206.アイはどこ?
僕は家族の所に行ってツリーハウスを出して貰った事と、アイが用意してくれた種を渡す。シア兄様がそれを受け取って涙を流す。
そして、立ち上がるとツリーハウスに向かった。皆も後を付いて行って種をまき、スキルで成長を促す。アイの為にも、早く早く…。
夕方には芽が出て双葉が顔を出した。少しずつ、だね。
僕はアイに報告したくて探すがいない。ロルフもだ。屋敷を訪ねる。ロルフは自室にいた。
招き入れられる。
ロルフは立ち上がって僕の方に歩いてくるとふわりと抱きしめて来る。
えっ?ロルフ…。
「イルは今、エリアスといるよ…」
「エリアスと?」
「君の家族が助けて、放置した」
「それは…」
その通りだ。一人ではお風呂にすら入れない人を放置して、自分たちはご飯も作らず作って貰った物を食べて。アイの用意したハウスで寝て嘆いて人に当たって。
助けたのは僕じゃ無いけど、放置したのは同じだ。
「エリアスはイルにだけ心を開いた。いつも俯いて表情のなかった彼が、イルの前で笑った。雪解けのような顔…引き出したのはイル」
「…」
「だから、彼は前に進む為に…イルを求めた」
体を離したロルフの、真っ直ぐな目が僕を捉える。そして軽く頬を撫でた。
「イーリスは近くにい過ぎて、見えていない」
「何を…?」
「イルの事。毎日、若木があった場所に…魔力を注いている。切実な顔で、追い詰められたように…」
「えっ?若木は枯れて」
「消滅してないから、イルの力なら或いは…」
「根付く?」
ロルフは何かを見通すように僕を見つめる。そしてまた頬を撫でる。
「イルは自分を捧げようとしている、よ」
「自分を捧げる…」
まさか…命を?
「イルは終わりを決めてしまった」
「…そんな」
「僕がどんな想いで、イルを見ていると思う?怖くて…仕方ないよ」
ロルフはキスをしてくる。情熱的なそれは、しかしやるせなさをぶつけるためのもの。
「助けて…イルを、そして僕を。1人ではとても耐えられない」
そしてまた僕を真剣な目で見つめる。
「だから、お風呂」
ロルフはやっぱりロルフだった。
アイが居ないからかな。一緒にお風呂に入る。相変わらず躊躇なく服を脱ぐ。手つきはぎこちないのに。
そしていつものごとく観察しながら体を洗われる。ふとロルフの手が止まる。
「ロルフ?」
「イルの体を後何回見れるだろう…何か方法が」
その目から涙が落ちた。僕はその涙を拭い、キスをする。縋るようなその目は、悲しみをたたえている。
そして、また観察しながら洗われた。
流し終わると湯船につかる。ロルフは目を伏せて何かを考えている。
その顎に手を掛けると、長いまつ毛が揺れて僕を見る。ロルフはきれいだな。そっとキスをした。
お風呂から上がると水を飲んで一息つく。そして、僕はロルフを抱きしめる。キスをして抱きしめて、服を脱がし細いその体にキスをする。
「んっ…イーリス」
「ロルフ…きれいだ」
ほんのりと染まった頬。ロルフの色は緑にごく淡くピンクが…いいよな?人としてだけじゃない好意の色。
僕はその日、アイ以外の人とはじめて交わった。アイと違ってロルフは目を逸らさない。時々、とても悲しそうに目を伏せる以外は。真っ直ぐに僕を見る。
その目はでも僕を通してアイを見ている。アイよりも細くて吸い付くような肌に触れ、やはりアイを思う。
ロルフも同じなのだろう。
僕たちはアイを通して繋がっている。とても不思議な感覚だった。
ロルフを腕に抱き、目を瞑る。するとロルフが
「僕たちがこうしていることすら、イルの思い通りだよ…僕は敢えてそれに乗った。彼が望むから…」
「アイが望む?」
「自分が消えた後の、君の為に…1人にならないよう」
「そんな…」
「お母様の離れの屋敷、イーリスが私を求めたあの時…イルはその会話を聞いていた筈」
えっ…?僕がロルフを求めたあの時?強引に服を脱がせて体を寄せた。まさか…。
「あの頃から、イルは栄養を摂らなくなったみたいだ」
「食事は食べて…」
「口にしてるだけ。栄養を体に入れていない」
「どうしてそんなこと」
「分からないけど、自分はきちんと命を終える為に生きていると。そして白の森、根付かない生命樹の若木、宿る筈の命、消えた転移者たち…凍った森、それに気が付いて、終わりを悟ってしまった」
そんな、まさか…宿る筈の命、消えた転移者たち。まさか…ならアイはなぜ?
「でも、何かを見落としている気がする。イーリスも僕も、イルの楔。ならば、何か方法が…」
「アイ…そんなこと」
「イーリス、だから考えて。イルを失いたくない」
呆然としながらも、僕は必死に頷いた。守るって決めたから。
目を覚ますと目の前には白い髪…あぁエリか。まだ目を瞑っている。そのまつ毛も白く時々震える。透けるような白い肌は消えてしまいそうに儚い。どれだけの苦痛に耐えてきたのだろう。
エリが望むのか分からなかったけど、誰の前でも自信を持って欲しいから。その体のキズは治したよ。
私だけが知っていればいい。
これからはキズの消えたそのきれいな体で、誰かを愛して幸せになれるように。
過去と決別して、新しい人生を歩めるように。エリはまだ長く生きられるのだから。
私はどうなのだろう。ロリィの言う、何かを見落としている、という言葉。何かが引っかかる気がする。
神の温情が果たして正しく死ねと言うことなのか。
私は思い込んで、自分を追い詰めている?何が正しくて何が間違っているのか。
分かっているのは、あの若木には転移して消えた魂が宿っていること。そこに律がいること、それだけだ。
私が自分を捧げれば、あの若木、枯れた若木は根付く。それはなぜだかハッキリと分かる。
私を苗床に、魔力を吸収し続ければ。それはイリィが魂を生命樹に捧げる行為に酷似している。
私は転移者で、だから。もしかしたら…賭けだ。でも可能性ならある。最も、私が私である補償はない。
多分、ロリィも何となく気がついている。でも、何の保障もないから。もう少し考えよう。
ふと、エリの瞼が震える。瞬きをして私を見る。相変わらず春の雪解けのような儚く淡い笑顔だ。おでこにキスをすると、顔を上げて目を瞑る。私は笑って唇にキスする。
そのまま今度はエリがキスしてくる。その手が私の頭を抱えて、深く何度も。そして
「消えないで…もしどうしてもなら、僕も一緒に」
「ダメだよ、エリ。せっかく新しい人生が始められるのだから」
「アイルのいない世界なら、いらない」
「エリ…」
「僕をこんなに夢中にさせた責任は取って?」
私は困って
「昨日、聞いたよ?すぐに消えてもいいのかって」
「そうだね。でも、消えてもいいからなんて答えてない」
あれ?思い返してみる。僕に私を刻んでとは言ってたけど、消えてもいいから抱いてとは言ってない、か。
えっ、えぇ…。
「言ってないよ」
「エリ、それは」
ふふふっと笑うと
「離さないよ」
私は苦笑する。そして気になってた事を聞いてみる。
「エリはネールの事をどう思ってるの?」
「世話好きな人」
「それだけ?体を拭いてもらってたんだよな」
「…」
「エリはネールに気を許してる、と思う」
「アイルほどでは…」
「でも助けて貰った。話をしてみたら?彼は今、まだ誰かの助けが必要だよ」
「多分、ネールはアイルを想っている。だから、甘えた。アイルにとったら酷いことを言われただけ。でもそれこそが甘え。赤の他人にはしない。家族と同じ気持ち」
「…」
「アイルがそう望むなら、ネールと話をする。でも、早まらないで」
「何を?」
「白の森に自分を捧げる事」
「……どうして?」
「分からないと思った?近すぎるイーリスとは違うよ。ロルフリート様も気がついてるね。イーリスは何となく気が付いていて、でも認めたくないから。無意識に気が付いていないフリをしている。違う?アイルは彼を大切に思う余り、静かに遠ざかろうとしている。僕を言い訳に使わないで…」
「…そんなつもりじゃ」
「分かってるよ。君も無意識かな?僕はそれでも嬉しいからね。だって君をこの腕に抱けるのだから。簡単には離さないよ?ふふっ」
全く私の一人芝居か。考えなきゃ。生き残る為の方法を。賭けでも、120%絶対に勝つ賭けを。
皆で考えよう。きっとこの話を聞いたらハク、ブラン、ナビィは泣くかもな…。いや、泣く前にお仕置きとか言いそう。
1人で考えながら焦ったり悩んだりしてたら
「くくぅっ…ふふ」
エリが大爆笑してた。何故?
「考えてることが、くふっ…分かり易すぎて」
憮然とした私だった。
※読んでくださる皆さんにお願い※
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