐすっ」

 アイは立ち上がると僕を抱きしめて、頭にキスをする。

「いかないで…1人で」

 それでもアイはいかないとは言ってくれなかった。


 しばらくして顔を上げたら、もう食器は片付けられていて紅茶が淹れてあった。

「少し落ち着いた?紅茶飲める?」

 アイが僕を顔を覗き込んで聞く。

 僕は首を振る。アイは困ったような顔をして

「チュッ」

 キスをしてくれた。それだけで僕は凄く嬉しくて頬を染めてしまう。


「そんな可愛い顔で見ないで…」

 何で?首を傾げるとアイは口に手を当て

「抱きしめたくなるから…」

 だから、そういう所だよアイ。僕は思わず笑ってしまった。

 アイもホッとしたように微笑む。それは僕が大好きな、優しいアイの笑顔だった。




 やっとイリィが笑ってくれた。良かった。泣かせたくないんだよ?まぁ私が泣かせてるんだけど。

 エリが

「少し話をしても?」

 皆が頷く。

 彼は考えながら口を開く。

「僕の故郷に伝わる話。代々、王族の男子にだけ伝わる口伝で、だから少し話が変わってるかもしれないけど」


 そう前置きをして語り始めた。


 ー その世界は氷に覆われ、静かに滅びへと向かっていた。白銀の王とその魂の契約者は、命の絶えた大地を蘇らせようとする。

 しかし、大地は枯れて氷に覆われてしまった。嘆く王を見て、王の魂の契約者は自分の魂を注ぎ、大地の氷を溶かして人が住めるようにと願った。その願いが叶い、氷は溶けたが契約者は眠りについた。


 白銀の王は魂の契約者が眠ったことを嘆く。そして、彼の眠る大地へ自分の全ての魔力を捧げた。

 やがて白銀の王が息絶えるその間際に、魂の契約者は眠りから覚めて白銀の王と一つになり…やがて2人は生まれ変わった大地で末永く寄り添って暮らした。


 この話には続きがある。2人のそばにはたくさんの精霊や妖精が集まり、やがて大地は緑に覆われ森が出来た。2人はたくさんの命を生み出し、人々が暮らす世界が出来た。


 契約者が大地に魂を捧げる時、彼を慕う者たちがそばに寄り添いともに消えた。そして白銀の王が魔力を捧げる時、そばにはやはり契約者を慕う銀の者たちが集った。


 もう一つの白銀王の物語りだよ… ー



 エリが語り終わった後、しばらく誰も口を聞かなかった。ロリィが

「白銀の王、魂の契約者…銀の者、たくさんの命を生み出し…」

「これは終わりと始まりの物語…そう伝わっている」


 ロリィが

「イズワットはこの世界の始祖たる人々と言い伝えられているね?」

「そう聞いている」

「最近は色々と議論もあって…根拠のない言い伝えという考えが主流だが、これが世界樹の始まりの物語なら。世界樹の子どもが生命樹なら、生命樹の愛し子が白銀狼の契約者なら…」

「全て繋がる」

 静かにエリが言う。


「それならアイは?」

「森を甦らせ、眠った後にまた目覚める」

『アル、気が付いてしまったんだね…僕はそれを望まなかったのに』

「ハク…知って?」

『制約がある。ロルフの言う通り、でも目覚める保証なんて無いんだ!だから…』

 私はハクに抱き付く。

「私が眠ったら、ハクは魔力を注ぐの?私がやめてと言っても…」


『当然だよ、僕にとってアルより大切なものなんてない。例え自分の命であっても…』

 そんな…そんなことって。

「私も、だよイル。言ったよね?共にいくと。君のいない世界で私は笑えない…」

「でも、アイリーンが…」

 ロリィの目は揺るがない。

「僕も、だよ…」

「エリは、新しい人生を」


 私は譲らない。

「その代わりに、待ってて。私の子どもたちを見守りながら、森をここに。目覚めるのを待って…」

「アイルはズルい」

「約束だよ」

 頷く。

「イリィも、待ってて」

「嫌だ!絶対に嫌だよ。僕が共に行かなければ、アイは諦めてしまうかもしれない。だから僕は楔になるよ。君が帰って来る為の…」

「でも、道標が」


『それは私がなるよ!森から逃げた時みたいに、私を道標に帰って来て』

『僕はハクと一緒に魔力を注ぐよ』

 ナビィ、ブラン…

『わふうん(ナビィママと待ってる…パパ、帰って来て)』

 子供たちも…。

『アル、まだ時間はある。時が来れば分かるだろう』

「分かったよ、みんな…ありがとう」


 私は白の森を再生し若木を根付かせ、そしてまた生まれ変わって…エリの話から私は私のままだから。どれくらいの時間がかかるか分からないけど。眠ってまた…目覚める。

 また新しく生きてみよう。


 こんなにも愛おしいものたちに囲まれて、諦めるなんてやっぱり出来ない。私は結局、決心出来ていなかったんだな。本当に、1人では何も出来ない。

 頼りにしてるよ…イリィ、ロリィ、エリ。

 ハク、ブラン、ナビィ、ミスト、ミア、ハル、ナツ、リリ、ルイ、リツ。

 待ってて…私が私として目覚めるのを。




 僕の国、イグニシアと呼ばれた国は古い国だった。終わりと始まりの物語りは世界の再生。創造神アリステラ様がこの世界を再生する為に選ばれた白銀の王と異世界の魂。

 2人は契約し、そして結ばれる。終わりは凍った世界のこと、始まりは愛に満ちた緑あふれる世界のこと。

 生命樹は輪廻転生の魂を種として身に宿し、この世に実として落とし命を生み出す。


 白の森は白銀王の、異世界から来た魂の契約者が転生した生命樹がある。今は異世界からの普通の転生者たちも転生して生み出す。だからこそ、狙われた。

 確かな技術を広めないように。自分たちの国が負けないように。先に進まれたら都合が悪い。そういう国があるのだろう。いや、あったか。


 その謎に辿り着けたのは、我が国が落とされたから。落ちる前から何者かが王宮に蔓延っていた。そして準備を進め、国を落とした。王族を執拗に狙ったのは、口伝が他に伝わるのを危惧したからか。

 もう遅い。僕が生き残り、それを伝えた。盲点だっただろうな。僕が知っていたなんて。

 油断したからこそ、僕は逃げられた。だからこそ、僕は白の森に、人を阻むという白の森に受け入れられた。全ては清らかで正しい心を持ったアイルと出会う為。


 彼は私の同伴を認めなかった。それは、私に後を託したということ。死なせない、そうアイルが言っているのだ。だから私は生きなくては。アイルの為に…そして自分の為に。





新連載始めました!

「長生き魔法使いは暇を持て余す」

よろしければそちらも…


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