203.2人の夜
完結済の別連載
星なし転移者と仲間たち〜逃亡中〜
が完結済のランキングで36位になっていました
驚きすぎてあれって感じで 笑
拙い小説を読んで貰えて感謝です…短いので宜しければそちらもぜひ
「また明日…」
エリの部屋を出て行った。
自分たちの部屋に戻る。そこは貴賓室と呼ばれるだけあって、居間と寝室が分かれている。
ソファにトンッとロリィが座る。私も隣に座って考える。白の森に魔力を注ぎに行かなきゃ。朝早く出たらバレないかな?
「分かるよ…」
ん?
「新しいスキル、気配察知がね」
新しいスキルが生えたのか…?
頷く。
「イルが1人で居なくなるのが…」
それだけで気配察知のスキルが?
「1人で無理するから…それが悔しくて願ったから」
…。でも隠蔽で抜け出せば…
「あぁ、イルの隠蔽は僕には効かない」
なんで?姿も触覚まで誤魔化せるのに?
「イルが、無茶なことする…それが悲しくて、1人で頑張らせたくなくて…強く強く願った」
ロリィ…
「だから、抜け出しはダメ」
「でも、私は何の役にも立てなくて…それに」
「イルは、僕が貴族じゃなかったら、僕が研究家じゃ無かったら役に立たないと思うの?」
そんな事思わないよ。
「役に立たない僕は要らない?」
「そんな事ない!」
「同じ…だよ」
あっ…
「例え役に立たなくても、そばに居てくれたらそれだけで…」
そうなの?
「それに、彼らは悲しむ時間があった。それこそが最大の恩恵…身一つで住まいを追われた彼らが悲しんでいた。悲しめた…よね?住む場所も食事にも困らなかった。イルが私たちにくれた、もしもの時用の装飾品には服も食べ物もテントや毛布まで入ってた」
そうだった。彼らは悲しめたんだ。
「それは充分、役に立ってる。やがて彼らは立ち上がる。その時間が短くて済むのは、イルのお陰。胸を張って…」
ロリィ…ありがとう。私はその膝に抱きついて泣く。温かい膝と髪を撫でる優しい手と。しばらく泣いて目が腫れる頃に起き上がる。
ぐずっ…
「くふぅっ…鼻水垂れてる」
また涙が…酷いよ。むくれてると魔法で乾かしてくれる。そこはハンカチとかじゃないんだ。
「どんな顔でも可愛いよ…」
抱きしめて背中をトントンしてくれる。私は甘えて首にすりすりした。
「イル…」
何?耳を澄ます。
「お風呂…」
「…」
ロリィはやっぱりロリィだ。私は泣きながら笑って
「入ろうか…」
一緒に浴室へ。いつものロリィはお風呂の時、真剣に観察するけどそれは一種の作業であって、ただ真剣なだけだ。
でも今日は何か違う。
どうしたんだろう?
「イルが…」
ん?
「イルが消えてしまったら…僕は、僕は…だからたくさん記憶に留めて…君を、たくさん…ぐすっ。どうして1人でなんて、酷いよ。僕がどんな思いで、いたと思うの?怖くて、悲しくて…崩れそうになる気持ちを、何とか…何で、頼ってくれない?なんで…僕はそんなに頼らない?」
ロリィ…一緒に森に行った時からずっと?そんな風に思ってたのか?
ロリィは涙で濡れた目で私の頬を撫で
「置いて行かないで…頼って。1人でなんでも出来るわけない。キビだって芋だって…作れない、よ」
律の言葉を思い出してしまった。米でも作るつもり?だっけか。頭では分かっているのに、つい自分がやらなきゃって思ってしまう。
そうだね、ロリィ…。
「ごめんね。置いて行かないよ、だから泣かないで?」
「ぐすっ…本当に?一人で無理しない?ご飯ちゃんと食べる…?」
「うん、食べるから」
しばらくは泣きながら抱きついていたけど
「立ったまま裸で抱き合うのは少し…刺激的だね」
やっぱりロリィだ。
キスをして、そうだね…そのまま抱き合う?って聞いたら真っ赤になってた。可愛い。
そしたらお仕置きは覚悟してね、と。あれ?攻めてたはずが防御になったぞ?
お風呂の後はもちろんロリィが…と思ったらハクが
『お仕置きー』
『ご主人お仕置きー』
『アイリ悪い子ー』
で全員人型になって…わたし眠れるかな?
翌朝、目が覚める。眠いけど魔力の補充に行かなきゃ…。うん、重い。濃い金髪と銀髪と銀髪に黒髪…。重いよぉ。
「アル、おはよう」
優しく微笑んでキスをする。私もおはようと言ってハクの頬をつねる。
「ハク、起きて。重い」
「嫌だよ、まだお仕置きだから…」
「そうだよ、僕たちがどんな気持ちだったか分かる?」
ブラン…?
「アイリ、私はアイリの味方だけどお仕置きが楽しいからね!」
ナビィ、目的がおかしいよ?
そのままハクにのしかかられ、ブランに腰を抱かれ、ナビィにキスの嵐を受け、しばらく起き上がれなかった。
やっと体を起こすとロリィが腰の一部だけ毛布に隠れた姿で私を見る。その儚げな美しさに目が奪われる。
「やっと僕を見てくれたね?」
そう言って毛布を外して立ち上がって伸びをする。その背中から腰を見るともなしに眺め、私もベットから立ち上がって服を着る。
「魔力の補充はしばらく禁止」
それは…。
「1人でなんて逝かせない。考えるから…僕を信じて待って」
「分かったよ、ロリィ」
私に笑いかけるとギュッと抱きしめられる。
「ロリィ…」
ん?と首を傾げる。
「服着て…」
「…僕の裸は嫌い?」
そういうことじゃなくて。
「ならいいよね…開放的で」
いや、目のやり場に困るので…。
「ふふふっ」
おかしそうに笑う。
「ハクも…だよ」
人型のハクも裸のままロリィに並ぶ。やめて、ほんと。朝から美形裸が並ぶとか…目が潰れる。
私は寝室から居間に逃げ出した。
無自覚美形は自分たちの破壊力を認識してくれ、と切に思った。
そしてふっと肩の力を抜く。
それが目的なのかなぁ、ハクもああ見えて私を良く見てる。肩に力が入ってると思って…いや、ハクは素かな。分からない。
私が心配させたことだけは間違いない。
でも、期待してダメだったら。今ならギリギリ大丈夫だけど、子供が生まれたら決心がつかなくなる。
どうしたらいいのか…律は私に何を望むの?
扉が叩かれる。
「朝食をお待ちしました」
フードを被って朝食をワゴンごと受け取る。
いつの間にか服を着てロリィがソファに座っていた。早いな。
そうだ、ロリィに聞くことがあったんだ。
机に食事を並べると食べ始める。この町はチーズが特産品かな?
チーズオムレツにチーズ入りのスープ、サラダにもチーズがかかっている。どれも美味しい。
ロリィもきれいな仕草で黙々と食べる。
私が見ていることに気がつくと柔らかく微笑んで
「チーズが美味しい…」
うん、そうだね。背筋が伸びた姿勢で優雅に食べるその姿はつい、目がいく。
本当に無自覚な人だな。
「イルも、ね…」
えっ、何が?
「食べ方がきれいだよ…なのにとても美味しそうに食べる。見ていて気持ちがいい。僕たちは表情には出さないように教育されるから、ね…」
「ロリィは見てれば分かるよ。とても気に入ったでしょう?ここの料理」
なんで分かるのって顔?だっていつもハクやナビィといるから。笑わなくても泣かなくても、その感情は分かるよ。全身で伝えてくるからね…。
「僕は昔から何を考えてるか分からないって言われた…」
「ロリィは思考の切り替えが早いから、普通の人だと追いつかないのかもな」
「イルは?」
「気にならない、だってロリィも全身で感情を伝えてくるから。とても分かりやすいよ」
ロリィは私を真っ直ぐ見てふわりと笑った。それは包み込むような柔らかい笑顔だった。
朝食を食べ終えて、ソファで話をする。
「彼らはひとまず森近くの拠点に連れて帰ろう」
「そうだね、エリたちは行き先が無いって言ってたし」
「イーリスの家族もしばらくはあそこを拠点にするだろう」
「アルミの掘り出しが急ぎかな」
「後は毛織物」
「冬に向けてね」
「ランカも、かな」
「種が地中にないか、確認しよう。楽器ならオカリナも作ろう」
「オカリナって?」
ポーチから取り出す。
しげしげと見てから
「不思議な形…」
私に返してジッと見る。
少しだけ吹くか…朝だから何がいいかな。
やっぱりあれしか思い浮かばない。
〜〜〜♪
ロリィはその音色に目を瞑って耳を澄ます。それ自体がまるで絵のような…見惚れながら吹く。
〜〜〜♪
「素敵な音色だ。澄んでいて流れるような…」
この話を聞いたら律は吹き出すだろうな…まさかオカリナでラジオ体操の旋律を吹くなんてね、やっぱり愛理は斜め上だわって。
「それも作れる?」
「土?粘土だから作れるよ」
「ランカと合わせて作るか…」
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